インタビュー

関内智彦 役・奥野瑛太さん

必死にもがく智彦を通じて、人間の持つ強さを表現できれば

スポーツシーンを彩る数々の応援歌やヒット歌謡曲を手がけた、昭和を代表する作曲家・古関裕而(こせき ゆうじ)氏をモデルに、音楽とともに生きた夫婦を描く、連続テレビ小説『エール』。
第19週では、戦争の記憶にさいなまれてきた裕一(窪田正孝)が、ついに音楽の道へ復帰。元軍人で吟(松井玲奈)の夫である関内智彦も、第20週でラーメン屋の店主となり、新たな一歩を踏み出すことができました。今回は、そんな智彦役の奥野瑛太さんにインタビュー。戦後の智彦をどんな思いで演じたのか、語ってもらいました。

――智彦は戦前から戦中にかけて軍人でした。奥野さんは、智彦をどんな人物だと捉えていましたか?

智彦は、陸軍の馬政課に所属していた職業軍人。非常に出世志向が強く、社会的ステータスを上げることに必死でしたね。妻である吟にも、理想的な軍人の妻であることだけを求めていました。人としてきちんと向き合わず、現代ならハラスメントと言われてもしょうがない言動を重ねていたので、夫婦仲は冷え込む一方だったと思います。

――そんな智彦にとって、終戦(敗戦)はとてつもなく大きな挫折だった?

生きるうえで信じていたもの、心のよりどころが、全てなくなったようなものですよね。そのうえ、「戦争に負けたのはお前たちのせいだ」と言われたり、元軍人という経歴で敬遠されたりするようにもなって……。ただでさえ現代よりも再起が難しい時代で、智彦の置かれた状況は相当なものだったと思います。戦後のエピソードでは、苦悩しながら必死にもがく智彦の姿を通じて、人間が持っている本当の意味での強さを表現できたらいいなと思いました。

――智彦は最終的に、軍人時代の元同僚から誘われた貿易会社ではなく、ラーメン屋を選びました。智彦の選択をどう受けとめましたか?

あの貿易会社なら、元将校としてのプライドを保つことができ、お金もよかったのかもしれません。でも、智彦はラーメン屋を見下す同僚の言葉に怒りを抱いた。社会的ステータスにこだわっていた智彦ですが、苦悩する中で、自分のプライドの根っこがどこにあるのか気付いたんですよね。「人のために命を燃やせるのがあなたの誇り」という吟の言葉どおりだと思いました。思い返せば、智彦が関内家の婿養子になったのは、そういう感性が少しは残っていた証拠なのかも。妻の実家に配慮できる人間だったよな、と納得しました。

――今回のことで、吟とは笑顔で会話できる夫婦になりましたね。

智彦が大切なことに気付けたのは、吟のおかげです。「人のために命を燃やせるのがあなたの誇り。私はそう信じて、あなたについてきました」という言葉には、むしろこっちが「吟についていってよかった」と言いたくなりました。戦中はつらい思いを抱えながらも智彦を支え、戦後は苦悩する智彦に本気でぶつかってくれた吟。つくづく、芯(しん)の通ったすばらしい女性だなと思います。

――戦災孤児のケン(浅川大治)も一緒に住むようになりましたが、今後の智彦をどんなふうに演じていきたいですか?

エリート軍人だった智彦ですが、慣れないラーメン作りに奮闘し、店主の天野さん(山中 崇)に少しずつ認められ、自分の屋台を持つことができました。なりふり構わない必死さを今後も大切にしたいですね。ラーメンを作る所作の一つひとつに、そんな思いを込められたらいいなと思っています。
智彦は、つらいときにも生きるための想像力を失いませんでした。今では、ケンの人生にも思いを巡らして一緒に生きようとしています。そんな関内家の姿が、視聴者のみなさんに届けば幸いです。

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