8:何処から湧いてくるのでしょうか?
遅くなりました!
今回もよろしくお願いします( *´꒳`* )
だんだん日が暮れてきている。たぶん宿に着く前に陽が沈みきる。
私の後ろを着いてきた2人組に今のところ動きはない。まぁ、商店街で人通りが激しいこの場所で実行したら確実に兵士が来て逮捕ね。そこまで馬鹿じゃないということかしら?でも、カーナさん達の実力を把握出来ないくらい愚か者達ではあるようね。兵士なんだからギルドタグを確認出来る立場にいるし、入国の時に見せてもいたのにアイツらは行動に移しているんだもの。
宿に向かいながら、商店街で気になるものを軽く購入していく。小さい子供が買っていくのが微笑ましいのか、店主がいくつかオマケを付けてくれた。
持ちやすいよう持ち手がついている袋まで用意してくれる親切ぶりだ。
購入したのは、旅の合間にちょっとずつ食べられる干し肉や干し果物で品質がいいものを選んで買うことが出来た。
選んでいると店主に見る目があるなと感心されたり、店で働かないかと誘われたりした。
なんでも、庶民の子供たちは幼い時から手に職をつけるために職人や商人に付いて学ぶことも珍しくないそうだ。
そんなやり取りをしても気分が悪くなることは無く、不思議と落ち着いて行動できた。たぶん、ミーニャの歌がまだ効果を発揮しているようだ。
人魚族は、神官たちの祈りと似ていて歌によって相手に祝福というバフを与えることが出来る支援特化型の種族だ。しかし、彼らを甘く見てかかると痛い目にあう。彼らは神官と違い呪いなどのデバフを与えることが出来るため注意が必要なのだ。
まぁ、性格的にはお気楽で大切なものを傷つけられたりしない限り、手を出してこないだけ安全な種族だ。
昔は、その種族特性と珍しい見た目から拐われたり、奴隷として売られたりしていたらしい。今は、奴隷商が禁止の国が多いため奴隷はいないことにされている。表向きは·····ね。
そんなことを考えながら、エプロンバックに購入した物を収納し歩いていると、背後の2人に動きがあった。
1人が道をそれて宿の方向に向け進んで行ったのだ。
挟み撃ちをするつもりのようだ。
私は、エプロンバックに入れて置いた魔法石を1つ飴のように口に含む。コロコロと口の中で転がしながら自身の気道内に魔法石による魔法展開がされていることを確認する。
商店街を抜け、人通りが無くなる道に差しかかると、後ろから付いてきた男に布で口を塞がれた。鼻と口を覆うように当てられた布から果物が熟成しすぎたような甘い匂いがした。
この匂い、以前にも嗅いだことがある。確か·····強力な眠り薬だったはずだわ。コイツら本当に愚か者だ!こんな強力な眠り薬を直で嗅がされたら、子供には毒だ。最悪、脳に障害が生じるレベルだわ!対策を取っておいて正解だったわね。
男は、腕の中でぐったりして崩れ落ちたシエルを両腕で抱え上げると、キャスケットで隠れた顔を覗き込み一瞬眼を見開き、満面の笑みを浮かべた。
「やべぇー。すげぇ好みだぁ。早くお家に帰ろーねぇ。あぁ、今から楽しみぃ」
猫背の男バンザは、余程気に入ったのか眠っているシエルに頬ずりしながら路地裏へ消えていった。
その後ろ姿を見つめる人がいることも気づかずに·····
──数時間前
「本当にやるのか?」
カーナさんが不服そうな顔で言っている。兵士達の罠に嵌るための策を確認し始めた時から、同じセリフを同じ表情で既に8回は聴いている。デジャブ感が凄いわ。
「カーナ、あんまり言い過ぎると今後何かあった時に話してくれなくなるよ」
呆れたように溜息をつきながらカーナさんを諭すキリアさんも言いながら眉根に微かにシワがよっており、不満があるようだ。
私のお願いにより、あの兵士達の策にわざと嵌ることとなったが、その際の誘拐される役を私がやることに2人は納得していないようなのだ。でもね、あぁいう人達に慣れるために建てた策だし、安全マージンもこれでもかってくらい付けたのに、カーナさん達はあの表情。確かに、護衛役としてはなんて面倒なことを!って思うのは分かっているし、自分から危険に飛び込むなんて愚かな行為だと理解しているわ。
理解していても、今後のことを考えると慣れておかなくちゃ、もっと危険な目にあうかもしれないのよ!
