1:誰が信じられる?
よろしくお願いします(*´˘`*)♡
こちらは、短編『騙され裏切られ処刑された私が·····誰を信じられるというのでしょう?』と同じになります。
読まれたことある方は、2話目からどうぞ!
私は、王太子様の婚約者でした。
過去形なのは、婚約者から婚約破棄され、大勢の方々の罪を被せられ、拷問をされた上で処刑をされるから…ですね。
今は、首切り処刑が処される前の待ち時間。
王になられた王太子様が、私の罪を国民に伝えている頃でしょう。
随分長く待たされています。
いつまで話しているのでしょうか?
腹を切られ焼かれ、背中を打たれ切られ焼かれて、多くの者の慰みものにされ、服で見えない部分は、醜くなってしまった。
痛いし、苦しいし、目の前は真っ暗で…こんな状態、早く終わりにしたいのに…
こんな状態でも私の心は壊れてくれなくて…本当に嫌になる。
終わらせられるのは、死だけだと…今か今かと待っているのに…
父も母も兄達も私を裏切りました。
今日、私が死ぬことを心待ちにしているのでしょう…
国王陛下は、殺されました。
私が殺したことになっています。
王妃様は、そのせいで心も体も病んでしまって、床にふせているとか…たぶん、監視付きで軟禁されているのでしょう。
2人は、唯一王太子を止められる立場の方々でしたからね。
先手を打たれたのでしょう。
…ただ一人だけ、私の罪を否定してくれたあの人は無事でしょうか?
それを知ることが出来ないのが唯一の心残りです。
神などクソくらえだが…神がいるというなら、私の最後の願いくらい叶えてくれてもいいでしょう?
どうかご無事で幸せになってと、死刑前に来る神父に無言で祈った。
まぁ、話せないんですけどね。
私に声があると困る人達に直ぐに魔法で声を取られてしまいましたから…
屈強な兵士達が迎えに来ました。
近衛騎士団長の息子の息がかかっている嫌な奴ら…
私を何度も辱めて喜んでいた下衆共。
私は歩けなくされているので、両脇を掴み引き摺られるように処刑場へ連れていかれた。
その間にも多くの国民に罵声や石を投げられた。
顔見知りの人達が泣きながら見つめていたが、見なかったことにした。
馬鹿な奴らに見つかると、彼らが何されるか分かったものじゃないから…
首切り処刑の台座につき、首を晒すように跪かされる。
国王となった王太子の横に涙目で口を手で覆い、か細く震える女がいる。
華奢で男が守りたくなるような容姿をしている。しかし、指の間から歪に笑う口が見えている。
冷めた目でそれらを見て、ツーっと目を逸らし前を見据える。
父と母、兄と呼んでいた人達が目の端に写ったが、見なかったことにした。
私は何もしていない。
確かに王太子のことは、好ましく思っていたが…
こんなことされて、千年の恋も冷める。
私は…何の罪を犯したというのでしょうか?
こんなに苦しめなくても、こんなに痛めつけなくてもよかったのではないですか?
それとも、こんなにしなくてはいけない程の罪を私は犯していたのでしょうか?
まぁ…いいでしょう。
もう終わるのだから…
国王の合図で、首に冷たい何かが落ちた…
一瞬、激痛がはしり…
私は意識を手放した。
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はっ!として目が覚めた。
何が起きているのか、分からずあたりを見回した。
冷や汗でぐっしょりしている体と手を見つめる。
私は、死んだはず…夢だというの?
…そんなはずない。
拷問されて首切り処刑された。
その記憶に嘘偽りはない。
なら何故?私はここにいる?
手も体も小さい…この部屋の模様は、私が幼い頃に使っていたものだ。
恐る恐るベッドから足を降ろす。
フカフカのカーペットを踏みしめて立てることを確認する。
そして、部屋の全身鏡の前に歩いていく…
昔の私がそこにいた。
6歳くらいだろうか?
ざんばらに切られたはずの髪は、艶やかに銀色に輝いていて、綺麗に腰まで流れている。
腹や背中に痛みもない。
ネグリジェをたくし上げ、鏡に写すも傷口はなく滑らかな子供の肌が見えるだけだった。
一応、部屋の鍵をかけて誰も入れないようにした。
どういうことだろうか?
