武田「モデルナの新型コロナワクチン 日本承認は5月以降」アストラゼネカは…
2月にも接種開始へ…新型コロナウイルスワクチン 日本国内の開発・準備状況は(1月22日更新)
2月下旬の開始に向け、国内でも新型コロナウイルスワクチンの接種に向けた準備が急ピッチで進んでいます。国内での開発や接種の準備状況をまとめました。
2月下旬までに接種開始へ
政府は2月下旬にも新型コロナウイルスワクチンの接種を始めたい考えです。菅義偉首相は1月4日の記者会見で、ワクチンを「感染対策の決め手」とし、「承認されたワクチンをできる限り2月下旬までに接種開始できるよう、政府一体となって準備を進めている」と表明しました。
国内では昨年12月、米ファイザーが独ビオンテックと共同開発したmRNAワクチンを申請しました。首相は1月4日の記者会見で「2月中に製薬会社(=ファイザー)の(国内)治験データがまとまる予定だったが、日本政府から米国本社に強く要請し、今月中にまとまる予定だ」と説明。国は、海外で行われた数万人規模の臨床第3相(P3)試験と、国内で200人を対象に行ったP1/2試験の結果をもとに、安全性と有効性を審査し、2月にも承認の可否を判断する見込みです。
医療従事者や高齢者ら優先
日本政府は1月20日、ファイザーと年内に約1億4400万回分(約7200万人分)の供給を受けることで正式に契約。昨年7月の基本合意では「21年上半期に1億2000万回分」でしたが、正式契約では供給量を2400万回分上乗せした一方、時期は後退しました。
供給開始後、当面は供給量が限られることから、政府は(1)医療従事者=約400万人(2)高齢者=約3600万人(3)基礎疾患のある人=約820万人、高齢者施設などの従事者=約200万人――の順に接種を進める方針です。
厚生労働省が自治体に示したスケジュールによると、(1)は2月下旬、(3)は3月下旬~4月上旬に接種体制を確保。(3)への接種が始まるのは4月以降となる見込みですが、まだ決まっていません。一般の人への接種開始は、さらにそのあととなる見通しです。
優先接種の対象となる基礎疾患は、▽慢性の呼吸器疾患▽慢性の心臓病▽慢性の腎臓病▽糖尿病▽血液疾患▽免疫の機能が低下する疾患――など。妊婦については、ワクチンの安全性・有効性に関するデータが不足しているため、現時点では優先接種の対象に含まれていません。
モデルナのワクチンは5月以降
日本政府はファイザーのほか、米モデルナからmRNAワクチン5000万回分(2500万人分)、英アストラゼネカからウイルスベクターワクチン1億2000万回分(6000万人分)の供給を受ける契約を結んでいます。モデルナのワクチンは、武田薬品工業が国内での開発と流通を担当することになっており、1月21日から国内でP1/2試験を行っています。
アストラゼネカは昨年9月から日本でP1/2試験を実施中。英国などではすでに承認を取得していますが、日本での見通しはまだ明らかになっていません。日本向けのワクチン原液は、海外からの輸入に加え、JCRファーマによる国内製造によって調達。国内での製剤化などは、第一三共、第一三共バイオテック、MeijiSeikaファルマ、KMバイオロジクスが担います。
国内ではこのほか、アンジェスのDNAワクチンがP2/3試験、米ヤンセンのウイルスベクターワクチンと塩野義製薬の組換えタンパクワクチンがP1/2試験を行っています。KMバイオロジクスと第一三共、IDファーマも今年春にかけて国内での臨床試験をスタートさせる方針。武田薬品工業は米ノババックスのワクチンの国内開発・供給も行うことになっていて、ロイター通信によると2月の国内治験開始を予定しています。
ワクチンの開発は感染状況にも左右され、有効なワクチンの接種が始まれば、特に遅れをとっている日本勢は臨床試験の実施が難しくなる可能性があります。医薬品医療機器総合機構(PMDA)は昨年9月に発表した指針で、海外で発症予防効果が確認されたワクチンと比較することで有効性を評価できる可能性に言及。海外での大規模臨床試験の実施も視野に入れる必要があり、国産ワクチンの実用化はまだはっきりと見通すことはできません。
生産体制を整備
開発と並行して、生産体制の整備も進められています。政府は2020年度の第2次補正予算に、生産設備などの費用を補助する「ワクチン生産体制等緊急整備基金」として1377億円を計上。昨年の第1次公募では、▽アストラゼネカ▽アンジェス▽塩野義製薬▽KMバイオロジクス▽第一三共▽武田薬品工業――の6社に総額900億円あまりが助成されました。
日本勢で開発が先行するアンジェスは、タカラバイオなどの参画を得て生産体制を構築。塩野義は、アピとその子会社であるUNIGENと協力し、21年度末までに年間3500万人分の生産体制を整備することを目指しています。23年度の実用化を目指しているKMバイオロジクスも、21年度末までに半年で3500万回分を生産できる体制を整備中。武田薬品は、ノババックスのワクチンについて、年間2.5億回分以上の生産能力を構築するとしています。
ディープフリーザー1万台確保
新型コロナウイルワクチンの接種は、予防接種法に基づく「臨時接種」の特例として、国の指示の下、都道府県が協力し、市町村が主体となって実施。接種費用は国が全額負担し、接種は原則として住民票のある市町村で受けることになります。自治体では現在、接種会場の確保や接種対象者への通知、地域のワクチン流通を担う医薬品卸の選定、といった準備が急ピッチで進められています。
ワクチンを全国に展開する上でネックになる可能性が指摘されているのが、保管や輸送の際の低温での管理です。ファイザーのワクチンはマイナス75度前後という超低温で保管しなければならず、モデルナのワクチンもマイナス20度前後での保管が必要となります。
国はマイナス75度のディープフリーザーを3000台、マイナス20度のディープフリーザーを7500台確保し、人口に応じて自治体に割り当てる方針。フィザーのワクチンは、ドライアイスとともに保冷ボックスで10日間程度保管することも可能で、国は必要となるドライアイスを一括で調達し、接種会場となる医療機関などに供給することも検討しています。
10日で1000回接種
ファイザーのワクチンは、195バイアル(975回接種分)を最小単位として流通するため、保冷ボックスで保管する場合は10日間で975回接種分を使い切らなければなりません。限られたワクチンを有効に活用するため、国は10日で1000回分を接種できるような体制を構築するよう、自治体に求めています。
複数のワクチンが国内で使用できるようになれば、それぞれのワクチンの特性に応じた管理や接種体制が必要になります。国は、1つの接種会場で取り扱うワクチンは原則1種類とし、やむを得ず複数のワクチンを扱う場合も曜日によって明確に区分するなどの対応を要請しています。医療機関や接種対象者が混乱しないよう、入念な準備と周知が求められます。
(前田雄樹)
(公開:2021年1月14日/最終更新:2021年1月22日)
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