モモンガ冒険譚!!   作:ブンブーン

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新年あけましておめでとうございます


第22話 記憶を辿るモモンガ

ーーーーー

例の触手のバケモノ討伐から1週間以上が経過。

 

モモンガはこの日も特に依頼が無かった為、ブラブラとエ•ランテルの街中を会社をリストラされた事を家族に言い出せずに定時まで公園に居座り続ける冴えないリーマンの様にブラブラしていた。

 

しかし、今のモモンガにはゆとりのある時間が必要だった。実は彼…クラルグラのメンバーと飲み別れた後の記憶が綺麗さっぱり無くなっていたのだ。

 

 

(確か…ブリタさんに偶然会って、酒場で飲んで…指輪が無くなった事に気づいてから。えっと…あーー、ダメだ…全く思い出せない)

 

 

モモンガは兜越しに頭を押さながら小さく首を振る。記憶が飛ぶまで酒を飲んだわけでも無いし、そもそも『毒無効』の常時発動型特殊技術(パッシブスキル)を切っていない為、それは有り得ない。

 

 

(やっぱり考えられる原因は……暴走、か…うわぁぁぁ〜〜〜〜…ヤバイヤバイヤバイどうしよ〜〜…!)

 

 

思わず頭を抱え悶絶したくなる衝動に駆られるが、公衆の面前もある為何とか心の内だけで済ませた。こういう時、死の支配者(オーバーロード)の精神抑制効果が欲しくなる。

 

 

(目が覚めたら自宅のベッドでエンリとクレマンティーヌを両隣にして寝てたからなぁ…もう悪い予感しかしないよー……しかも何故か所持金も凄い減ってるし)

 

 

まさか盗まれたのかと考えるが直ぐに否定した。『盗み』系統のスキル対策はバッチリだった為、自ら装備を外すという愚行をしない限り盗まれる事はあり得ない。そもそも無限の背負袋(インフィニティ•ハヴァサック)に財布をしまっているのでもっとあり得ない。

 

つまりこれは記憶を失う前のモモンガが故意に大金を何かに対して支払った事になる。だが支払ったモノがなんなのかサッパリ分からない。GBL(ギガント•バジリスク•ロード)討伐やアンデッド大量発生事件で得た収入の2/3以上の浪費となるとかなりの金額だ。少なくともモモンガが都市内で見て回った店で見た商品の中にそれだけの金額をするモノは無かったし、全てを買い占めとなればそれなりに有名人となっている自分なのでかなり話題になる筈なのにそれも無い。

 

つまりそんな次元のレベルではない買い物……いや、もしかしたら誰かにあげたという可能性もなくはない。

 

 

(何か違法な売買に手を染めたとか…?)

 

 

あり得ないと言いたいが記憶を無くしてしまった以上絶対は無い。一応アンデッドなのだが血の気が徐々にサーッと引いたような気がする。

 

 

(取り敢えず…今は覚えているだけの記憶を頼りに街を散策しよう。ッにしても、周りの視線がいつにも増して強いな〜。多分階級が上がったことが影響してるんだろうけど、やっぱり多くの冒険者達の憧れであり目標であるアダマンタイト級って、本当に凄って事なんだろうな……だとしたもアダマンタイトは柔らか過ぎる気がするんだけど、それは俺の基準がまだこの世界に順応仕切れてないって事か…)

 

 

真紅のマントを靡かせ漆黒の全身鎧を身に纏うその姿はまさに英雄そのもので、道行く人々は矢継ぎ早に彼を『漆黒の英雄』と呼び讃えている。

いつにも増して街の人々から向けられる尊敬の眼差しと賞賛の声が多いのは気のせいでは無かった。

 

実はほんの数日前、彼はエ•ランテルの都市長であるパナソレイの屋敷に招かれたのだ。

てっきり都市待機を無視した事による叱咤を受けるものかと思っていたが、俺を見つけるなり組合関係者全員が凄い安堵の顔をして暖かく迎えてくれた。一応、苦し紛れの言い訳を言ったのだが「やむを得ない事情があったのだね?いいともいいとも気にしないとも!」と組合長のアインザックが近づきながら妙に多いボディタッチと笑顔で許してくれた。

 

許して貰っといてなんだが気持ち悪かったし、もしかしてソッチ系なんじゃないかと思うくらいのボディタッチだ。思い返せばそう考えられる節がチラホラ……と今はそんな事はどうでも良い。

