関係者が積極的疫学調査について自画自賛している間に、この調査は、本来の目的から離れ、何をやってるかわからなくなってしまった。この過程を反省しなければ、日本はまた同じ失敗を繰り返す。
繰り返すが、積極的疫学調査の目的は感染経路と感染源の「調査」だ。本来、感染経路の解明という目的のためには、接触した人は全員調べなければならない。さらに、コロナは唾液の飛沫感染だけでなく、多くはないが、エアロゾルによる空気感染により伝染することも知られている。このような可能性も調べるため、接触した人だけでなく、同じ場所にいた人もすべてPCR検査を実施すべきだ。さらに、感染経路を解明するなら、中国で報告されているように、輸入された冷凍食品などを介した感染も調査すべきだろう。
ところが、厚労省はそのような対応はしなかった。それは、前述したように、積極的疫学調査が感染症法で規定されている法定調査だからだ。コロナの感染が拡大すると、日本全国で実施できなければならない。しかしながら、保健所の人的資源には地域格差がある。地方の保健所は、都市部ほど人的リソースはない。積極的疫学調査は、このような保健所でも実行可能なものにしなければならない。
「マスクをしていたら感染しない」という前提
昨年4月、国立感染症研究所は実務上の観点から濃厚接触の条件を1メートル以内の距離で、マスクなしで、15分以上話した人に定義を変更した。この結果、保健所が連絡しなければならない濃厚接触者は大幅に減少した。
この変更は、積極的疫学調査の結果の信頼性を大きく損ねることとなった。私が編集長を務めるメールマガジン「MRIC」に首都圏の保健所で働く保健師が寄稿してくれた。「濃厚接触者探し、クラスター対策の虚構~現場保健師の実体験から~」というタイトルで1月15日に配信した。この保健師の指摘は興味深い。
保健師は『(濃厚接触者の定義として)ポイントとなるのは、マスクしているか、していないかである。その際、マスクの質は問わない。あくまで聞くのはマスクの有無のみである。調査において「マスクをして会っていましたか?」と尋ねた場合、「マスクをして会っていました」という返答だと陽性者と接触があった人であっても濃厚接触者にはならない。そして、マスクをしていた場所は感染場所にはならない」と述べている。
マスクをしていたら感染しないという仮定は、およそ合理的でない。「正しく」マスクを装着することで、感染はかなりの割合で予防できるかもしれないが、すべてではない。また、実社会では「正しく」マスクを装着していない人も多い。
マスクの扱い方については、保健所関係者では常識らしいが、私は知らなかった。この保健師の主張を聞けば、第三波で飲食店が標的となったのも納得できる。日常生活でマスクを外すのは食事の時と自宅だからだ。職場や訪問した場所でマスクをつけていれば、最初から濃厚接触者と見なされず、積極的疫学調査の対象から外れる。この結果、飲食店でのクラスター発生が過大評価される。これこそ、今回の緊急事態宣言で、飲食店が規制対象となった理由だ。
「東京で約6割の人が感染経路不明なんですけど、そのうちの大部分は、飲食店だと専門家の委員会の先生方が言っています」と菅義偉首相が説明し、飲食店を中心に規制するのは合理的ではない。第三波の感染経路の中心が飲食店でなければ、飲食店を規制しても、感染は抑制できない。一方で飲食店経営者が蒙る経済的被害は甚大で、その一部は税金で補填されることとなる。

