確かに、私は死んだはずだ。
あの痛みも苦しみも、全部覚えている。
では、ここは死んだものが行くという、天国か?地獄か?
それならいいけど…多分違う。
先程から部屋の外で、昔聞きなれたメイドの声がするし、執事の声もする。
何度も部屋をノックしてきて、返事がなく、開けることの出来ないドアの向こうから聞こえる声には焦りが滲み出ている。
それに、父や母、兄だった人達の声も聞こえてくる。
ドアを壊せとか言ってるのは、父だった人だ。
正直、会いたくない。
しかし、いきなり家出をしても、探され見つけられ、連れ戻される。そして、あの苦痛をまた味わうということ。
それは…本当に嫌だ。
神様が、もう一度苦しめと言っているのかもしれないが、御免こうむる。
昔の私は、家族や周りの人に愛されて幸せだった。
素敵な婚約者ができてからは、それに釣り合うよう努力を重ねた。
でも…全てに裏切られた。
あんな経験、一度で十分!
本当は一度も経験したくなかったけどね!
私は、昔のような自分には戻れない。戻りたくもない。
言葉遣いや貴族としての振る舞いなど知ったことか!
そうよ。そうだよ!
貴族としてなんて生きたくもない!
あんな家族なんて要らないし、あんな婚約者なんて要らない!
領民?国民?貴族として守る者達?
彼らが…あなた達が私を捨てたのだもの!
なら、私が自由に生きても文句はあるまい!
自由に生きよう!何にも縛られず、何にも囚われず!
そのためには、まず目の前の現状をどうにかする必要があるわね。
いまだ、私の部屋の前では、多くの人が騒いでいた。
部屋の扉や鍵を破壊されないよう魔法で細工をしたから扉が壊れず、より一層騒がしくなっていた。
中には泣いてる声まで聞こえてくる。
前世?でいいか。
前世で学んで習得した魔法は、抵抗なく使えるようだし、魔力量も前世の死ぬ前と同じくらいか…
自由に生きる為にももう少し上げとかないとね。
今世では、魔力量の向上と魔法をもっと使えるようになろう。
もし何かあっても逃げられるように!
1人で生きていけるように!
そんなことを考えながら、扉と鍵に施した魔法を解除した。
その瞬間、扉が開き、扉に詰めかけていた人達が部屋になだれ込んできた。
私はベッドの端に座り、その人達を見つめた。
父と母だった人は、部屋に入るなり、私の元まで走りより抱きしめてきた。
「良かったわ!無事なのね?怪我とかはない?怖くなかった?もう大丈夫よ!」
と母が泣きながら私に怪我がないか確認してくる。
「本当に大丈夫なのか?誰かいたのかい?こわかっただろう。」
と父が心配そうに私の頭を撫でてくる。
2人の兄も無事でよかったと私の手を握りしめ、私の頬を手で撫でてくる。
気持ち悪い。
この人達との触れ合いに思ったことは、たったそれだけだった。
周りのメイド達も目の端に涙を浮かべ「よかったですわ。」と微笑んでいた。
私が、何も言わないことに気づいた父と母は、私の顔を覗き込んできた。
瞬時に貴族の笑顔を作り、微笑む。
「大丈夫ですわ。ご心配おかけしました。」
そう言いながら、バレないように少しだけ触れている手から離れた。
その日は、父も母も兄達も私から離れることがなく、精神的に疲れ…私は体調を崩した。
家族達が、看病をするといい募ったが、丁重にお断りをして、部屋で大人しく寝ていた。
何度か家族やメイド達が顔を出すが、大丈夫だと声をかけ部屋に閉じこもった。
早くこの家から出なくては、気持ち悪くて本当に体を壊す。
そんなことを考えながら、部屋で魔力の向上、魔法の勉強をした。
家族やメイド達に分からないよう距離をとっていたのだが…
何故か、家族やメイド達がより一層、私に関わろうとしてきた。
その度に調子を崩し、部屋に閉じこもるという悪循環…
これまた何故か、深窓の令嬢とか言われ始めた。
そして、あれから2年たち、あの日がやってきた。
その日は、朝から慌ただしく、体調が悪いのに部屋に閉じこもることは許されず。
お風呂にエステなどなどして、より体調が悪くなったが、それが儚さをより一層引き立たせているなんて言われながら、美しく飾りたてられ、城へと連れていかれた。
道中、馬車の中で父が、「やはり帰ろう。こんな綺麗なシェリーは誰にも見せられないよ!嫌な虫がつく!」とかのたまっていたが、母の無言の笑顔で、泣く泣く馬車を城へ向かわせたのだった。