 

 

(あの後かなり緊張して屋敷に行ったけど、広間に連れていかれたと思ったら、都市長のパナソレイを始めとした都市内の有力者達や各組合長達が拍手喝采で迎えられて…そのまま授与式が始まって…渡されたのがこのアダマンタイト級の証である冒険者プレート。何かアインザックさん凄い泣いてたし、いきなりの授与式で俺も困惑してたしで……まぁ思い返せば半ば強引過ぎる気はしたよなぁ)

 

 

アダマンタイト級は数ある冒険者の中でも数多の偉業を成し遂げた英雄的存在で〝人類の守り手〟とも呼ばれているらしい。前に聞いた話では王国内に存在するアダマンタイト級チームは現在2チームのみで1つが『蒼の薔薇』もう1つが『朱の雫』らしい。

 

因みに王国を除く周辺国家ではバハルス帝国に2チームで『銀糸鳥』と『漣八連』、竜王国に1チームで『クリスタル•ティア』が存在する。聖王国の最高位冒険者はオリハルコン級までしか存在していないし、スレイン法国には冒険者組合自体存在していない。

 

つまりモモンガは王国内で3つ目のアダマンタイト級冒険者チーム(チームではないが)という非常に貴重な存在なのだ。

 

恐らくだが彼らはモモンガを王国に縛り付けようとしている。無論、冒険者は国や政治に左右されず組合を通してであればほぼ自由に活動は出来る。しかし、それなりに高い階級の冒険者とならば登録した国または都市部の組合からの援助や特典が付いてくる。

 

酒の席でクラルグラのメンバーから聞いた話でもミスリル級に昇ってからは組合から色々な面で結構優遇して貰えていたと言っていたし、同じ組合でも都市部が違えば冒険者やチームの頭抜きは珍しくないらしい。

それにコレはモモンガに関係の無い事だが優秀な冒険者を他の同業組合に抜かれたからと言われても文句は言えないらしい。要は優秀且つ将来性を満足に評価しなかった組合が悪いのだ。冒険者としても命懸けで依頼を成す為、より優遇してくれる場所を選ぶ事は当然のことだそうだ。

 

 

(俺は別にエ•ランテルから他所へ移るつもりは無いんだけどなぁ…ま、リアルでも優秀な人材を巡るヘッドハンティングはあったって聞いてたし、組合からしたら必死なんだろうな)

 

 

モモンガに会社上層部の詳しい考えはあまり理解出来ないが、何となく同情したくはなる。それがあの時の彼らの安堵の表情だったのだから。

 

 

(本来はもっと余裕のある授与式とかを行うつまりだったんだろうけど…多分俺の成績が他所の同業組合に漏れる前に先手を打ちたかったのか、それとも他の都市部にある冒険者組合が俺をヘッドハンティングしようとしている情報を掴んだからなのか…ハハ、自意識過剰過ぎるだろ)

 

 

それはないとモモンガは内心笑っていたが実は大当たりだったりする。

 

リ•エスティーゼ冒険者組合とエ•レエブル冒険者組合の上層部がモモンガの偉業を情報筋から察知。規格外の実力を持っているのにミスリル級という階級に留めているエ•ランテル冒険者組合よりも先んじて彼と接触を図り、自分たちの組合へ引き入れようとしていたのだ。

 

実はモモンガが拠点で張り切って暴走している間に両都市組合からの使者が極秘裏にエ•ランテルへ訪れ、モモンガを探し回っていたのだ。数日遅れでその事に気付いたエ•ランテル冒険者組合は大慌てでモモンガを捜索。しかし、探せど探せどモモンガは見つからず、内心諦めかけていた。そこへ我に返ったモモンガが戻ってきた事で……現在に至る。

 

 

(はぁ……本当におれは何をしでかしてたんだ……?)

