Linuxデスクトップはなぜ流行らないのか

Linux
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Linuxはサーバーに搭載されているオペレーティング・システムでトップのシェアを誇り、世界中で動いているスーパーコンピュータのトップ500にすべてLinuxがインストールされています。

その柔軟性の高さからロボット、テレビ、車、はては人工衛星にも利用されています。スマートフォンではLinuxをベースとしたAndroidが70%以上のマーケット・シェアを獲得しています。

一見死角なしに見えるLinuxですが、デスクトップ、ラップトップPCのシェアはずっと低空飛行です。

なぜデスクトップLinuxは流行らないのか。

このお題はちょくちょくLinux界隈では議題に登り、熱心に議論されています。そこで自分なりにその原因と思われることを書き起こしてみました。断定口調で書いてしまっているところもありますが、多分に私見を含んでいるので話半分に読んでいただけると幸いです。

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Linuxデスクトップには強力なメリットがない

一般的なPCユーザの視点に立ち返ったとき、Linuxデスクトップにはユーザを強烈に惹きつける強みというのがないことに気づきました。

LinuxをデスクトップPCで使う強みと言ったら、プライバシー、セキュリティ、カスタマイゼーション…

プライバシーはFaceBookなんてものが世界最大のSNSになっているところを見れば大半の人は等に眼中にないことでしよう。悪いことさえしてなければ大丈夫なんて感覚だと思います。

セキュリティについても、PCに疎い人ほど自分はウィルスに罹患しないと思っているものです。

カスタマイズ性についてはむしろない方が良いと考える人が多いと思います。

メーカー製PCにプリインストールされていない

 まず、Linuxがプリインストールされたメーカー製PCがほとんどないので一般の方がLinuxという選択肢が存在することを認識できていないと思います。一時期、DELLやHPが熱心にUbuntu搭載のノートPCを販売していたのですが、その熱も今ではすっかり冷めてしまいました。おそらく後述するアプリケーションの問題が足を引っ張ってしまったのではないかと推察します。

それにいくら今使っているPCがブロートウェアだらけの情けないOSを搭載していても、それを自分でなんとかしようという人はおそらく読者様の予想する以上に少ないです。OSを入れ替えるという発想や情報にたどり着ける人はほんの一部ではないでしようか。

自力でなにかを調べたり追求することを嫌う人は案外多いです。PCがウィルスまみれになっているにもかかわらず、そのまま使っている人はたくさんいます。

サポートを受けられない

Windowsでも困ったことがあってPCメーカーに問い合わせても何かしらのサポートを受けられる可能性は低いですが、少なくとも怒鳴りつけられる窓口があるのは精神的な安心材料になります。

さまざまな業界標準のアプリケーションが非対応

 これはLinuxに移行したいと思っている人が断念してしまう理由ですが、特定のアプリケーションがLinuxに非対応というのが上位に挙げられるのではないかと思います。Linuxデスクトップが趣味人のためのOSと揶揄されるのはこれが大きいのではないでしようか。

 オープンソース化やサブスクリプションサービスが増えてきたとは言え、Linuxに対応していないソフトウェアはいくつかあります。それが古くから様々な業界のスタンダードなソフトウェアになってしまっているということがままあります。そしてこれは「Microsoft Office」と「Adobe Creative Cloud」のせいだと8割方断言できます。

 Linuxにも代わりとなるソフトウェアは存在します。Microsoft Officeならば「LibreOffice」や「WPS Office」など。Adobe Photoshopならば「GIMP」などありますが、ワークフローが若干違ったりはっきり言って性能が低かったりします。マクロが多様されていたり、複雑な図形を使用して編集されたMicrosoft Officeのドキュメント・ファイルのフォーマットを完全再現できるオフィス・スイートは存在しません。GIMPの電子切り抜きツールはCorel Photo PaintやAdobe Photoshopのオブジェクト選択ツールよりもかなり精度が劣りますし、アップスケーラーなども標準搭載されていません。個々に優秀なツールは存在するのですが、統合的な環境がないのがおしいところ。

 3D業界でプロプライエタリ(有償)・ソフトウェアを切っては投げてるBlenderのようにOfficeやPhotoshopを超えるオープンソース・ソフトウェアが登場し、スタンダードになっていくことを祈るばかりです。しかし、オフィススイートの開発は退屈な上に非常に専門的な知識と膨大な時間を必要とするので開発プロジェクトが頓挫する危険性が大きいです。実際、LibreOfficeの前身であるOpenOfficeの開発は停滞していました。Linuxのシェアが伸びてMS OfficeやPhotoshopがLinuxにポートされるのを待つ方が現実的かもしれません。

 (またStadiaやGeForce NOWなどのようなブラウザを介してクラウドサーバで演算処理を行うゲーミングも登場してきているので、ブラウザでの動画編集、画像編集なども登場してくる可能性もあると思います。)