そして、通された会場には、私と同年代ぐらいの子供を持つ貴族達が着飾った娘を連れて集まっており、貴族の礼儀として表情には出していないが、皆一様に目をギラギラさせていた。
そして、国王と王妃、そして今回の主役である王太子が壇上に姿を現した。
そう…今日は、王太子の婚約者を決めるために開かれたお茶会なのだ。
前世の私は、王太子を見た瞬間に恋をして、他の令嬢と一緒に王太子へアピールしに行っていた。
私は、王太子を見たことでより一層気持ち悪くなり、会場の端の椅子に座り、兄達が持ってきてくれた冷たい紅茶を喉に通して一息ついていた。
家族が心配そうに私に声をかけてくるが、それがより一層体調を崩す原因であることを、彼らは薄々気づいていた。
だから、少し離れたところで他の知り合いの貴族と交流を深めていた。
もし、私の体調が悪くなってもすぐに対応できるように…
大切にされているのは分かるが、私は彼らを愛することは出来なかった。
気持ち悪い。その気持ちを消し去ることも出来なかった。
彼らには、前世の記憶などないのだから、私の気持ちを理解することは出来ないだろう。
分かっているのだ。でも、あの裏切られた日のことは、消えないし消そうとも思わない。
私は、未だに自由を諦めていない。
時が来るのを待っているだけだった。
少し気持ちを落ち着かせ、体調の回復につとめていると、宰相の息子が近づいてきた。
直ぐにそれに気づくと、スっと立ち上がり、人混みに紛れ会場をあとにした。
もう帰ろう。前世に関わりのある奴らがここには多すぎる。
礼儀は通した。
出席はしたし、ある程度の時間は過ごしたのだから、体調が崩れて帰宅しても問題は無い。
それに私は公爵家の令嬢。
深窓の令嬢と言われて、体が弱いことになっているようだし、問題ないな。
そんなふうに自身の行動を肯定して、馬車へ向け歩いていたのだが、後ろの方で私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
あぁ、気持ち悪い。
私の名前を勝手に呼ばないで欲しい。
気付かないふりをしてそのまま音もなく歩き続け、馬車へ向かった。
後ろから追いかけてくる声と足音は、だんだん追いついてきて、触られたくないので歩みをとめ振り向いた。
さも今気づきましたと言わんばかりの驚いた顔をして…
追いかけてきた宰相の息子は、そんな私にあの嘘くさいほほ笑みを浮かべながら近づいてきた。
それに一歩後退することで、歩みをとめさせる。
「初めまして、ルーシャル公爵家令嬢シェリー様。私は、宰相を務めておりますカミュール公爵家のクラウスです。以後お見知りおきを。」
「初めまして、丁寧なご挨拶ありがとう存じます。ルーシャル公爵の娘のシェリーと申します。私に何か?」
貴族のほほ笑みを浮かべて、要件だけを言えと殊更に言えば、クラウスが驚いたような顔を一瞬した。
たぶん、自身が声を掛けて頬を染めないのが意外だったとかそんなとこだろう。
「いえ、王太子様の婚約者を決められるお茶会を早々に帰られるようだったのでどうされたのだろう?と思いまして。もし体調が優れないのなら、部屋を用意させますので、そちらでお休みになってはいかがかと。馬車で家まで帰るのも距離がありますし、その間に悪化されたら、良くないです。…大丈夫ですよ。部屋で休んでいることは、貴方の家族に伝えておきますから。そんなに心配しないでください。」
一気に話され、まるで私が部屋で休むことを了承したかのように…
もう一歩後退して、微笑む。
「お気遣いありがとう存じます。しかし、部屋の用意はいりませんわ。それだけでしたら、失礼させていただきます。」
綺麗にカーテシーをし、馬車へ向かおうとする。
しかし、クラウスが私の腕を掴み進めなくされた。
サッと手を軽くはらい、少し距離をとる。
掴まれた腕をおさえながら、ゆっくり後退する。
手を払われたことに驚いたのか、一瞬止まっていたが、私が後退していることに気づくと謝ってきた。
「申し訳ない。貴方を傷つけようとかそんなことは考えてないんだ。本当に体調が悪いんじゃないかと思って…」
「大丈夫です。とお伝えしましたが?」
少し被せるように言い放つと、彼は困ったように笑った。
「分かったよ。君には嘘が通じないようだ。君を連れてくるように、ある方から言われてね。一緒に来てもらいたいんだ。」
