NHKの有馬嘉男キャスター降板報道。国谷裕子キャスターと同じく「菅氏に切り込んだ」から!?
HARBOR BUSINESS Online / 2021年2月2日 8時33分
◆菅氏に切り込んだ国谷キャスターに続き、有馬キャスターも降板!?
「NHKのニュースキャスターが、また政権に飛ばされるみたいよ」
そんな話が2020年12月、世間を飛び交った。『週刊文春』の報道がきっかけだ。「また」というところが情けない。話題の主は、NHKの看板ニュース番組「ニュースウォッチ9(ナイン)」の有馬嘉男キャスター。2020年10月の放送で生出演した菅首相に対し、学術会議問題で切り込んだのが原因だとささやかれている。最終的にどうなるかは、まだわからない。
菅さんに切り込んだのが原因で降板したと言うと、「クローズアップ現代」の国谷裕子キャスターを思い出す。2014(平成26)年7月、集団的自衛権をめぐる放送で、国谷キャスターは、当時の菅官房長官にインタビューで鋭く問題点を問い質した。
放送後、菅氏と官邸サイドは強い不快感を示したと言われる。翌年の年末、現場レベルで続投が決まっていた国谷さんは「年度いっぱいで契約を更新しない」と上層部から告げられた。こうして国谷さんは2016年3月で番組キャスターを降板することになる。不本意な降板だったことを、その後インタビューなどで明かしている。
「クローズアップ現代」はNHKを代表する報道番組の一つだ。内部では略して「クロ現」と呼ばれる。「クロ現」に出演するのは私にとって夢だったし、今でもNHK記者の夢だと思う。
◆絶大な信頼のもと、23年間キャスターを続けてきた国谷さん
国谷さんは1993(平成5)年の「クロ現」放送開始当初からメインキャスターを続けてきた。私が記者として出演させていただいたのは1997(平9成)年。介護保険法が成立して2000(平成12)年の制度開始が決まった翌日だった。その後は、大阪で府警キャップ(大阪府警担当記者のまとめ役)やニュースデスクとなり、記者たちのサポート役として何度も番組制作に参加した。
国谷さんは番組で放送されるVTRを2度試写する。まずは放送前日、ディレクターや記者、デスクなど制作陣とともに。国谷さんは事前に取材資料を読み込んでいて、VTRの内容に毎回厳しい質問をしてくる。視聴者目線で、わかりにくいものや納得できないことがあると、どこまでも掘り下げて指摘してくる。
2度目は放送当日。前日の指摘を受けて手直しされたVTRを確認する。再度納得できないところを突っ込まれるので、国谷さんにOKをもらうのはなかなか大変なことだった。
番組は月曜から木曜まで週4日放送されていた。だから国谷さんは、当日の放送分と翌日の放送分と、毎日2本の番組を試写していたことになる。毎回テーマがまったく違うのに、すべての内容を頭に入れてスタジオでしゃべるのは、並大抵のことではない。
国谷さんの厳しい指摘は、視聴者目線で番組を少しでもよくしようという気持ちからであり、「クロ現は自分が伝える番組だ」という責任感と自負があったからだろう。それがわかるから現場の制作担当者の間で絶大な信頼があった。だから23年間もメインキャスターを続けてこられたのだと思う。
◆現場は国谷さんの続投を望んでいたが……
放送が終わると毎回、制作チームが参加してNHK近くの飲食店で打ち上げの会が開かれる。国谷さんも都合が合う時には参加してくれた。その時に聞いた話がある。
国谷さんはNHKの職員ではない。毎年契約でキャスターを務めていたが、もともとは通訳としてNHKで働くようになったそうだ。その頃、呼ばれてNHKに来ても、結局仕事がないまま帰されることがあったという。そんな時、「こういう扱いを受けないようになりたい」と考えていたそうだ。非正規雇用の辛さを感じたからこそ、そんな思いも自らの原動力にしていたのだろう。
だからこそ現場は国谷さんの続投を望んでいたのだが、政権の意向を受けて国谷さんの降板に動いたのは、板野祐爾専務理事・放送総局長(当時)だと言われている。NHKの放送職場のトップだ。
板野氏は元経済部記者。2015(平成27)年、安保法制の反対デモが大きなうねりとなった時、NHKニュースで放送させなかった責任者として、当時のNHK会長・籾井勝人氏が指摘した人物だ(筆者記事「籾井勝人・元NHK会長が、安保法制反対デモの報道を止めたのは『放送総局長かな……』と名指し」参照)。何かと政権の意向をくんで動く人物だと、NHK内外で広くみなされている。
◆板野氏の専務理事復帰は、政権の意向を受けた人事?
