14:ヴィンセントの過去 2
ラリーアルド帝国は自国トゥルースを皮切りに、次々と周辺国を侵略していった。
どの国も、成すすべなく、ただただ崩れていく。
それだけ、祝福の魔女の『祝福』は完璧だった。
『怪我をしませんように』という、ふざけた祝福は、強力だった。
ラリーアルド帝国の兵士は、剣も効かない、魔法も効かない、まさに無敵の兵士だった。
だが、それでも穴はある。
ラリーアルド帝国の兵士は怪我をしないだけの、ただの人間だ。力が強くなったわけでもなく、精神的な強化もされていない。
祝福の魔女がかけた『祝福』についても、捕らえたラリーアルド帝国の兵士を水責めにしたら吐いた。
ラリーアルド帝国の兵士の弱点を探るだけで、何年もかかってしまった。気付けば自国が滅んでから十年経っていた。
そして、今、重要な情報も手に入れられた。
「祝福の魔女の住処がわかった」
父や兄が言っていたことは正しかった。ヴィンセントは、反乱軍の長として活動していた。
魔女の住処は、首都から少し離れた森の中にあった。森には数名の兵士が周りを囲むようにいるようだが、魔女と直接関りはなく、人数もそこまで多くはない。
侵入はおそらく簡単だ。
だが――なぜ国の要である祝福の魔女の守りが手薄なのだろう。
罠がないとは限らない。でも、もう時間をかけすぎた。
ラリーアルド帝国に国を滅ぼされた民たちの不満は、今にも爆発寸前だ。初めの侵略から十年だ。そして今も着々と侵略を続けている。
滅ぼされてからは、ただの奴隷のような暮らしだ。不満がないほうがおかしい。
もう待てない。だからヴィンセントは決断した。
「俺が行く」
反乱軍から戸惑いの声が聞こえた。それもそうだろう。大将が直接敵陣に乗り込もうと言うのだから。
「危険です! あなたが我々の最後の希望なんだ!」
「どうか、考え直してください!」
不安の声を、ヴィンセントは片手を上げて制した。
「祝福の魔女が、『祝福』を与えることしかできないことはわかっている。『祝福』は人に害を与えることはできない。物理攻撃に出られるかもしれないが、男と女だ、こちらに利がある」
それに、と言葉を続ける。
「小さい子供の方が油断させやすいが、失敗するリスクが大きすぎる。その点、俺なら魔法も使えるから、弟子になるという名目も信じさせやすいし、罠だった場合も、切り抜けられる可能性が他者より高い」
静まり返ってみんながこちらを見ている。ヴィンセントは安心させるように微笑んだ。
「俺が適任なんだ」
ヴィンセントの言葉に、みんなが渋々頷いた。