絶対に逃げ切らなくちゃいけないの!
もし、捕まったら·····私の未来は決定してしまうのだから。
「言っておくけど、護衛が面倒とかで止めてるわけじゃないからな!心配だから止めてるんだ!」
まだ何も言っていないのに、そんなことを言うカーナさんは勘がいいで収まるレベルではないわね。私の心の声でも聞こえているのか疑いたくなるほどよ。
なんとか2人を説得し、商店街を周り公園を通って宿に戻るルートを1人で歩くことが決定した。
カーナさん達は始めは、宿の部屋にいて私が出て少し経ってからキリアさんが私の後を誰にも見つからないようにつけることが決まった。カーナさんはお留守番だ。
キリアさんは気配を絶つのが得意ということで配役が決まった。それに伴いカーナさんはお留守番が決定しカーナさんが不貞寝した。
しょうがないではないか、あいつらも馬鹿でないはずだ。私が1人で出歩いても、カーナさん達を見張る者がいるはず、その見張りの注意を引く人も必要なんだから。カーナさん達がいなくなったのが分かったら、罠をかけてこないかもしれないしね。
そんなことを言いながら、布団からちょっとだけ出ているカーナさんの頭を撫でたが機嫌は直らず。しまいには、私の腕を掴んで離さなくなってしまった。
おい。この短期間で犬化が激しくなってないか?
どうしたんだ?さっきも顔ぐしゃぐしゃしてたし·····感情のコントロール狂ってきてない?本能とかが理性とかを壊してしまってないかい?
キリアさんも放置しないで!あなたの子供でしょ!
·····いや、違います。キリア様のお母様でしたわね。そう、お母様!だから、そんな目で私を見ないで!
何故かしら·····最近考えていることが全て、この人達に筒抜けのような気がするの。
「カーナさん。すぐにカーナさんの元に戻ってくるから、そしたらまた一緒に寝よう。だから待っててね」
カーナさんの頭をポンポンしながら言うと、ムクっと起き上がったカーナさんがブスくれながら私を抱きしめてくる。
「見張りを引き付けておく必要がある間は、留守番する。だけど、お迎えは絶対に行くからな!そして一緒にお寝んねは絶対だ!」
そう言いながら、追跡機能が付いた黒革のブレスを腕につけてくる。
これって·····迷子タグ!?
「カーナさん!私子供じゃないわ!迷子タグなんていらないわ!」
「やだ!それ付けて行ってくれないなら、放さないからな!」
抱きしてめくる腕にギュッと力が入る。
「·····うぅ、分かったわよ。付けていく!それでいい?」
キリアさんは助けてくれる気はなさそうだし、カーナさんの腕から逃れる術もないから、しぶしぶ了承した。
カーナさんは嬉しそうに頷きながら、1度ギュッと抱きしめて放してくれた。
·····負けた。なんかカーナさんに勝てる気しないわ。
迷子タグを付けられるなんて·····確かに見た目は8歳だけど、前世の私は17歳だったのに。見た目以上にしっかりしているつもりなのに!子供に見えるというの!
いや、子供だけど·····カーナさんだってキリアさんの子供みたいなものじゃない!
ひっ!ごめんなさい!何も思ってないわ!カーナさんはキリアさんのお母様です!だから、またそんな目で見ないで!!夢に出そうなのよ!