この年の3月には、「ニュースウォッチ9」のキャスターを5年間務めた大越健介氏も降板している。「物言うキャスター」と評判だったが、この時も突然の決定だったため、官邸の意向を受けて板野氏が動いたのではないかとNHK内でささやかれた。
その後、板野氏は専務理事を退任して関連会社に転出していたが、おととし2019(平成31)年、再び専務理事に復帰した。経営委員長の意向を受けた異例の返り咲きだと評判になった。
板野氏の専務理事としての担当分野は、業務改革統括と新放送センター業務統括。放送総局長を兼務し、放送全般に発言力があった前回に比べ、役職上は放送についての発言権がなく、権限が押さえ込まれているように見える。だからNHK内では、「政権の意向で板野氏を専務理事に復帰はさせたが、面従腹背で、ウラでこっそり影響力を削ぐようなポジションにしたのではないか?」と受け止める向きもある。
だが報道局内の事情に詳しい人物は、「専務理事の役職さえあれば報道に影響力は行使できます。今回も政権の意向を受けて動いているんじゃないですか? あ~やだやだ」と語る。
「今回も」というのはもちろん、記事の冒頭に記した「ニュースウォッチ9」の有馬嘉男キャスターの「降板」人事だ。まだ決まってはいないが「ウラで板野氏が動いているに違いない」という見方だ。板野氏について「獅子身中の虫」「トロイの木馬」などと、さらに辛辣な評価もNHK内部で聞く。
◆説明するとヤバいこと、説明できない事情があるのは森友事件と同じ
NHKはキャスター人事についてありきたりの説明しかしないことが多い。だがキャスターは視聴者に対しNHKを代表して番組に出演している。NHKは視聴者に対して「なぜ降板するのか、なぜ替わるのか」をきちんと説明すべきだろう。そもそもNHK内部でも、当該番組の担当者にもきちんとした説明は行われていない。
これは、「番組の突然の延期や内容変更」(筆者記事「『NHKスペシャル』『クローズアップ現代』が“上から”の指示で番組改変!?」参照)と同じだ。やはり制作担当者に対し、きちんとした説明が行われていない。まして視聴者に対しては知らんぷりだ。説明しないのは、説明するとヤバいこと、説明できない事情があるからだろう。ほら、アレと同じですよ、森友事件。土地取引についても公文書改ざんについても、財務省はきちんと説明していないでしょ。
アレと同じだとしたら……これは公共放送としてあまりにもヤバい。視聴者に受信料を負担していただいてこその公共放送なのだから。お金だけ取って説明しないなんて理屈は世間に通用しない。そこで次回は受信料。誰しも関心のある「お金」の話をしようと思う。
【あなたの知らないNHK 第5回】
<文/相澤冬樹>
【相澤冬樹】
大阪日日新聞論説委員・記者。1987年にNHKに入局、大阪放送局の記者として森友報道に関するスクープを連発。2018年にNHKを退職。著書に『安倍官邸VS.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由』、共著書に『私は真実が知りたい 夫が遺書で告発「森友」改ざんはなぜ?』(ともに文藝春秋)
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