 この点でMacBook Proはウェブデベロッパーやクリエイターに人気なのも理解できます。POSIX(Portable Operating System Interface for UNIX)を踏まえているUNIX互換環境でなおかつ、MS OfficeやAdobe関連のツールが使えるのです。これをほぼ特別な設定なしで使えてしまうため、教育機関でも使いやすいですし、これからWebプログラミングをやりたくてお金に余裕がある子になら私もMBPを勧めてしまいます。

人気のオンラインゲームがプレイできない

Valveの努力により Steam経由でできるLinux対応ゲームはかなり増えました。さらに Proton の発表によりその数がうなぎのぼりに増えました。ネット接続が必要のないゲームでしたらたいていは動くような段階まできています。数年前と比べたら大きすぎる進歩です。

Protonでプレイできるゲームが 6,500 タイトルを超えた

しかし、現在でもチート対策を施したゲームはLinuxで動かないことが多いです。それどころかゲーム製作会社がWine経由でプレイしていたユーザのアカウントを凍結(BAN)するという事件もたびたび起こっています。

Wine DXVKのオブジェクト描写の仕方が DirectX本家と比べほんのすこし違います。それをチートをみなされてしまうではないか、という分析が有志の間でなされています。実際WineでプレイするのとWindows上でプレイするのとでは若干のテクスチャの違いを感じます。

PUBG、Apex、FORTNITE、Overwatch、Battlefield…など。いずれもLinux上では動かない、あるいは動かしたらBANされるビッグタイトルです。

PUBGなどいくつかのゲームスタジオはLinuxに正式に対応する発表をするなど、Linuxゲーミングの動きは拡大していますが、あともう一歩というところです。

RTFM

Linuxのそれぞれのフォーラムでは最近は少しずつですが人口も増えて親切な人が質問に答えてくれることが多くなってきました。ですが基本的にはまずはRTFM(Read The F○ck’in Manual)、という大前提が存在します。

後述しますが、Linuxコミュニティにはニッチで一部のコンピュータ・エリートの間でだけ使われてれば良いと考えるユーザは少なくありません。決して排他的ではないですが、最低限のGoogle検索くらいしない学習意欲がない人には冷たいです。来るもの拒まず、去る者は追わずといった感じです。

Linuxユーザも特段普及を望んでない

 これには異論がある人もいると思いますが、私の感触としてはLinuxユーザはデスクトップとしてのLinuxが流行って欲しいと思っている人はあまり多くないように感じます。それも長年Linuxをつかっている人ほどこの傾向が強い。少なくともWindowsに取って代わるようなことは望んでない人が大半だと感じます。そしてこういう姿勢の人が少なからずいるのが普及の妨げになっている可能性があります。

 一 Linux ユーザとしてこういった考え方を持っている方は考え直してほしいものです。 OSS は多くのユーザやデベロッパーに使われるほど改善していくものです。 Linux カーネルそのものが好例でしよう。そしてあるソフトウェアにセキュリティ上の問題が発生した場合、ディストリビューション側が即座にコードを変更して対応できるのが Linux の強みです。ユーザが増えていくことを恐れる必要はないと思います。

Linuxの真価は”Freedom”(自由)

あえてLinuxユーザ(私生活でもLinuxを使う人たち)の特徴をあげるとするならば、自由を好み、自分のマシンをフルにコントロールしたいという人たちだと思います。

Linuxのデスクトップシェアはわずか2%に満たないかなりニッチな界隈ですが、これに満足している人も少なくないのはただ単にOSが無料で使えるということではなくこの自由があるためです。カスタマイズしようと思えばあらゆるディテールにもこだわることができます。

特定の集団、特定の戦略、特定のソフトウェア、特定のデザインシステムの元でOSを作り始めたら間違いなくこの自由は失われます。自由がなくなったときにLinuxは終焉を迎えます。

このため、大企業がOSSプロジェクトに大挙して参加してくる昨今の情勢には拒否反応を示すユーザも多いです。特定の企業の思惑で開発プロジェクトの方針が変更されたり、DRM(Digital Rights Management)などのコードが書き込まれ自由が脅かされるのではないかと心配するユーザも増えています。

私は民主主義と一緒で多くの自由を愛する利用者・開発者が増え、意思表明することによってソースコードのロックダウンやユーザに不自由をもたらす機能の実装を阻止することができると考えています。

番外編:歴史:最大のチャンスを逃す

Linuxデスクトップのシェアを拡大する最大のチャンスはWindows Vistaが登場したときでした。ちょうど2006年〜2009年ごろ、Windows 7が発売するまでWindowsユーザはさんざんな思いをしてきたのではないかと思います。この頃、XPに変わるOSを探す動きも活発化していて、出版社やネットメディアは盛んにLinuxへの移行を促す記事を載せていました。私もちょうどこの時期にLinuxへ移行した口です。

