[CES2021]Vol.06 ALL DIGITALのCES2021で感じたこれからのビジネスコンベンションの行方
2021-01-22 掲載
txt:江口靖二 構成:編集部
「CES2021 IS ALL DIGITAL」ということで、CES2021は紆余曲折を経て最終的に完全オンライン開催となった。こうした環境下で開催されたオンラインのビジネスコンベンションは、関係者のすべてが最先端のIT企業であるために、その内容に非常に注目が集まっていた。
本稿が公開される今日時点でもCES2021はALL DIGITALで開催中であるので、コンベンションの近未来について、IT企業のビジネスチャンスやマーケティングについて考えてみたい。
オンラインとオフライン
昨年までのフィジカルなCESの会期は4日間で、その前にメディア関係者向けのイベントが2日間セットされていた。CES2021はメディアデーが1日、オンラインイベントが2日、もう1日はパートナーイベントという日程だ。日数だけ見るとほぼ半減しているのだが、オンラインで2月15日までは参加できるようになっている。
「オンライン」という点が一つのポイントだ。フィジカルな開催は当然その場限りである。ごく一部のセミナーはアーカイブされるが、フィジカルな展示は会期が終われば当然撤去される。一方オンラインは撤去する必要がなく(サーバーコストとかは必要だが)、実際には長期間維持することができる。
では、なぜ最初から会期を2月15日までというアナウンスを積極的にしないのか。それは「ありがた味」の問題だろう。今回オンラインで行われたほとんどのキーノートやセミナーは事前に収録されたものであるが、あえて最初の公開日時を設定した。そうすると心理的には、そのタイミングで参加しようと思いやすい。特に今年は初のデジタル開催のため、多くの参加者は昨年までのフィジカル体験しかなく、なおさら初モノに手が伸びる。かつてTSUTAYAの増田氏が「レンタルビデオは返さなければいけないから見るのだ」と言っていたが、オンデマンドでいつでも見られると思うと結局は見ないものだ、というのはかなり真理を突いている。
事前に収録されたセミナーは、現場でのライブパフォーマンスに比べると「安定」している。それは見ていればすぐわかることで、映像としての完成度が高い。サムスンのプレスカンファレンスを見ればそれは一目瞭然で、これをライブでやろうと思ったら「8時だョ!全員集合」レベルの熟練が必要である。ソニーのプレスカンファレンス(執筆時点では一般公開されていない)は、映像、音声、MAまで含めてパーフェクトと言っていい仕上がりである。
イベントにおけるセミナーの位置づけ
CESに限らず、こうしたコンベンションではセミナーと展示が基本要素である。まずセミナーについて考えてみる。検討する軸は(1)オンラインかオフラインか、(2)ライブかレコーディグか、(3)リアルタイムかタイムシフトか、(4)リニアかノンリニアかの4つの検討するべき軸があると思われる。
(1)オンラインかオフラインか
CES規模のイベントでは、キーノートなどは数千人収容できる会場にステージと巨大なディスプレイが設置され、登壇者のプレゼンテーションを聴講する。コミュニケーションとしてはワンウェイなので、現場であってもオンラインライブ配信であっても、さほどの違いはない。もちろん、現場の空気感とか聴衆の反応は現場でないと感じ取れないのだが、まあよしとしよう。
だが同じセミナーであっても、もっと小規模で(200人くらいまで?)、Q&&Aや終了後の講師と参加者、参加者同士のコミュニケーションが行われる場合はオフラインの強みがでてくる。なので、ほぼ引き分けでオンライン≒オフラインだ。
(2)ライブかレコーディングか
ライブかレコーディングかという比較である。ライブの良さは現在進行系である緊張感と期待感に尽きるだろう。何らかのハプニング的なことも含めて何が起きるかわからないということは、例えばアップルが行なっているイベントのように、特に新製品発表のような場合には重要だ。
レコーディングのいいところは編集できる点。これによって完成度はアップするが、臨場感が薄れてそれならセミナーではなくて普通にプロモーションビデオを作ればいいのではないだろうか。要はライブを録画すればいいだけの話だ。よってライブ>レコーディングとする。
(3)リアルタイムかタイムシフトか
ここでいうリアルタイムとは日時が決まっていて見逃し視聴ができない、という意味で使っている。この軸については若干議論が分かれるのではないだろうか。いつでも見られるというのは非常に便利であることは間違いない。ただ、前述のレンタルビデオの話のようにそれでは結局見ない、ということも確かにあるからだ。
そしてここで少し気になることがある。プレスカンファレンスとは本来的にはプレス向けであり、開始日時が決まっており、そこから情報解禁になって各メディアが情報を伝えていく。ところが最近の傾向として、プレスカンファレンスの内容が一般的なプレゼンテーションに近くなり、ネット配信が容易になったために、誰でも見られるプレスカンファレンスということが起こり始めている。これはメディア側にとっては由々しき事態、とも言えるかもしれない。