 

 

当てもなくフラフラと彷徨い続けるモモンガだが、行けど行けども新しいアダマンタイト級の誕生を祝福する住民達の声ばかりだ。有難い事ではあるが今は思い出す静かな環境が欲しい。でも此処に居る限りそれは難しいだろう。

 

 

「知り合いのいる所にでも行くか。此処からだとバレアレ薬品店が近いか」

 

 

でもちょっとだけあそこは行き辛い気持ちがある。なんとなくンフィーレアに避けられてる自覚があるからだ。面と向かって文句を言われるよりもこういう何だが分からないけど嫌われてる、または避けられてるパターンが結構傷付く。

 

 

「よし!自分の失われた記憶を辿るついでに、ンフィーレアに何故私を避けるのか聞いてみよう!」

 

 

最悪《記憶操作》で原因を探ろうかとも思ったがそれは幾らなんでもやり過ぎだろう。モモンガは首を横に振ってその案を忘れる事にした。

 

 

ーーーーー

 

「いや、特にこれと言った事は無いと思うがのう……しかし、記憶喪失と来たか。単純に疲れが溜まりすぎたのでは無いか?それともしこたま飲み過ぎたのかい?」

 

「うーん、それが自分でもよく…」

 

 

バレアレ薬品店へ訪れたモモンガは早速自分が記憶を無くした事や記憶を無くしていた時間帯の自分の様子を聞いてみた。しかし、返ってきた答えは案の定なもので、オマケに茶化されてしまった。まぁそう思うよなと思いながらモモンガは今日はンフィーレアは居ないのか聞いてみた。

 

 

「ん?ンフィーかい?薬師組合に出掛けてたからそろそろ戻ると思…お?来たようじゃな」

 

 

バレアレがモモンガの背後へ顎をしゃくると丁度扉が開き、来客を知らせるベルが鳴るもンフィーレアが帰ってきた。

 

 

「ただいま、おばあちゃ……あ」

 

 

此方を見るなり一瞬身体が強張った。やはり怯えてる様な素振りが見て取れる。

 

 

「え、えっと、モモンガさん…お久しぶりです」

 

「えぇ、お久しぶりですね。なんだか行き違う事が多かったですね?ハハハハ」

 

 

少し和ませようとしてみるが相手は明らかに苦笑いをしている。苦手な相手と話す時によく見る顔だ。そして、祖母のリィジーは何を察したのかモモンガに腰あたりをポンと叩くと店の裏へ行ってしまった。

 

あまり長引いても互いに辛いだけだと察したモモンガはリィジーに聞いた事と同じ事を彼に聞いた。ちゃんと目的があった会話なら問題無いようでンフィーレアは少し考え込んでから答えてくれた。

 

 

「そ、そうですね…そう言えば、何か慌てて路地裏に向かうのを見たような気がします」

 

「路地裏?……むぅ、飲みすぎて吐いたのか?」

 

「ハハ、僕も最近似たようなことがあったんですよ」

 

「え?ンフィーさんってお酒飲まれるんですか?」

 

「えぇ、でもそんなには飲めませんよ?飽くまで嗜む程度ですし」

 

「……飲んで大丈夫なんですか?」

 

「え?だって自分もう15ですよ?」

 

「あ…そうですか」

 

 

そういえばあの時、酒場でも明らかに二十歳未満の若者も酒を飲んでいたのを見た気がする。15歳というンフィーレアでも飲酒可能ならば成人基準はリアル日本なら18歳なのだが、この世界では15歳からなのかも知れない。

 

 

「しかし弱ったなぁ…」

 

「えっと…思い出さないと何か不味い事でも?」

 

「あーいや…そのぉ……何故か大金を紛失していまして……まぁまだ金銭面は何とか、って感じなんですが…何に金銭を使ったのか気になってまして」

 

「えぇ!?それって大丈夫なんですか!?」

 

「ヤバイデスヨネー」

 

「ほ、他に何か覚えている事は無いですか?」

 

「他に?…んーーー、あるとしたらそうですね……最後に寄った酒場でブリタさんと飲んだのは覚えてます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………え?」

 

「へ?」

 

 

妙に長い間が気になる。それに彼の驚愕とも絶望とも取れる蒼褪めた顔がもうヤバイ。これはあれだ!貧血というやつかも知れない。

 

 

「大丈夫ですか?何か顔色が優れませんが…?」

 

「え?あ、いや…ハハ…なんでも…無…ハ、ハハハハ…え?…なん…え?え?」

 

 

焦点が合っておらず、身体も震え、涙も流れ、息も荒くなっている。明らかに大丈夫では無い、パニック寸前だ。

 

 

「失礼…!」

 

「え?」

 

 

モモンガは咄嗟に《睡眠》を唱えて強制的に眠らせた。念の為、状態異常回復のポーションを彼の口に含ませて飲ませてから抱きかかえて店の裏へと連れて行った。

 

