『ヴィーナス変貌』
日向あき子(白水社, 1982年)
BC 15000年前 多産生殖を祈願する呪物
←中央集権国家を正統化するための神話編纂によって、口承がゆがめられ、女性の地位がさがる。
本来は、宇宙の精霊と女性が交わることによって受胎する。17
だから女性の性器が強調されている。
男性土偶は存在しない。19
BC 2800年─2300年
小女性像
アトランティス大陸→女神と母系の社会32
ギリシア・ローマ時代
➊ミロのヴィーナス、 ➋カピトリーノのヴィーナス、 ➌美しい尻のヴィーナス
聖母マリアは、地母神やヴィーナスと一体化[を統合]する。43
↓
ウラジミールの聖母子像:勝利の聖母から優しき聖母へ
ギリシア型ヴィーナスとキリスト教の聖母も、その底には母のイメージを最期の救いとしている。49
太古から女性は、男性よりも自然にふかく接触していた。60
「太古以来、植物や薬草についての知識を受け継いできたのは女たちであった。女性の心身は、本来、豊かな自然を内包している。彼女たちは、人間と自然界や環境との間のリズムに敏感で、知覚にまで下った深いコミュニケーションをもち、人間心理の洞察も深く、それによって予言を行った。人間がまだナイーヴだったころ、そうしたすぐれた直感力を持つ女は、時には人々に畏敬の念を呼び起こさせた。」60
魔女判定の書インスティトリスとシュプレンガー共著『魔女の槌』(1487年)
美と愛の女神の謳歌→プラトンの二人のヴィーナス説:
「プラトンは、『饗宴――エロスについて』で、パウサニウスの言葉をかり、ヴィーナスには天上のヴィーナスと俗界のヴィーナスの二種類があると主張している。――アフロディテの一方は年上で、ウラノスを父とし、母なしで生まれたもののようで、われわれはこの女神に対してウラニアという称号を奉っている。他方、年下の方は、ゼウスとディオネとの間に生まれた娘で、われわれはこの女神をパンデモスと呼んでいる。――言葉を換えれば、イデアとしての精神的なウラニア型ヴィーナスと、自然または肉体としてのパンデモス(一般人共有)型の二つのヴィーナス」83
ヴィーナスは現代人の感覚からすると、腹がおおきすぎる。84
ルネッサンスの美神たちは、どれもがまるで妊娠しているように腹部が大きい。ボッティチェリの「春」のヴィーナス、花の女王フローラ、三美神、そして正面向きのヌードなので幾分わかりにくいが「ヴィーナス誕生」のヴィーナスも、ジョルジョーネのヴィーナスも、まるで妊婦のようにおなかが突き出ている。今日の美意識からいうと、これは少しばかり異様なのである。ただ美意識もまた時代によってかわるのだ。この腹部のふくらみは再生と新生の時代の美女の条件でもあったのだろう。
レオナルドは、徳の中心の哲学ではなく、ギリシア自然哲学。98
両性具有願望:「洗礼者ヨハネ」
人間の元の形が男女両有の球体だったことについてはプラトンの『饗宴』にも出てくる。神話学、太古の民俗学研究の権威であるミルチア・エリアーデも、彼がほぼ十年かけた研究『ヨーガ』で、同じことをいっている。エリアーデによれば太古の文献、太古の人間の記憶を調べていると、まことに不思議なことだが、繰り返し繰り返し出てくるのが両性具有への願望だ。102
女性的なものを失ってはいけない→両性具有肯定107
成人式のさまざまな行事の中には、これもまたきわめて重要なものとして男の女装儀式がどの原始社会でもかならずあった。つまり、心の中に「女」を失ってはいけない。それを失っては一人前の人間ではないのだという厳しい掟が、女装儀式の中で体得されたのだ。このことは…人間原初の完全性は両性具有だという両性具有願望にも通じる。……社会の原理の中から、あるいは世の中の仕組みの中から女性的なものが失われれば失われるほど、芸術家は絵の中に女を描く。
↕
官能の3タイプ
➊聖母マリア、 ➋ヴィーナス、 ➌イーヴ117
マニエリスムにおいてのような冷たい官能――魅惑の限りで誘いながら鋭い刃の一突きをかくしもつ官能もある。この戦慄を秘めた女たちは、それゆえにノーマルな豊満性よりもいっそう官能的に心をそそるということもありうる。……ヨーロッパ美術にあらわれる女のタイプは、聖母マリア型、ヴィーナス型、イブ型の三タイプがあるというのが通説だ。
遊女が描かれる
マニエリスムス:
シェイクスピア「愛する女が誓っていう、「私は誠実そのものよ」と/私は彼女の裏切りをしっている/だがその言葉を信じるのだ」131
→鋭い刃で傷を受けながら、なお微笑をたもとうとする者の顔
ユディット、バテシバ、サロメ
↓
ギャルソンヌ(1920-30年代に流行した「男の子っぽい女の子」)156
両性具有
例 フォンテブロー派「狩をするディアナ」1550-60年
カラヴァッジョ:167
――聖母の絵も花の絵も同じ価値がある――ミケランジェル・メリジ・ダ・カラヴァッジョ(一五七三-一六一〇)は、マニエリスムの知的な気取りに対し意識的に反抗する態度をとったイタリアの画家だ。彼は果物、ジプシー女、聖母の中に同じものをみて描いた。
日向あき子『ヴィーナス変貌』(白水社、1982年)167
汚わいと禁忌のなかに聖なるものをみる→女性的な混交原理
逸楽・優雅・芳香→〈雅の宴〉fête galante
「男がこれほど粋で上品に見えたことはなかった。この時代では真理でさえ裸であるかずに、ちゃんと着物をつけて、いつでも才気をきらめかした」(フックス)180
スキンシップ(フィジカル・コンタクト)がある作品は、名作だ。197
形態の発展(アンリ・フォション進化論)からヴィーナスの変貌を説明する。209