だがこうした傾向は変わらないので、メディアの役割についてメディアはもちろん、イベント主催者、出展者は再考する必要があるだろう。ということでリアルタイム<タイムシフトだ。
(4)リニアかノンリニアか
タイムシフトの場合にはリニアかノンリニアかという選択肢がある。ごく稀に部分スキップやリピートができないようにリニア再生だけにしている例もあるが、それは不親切以外の何物でもないだろう。
これら4つの軸を総合すると、コンベンションにおけるセミナーは(どこかの)現場においてライブでパフォーマンスが行われ、それを録画して後日、一定期間いつでもオンデマンドで見ることができるようにする、ということになるのではないだろうか。
これはあくまでもイベント時の話である。どんなに完成度の高いプレゼンテーションビデオを作成しても、それを見るきっかけ、周知をどうするかという課題があるからだ。
CESをはじめとするイベントは、それを作り出すことが最大の使命のはずである。年に一度のイベントであるからこそ、そこにあらゆるパワーが集約される。このパワーの集約こそがコンベンションではないのだろうか。要するにお祭りだ。この視点で見る今回のCES2021のセミナーは、現場でのライブではなかった点だけが残念である。
オンラインイベントにおけるブース展示
2020年2月以降のメジャーなイベントはすべて中止またはオンライン開催となった。それこそインパク(ちょうど20年前にオンラインで開催されたインターネット博覧会)の時代から、いかにしてリアルイベントをオンラインに移植するかについては世界中で試行錯誤が続いている。
セミナーに続いて、ここからはブース展示について考えてみる。昨年のイベントで筆者がもともとリアル参加していたものでオンライン開催になり、PRONEWSでも特集されてきたものにはNAB、IFA、IBC、InterBEEなどがある。これらでのオンラインによるブース展示内容は、残念ながら「オンラインでは無理」と言わざるを得ない。が故にCES2021には大きな期待をしていたのだが。筆者の結論を先に述べると「このままでは無理」である。だが全くどうにもならないかというと、決してそうは思っていない。
オンライン展示の課題
CES2021の出展者は1959社である。さて、目当ての企業ブースに行くにはどうしたらいいか。手がかりはこの画面だけで、キーワードを入力せよということだ。ここでは企業名やジャンルで検索することはできるようになっている。もちろんそれがわかっていればそれで問題ない。だが、たとえば「edge AI」というキーワードでは663社が該当する。「Raspberry Pi」というキーワードを加えてもまだ521社ある。この辺りで普通の人は心が折れる。これはどういうキーワードであっても大差はない。
なんとか対象企業を絞り込んだとしても、リストアップされる画面はこの通り、社名とロゴだけが並ぶ。さてこれを見て一体何を判断したらいいものか。それでもこれは、と思った企業をクリックすると、そこにあるのは短い動画と、PDFやPPTの資料やカタログのダウンロードリンクである。動画は一定時間見なければ何もわからないし、資料をダウンロードして見ろ、というのは現実的ではない。これをひたすら続けるのは修行を超えてもはや苦行である。ショッピングモールなどのレストランの一覧と同じで、名前だけ、社名だけだと何の店だかわからないし、食欲も沸かない。
UX視点で考えるオンラインCES
先程述べたCES2021の出展者ページの問題はUIの話だ、と言えなくもない。しかしCESはずっとリアル開催されていて、そこには体験、エクスペリエンスがちゃんと存在している。特に毎年参加している人にとっては、エリアごとの区分けや各社の配置というのはおおよそわかっている。もう身体でわかっているのである。毎回コマ割りをゼロから決めているわけではないからだ。
そこで、リアルなフロアマップ上にカテゴリーごとにエリアを分けて、各社を実際にコマ割り配置するのはどうだろう。マップ上の企業名をクリックすると詳細ページや各社のサイトにリンクする。おそらく大部分の人はこの方が圧倒的に探しやすいし、何より擬似的に会場内を巡回でしやすい。A社に興味があれば、その周辺の会社もなんとなく見ておこうというのは、オフラインでは当たり前のことなので、オンラインも同じUXでいいのではないだろうか。
より丁寧にやるのであれば、日本の駅などにある表示灯の地図広告のサイネージ版のように、表示されているマップの下部にロゴが並んでもいいかもしれない。このあたりは出展料に格差をつけるという点でも有効ではないだろうか。
ここでIFA2020の時のように、中途半端なバーチャル空間を設定してそこを回遊させるようなことは考えないほうがいい。それは会場が完全にバーチャル空間内にレイアウトされ、各社のバーチャルブースがそれに対応し、HMDなどでの視聴環境が普及していれば可能性はあるが、現時点では到底無理である。あるとすればセカンドライフをもう一度真面目に再構築することくらいだろう。
オンラインイベントのオンライン視察プログラム?
