鞘師里保(仮名)の苦悩
世界の破滅はもう少しわかりやすく明晰であるべきだった。時間が二度と戻らないことは、無惨な血塗れの肉体や、痛ましい義足を引き摺る復員兵の姿などで示されるべきなのである。道重さゆみ(仮名)がこの世界から姿を消したのは、類い希な思慮深い人物が消えたという損失であり、人類の精神史において、これほどまでに大きい事件はないはずなのだが、時代遅れの老舗がひっそりと閉店するかのような終わり方をしたのである。これを引き継がされるのはおそらくたまったものではなく、大富豪の資産を継げるのとは話が違い、興行の世界で後継者として客を引き留めなければいけないのだから、厄介ごとでしかないのである。
残されたメンバーで、今まで以上に進化していく決意を固めていた鞘師里保(仮名)だったが、現実は極めて厳しい。九割くらいは道重さゆみ(仮名)個人のファンだったのが実情であり、このところの閑散とした握手会やイベントの蕭条たる風景は、鞘師の心を折るために用意されたかのようだった。大都市が無人の過疎地になったかのような会場の静けさを体験すると、あの横浜アリーナの観客のほとんどが道重さゆみ(仮名)目当てだったことを思い知らされるのである。他にもアイドルグループなどたくさんあるのだし、ハロプロで宗旨替えするとしても、℃-uteやJuice=Juiceの方が、スタイルのいい美人が多いのである。
鞘師里保(仮名)は病んだ末に、毛筆で壁に解散と揮毫し、ハロプロを去ることにした。何もかもが嫌になったし、せめて自分がいなくなれば、ほんの少しはマシになるかもしれなかった。だが、世から消える前に気になるのが道重さゆみ(仮名)のことである。非業の死がふさわしい自分には合わせる顔など無かったが、しかし轢死体として無に帰る前に、懐かしさがこみ上げてきて、ふらふらと道重さゆみ(仮名)のマンションに足を運んでしまった。
「道重さんのファンがまったくわたしに流れてきません。みんな℃-uteの鈴木愛理(仮名)に推し変してるみたいです。命を絶つ前にご挨拶に来ました」
道重さゆみ(仮名)はすでに25歳であり、若さ特有の薄桃色の素肌の煌めきは失っていたが、その何ら化粧をほどこさないやつれた素顔は、飾り立てるものがなくなっただけに、かえって美の本質をあらわにし、その眸は深く澄んでいた。
このような本物の美しさがあったから、伝説のアイドルとなったのである。
「鞘師がそうやって思い詰めるのはわかってた。わたしのところに来てくれたのはとてもうれしい」
「わたしはどうしたらいいのでしょうか。もうまったく人気がないのでハロプロもやめます。すべては道重さんの人気だったのです」
「鞘師は枕営業するしかないと思う」
鞘師は道重さゆみ(仮名)からそういう言葉を聞いて、今まで信じていた世界にひびが入り、すべてが崩落するような気がした。
「道重さんもそんなことをしてたんですか」
「わたしは何もしなくても信者が付いてくるからやる必要なかったけど、鞘師はそうではないでしょう」
「そうですね」
鞘師はそんなことをやるのは嫌だったが、断れないような気がした。
自分がすべての穢れを背負うことでモーニング娘。を再生できるのなら、犠牲になろうと思った。
「わかりました。わたしが枕をやればいいんですね。どこのプロデューサーと寝ればいいんでしょうか」
「わたしに心当たりがあるので、近いうちに紹介するよ」
「わたしはまだ男性経験がないので自信はないですが、なんとか頑張ってみます」
「いや、女性のプロデューサーなんだけどね」
「ガチレズのおばさんなんですね」
「まだ25歳の人なんだけど。その人と寝れば、鞘師の人気が出ると思う。すごく可愛い人だから安心して」
「まさかその人は道重さゆみという名前ではないでしょうか」
「そ、そんなことあるわけないでしょ。で、枕営業する場所なんだけど」
道重さゆみ(仮名)は旅行のパンフレットを広げた。
ヨーロッパや北欧の綺麗な風景の写真を眺めやっている。
「どうせなら綺麗なお城が見えるホテルがいいわよね。最高のスイートルームで」
「あの、やはりわたしは道重さんと枕するんでしょうか」
「ち、違うわよ。鞘師に枕営業させるんだから、せめて少しでもいいホテルを」
「わたしが枕する女性プロデューサーの名前を教えてもらえますか」
「その人は匿名を希望しているので、目隠しした状態でやることになる」
「道重さゆみという名前を隠してやるわけですね」
「しつこいわね。違うというのに」
鞘師は道重さゆみ(仮名)の背後に回ると、ワンピースの裾から手を入れた。そして不思議なくらい鮮やかに、まだ誰も手を触れたことのない湿地帯にたどり着いたのである。
「これが動かぬ証拠ではないですか。この大事な箇所がこういう状態になっていては道重さんも言い逃れは出来ないでしょう」
