第12話 獅子王様、お披露目する
突如として現れた、山のように大きな巨獣に、ゴブリンたちは戦慄していた。
目の前の存在は、生物としての格が違う。
一瞬の後には、アリがごとく踏み潰されて死ぬだろう。
あまりの恐怖に動くことも出来ない。
ゴブリンたちは、ただただ食われるのを棒立ちで待つばかりである。
「ゴルル……(可愛いか?)」
「……ギ?(……は?)」
巨獣の言葉の意味を、ゴブリンたちは理解できなかった。
「ゴルル……(余は可愛いかと、問うておる)」
可愛いわけがない。
戦神の化身がごとき雄々しい姿に、可愛い要素など微塵もなかった。
あまりに意味不明な質問。
だが、答えなければ死ぬ。
望む答えを返すことが出来なければ、この場で全員殺される。
巨獣の望む言葉は分かっている。
肯定だ。全身全霊の肯定をするのだ。
「ゲッ、ゲググ!(か、可愛いです!)」
「「「ゲググググ!!(可愛い! すごく可愛い!!)」」」
ゴブリンたちは武器を捨て、なりふり構わず叫んだ。
「ゴルル(ほ、本当か!?)」
「「「ギガガガガガ!!(可愛い! 可愛い! ひゅーひゅー!!)」」」
両手を上げ、死力を振り絞って獅子王を褒め称えるゴブリンたち。
命がかかった彼らの形相は凄まじい。
数分前まで少女を追い回して楽しんでいた面影は、もはや残っていない。
「ゴ、ゴルル!(そ、そうか、可愛いか! ふはは、やはり修行の成果はあったのだ! ペットへの道も近いぞ!)」
「「「グゲゲゲゲゲゲ!!(可愛い! 可愛い! 可愛い!)」」」
ゴブリンたちはヤケクソだった。
邪神を崇める狂信者のごとく、手を振り上げ礼賛する。
「ゴルル(ふははははは! 余の可愛さが分かるそなたらに、見せてやろう! 特別だぞう?)」
褒め称えられて気分を良くした獅子王は、厳しい修業によって体得した新たな可愛い仕草を見せつける。
「ガウガウ(にゃんにゃん♪)」
前足を顔の左右にピッタリ付け、手招きするように動かす。
「「「…………ッッッ?!」」」
たしかに猫がその仕草をやれば可愛いだろう。
だが相手は獅子王だ。
あまりの恐ろしさ、醜さに、ゴブリンたちの意識が飛びかける。
「ゴル!(キラッ☆)」
さらにダメ押しのウインク&スマイルが、ゴブリンたちを強襲した。
「「「………ギャバッ!?」」」
脳が理解するより早く、魂が死を選択した。
真正面から獅子王を見てしまったゴブリンたちは、頭部を破裂させて即死する。
森の近隣で悪辣の限りを尽くしたゴブリンは、最後にこの世で最も恐ろしいものを見て死んでいった。
「ガオオオオオオオン!(だから、なぜ死ぬーっ!?)」
獅子王は悲しみの雄叫びを上げた。
キラッ☆(99999の精神ダメージ