 

「お?話は終わ…ど、どうしたんじゃ!?」

 

「分からない。急に体調が優れなくなったらしく、魔法で眠らせた。このまま彼を部屋まで連れて行きたいのだが…」

 

「う、うむ。コッチじゃ」

 

 

リィジーの案内で彼を自室へと運びベッドへ寝かせる事にした。モモンガはリィジーにお礼を言われた後、バレアレ薬品店を後にした。

 

 

ーーーーーー

 

「おぉ、覚えてるぞ。あの後、お前さん血相変えてネエちゃん連れて店出てったぞ」

 

「え?そうなんですか?…いや、あーー…そうか」

 

 

バレアレ薬品店を後にしたモモンガは最後に記憶に残っていた酒場へと訪れ店主に自分がどんな様子だったのか尋ねていた。

 

 

「彼女と飲んだ後に指輪が無い事に焦ってそれから……ん?」

 

 

モモンガは首を傾げた。

自分の記憶の最後は彼女とこの酒場で飲んで、指輪がない事に焦って…それでお終い。何故彼女を連れて行ったのか…その後どうしたのか…。

 

考え続けていく内にモモンガの中である考えが脳裏に浮かび…嫌な汗が滲み出る。

 

 

(俺…ヤッちゃってない…よな?…う、嘘だよな?)

 

 

そう考えたいが可能際がゼロでは無いどころかかなり高いかも知れない。自分は指輪無しの状態で自らの情動という本能に全てを委ねた状態になった事が一度もないからだ。もし記憶を無くすほどの暴走をきたしたとなれば……

 

 

(俺…ブリタさんと……マジかー…)

 

 

人間本気で焦った時、妙に冷静になってしまう。そうなると自分は彼女…ブリタに大地がめり込むほどの土下座と誠意を見せる必要がある。

 

 

「アリガトウゴザイマシタ…」

 

「お、おう…」

 

 

動揺剥き出しのカタコト口調で礼を言い、酒場を後にしたモモンガは直ぐにブリタを探す為行動に移った。初めは《記憶操作》で消してしまおうかと考えがよぎるが「く、クズだぁぁぁぁぁ!!」と内心叫び、問答無用で却下した。

 

これは責任を取る必要がある。

 

築いた地位を失いかねないがそんな事知ったことではない。これはモモンガのケジメでもある…かれない。

 

 

ーーーーー

高位魔法を駆使して難無くブリタを見つける事が出来た。彼女はひとりで街中を歩いていたを見つけたモモンガは颯爽と彼女の元へ訪れた。

 

 

「あれ?モモンガさん?」

 

「ブリタさん!!!やっと見つけました!!」

 

 

モモンガは彼女の手を掴みそう叫んだ。ブリタは何の事なのかさっぱりと言った様子で、ただ掴まれた手を何度も見返してながら頬を赤らめ困惑していた。

 

変に興奮しているモモンガの言葉は文脈がめちゃくちゃで埒があかない為、ブリタは一先ず近くの公園へ彼を連れて行き、少し落ち着いてから話を聞くことにした。しかしー

 

 

「え?あの後ですか?モモンガさんが酔い潰れた私を宿屋まで運んでくれたじゃないですか」

 

「え?…え?そ、そうなんですか?」

 

「私も記憶が結構トブくらい飲んでたと思うので…あの時はどうもお世話になりました」

 

 

謝るどころか逆に感謝されてしまったモモンガは頭をかいて首を傾げた。

 

 

(お、思い過ごしか?…あの後彼女を何とか宿へ送ってから、自宅でエンリ達と……って事なのか?)

 

 

正直不安や疑問がない訳ではないのだが、彼女がそう言うのなら恐らくそれが事実なのだろう。段々とモモンガの中で安堵の気持ちが現れてきた。

 

 

「じ、自分はてっきり…よ、酔った勢いで…」

 

「え?…も、もーう何言ってるですかモモンガさんは。こう見えても私には心に決めた人がいるんですよ?……それにもしかしたらですけど、冒険者稼業を引退するかも…分かりませんし」

 

「い、引退ですか?」

 

 

ブリタが恥ずかしげにそう告げてきた。何故冒険者稼業を引退する事になるのか…あの時の出来事がトラウマになったと言われれば仕方のないことかも知れないが…

 

