第8話 獅子王様、レッスンする
爆殺のウインク(´・ω・`)即死の微笑み
獅子王は山奥に引きこもり、修行に明け暮れていた。
「ゴルル!(キラッ☆)」
獅子王のウインクによって、正面に立っていたロードゴブリンの頭が消滅する。
「ゴルル!(ニコッ☆)」
獅子王が微笑むと、逃げようとしていたアークドラゴンが血反吐を吐いて絶命した。
「ゴルルル……(くっ、なぜ死ぬ?!)」
獅子王は口惜しげに前足で地団駄を踏んだ。
大地が揺れ、亀裂が走り、森の魔物たちが悲鳴を上げる。
獅子王の可愛いアピールは、修行の結果、物理的破壊力を持つまでに至っていた。
「ゴルッ(これでは修行がはかどらぬではないか。……まぁ、良い。今日の修行はこれにて終了である)」
殺した以上は食う精神の獅子王は、ゴブリンとドラゴンを頭からモリモリといただいた。
「ゴルルル(ふむ、ゴブリンは臭みがあるがクセになる風味。ドラゴンは濃厚だがハーブのような爽やかさがある。美味であった。褒めてつかわす)」
獅子王によるモンスターレビューは今日も好調だった。
灼熱のブレス(弱)で起こした焚き火の前で、獅子王はうずくまって暖を取る。
目の前の火に見る幻は、自分の転機となる助言を与えてくれた師の姿だ。
「ゴルル(先生、余はいまだペットに必要なものがわかりませぬ……!)」
少なくとも物理的破壊力ではないのは確かだった。
そもそも獅子王は今まで修行などしたことがなかったので、これが正しい方法なのかもわからなかった。
自分が思う可愛い仕草をモンスターたち相手に見せつけるたび、相手は泡を吹き、心臓を止め、ついには物理的に頭部を爆散させるまでに至ってしまった。
「ゴルル(これは、何かが違うのではないか……?)」
さすがの獅子王でも、モンスター相手の武者修行がペットになる方法ではないと気づき始めていた。
「ゴルル(人のペットになるのだから、人を相手に練習をすべきなのではないか……?)」
人類にとって、大いなる厄災が目覚めようとしていた。
ウインクと微笑みによって人類が滅ぶ、恐ろしい未来がすぐそこにやって来ようとしていた。
「ゴルル(日課の観察でもするか……)」
千里眼を用いた人間世界の観察は、獅子王の数少ない楽しみの一つだった。
念願の新大陸へとやってきても、その日課は変わっていない。
「ゴルッ(むぅん!)」
目に力を入れると、ぐっと視界が拡大され、山々は透過して、人間の街が見えてきた。
「ゴルル(今日はこの家にするか)」
躊躇なく他人の家を盗み見るその姿は、完全に出歯亀であった。
そこそこに裕福な家庭なのか、暖かな暖炉の前に家族が集まり、一家団欒に花を咲かせている。
暖炉の一番前に陣取った大型犬の背に、まだ小さな女の子が乗ってじゃれついていた。
その姿のなんと幸せそうなことか。
「ゴルル(ぐぬぬ、羨ましい。なんだあんな犬。余のほうが大きいし強いし可愛いではないか)」
大きすぎるし強すぎるし、何より可愛くはない。
獅子王がまず直すべきはその美的センスなのだが、当人は師に否定されておきながらなお、自分は可愛いと思っていた。
「ゴルル(いや、余にふさわしい飼い主はきっと現れる! 今はその時に備えてペット
そのペット力とやらの上げ方がわからないので困っているのだが、完全にその事を忘れている獅子王様なのであった。
獅子王様のペットへの道は遠ざかるばかり(´・ω・`)