第14話 獅子王様、勘違いする
「ほ、本当ですか?!」
身を乗り出してくる少女に、獅子王は面食らった。
今までにない好感触だ。
好感触と言うか、そもそも獅子王の勧誘を受けて無事だったのがこの少女リリノア・ハイランディアだけだったわけだが。
「ゴ、ゴルル(う、うむ。こちらこそ、本当に良いのだろうか)」
先程までは己の可愛さに自信満々だった獅子王だが、いざ飼い主になってくれるかもしれない人間と出会うと萎縮してしまっていた。
「ゴルル……(余は大きいし……)」
「大きい所が良いのです!」
「ゴルル……(無駄に強いし……)」
「強いなんて最高じゃないですか!」
獅子王の弱気な発言を、リリノアが明るく塗り替えていく。
「ゴ、ゴルル!(ほ、本当か……?! そなたは、ありのままの余を認めてくれるのか……?!)」
「もちろんです!」
リリノアは笑顔で即答し、その迷いのない返事に獅子王は感動で打ち震えた。
「ゴルル……(そなただ。そなたこそ余が追い求めていた、理想のご主人様だ……!)」
使い魔に必要なのは造形ではなく強さなのだから当たり前なのだが、そうとは知らない獅子王だった。
じいん、と胸に熱いものがこみ上げてくるのを感じる。
これこそ運命の出会いだと、獅子王は確信した。
まぁ、その確信は誤りなのだが。
「むしろ私の方こそ、本当に良いんですか? 私はまだ見習いも良いところですけど……」
今度はリリノアがおずおずと自信のないところを見せる。
「ゴルル?(見習い? 飼い主になるのに見習いであるかなど関係はあるまい?)」
獅子王の望みはペットとして飼われることだ。
温かい暖炉の前で、膝に乗せてもらってモフモフされたいのだ。
「で、でも、私、まだ一体も契約できてなくて……!」
「ゴルル(なおさら良い。そなたには余だけがおればいい。他の者など構うな)」
他のペットがいたら、愛情が分散してしまう。
可愛がられるのは自分だけでいいのだ、と獅子王は早くも独占欲を発揮し始めていた。
しかし、そうとは知らないリリノアは感動で口を覆った。
「な、なんてふところの大きい方なんだろう……!」
故郷を飛び出して数ヶ月。
一匹のモンスターも使い魔にすることが出来ず、途方にくれていた毎日に、この獅子王の言葉はリリノアの心にたいそう響いた。
「さぞかし名のある魔獣とお見受けします。貴方の言葉、信じさせていただいていいですか?」
「ゴルル(無論よ。そなたこそ、先程余にかけてくれた言葉、偽りであったなど言わせぬぞ)」
ふたりは熱い眼差しを交わしあった。
ここに、最強の主従が生まれたのである。
主に相互の誤解により。
やったね獅子王! 飼い主が出来たよ!(誤解