第10話 獅子王様、小さくなろうとする
月夜が照らす、深い森の中。
巨大な岩が鎮座していた。
「ゴル……(ぎゅっ……)」
その正体は、小さく丸まる獅子王だった。
「ゴル……(ぎゅぎゅっ……)」
足をたたんで箱座りになり、顔をうつむかせ腹に近づけ、わずかでも小さくなろうと頑張っていた。
無駄な頑張りだった。
獅子王の巨体は、丸まったところで黒光りする山にしかならなかった。
「ゴルルッ(どうだ! 小さくなったか!?)」
全身の筋力で体を縮めていた獅子王様は、息を荒げながら自らのサイズを確かめる。
「ゴル……(ふむ、気のせいか、少し小さくなったような……)」
気のせいだった。
むしろ全身に力を入れたことで筋肉がパンプアップされ、いい具合に膨らんでいる。
見よ、あの見事な背なの筋肉。あれが大地を割る一撃を生み出すのだ。
「ゴルル(良し、この調子で余は小さくなるぞう!)」
何一つ良しではなかった。
無駄な努力ご苦労様と言う他ない。
また箱座りの姿勢から、ぎゅっと体を小さく丸める。
その調子で獅子王が壁を通り抜けるほどの確率に挑戦していると、遠方がにわかに騒がしくなった。
「ゴルル……?(うん? ここらの森の魔物はみないなくなってしまったと思ったが、まだ残っている者がいたのであろうか?)」
立ち上がって、千里眼で音の方向を見やると、確かにゴブリン種と思わしき集団が森を走っていた。
「ゴルル……(ふむ、ちょうどいい。あやつらに余の小さくなった可愛い体を開帳してやろうではないか)」
獅子王はいっこうに小さくなっていない巨体を踊らせ、夜闇の森を駆け抜けた。
逃げて―。
ゴブリン逃げて―。