しかし、当時のLinuxディストリビューションはデスクトップ用途としてあまり洗練されているものがなく、Fedora、CentOS、OpenSUSEなどの主要ディストリビューションは(現在でもそこそこありますが)プロユース版のオペレーティング・システムのテストベッドといった位置づけのディストリビューションが多かったのです。唯一まともなデスクトップユーザ向けのディストリビューションはUbuntuだけでした。

Linuxのデスクトップ環境の歴史もWindowsよりも浅いです。KDEの初版がリリースされたのは1998年、GNOMEは1999年です。Windowsよりも10年くらい短いと見て良いでしよう。

この二大巨頭が現れてから超新星爆発の如くLinuxディストリビューションは増えました。

このためLinuxカーネルとその周辺のプロセスは堅牢でしたが、インストーラはバグだらけだったり、ことDEにおいてはWindowsのそれと同等以下の安定性でした。一番安定した環境を提供しているDebianもインストールがちょっとハードルが高かった記憶があります。

Why Linus Torvalds doesn't use Ubuntu or Debian

グラフィック・ドライバのインストールを補助してくれていたのはUbuntuくらいなものでした。今ではハードウェア・ベンダーもLinuxを重要なマーケットと捉えてドライバのサポートを積極的にする企業が増えましたが、当時は無線LAN、プリンタやちょっと特殊な周辺機器がLinuxでは動かないのはあたりまえだったのです。

私も NEC のノートPCにFedoraやSUSE、Ubuntuをインストールしようとと色々試しました。特にNvidiaドライバをインストールから設定するまでが大変で、素の状態だとFedoraではインストール中画面が真っ暗になってしまいました。

まずインストールできるディストリを探すのが大変だった覚えがあります。このため、Linuxをインストールできただけで満足してしまうという人も少なからずいたのではないでしようか。このころの苦い経験をまだ持っている人も多いと思います。

2009年になるとWindows 7が発売され、その後はSSD(ソリッドステートドライブ)が PC に標準搭載されるようになり、ハードウェアの性能が飛躍的に進歩しました。Windows OSでも一般的な用途ならばストレスを感じることが少なくなりました。

現在のようにもう少しLinuxのデスクトップ環境が成熟していれば多くの人を引き止めることができたのかもしれません。タイミングが悪かったと言わざる得ません。

Linuxデスクトップ、2020年の予想

デベロッパーの努力によりGNOME ShellやPlasmaなど、Linuxのデスクトップ環境は10年前と比べると考えられないほど安定し、高速化してきました。批判する人も多いですがGNOMEは操作性をより単純にする方向にフォーカスし、誰でも簡単に扱えるようになったと思います。KDE Plasmaもモバイルやタブレットを意識した設計を取り入れています。

ディストリビューションも新規獲得を目指しているのか格段にユーザフレンドリーになりました。なので、10年前よりもLinuxデスクトップを導入するハードルもかなり下がっています。Microsoftが大ぽかしない限りいきなりシェアが激増するということはないと思いますが、この調子で毎年0.x%の伸びを維持するのではないかと思います。

PC向けARMプロセッサの台頭

ノートPCプロセッサをx86からARMベースのチップに変えるという動きが活発化しています。MicrosoftはQualcommと提携し、熱心にWindows向けのSnapdragonを開発していますし、AppleもMacBookのコア・アーキテクチャをARMにする発表をしています。

希望的な観測ですが、この動きが拡大すれば、ChromeOSやLinuxのシェア拡大を期待できるのではないかと思います。Microsoftは今まで築いてきたx86ソフトウェア資産をARM64へ移行させようとしていますが、他のソフトウェア・ベンダーとの足並みがあまりそろっていないようです。

今後、高性能なPC向けのARMプロセッサが大量に出荷されるようになり、賢いPCメーカーがLinux入りで売り出せば”そこそこ”売れるのではないかと思います。

さらにスマートフォンのセキュリティについて気にする人が少しずつですが増えています。去年もLibrem 5やPinePhoneなどが発表されました。純Linuxがインストールされたスマートフォンのシェアも少しずつですが増えていく予感がします。

コメント

  1. 匿名 より:

    私は10年以上メインマシンにUbuntuを使っていますが、おっしゃる通りだと思います。プリインストールしたWindowsからリプレイスするほどのメリットは無いです。普通の人はWindowsで十分なんですよね。

    AndroidやChromeOSによって、大局的な観点から言えばLinuxはカーネルとして「家庭のコンピューター環境」には普及してきているので、クラウドアプリの利用によるOSの縛りが減っていることも含め、そうした部分を風穴に、少しでも広がってくれればなぁと願うばかりです。

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