第2話 獅子王様、昼食をゲットする
割れた海がふたたび元に戻っていく。
背後より押し寄せる波を寄せつけもせず、獅子王は自らのブレスによって生み出した道を駆け抜ける。
「ガオオオン!(ふははははははははは! 余は知らぬ! 王としての責務などもう知らぬ! いつの間にかかつぎ上げられて、大陸制覇なんぞしてしまったが、余はもともと争いごとは好きではないのだ!)」
すごいすごいと褒められると調子に乗ってしまう性格が仇になってしまっただけなのだ。
獅子王様はちやほやされるのが大好きなのだ。
「ガオン!(なぁに、余の忠臣ギギムガルデは強さはそれほどでもないが、あれは頭がいい。大陸をまた血で血を洗う暗黒の時代へとはやすやすと戻さぬであろうよ!)」
希望的観測で自分の責任は放り投げ、獅子王は久方ぶりの自由を満喫することにした。
人間たちの住む大陸は遠い。
獅子王の健脚でも三日は走らねばならないだろう。
もっと加速すれば早く着くだろうが、ブレスに追いついてしまっては元も子もない。
慰安旅行はまだ始まったばかりだ。のんびりと旅を続けようではないか。
獅子王は気楽に構えて、気楽に走った。
「ゴルル……(むぅ……?)」
その時、獅子王のすぐとなりに大きな影が映った。
獅子王のブレスによって割れた海を物ともせず、巨大な海竜が縄張りを冒す不埒者を狩りに来たのだ。
長い首をしならせ、割れた海を突き破って海竜が噛み付いてくる。
「ガオオン!(ふはは! 貴様が余の昼食か!)」
獅子王は噛みつきに対して噛みつきを返す。
噛みつき合戦は一瞬で片がついた。
獅子王は、海竜の鋭い顎ごと頭部を丸かじりにしてしまった。
海竜は即死だ。
「ゴルル(ふむ、まぁ、塩気が聞いていて悪くはない。褒めてつかわす)」
獅子王は、頭がなくなった海竜を弁当代わりに引きずりながら、さらに西を目指して走った。
むしゃむしゃごりごり、ごっくん。
骨も鱗も残さず食べた獅子王の後には何も残らない。
その調子で、襲い掛かってくる魔物たちをオヤツ感覚で食べながら、獅子王は遥か彼方の大陸へと向かうのだった。
海竜は塩のきいたサーモンみたいな味がする(´・ω・`)