「無理ですわ。用事があるのなら、自身でお越しくださいませ。人伝で、それも騙すように連れ出そうだなんて…随分、私を馬鹿にされてますのね。あぁ、もしお越しいただいても、お会いしませんので、そのようにお伝えくださいませ。」
たぶん、拒否されると思わなかったのだろう。
彼に命令できる人など限られている。
少し考えれば、彼に命令したのが王太子だと気づく。
確かに、前世の私なら喜んでついて行っただろう。
今は、目の前の彼も王太子にも、会いたくもない。
吐き気がする。気持ち悪い。
早く、部屋に閉じこもりたい。
全てを遮断できるあの場所に。
クラウスは、驚きながら呟くように言う。
「呼んでいるのが、王太子様だとしてもかい?」
私は、貴族の微笑みを貼り付けながら、再度カーテシーをとり、そのままその場を後にした。
自身の部屋は、音とかが何一つ漏れないよう術式を組んでおり、私が体調を崩す原因である家族の声も聞こえないようにしている。
ここがこの家で、唯一安心できる場所。
貴族の成人は、14歳だ。あと6年もある。
こんな家に居たくないが…もし逃げ損ねたら監視が厳しくなる可能性がある。
万全を期して行動しなくては。
父や母達がお茶会から帰宅した。
城の従者に先に帰ることは伝えてきたので、問題はないはずだ。
なら何故?父と母が、いきなり私の部屋に来て真剣な顔をしているのだろうか?
「シェリー、落ち着いて聞くんだよ。…あぁ、やっぱり断ろう。シェリーに知らせなくてもいいだろう。シェリーは、体が弱いし、それに「あ・な・た?」…はぁ、分かったよ。シェリー、君にね。婚約の話がきている。相手は、王太子であるアーサー様だ。アーサー様がね。婚約者には、シェリーがいいって言ってるんだ。シェリーがいいならこの話を受けようと思ってるんだよ。どうかな?」
何を言っているのだろうか?
私があいつの婚約者?
また?なんで?お茶会には出たが国王にも王妃にも、ましてはあいつにも近づかなかったし、挨拶もしていない。
今回は、アピールもしていない。
なのに何故?
気分が悪くなる。
吐き気がする。
また、あの苦痛の場所が近づいてくる。
苦しめと…幸せなどないと…神が言っているようで…目の前が暗くなる。
父と母が、焦って何かを言っていたが、聞こえなくて…意識が遠のいた。
目覚めたのは、父から婚約の話をされた2日後だった…
目覚めた私に、父も母も兄達も泣きながら良かったと無事に目を覚ましてくれて嬉しいとか言いながら看病しようと部屋から出ていこうとしない。
それにより、より体調が悪くなり、医師から面会の制限がつけられた。
体調が回復した私は、あの日から5日たってやっと父と母に婚約の辞退の意向を伝えた。
父と母は、驚いた後に申し訳なさそうな顔をして謝ってきた。
「ごめんなさい。シェリー。王太子様との婚約の話を王妃様が他の方々へ話されてしまったようで…婚約が確定してしまったのよ。」
「すまない。どこかで行き違いがあったようで、婚約の話はシェリーが目覚めて意向の確認をしてからだと、保留にしていたはずなのに…何故か他の貴族達が婚約が確定したと思ってしまっているんだ。もう、婚約の辞退は難しい状況なんだ。」
何が起きているのか分からなかった。
ただ、私の苦痛のあの日々が確実な未来になったことは分かり…
死刑宣告をされているのだと理解した。
もう、何も考えたくなかった。
こいつらは、私にあの苦痛の日々をもう一度送れと言っているのだ。
私は、綺麗に貴族の微笑みを顔に張りつけ、カーテシーをして退室した。
父や母が何か言っていたが、もう何も聞きたくなかった。
追いかけてこようとしていたので、部屋に閉じこもった。
もう、時間はないのだ。
成人までなどと悠長な考えでいては、またあの日々が始まってしまう。
早く他国に逃げて、見つからない場所を見つけなくては。
旅の用意は、少しずつバレないように進めていた。
まだ、万全ではないが、そんなこと言っていられない。
自作した魔法鞄に今まで用意していた旅支度を入れて、まだ読めていない魔法書もまとめて鞄に突っ込む。
他にも平民に見える衣服なども入れていく。
旅の準備をしていると、いきなりノックをされた。
ビクッとして扉を見つめる。
先程まで、扉の前で騒いでいた父と母か?
