むし歯って風邪と同じくらい身近なのに、意外とそのメカニズムは知られていないですよね。
子育て歯みがきレシピvol.28「むし歯の新常識」として、Natureの姉妹誌(Nature Reviews Disease Primers)に、現在までわかっているむし歯の仕組みとその予防策の記事があったので、簡単に紹介してみます。
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返信先: さん
むし歯って見ればわかると思うかもしれませんが、意外と発見は難しいのです。自覚症状がなく進行していることもあり、特にお子さんは痛みがないまま大きく進行してしまうことが多くあります。明らかなものを除くと、プロでも目視だけで全て発見は難しく、レントゲン等による検査と診断が不可欠です。
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では、むし歯ってどういうメカニズムで進む疾患なのでしょうか?
これをしたからむし歯になった、という単一の理由だけでは説明できない複雑な要因が絡み合っていますが、主原因は発酵性糖質(グルコースやスクロース等)の頻繁な摂取とフッ化物の利用が不十分なことによるお口の中の衛生不良です。
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この脱灰を引き起こす主役はお口の中に住んでいる微生物たち(細菌など)です。そうやって細菌が歯の表面に集まって形成している生物膜をバイオフィルムと呼びます。
もう一つの主役はお口の中で出る唾液なんですね。
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「お口の中に細菌?キャー!殺菌したい!」と思われるかもしれません。でも、腸内環境の細菌に善玉菌とか悪玉菌とかよく言われるのと同様に、細菌の中には人間にとっていい奴もいれば悪い奴もいます。
唾液にはお口の中を酸性から中性に戻すことでいい奴を暮らす環境を整える重要な役割があります。
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初期の研究では、特異的プラーク仮説と呼ばれるある特定の細菌たちがむし歯の進行を進める原因と考えられていました。いわゆるむし歯の原因菌として知られているミュータンスレンサ球菌などですね。なので、こいつらを減らすことが大切だと言われていました。
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しかし、研究を進めていくとこれらの細菌が少ないのにむし歯になっていたり、健康な歯にもこれらの細菌がたくさんいることがあることもわかってきました。そこで、どうやら特異的プラーク仮説では説明できそうにないぞ、として出てきたのが現在、主流となっている生態学的プラーク仮説です。
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酸性下で優先的に増殖する細菌が暮らしやすくなり、健全な歯に関連した細菌が不利に→その結果、う蝕関連菌の割合が増加し、むし歯になりやすくなる、というプロセスです。
以前のミュータンスレンサ球菌だけが悪者だ!という話よりはプロセスが複雑ですよね。
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そのため、ミュータンスレンサ球菌だけ除去すれば良いという古典的な感染症的アプローチではなく、ライフスタイルの変化や口腔環境の変化によって、有益な細菌叢のバランスが生態学的に変化した結果の大元から直していかなければいけないと考えられるようになったのですね。
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では、むし歯の予防策はどういうものがあるのでしょうか?
集団に対するアプローチである公衆衛生的予防策と個人レベルの予防策の2つを説明します。公衆衛生としては、ハイリスク要因として所得の低さ、歯科医療へのアクセス制限、フッ化物曝露量の低さ、口腔保健リテラシーの低さが知られています。
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そのため、多くの国では水道水フロリデーション(水道水へのフッ化物混入)が行われています。米国は0.7mg/l, WHOはより高濃度の1.5mg/lを推奨しています。
日本では残念ながら水道水フロリデーションは行われていません。
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余談になりますが、よく「WHOはフッ素入り歯磨き粉を推奨していない!」という一文だけ抜き出してフッ化物を否定する人がいるのですが、WHOは米国よりも高い水道水フロリデーションを推奨しており当然、フッ化物のむし歯予防効果を認めています。
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水道水フロリデーションという全身応用を進めているからこそ、フッ化物入り歯磨き粉という局所応用はそこまで必要ないよ、と言っているのであって、その後半だけを抜き出して「フッ化物入り歯磨き粉は非推奨!危険!」といった不安を煽る意見はWHOの見解の曲解ですから無視してOKです
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他にもシーラントも進められています。シーラントは誰にでも行うのではなく、公衆衛生的にはハイリスク層に対してアプローチするやり方が考えられています。例えば、米国では無料給食プログラム登録児童が多い学校(=低所得層の多い学校)に無料でシーラント介入をするということが行われています。
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他にも口腔保健プログラム(WHO)+教育プログラムやスマートデバイスやソーシャルメディアによる支援も公衆衛生上、大切だと言われています。わたしが子育て歯みがきレシピをやっている理由ですね!(後付けです
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また、むし歯リスクが高いお子さんに介入することが特に大切で、周産期及び乳児の口腔ケア、早期介入が重要だと指摘されています。これもわたしが子育て歯みがきレシピをやっている理由ですね!(後付けです
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ハイリスク要因は糖分の多い飲料やジュースを哺乳瓶で飲むこと、リスク要因は哺乳瓶の継続的な利用(遅くても1歳半には哺乳瓶は卒業)や寝ながら飲むこと、高いおやつの頻度と言われています。
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保護要因はフッ化物入り歯磨き粉、歯科医院でのフッ化物歯面塗布、キシリトールの継続的利用(ただしエビデンスは混在しており歯科医の間でも議論がある)、歯科医院での早期検診や唾液分泌量のチェック、水道水フロリデーション(日本では未実施) です。
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特に、乳歯・永久歯ともに生えたての時期がもっともむし歯に弱く、成長とともに酸に対する抵抗力がつくため、萌出期の予防が大切です。そのため、日本小児歯科学会も上下の前歯が生えてきたら歯科医院でのフッ素塗布を推奨しています。
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これで「むし歯の新常識」の終わりです!
「ん?なんか結論当たり前だな〜すごい薬ができたとか、画期的な予防策が見つかったとかそういう話じゃないのか〜」と思った方も多いのでは。ニュースでもソーシャルメディアでも、へぇ〜って思う情報がバズり、当たり前の大切な情報はあまり広まりません。
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新型コロナでも石鹸での手洗い、不織布マスク、ソーシャルディスタンスという当たり前っぽい内容(加えて現在ならワクチンも)が予防に最も効果的と専門家が何度言っても、よくわからない怪しげな特効薬や謎の機械が報道され、売れてしまいます。当たり前は面白くないですからね。
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むし歯予防も同じです!効果的な予防策は砂糖摂取の頻度を減らす、フッ化物入り歯磨き粉、フッ化物歯面塗布、シーラントと当たり前で驚きがない!
でも、新製品の薬やサプリも、高価な器具も不要。むし歯の新常識は面白くない当たり前の内容。今日はこれだけ覚えて帰ってください(どこに?笑)
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参考文献は4枚目の画像に全部載せていますが、とりあえず主に参考にしたNature Reviews Disease Primersの論文はこちら。わたしもとても勉強になりました。
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