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最悪のバッドエンドだったんです。本当は。閉館が決まって生き物を「飼育できなくなった」水族館になってしまった。
8月、膨大な数の生き物を目の前にして、飼育スタッフ二人で呆然と立ち尽くしました。
それからの数ヶ月は一日が一日と実感できないスピードと加速度で回っている感覚で、とにかく必死でした。
「どうやって掬う?」「どうやって確実かつ安全に移動する?」「そもそも大きすぎて水槽から出せないよね?」
全国の水族館、問屋さん、ショップや大学、専門学校に相談、問題が出てはまた相談。
むちゃくちゃなお願いばかり聞いてもらいましたが、全ての生き物が無事に新天地に引っ越しました。ご協力して頂いた皆さん、ありがとうございました。
きっと全国から「飼育を放棄するなんて無責任だ!!」と非難されるに違いないと覚悟していました。(実際そう言う声もありましたし、考えている方も大勢いると思います)
ただそれ以上に、スタッフが驚くぐらいの山ほどの「ありがとう」をもらいました。手紙で、メールで、ツイッターやブログのコメントで。急きょ創った寄せ書きのコーナーで。
ボキャブラリーと面白いコメントを言う余裕がなくて、たくさんの「ありがとう」に「こちらこそありがとうございました」としか返せなかったですが、来て頂いた皆さん、応援して頂いた皆さん、本当にありがとうございました。色々考えたんですが、その言葉だけでした。
絶対に閉館の日も泣かないし、生き物たちを見送る時も泣かない!と心に決めていたんですが、生き物たちの引っ越しも終盤になった10月のある日、ふと海水魚の担当スタッフが書いていた飼育日誌の最後のページを見て、涙が溢れてしまった。
こんなの書くなよー!ずるいわ!!
最後まで頑張ってくれたスタッフ、ここまで水族館の生き物たちを見ていてくれた歴代のスタッフにも感謝です。
(「何年か前にアルバイトしてたんですけど…覚えてますか?」って連絡くれたスタッフもたくさんいましたが、ちゃんと覚えてるよ!全員!)
思い返せば、晴れの日、雨の日があって、台風で看板が飛んだ日もあって、エアコンが壊れて慌てて水槽を冷やした猛暑の日もあって、大地震で館内が水浸しになった日もあった。
水族館らしいイベントを増やそうとして始めた"お食事タイム"だったけど、お客さんは誰もいなくて。仕方なく一人でエサをあげた真冬の日もあったなあ。
もしかすると、この生き物の面白さは誰にも伝わらずに過ぎていくんじゃないかと本気で思っていた。
そう言うことを考えながら、お客さんで溢れる9月の水族館内を見ていて、素直に凄い光景だな、と思ってしまった。
この場所が誰かの、水族館や生き物への興味の入り口になっていたら嬉しいですね。
もうジャウーがエサを食べる衝撃音も、ワニガメがエサの時間と勘違いして水槽に突進する音も、館内の湿気を帯びたムワッとした空気も、子供たちが「怖いよー!」と半ベソをかいている声もなくなってしまったけど。
元・東京タワー水族館の生き物たちは今日も新天地で暮らしています。
生き物たちがいて、スタッフがいて、楽しんでくれるお客さんがいて、この場所は東京タワー水族館でした。
本当にありがとうございました。
それではまたどこかで!
飼育展示長 浅田