「お嬢様。お客様がお見えです。お部屋にお通ししても宜しいでしょうか?」
最近入ったと言っていた若いメイドの声だった。
優しそうな声を出しているが、私はこのメイドが王太子の手先であることを知っている。
前世の私は、優しそうな声とおっとりした容姿、少しドジなこのメイドと仲が良かった。
少し年の離れた姉のように思って慕い、色々な相談をしていた。相手も同じ様に思っていてくれていると思っていたが…違ったのだ。
彼女は、王太子の手先の者で私の事を王太子に報告していたのだ。
そして…他の貴族達の罪を私が行ったと証言した1人だ。
私は、彼女にも接触しないよう心がけてきた。
彼女は、私に近づこうとしていたようだったし、やはり今回も王太子の手先だったようだ。
私への用事や客などの際は、父か母に話が行くことになっている。
それは、以前勝手に通された客が、よりにもよって私を辱めた伯爵とその息子で、私が体調を崩し2日寝込んだからだ。
あの伯爵達は、公爵家令嬢で身体が弱いという私と懇意になり、ゆくゆくは縁を結ぼうと考えてあの様な行動をしたようだ。
それからは、誰が来ても一度、父と母に通し私の許可を得てから部屋に通すという流れができている。
つまり…これは彼女の勝手な行動であり、お客というのは王太子であるということ。
誰が会うかよ。
会った瞬間、吐くわ。気持ち悪い。
さっさとこんな家から出ていこう。
探されても困るし、手紙だけでも書いておくか。
平民の格好に着替え魔法鞄を背負うと、姿見の前で姿の確認をする。
色目立つな…銀色なんて貴族でも珍しい色だし、瞳の色も碧と緋色のオッドアイなんて特に目立つな。
変えるか。
自身の掌で目を覆い、その後に髪を撫でていく。
全て終わると髪色と瞳の色は茶色に変わっていた。
それを全体的に確認して、漏れがないかチェックする。
大丈夫だな。
外もうるさくなってきたし、そろそろ行くか。
扉の外では、さっきのメイドが泣きそうな声で何度も呼びかけており、その後ろから父や母、兄達の声も聞こえてきた。
そして、王太子と宰相の息子の声も…
あぁ、気持ち悪い。
手紙も書いた。
さぁ、行くか。自由のために!
最後に扉に向かって綺麗にカーテシーをして、一応ここまで育ててくれたあの人達に感謝を示した。
そして、窓が開きカーテンがヒラリと揺れた一瞬でルーシャル公爵家の深窓の令嬢と言われたシェリー嬢の姿は消えた。
窓を開いた瞬間、扉も開き、扉の前にいた家族と王太子、宰相の息子などが直ぐに入室したが、その部屋に彼女の姿かたちは何処にもなかった。
ただ、部屋の窓から入る風に合わせて、彼女が好きだった桜の花びらが、ヒラリヒラリと彼女の旅路を祝福するかのように舞っていた。
机の上に、彼女が愛用していたガラスで出来た桜の花が、1枚の紙を抑えていた。
それを見つけた父親は、読むなりその紙を握りしめて泣き崩れた。母親と2人の兄も父が握り締めた紙を奪い読むなり泣き崩れてしまった。
王太子は、迷子の子供のような顔をして何かを呟くと、直ぐに何か決意した顔をして、宰相の息子を連れて城へ帰っていった。
彼女が残した紙に書かれていたのは
『私は、死んだものとして処理してください。』
だけだった。
シェリーは、まだ8歳です。
小学二年生くらいですΣ(゜ロ゜;)
さぁ、逃げ切れるのか!!次話から逃亡編です!
書くの遅いので、ゆっくりの投稿ですが…
今後もよろしくお願いします!(*´˘`*)♡