CESでは毎年視察ツアーが複数実施される。オンライン開催になった今年も、オンライン室が複数行われたようだ。例えばこういったオンライン視察が企画されている。
ここでオンライン研修なんてあり得ないと決めつけてはいけない。それを言うならリアルの視察ツアーでもあり得ないという話になるが、実際には全くそうではない。決してビッグビジネスではないかもしれないが、毎年それなりのニーズがある。現地で視察ツアーの人達をよく見かけるし、その食事会に偶然同席したことも何回かある。
むしろオンラインイベントこそ、何かしらのガイドやサポートがないとわかりにくいことが今回のCES2021で明らかになったのではないか。であれば、イベント主催者はここをビジネスにするべきだ。上記のツアーはすべてサードパーティーによるものであるが、主催者であれば誰よりもツアーをコントロールできるし、参加者のロイヤリティーも高い。
もともとCESなどのセミナーというのはその大部分が有料である。それも1000ドルを超えるものばかりだ。こうした考え方には、有益な情報、有益な機会が無料で提供されるはずがない、というところに原点である。ここは日本の多くの大規模イベントとは真逆の発想である。日本では、特にイベントにおけるセミナーは話題作りと集客ツールであって、多くがビジネスにはなっていないのが現状だ。
ビジネスイベントは業務で参加するものだ。参加費や出張費も会社が負担する。それはなぜか。企業がその経費を使って社員をイベントに行かせるのは、予定されていること、わかっていることの確認ではない。それならネットで後からいくらでも確認できる。イベントには偶然の出会い、それによるビジネスチャンス、人とのネットワーキングの価値をわかっているから、そこに投資(出張でも投資である)をするからだ。ここはイベント自体のビジネスに組み込むべきなのである。
ハイブリッド開催の提案
CES2021を踏まえて、イベントの開催方法について次の4点にまとめてみる。
(1)オンライン&&オフラインのハイブリッド開催
オフライン会期+オンライン会期を1ヶ月ほど
(2)セミナー
オフラインのライブ配信+オンデマンド
人が集まるオンラインセミナーからオンライン展示ブースへの動線を明確に作る
(3)展示ブース
オフライン会期中は従来どおりのブース
オンライン会期注は各社WEBの特設ページへバーチャルフロアマップベースで
(4)プライベートオンラインツアー
オフライン会期中は現場ブースと、オンライン会期中は各社のオフィスや
ショールームをスマホベースの中継システムで双方向のテレビ電話的なオンライン接客
(1)の動線と(4)のシステム設計が非常に重要だと思う。この双方向ライブは、展示会場をぶらついていたらたまたま目に止まって立ち話をするというものと同じイメージである。いきなりガッツリとビジネストークをするものではない。1ヶ月間毎日というのは現実的ではないので、スケジューリングした日時に出展者側がブースやオフィスでスタンバイしており、参加者は誰でも手軽に声をかけられるようにするといいのではないだろうか。その様子はイベントサイトで確認できるようになる。ビジュアル的にはZoomのサムネイル画面のように、担当者の顔と社名などがライブで表示されている。ただし、この時点でいきなり属性情報を取得しようとは考えないほうがいい。リアルの展示会でもそんな事は起きていない。
担当者とのチャット機能はすでに多くのイベントサイトでも実装されているが、文字を打つのは正直面倒だ。参加者、質問者側は画像がなしの音声だけでも構わないが、出展者側の顔出しは絶対必要であろう。見せられるモノがある場合は映像があればそれを見せながら会話を行う。「その右にある黒いボタンはなんですか?」といった会話ができる。
コンベンションの内容や参加者によって細かいチューニングが必要ではある。特に2021年については、ビジネスコンベンションがリアル開催できるかどうかは、現時点では全く予想がつかない。そこでハイブリッド開催を提案したい。ハイブリッドはオンラインとオフラインのいいとこ取りなのである。主催者、出展者、参加者のことも今一度考え、CES2021のチャレンジを参考にしてもらいたい。
txt:江口靖二 構成:編集部
[ Category : CES2021, SPECIAL ]
[ DATE : 2021-01-22 ]
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