道重さゆみ(仮名)はすっかり観念してうつむいた。
今まで百合を恐れていた鞘師だったが、こうやって優位な立場になると、デスノートの主人公のような心境になってくるのであった。道重さゆみ(仮名)を性的に完全に支配すれば、あのピンクのシャツを着た軍団を鞘師里保(仮名)の麾下に置くことも容易いであろう。
残されたメンバーで、今まで以上に進化していく決意を固めていた鞘師里保(仮名)だったが、現実は極めて厳しい。九割くらいは道重さゆみ(仮名)個人のファンだったのが実情であり、このところの閑散とした握手会やイベントの蕭条たる風景は、鞘師の心を折るために用意されたかのようだった。大都市が無人の過疎地になったかのような会場の静けさを体験すると、あの横浜アリーナの観客のほとんどが道重さゆみ(仮名)目当てだったことを思い知らされるのである。他にもアイドルグループなどたくさんあるのだし、ハロプロで宗旨替えするとしても、℃-uteやJuice=Juiceの方が、スタイルのいい美人が多いのである。
鞘師里保(仮名)は病んだ末に、毛筆で壁に解散と揮毫し、ハロプロを去ることにした。何もかもが嫌になったし、せめて自分がいなくなれば、ほんの少しはマシになるかもしれなかった。だが、世から消える前に気になるのが道重さゆみ(仮名)のことである。非業の死がふさわしい自分には合わせる顔など無かったが、しかし轢死体として無に帰る前に、懐かしさがこみ上げてきて、ふらふらと道重さゆみ(仮名)のマンションに足を運んでしまった。
「道重さんのファンがまったくわたしに流れてきません。みんな℃-uteの鈴木愛理(仮名)に推し変してるみたいです。命を絶つ前にご挨拶に来ました」
道重さゆみ(仮名)はすでに25歳であり、若さ特有の薄桃色の素肌の煌めきは失っていたが、その何ら化粧をほどこさないやつれた素顔は、飾り立てるものがなくなっただけに、かえって美の本質をあらわにし、その眸は深く澄んでいた。
このような本物の美しさがあったから、伝説のアイドルとなったのである。
「鞘師がそうやって思い詰めるのはわかってた。わたしのところに来てくれたのはとてもうれしい」
「わたしはどうしたらいいのでしょうか。もうまったく人気がないのでハロプロもやめます。すべては道重さんの人気だったのです」
「鞘師は枕営業するしかないと思う」
鞘師は道重さゆみ(仮名)からそういう言葉を聞いて、今まで信じていた世界にひびが入り、すべてが崩落するような気がした。
「道重さんもそんなことをしてたんですか」
「わたしは何もしなくても信者が付いてくるからやる必要なかったけど、鞘師はそうではないでしょう」
「そうですね」
鞘師はそんなことをやるのは嫌だったが、断れないような気がした。
自分がすべての穢れを背負うことでモーニング娘。を再生できるのなら、犠牲になろうと思った。
「わかりました。わたしが枕をやればいいんですね。どこのプロデューサーと寝ればいいんでしょうか」
「わたしに心当たりがあるので、近いうちに紹介するよ」
「わたしはまだ男性経験がないので自信はないですが、なんとか頑張ってみます」
「いや、女性のプロデューサーなんだけどね」
「ガチレズのおばさんなんですね」
「まだ25歳の人なんだけど。その人と寝れば、鞘師の人気が出ると思う。すごく可愛い人だから安心して」
「まさかその人は道重さゆみという名前ではないでしょうか」
「そ、そんなことあるわけないでしょ。で、枕営業する場所なんだけど」
道重さゆみ(仮名)は旅行のパンフレットを広げた。
ヨーロッパや北欧の綺麗な風景の写真を眺めやっている。
「どうせなら綺麗なお城が見えるホテルがいいわよね。最高のスイートルームで」
「あの、やはりわたしは道重さんと枕するんでしょうか」
「ち、違うわよ。鞘師に枕営業させるんだから、せめて少しでもいいホテルを」
「わたしが枕する女性プロデューサーの名前を教えてもらえますか」
「その人は匿名を希望しているので、目隠しした状態でやることになる」
「道重さゆみという名前を隠してやるわけですね」
「しつこいわね。違うというのに」
鞘師は道重さゆみ(仮名)の背後に回ると、ワンピースの裾から手を入れた。そして不思議なくらい鮮やかに、まだ誰も手を触れたことのない湿地帯にたどり着いたのである。
「これが動かぬ証拠ではないですか。この大事な箇所がこういう状態になっていては道重さんも言い逃れは出来ないでしょう」
道重さゆみ(仮名)はすっかり観念してうつむいた。
今まで百合を恐れていた鞘師だったが、こうやって優位な立場になると、デスノートの主人公のような心境になってくるのであった。道重さゆみ(仮名)を性的に完全に支配すれば、あのピンクのシャツを着た軍団を鞘師里保(仮名)の麾下に置くことも容易いであろう。