 

「じ、実は…これから診て貰う予定なんですけど……わ、私…に、妊娠したかも知れません」

 

「え、エェェェェ!!??」

 

「い、いやぁ〜〜実はあの時の依頼前と後にその…か、カレシと…そのぉ…ほら?アレしましたので、それで昨日つわりが来て……エヘヘへ、これ言うの仲間以外ではモモンガさんが初めてです」

 

「凄いじゃないですか!おめでとうございます!」

 

「あ、あはははは、ありがとうございます!」

 

 

モモンガは素直に祝福を伝え、ブリタは照れ臭そうに応える。これは本当に素晴らしい事だ。彼女の相手が誰なのかは分からないが、きっとその報せを受けた彼も喜ぶに違いない。当然だが彼女は母親に、その相手は父親になるのだ。

 

 

(……父親か)

 

 

モモンガはふとリアルの事を思い出していた。自分に父親の記憶は無い。母親は優しく愛情を注いでくれたが幼い時に亡くなってしまった為、その時の記憶も朧げだ。

 

リアルでは環境汚染等含め、様々な公害により多くの人々が苦しめられてきた。人類の身から出た錆なのだが、もしそれによって自分のように親を失うことになったらブリタの子はどうなるのだろう。

 

そんな事を考えてしまう。

 

 

「ブリタさん…」

 

「は、はい?」

 

 

モモンガは彼女の手を濁り優しく語り掛けた。

 

 

「もし、もしも何か困った事があったら…遠慮せずに私に頼って下さい……私は貴女も…宿っているかも知れない貴女の子を見捨てたりはしません。必ず助けます」

 

 

ブリタは何も言えずただその言葉に感動していた。それに何故か不思議と彼がそんな事を言ってきたのか理屈では無いが何となく理解出来た気がした。

 

 

「は、はい……ありがとう、ございます」

 

「え、えっと…じゃあ失礼します」

 

 

モモンガはその場を後にした。ブリタは暫くその場から動けず立ち尽くし、彼に握られた手を優しく撫でる。その手をそっと下腹部へ当て優しい笑みを浮かべた。

 

 

ーーーーー

「多少の行動は分かったが、それでも大金を失った理由が分からない……うーん」

 

 

ホッコリした報告を聞いた後、モモンガは大金を失った理由を探る為、再び散策を再開した。金を失った事は問題では無い。何に使ったのかが問題なのだ。

 

 

「うーん……お?」

 

 

考えながら歩いているとある人物を視界に捉えた。

 

 

(彼は確か…授与式にも居たな。そう言えばあの場でも彼は妙に畏敬の念に満ちた顔を向けていた様な…)

 

 

思い出していると相手も此方に気付いたのか嬉々とした表情で駆け足で近づいて来た。「うわ来ちゃった」と思ったが逃げるわけにもいかずそのまま自然を振る舞い事にした。

 

 

「これはこれはモモンガ殿!授与式依頼ですな!…とは言っても、軽く挨拶した程度ですが」

 

「此方こそ、お久しぶりです。えっと…」

 

「ハハハ、では改めまして…娼館組合組合長のー」

 

 

漸くモモンガは思い出した。エ•ランテルの組合の中でも夜の顔が強い娼館組合の組合長さんだ。

 

 

「これはどうも」

 

「王国3番目。しかもエ•ランテル初のアダマンタイト級冒険者。我々組合は勿論、貴方はこの街に住まう者の誇りですぞ!」

 

 

かなり恥ずかしいが素直な賞賛なので素直に受け止めた。しかし、モモンガの「鈴木悟」としての勘が警告を発するのを感じていた。

 

 

(こう言う相手を褒めちぎって良い気分にさせるのは商談交渉の上等手段の一つ。彼は何かを狙ってるな…何だ?)

