「もしかして、と思った時には発生していた」「職員も次々といなくなっていく…」クラスター発生で入所者9割以上の感染を経験した介護施設の体験談

 ここのところ高止まり傾向にある、全国の新型コロナウイルスの重症患者数。

・【映像】高齢者施設でクラスター「もしかしてと思った時には...」

 医療崩壊を防ぐ鍵の一つとされているのが、高齢者の感染と重症化をいかに減らすかということだ。しかし、25日までに把握されたクラスターの発生状況を見てみると、飲食関係907件、企業857件、医療機関741件に加え、高齢者福祉施設などでも833件に上っている。
 26日のABEMA Primeでは、先月15日から今月3日の収束までの間、48人のうち47人の入所者、応援スタッフも含め40人のうち20人の職員が感染、さらには6人の入所者が入院先で亡くなるという事態に陥った特別養護老人ホーム「おおたきの杜」(北海道伊達市)の関係者に話を聞いた。
 まず「おおたきの杜」施設長を務める井谷富彦氏は「もしかして、と思った時には発生していた状況だった」と振り返る。「ときどき熱を出す方が発熱したが、軽い症状だったので、最初は風邪をひいたのかと思っていた。しかし、すぐに同じ部屋の方が熱を出したので、すぐに保健所に連絡した。すぐに入院の手配もしてもらったが、数名が受け入れられた後は、医療の逼迫から、“これ以上は受け入れられない“、ということになってしまった」。

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、当時は家族による面会も禁止していた。感染経路となる人の出入りは職員や通院するタイプの入所者、往診にくる医師が考えられるという。また、職員と入所者、入所者と入所者同士がソーシャル・ディスタンスを保つことが難しい事情もあったという。
 「私どもの施設は“多床室“と呼ばれる従来型の特別養護老人ホームなので、みなさんで一緒に食事をとったり、集団でプログラムを行ったりすることが非常に多い。調査中ではあるが、その中で感染拡大を防ぐことができなかった。今の時期はインフルエンザやノロウイルスが流行る傾向があるので、万全の体制を整えようと研修会を開催し、ガウンの(着用方法などの)テクニックを学ぶなどしてきたが、感染力の違いに脅威を感じた。入居者の方々の検温、酸素飽和度や血圧の測定など、目の前のことを必死に乗り越えようと一同で頑張ったが、職員がいなくなっていく。その混乱、辛さがあった。

 入居者の方々の命を守ることを最優先に考えなければいけない一方で、介護職員が“全滅状態”になったため、私どもの法人から応援の職員を14名程度派遣してもらった。また、道の方からは大学の先生を派遣していただき、ゾーニングの作り方や職員の休憩室のあり方、N95マスクの正しい着用方法などを事細かに指導いただいた。利用者の命と、職員の命をしっかり守るという体制作りに取り組んだ。ご家族様からはお叱りを受けるかと考えていたが、逆に励ましのお言葉もいただき、約40名弱の方の命を救うことができた。職員についても、結果として1人の退職者も出ず、全員が戻ってきてくれた。また新たな気持ちで、しっかりと感染症の対策に臨んでいこうと誓っている」。
 「おおたきの杜」でクラスターが発生した際、応援で病院や保健所との対応をした介護福祉士の松橋信夫氏は「介護保険法にもとづき、感染症対策についてはしっかり勉強しなくてはならないことになっている。我々も、特に新しい職員に対しては年に数回の研修を行っている状況ではあったし、昨年4月の段階でクラスターが発生するかもしれないということで対策をしていた。しかしコロナ対策は高いレベルの技術が必要ということもある。保健所から委託された医師の方に動いてもらったり、2日後の12月16日には支援対策本部を立ち上げてもらって地域の皆さんからの応援もいただいた」と話す。

 「井谷施設長、そして保健所の方からは、入院が難しくなってきている状況から、“施設の中での看取り”の可能性も頭の中に入れておかなければならない、という話もあった。施設としては命を救いたいという思いで各関係機関と調整し、情報出しやご支援を頂けたおかげで今回は施設の中での看取りはなかった」。
 NGO「ピースウィンズ・ジャパン」でクラスターが発生した施設を支援している稲葉基高医師は、「おおたきの杜」での感染拡大について、「ウイルスは自分では移動しないので、基本的には人が媒介したことは間違いないが、どこから入ってきたのかを特定するのは難しい。また、熱が出た時点で、感染力のある状態でいろんな人と接していた可能性が高いということだ。その意味では、隔離やパーテーションも有効だが、食事などの時間を分けるという対策も必要になってくる。しかし普段から人手不足、一度に4人にご飯を食べさせるなど、ギリギリでやっている介護の現場で本当にそれができるだろうか。また、クラスターが発生した施設を何カ所か見たが、ゾーニングなどの感染対策は非常に難しい。そもそも病院内であっても対策はとても大変で、ゾーニングをするだけでなく、防護具の脱ぎ方も練習しないと、ウイルスが自分に付いてしまう。これを介護施設でやるのはハードルが高い」と話す。

 その上で稲葉氏は「今回、大学の先生が来てやってくれたとのことだった。外部支援をちゃんと受け入れてもらう、援助を受ける力も重要になってくる」と指摘する。

 稲葉氏は「私たちの団体でも去年の夏ぐらいから介護施設向けのオンライン研修会を実施し、213施設に受けてもらった。それらの映像配信もやっているが、まだまだ全国に行き届いていないという思いもある。ちゃんと勉強している施設と、受けてみてびっくりだったという施設と温度差あるのが全国の現状だと思う。看取りの話についても、コロナだから絶対に病院に運び、絶対に人工呼吸器に繋いで助けないといけないというものではないと思う。むしろ施設で看取るはずだった方をちゃんと看取れるようにするためにも、支援チームが現場に入れるよう、受け入れる力が重要になってくると思う」と話した。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
 

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ABEMA TIMES ニュース編集部

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