「うぅ·····じゃっじゃぁ、行ってきます」
「あぁ、気をつけてね」
とてもいい笑顔に見えるキリアさんと少しご機嫌斜めなカーナさんに手を振りながら宿の部屋を後にした。
━━ある貴族の別荘
王都から遠過ぎず、歌と酒の都と言われている中核都市― カノリア ―は、貴族達の別荘地としても人気がある。
内陸の山脈や他の国に囲まれているエリスタ王国には、珍しい人魚族が暮らしているのも人気の要因の一つだろう。
社交界の時期になると王都へ向かう道すがらカノリアに泊まり、人魚族や歌い手達を呼び鑑賞に興じるのだ。そんな別荘地は、時期が過ぎると賑わいがなくなる。
郊外にある別荘は、買い手がおらず放置されていた。
時々、管理人が屋敷に来るが、それ以外は人気がない。貴族街は、警備も厳しいため不審者や犯罪者がいないという前提に目をつけ、彼らはそこを根城にしていた。
貴族なんて何かしら闇があるものだ。この屋敷もそういう貴族が持っていたのだろう。書庫である1階の部屋に設置してある暖炉は一見普通に見えるが、暖炉の装飾の1部を捻ると地下へ続く階段が出現するのだ。
バンザはシエルを抱えながら、鼻歌を歌い階段を降りていく。
階段の先には人が3人ほど寝られる大きさの牢屋が3つ並んでおり、どの牢屋からも見える位置にちょっとした拷問道具が飾られた空間がある。そこには不釣り合いな豪奢な机と椅子が設置されていた。
バンザは、真ん中の牢屋を開けて入ると牢屋の真ん中に置いてあるベッドにシエルを丁寧に寝かしていく。
寝かし終わると床に座り、ベッドに右肘をつき頭を支えながら、左手でシエルの髪や顔、首から手にかけて滑らせていく。
「あぁ、いいねぇ。早く遊びたいなぁ。まだ、目が覚めないはずだし、グリュー達の手伝いにでも行くかなぁ。あぁ、楽しみぃ」
ヒャッヒャッヒャッと笑いながら立ち上がり、牢を出ていき鍵をかけると地下室をあとにした。
バンザが去ったことを確認すると、シエルはベッドから起き上がり辺りを観察していく。
牢屋に光はないが、牢屋の前の拷問道具が飾られた空間には幾つか燭台があり灯りがあたりを照らしているため、気絶したふりをしていたことで夜目に慣れた目には少しの明かりでもよく見える。
あぁ、気持ち悪かった!!ミーニャが施してくれた祝福があったから良かったものの、なかったら吐いてたわ。何なのかしらあの男、触られたところに鳥肌が立ってしまったわ!
っと·····そんなことより、ここの把握をしておかなきゃ、窓はないのね。まぁ、あっても邪魔なだけよね。声が漏れるし、逃げられる可能性も生じるしね。換気口はあるようだけど意味を為しているのかしら?血の匂いと獣が腐った様な腐敗臭が混ざって鼻につく。
あの時を思い出す空間だわ。·····気持ち悪い。
この牢屋にはベッド1つだけ。隣の牢屋も同様なのかしら?拷問はあの空間で行っていたのね。牢屋にいた者達に次はお前の番だと、ジワジワ恐怖を与えるために·····本当に悪趣味ね。この部屋に漂う臭いと同じ腐敗臭がする、人の成り損ない達の根城ね。
牢屋の鍵を魔法で開け、辺りを観察していく。
逃げ道はあの隠し口しかないのね。あら?ベッドはこの牢屋にしかなかったのね。後からわざわざ入れたのかしら?なんの為に·····なんて分かりきったことだわね。本当に気持ち悪い。
それにしても、幼稚な拷問道具しかないのね。形ばかりにこだわって機能性を考えていない道具ばかりじゃない。前世の私への拷問もここの道具だったら早く死ねたのに·····
地下室の中を一通り把握し、幾つかの魔法石を見えないように設置していく。設置が終わると拷問道具が飾られた空間の椅子に体を預けながら、辺りを眺めて前世の拷問を思い出していた。
捕まる前から首切り処刑が決まっていたようで、服で見えない部位にしか拷問を行なわれなかったけど、処刑される時には醜く変形していたわね。
なんで壊れてくれなかったのかしら?壊れたら楽だったのに·····
そんなことを考えていたら、頭の中でピッピッと音が聞こえた。隠蔽した察知魔法を行使するとマークを付けた者とマークが付けられていない15名の人間が屋敷に向かってきているのが分かった。
はぁ、もう帰ってきたのか。一緒にいるってことはマークのないアイツらも仲間か·····
どうして腐敗臭のする人の成り損ない共は湧いてくるんだ?
全てもげて死んでしまえばいいのに····
ん?マークのないうちの14名の動きが統率がとれてるわね。もしかして護衛かなにかかしら?·····てことは、この守られている位置にいるのは貴族か奴隷商人とかかしら。
嫌だわ。そろそろミーニャがくれた祝福が消えるのに。たぶん、今触られたら吐くわね。どれくらい我慢できるかしら検証といきましょうか!
ミーニャの祝福がとても役に立ってるようですね。しかし!それも切れかかってるようですΣ(゜ロ゜;)
シエルちゃん·····吐かないよね?
一応、ヒロインだからね?嘔吐系ヒロインは嫌よ。頑張って飲み込んで!!
皆さんのコメントありがとうございます( *´꒳`* )
今後も頑張りますのでよろしくお願いします(*´˘`*)♡