会計・税務

院長先生の税務相談(30) 慎重さが要求されるMS法人との委託取引

医業経営コンサルタント 税理士 田島 隆雄

医業経営の近代化・合理化を進める観点から、特定の業務を外部に委託する病医院が増えてきました。検体検査をはじめ、院内清掃、医療事務、土地・建物・医療機器の賃貸など広範囲の業務において普及が見られます。今月号では、こうした委託業務についての税務上の注意点を解説します。

Q1    業務委託において、どのようなケースで税務上、注意が必要になるのですか。

A1     委託先が他人または第三者などの場合は、委託料が市場メカニズムにより決定されるため税務上、ほとんど問題は生じません。しかし、委託先が理事長・院長先生などの親族(同族関係者)や、親族が株主となる会社(同族会社)の場合は、慎重な判断が要求されることになります。それは委託料の設定に恣意性が介入する可能性があり、それによって税務上、弊害となる場合が考えられるためです。

Q2    MS法人(メディカルサービス法人)などの同族会社との委託取引の場合、どのようなことに注意しなければならないのですか。

A2     取引の恣意性を排除する観点から、契約内容、料金、支払時期など、第三者間取引と同様の効果を想定し、客観性を維持することが重要です。

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Q3    診療所の敷地は、理事長である私が所有者となっていますが、建物の所有者は医療法人にしたいと考えています。地代設定をする上で、注意すべきことはありますか。

A3     このケースの場合、特に地代・権利金の判断が重要です。あまり少ない地代の場合、同族医療法人に対し、権利金の認定課税の可能性がでてきます。

 次の図表により課税関係などを確認してください。

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「相当の地代」については、現実的には高額となるケースが多くあり、負担しきれない場合は、使用賃借、または賃貸借により対応することになります。これらの場合は、いずれも医療法人に権利金の認定課税があるため、「認定課税を受けないための手続き」を実施する必要があります。その手続きは、理事長個人、医療法人が共同して「土地の無償返還届出書」を所轄税務署へ提出するものです。結果、理事長個人の相続が発生した場合は、その土地の相続評価額は次のようになります。

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Q4    同族会社が所有している診療所の土地・建物を、医療法人が借りる場合の留意点を教えてください。

A4      家賃設定に注意しなければなりません。まず、同族会社と医療法人との間で「土地建物賃貸借契約」を締結します。家賃設定については、周辺の実勢価額を参考に、世間相場と比べて妥当な賃料となるように注意しましょう。

 「土地建物賃貸借契約書」には、賃貸借の期間、月額家賃、支払い時期、権利金、敷金の有無と金額、内部改装費の負担関係などを明確に記載する必要があります。なお、同族会社の株主が死亡した場合の自社株評価にあたっては、建物部分は、固定資産税評価額から借家権(通常は30%)を控除することができます。土地部分については、貸家建付地として、更地評価額から(借地権割合×借家権割合)の割合だけを控除することができます。

Q5    医薬品の調剤や販売を院外処方として、同族会社の薬局へ委託することを検討しているのですが……。

A5      同族会社薬局は、まず、薬局の許認可を取得しなければなりません。次に薬局の敷地については、病医院の敷地とは別筆別地番であることが要件となります。同族会社薬局から医薬品を仕入れする際は実勢価額、医療法人が販売する際は薬価基準が一般的と思われます。

Q6    保険請求業務、院内清掃業務を同族会社へ委託する場合、どのようになりますか。

A6     これら2つの業務はマンパワーを主とするものであり、その費用が大部分を占めています。したがって、同族会社の労働分配率(賃金÷限界利益)を指標として、請求料金を算定する方法があります。ここでいう賃金には賞与、法定福利費、福利厚生費等を含んだ金額をいいます。たとえば労働分配率が60%の場合、1.66倍の金額を時間当たりの請負料金の指標とするという考え方です。

 業務委託契約書には、時間当たり料金、業務内容、業務時間帯・締切日、支払時期等、細部の項目につき取り決めることが必要となります。

 Q7    同族会社ではない第三者に検体検査や電気設備保守業務、看護師派遣業務等を委託する場合の留意点を教えてください。

A7     第三者への委託の場合、委託料は市場原理により決定されるため、税務上、料金設定などに問題が発生するということはありません。

 このケースで注意したいことは、委託料の「費用の計上時期」です。支払側である医療機関が費用として認識し計上するためには、委託業務の完了が要件とされています(発生主義)。つまり、未完了の業務に対して委託料を支払ったとしても費用にはならず、前払金、または前払費用としての資産となります。「委託業務の完了」を委託契約書で、月単位で完了とするか、または個別処理として個別業務が完了したときとする等、明確にしておく必要があります。

Q8    同族会社への委託料について、実勢価額などに比べて高額な場合、どのような問題が生じるのですか。

A8     委託先と委託元である医療機関が同族関係であるケースでは、恣意性を排除しなければなりません。つまり、世間相場と比べて高額な場合は、経済的利益の供与があったと見なされる可能性があり、次のような課税関係が生じます。

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Q9     当院では、経営改善をするためにコンサルタントを頼もうと考えています。税務上の注意点は。

A9     費用の計上は、コンサルティングを行った役務提供の完了が基本となりますが、契約書で毎月コンサルタント顧問料を支払う契約である場合、毎月の支払い委託料が費用として計上されることになります。コンサルティング着手前の前渡金はその時点では、費用計上することができません。一般的には役務提供の完了時に経費計上することになります。

 今月号では、委託業務と同族法人へ委託する場合の税務上の留意点を中心に解説しました。委託取引の価格設定は、慎重さが要求されるため、税理士や不動産取引業者、業種専門受託会社などの専門家に相談することをお勧めします。

 なお、取引にあたっては第三者取引と同様に、契約書、納品書、請求書、領収証等の作成と保存を確実に実施することが大切です。

(医業経営コンサルタント 税理士 田島隆雄/「TKC医業経営情報」2008年3月号より)

 

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