 

 

リーマンとしての警戒態勢を敷いていると彼は少し周りの気にしながら声を落として耳打ちしてきた。

 

 

「つかぬ事を伺いますが…モモンガ殿はどちらの経由で入手を?」

 

「……経由?」

 

 

モモンガの頭に「?」が浮かぶが組合長は冗談で誤魔化せられたと思っているのか笑い飛ばしてまた再度聞いてきた。

 

 

「何を仰いますやら〜。アレ程強力となると相当なツテを持っているのでは無いのですかなぁ〜?いやいや、私も仕事柄それなりに確かなツテを待っているのですが、流石にこの街の各高級娼館の最上位の娘をあそこまで骨抜きにするなど聞いたことも見たこともありませんなぁ……む!?もしや…王都の?」

 

「強力?…骨抜き?…高級娼館?…王都?…すみませんが、全くもって言っている意味が分かりかねます」

 

 

本気でそう答えると組合長の表情が愛想良い笑い顔から青褪めたモノへ変わった。

 

 

「……まさか…『素』でアレほどの事を?…い、いやそれよりも……」

 

 

今度は額に脂汗を滲ませながら少し敵意に満ちた視線を察した。モモンガは話の大半は理解不能だったが、唯一分かった事がある。

 

彼は今とんでもない墓穴を掘ったらしい。

そして、話の節々を分析すると彼は何やらきけんなブツを取り扱っておりどういうわけかモモンガもそのブツを扱ってる同業者か使用者と判断したのだ。

 

 

「…少し興味のある話ですね」

 

「ッく!?」

 

 

組合長は路地裏へと駆け出した。だがモモンガは追う事はせず、代わりに護衛の死の盗賊(デス・シーフ)達を何体か向かわせた。後で頃合いを見て捕まえて情報を聞き出すとしよう。それからは《記憶操作》で元に戻せば良い。

 

それにしても悲しいかな喜ばしいかな最初は難しかった《記憶操作》も今では自負出来るくらい上達している。

 

 

「全く。俺をそっち側と一緒にして欲しくないものだな。それにしても俺は何を……ん?」

 

 

モモンガは再度彼の会話を思い出していると、あるキーワードに引っかかった。

 

 

(高級…娼館…?そこの…最上位…?………………

ファッ!!!????)

 

 

漸く全ての答えが導き出された。

自分が何故大金を失ったのか…あの後自分は自らの情動を鎮める為にー

 

 

「高級娼館で…散財…したのかぁ……うわぁ…」

 

 

これは一応伴侶がいる身としてはかなり恥ずかしい事をしたものだ。娼館…風俗で金を湯水の如く使うなど何て勿体無い事をしたのだと嘆きたくなるが、そこへ行き着かなければ自分は街中の女性に手を出していだ可能性も否定出来ない為、此処は『良かった』と思うしかない…多分。

 

 

「勿体無い事してしまった……まぁ最悪の事態を防げたと言えば聞こえは良いが……むぅ」

 

 

この後、念の為娼館通りをコッソリと見て回った。確かに殆どの娼婦が休んでおり、休みになってる店も少なくない。あと彼女達全員が避妊薬を接客前に摂取していた事もあり、妊娠している子は一人もいなかった。安堵の溜息を吐いたモモンガは自らの愚行を猛省し、気晴らしになる依頼がないかもう一度組合を訪れる事にした。

 

 

 

ーーーーー

組合に着いたら着いたでもうエライこっちゃだった。建物に入るなり中にいた冒険者達が一斉にモモンガの元へ集まり始めたのだ。

 

 

「モモンガさんだ!!」

 

「漆黒の英雄!!」

 

「オレも貴方のような英雄になれるよう頑張ります!!」

 

「うわぁ!カッコいいなぁ〜!」

 

「抱いてェ!」

 

「アダマンタイト級昇格おめでとうございます!!」

 

「エ・ランテルの誇り!!」

 

「モモンガさん!!」

 

「モモンガさーん!!」

 

 

また途中何か変な声も聞こえたが気にしない。あまり褒められ慣れてないモモンガこと鈴木悟は出来るだけ彼らを傷付けないよう軽くあしらいながら何とか組合の受付まで辿り着く事が出来た。

 

 

「やぁ、ウィナ。何か依頼は……ウィナ?」

 

 

いつも受付嬢達と競い我先にモモンガの受付相手をしてくれているウィナに声を掛ける。が、何故か彼女はポーッと赤らめた表情(あれ?化粧変えた?)で此方を見つめるまま微動だにしない。

 

いや、よく見れば彼女だけではない。

 

他の受付嬢達もモモンガが来た途端に全員が一斉に仕事の手を止めて此方をウットリした顔で見つめ続けている。

 

 

「えーーっと……う、ウィナ?…ウィナさん?」

 

 

再度声を掛けても彼女は立ち尽くすだけで微動だにしない。微かに息も荒い気がする。体調が悪いのかと思ったがどう見てもそんな雰囲気ではない。

 

 

「モモンガさん…♡」

 

「あ、はい」

 

「あの夜は…夢の様な一夜でしたァ…♡♡」

 

「そ、そうで……え?」

 

「はァい♡」

 

 

妙に色っぽい声を漏らすと思いきや、周りの受付嬢達も同調する様に頷いていた。

 

 

「あ、あの夜…?」

 

「初めてでしたがとても心地良くて…今でも思い出す度に……フフフ♡英雄色好むとよく言いますが…それ以上の逞しさでしたワぁ…♡」

 

 

トロン♡とした顔で偶々受付テーブルに上に乗せていたモモンガの手を優しくそっと重ねてきた。

 

これらの言動でモモンガは理解した。

そしてフリーズした。

 

 

(ヤッちまったかァ〜〜〜ッッッッ!!!)

 

 

ウィナは愛おしそうに重ねていたモモンガの手をイヤラシく撫でながら言葉を続けた。

 

 

「えぇ、分かってます…ウィナは分かっております♡貴方様には冒険者としてやらなければならない事があるのですねえぇ分かります♡貴方様はこれから大きな事を成し遂げる御方である事は…皆分かっておりますよォ♡」

 

 

更に受付嬢達が頷いた。

 

 

「なので……今は待ちます♡でも、冒険者としての活動が落ち着いた時は……絶ッッッ対にッッッ!!!!!!……迎えに来て下さいねェ♡勿論、誰が本妻でも愛人でも構いません♡皆…お待ちしておりますのでェ♡」

 

 

周りが口笛を吹くなりして大騒ぎで祝福してくれている賑やかな組合である今日この頃。

モモンガは窓から差し込む陽の光を眺めながら思った。

 

 

(あぁ…今日も良い天気だ)

 

 

その後、何とか落ち着きを取り戻したモモンガはデキたデキていない云々関係なく責任取る事を再度ウィナ達に伝え、一度人気の無い所へ移動してからコトの顛末をその場にいない筈なのに正座しながらエンリとクレマンティーヌに報告。

 

普通に了承してくれた。

 

でもクレマンティーヌはちょっと不満気だった為、またあの時みたいに暴走しないうちにとその日の夜は拠点に戻る事にした。

 

 

 

ーーーーー

数日後。

 

モモンガは真夜中の草原を歩いていた。夜風がとても心地が良く、持続する指輪(リング・オブ•サステナンス)を外せばここで寝転がって夜空を眺め続けたいとすら思ってしまう。

 

しかし、今の彼はそんな事をするわけにはいかなかった。

 

数日前、エ・ランテルの娼館組合の組合長が墓穴を掘った事をあの会話が気になり、暫くは配下のデスシーフに監視をして貰った後に捕縛。

 

《魅力》を掛けて話を聞いてみるとモモンガの予測は的中だった。

 

 

(強い媚薬作用を持つ違法麻薬の栽培か。奴は上等な顧客を見つけては自前のルートを通じて手に入れた麻薬を渡し、顧客を麻薬漬けにして財産を搾り取る商法をしていた……とんでもない屑だが、従業員や娼婦にはその手に関わらせていないだけでもまだマシか)

 

 

それも麻薬を売り渡す相手は必ず叩けばホコリが出るような経歴を持つ者ばかりで、貴族の三男、四男みたいに家系を継げない様な奴を選んでいる。そういった下調べも入念にやって万が一にでも警吏に報告出来ないようにしていた。

 

 

(まぁ王国の腐り具合を聞いていれば、仮に報告していとしても揉み消しにされるだろうが)

 

 

余計な足をつけない様に気を付けて商売していた筈だというのに何故モモンガにあんな話をしてきたのか。

 

ごく稀に彼が独自で持つルートでは手に入らないより強い依存作用を持つ高級な麻薬をキメて来る客がおり、より強い顧客を得ようと企んでいた組合長は、機会があればそう言った経由を持つ客と繋がり入手ルートを探ろうとしていたらしい。

 

 

(数ある麻薬の中でも高品質の麻薬……『黒粉』。主に貴族間で広く使われていると言う噂らしいが……何だがその噂も本当の様な気がするなぁ)

 

 

組合長の記憶から読み取れたのはコレが全てだ。後は記憶を操作してこれならは真っ当に組合長として働くようにした為、これからはもう麻薬漬けや売買などはしないだろう。コレはモモンガなりの彼に対する最後の慈悲だ。

 

モモンガはその黒粉とやらがどうしても気になってしまい、独自で調べる事にした。貴族間で広まっているのなら、仮に公で見つかったとしても黙認されている可能性が高い。

麻薬漬けになり、そんな奴が貴族として自らが治める領地で執政を行うなど良いはずがない。現に農民市民達は年々横暴化が酷くなっている貴族連中に毎日の如く泣かされているのだ。

 

間違いなく『黒粉』はこの国を腐らせている原因の1つのなっている。そして、それを栽培し取り扱う組織も同罪だ。今は貴族と言った権力者や金持ちだけで済んでいるが、やがては農民市民の賃金でも手に入れられるまでになればいよいよもってこの国は破滅するだろう。

 

 

(まぁこの国がどうなろうがどうでもいい。こうなるまでに放置した連中が悪いからな。だが、民達に罪はない。馬鹿どものやらかしたとばっちりを受けただけだから溜まったもんじゃないよなぁ)

 

 

ではモモンガは何故今草原を歩いているのかと言うと、読み取った組合長の記憶から『黒粉』は〝人里離れた郊外農地で栽培している〟という噂レベルの情報を持っていた。

 

彼はその情報を頼りに『黒粉』の原材料らしき場所を探そうと現在王都郊外に来ていたのだ。因みに何故王都の郊外なのかは彼があの時「王都の」と言っていたからである。

 

 

(本当なら拠点で遠見の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)で探そうと思ったけど…)

 

 

拠点に居ると事あるごとにクレマンティーヌがちょっかいを掛けてくるから中々に困っている。それも変に刺激してくるから結局彼女の望むカタチに最後は持っていかれてしまう。これでは進む作業も進まないし、遠見の鏡を拠点外で使うつもりも無い。その為、こうなったら自分の足を使って地道に探そうという結論に至った。デスシーフ達も広範囲に展開して協力して貰っている。

 

因みにエンリはちゃんと村へ戻っていた。

 

かなり広い国土を持つ王国ではそれはあまりにも効率が悪いのでは無いかと思ったが意外とそんな事は無く、道中明らかに人為的な罠らしきモノを幾つか見つけていた。それも侵入者を知らせる警報装置式のモノだ。

 

これはこの近くに余所者を近づけさせたく無い何かがある事を教えているのと同じこと。組合長が耳にした噂レベルの情報は意外と確かなものなのかもしれない。

 

 

(確実に近づいてるのかも知れないな…でもここに来るまでに幾つか広い耕作地帯や民家も見かけてるから、その中に紛れ込んでいるのか…それともやっぱり此処には居ないのか)

 

 

その辺の違いはモモンガには分からないし、デスシーフ達も麻薬の原料を栽培しているのかそれともただの農作物なのかの違いは分からない。なんとなく他と違う雰囲気を持つ農地を見つけては地道に《上位道具鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)》で調べるしかない。

 

 

(やっぱり地道過ぎるのか……)

 

 

 

すると探索をしていたデスシーフの1体がモモンガの前で地面に方膝を付けて首を垂れて報告に来た。また農地を見つけたのかなと思っていたがどうやら違うらしい。

 

 

「モモンガ様、この先ニある農地周辺にテ複数のワナを発見致しマシた。デスが…そのドれもガ、既に何者ニよっテ解除サレた跡でした」

 

「なに?…そこで働いている者では無いのか?」

 

「ハッ。解除の仕方ヲ見るニ、その可能性は低イかと…」

 

 

これまでも幾つか罠を見つけたが、そのどれもが広大な農地を時折荒らしに来る動物や魔物、野盗から守るためのもの。しかし、今見つけたという罠は既に第三者に解除された跡という今までに無いものだった。

 

 

「ふむ……案内してくれ」

 

「ハッ」

 

 

そこそこ歩き見晴らしの良い丘まで辿り着くと、先にあったのはこれまた広大な規模を持つ耕作地帯だ。成人男性の腰ほどの長さの作物らしき草木が沢山生えている。これだけ見ると道中見かけた耕作地と何ら変わりはないのだが、他と違う点がよく見るとチラホラ分かる。

 

 

「おいおい何だ此処は?」

 

 

先ず警備員らしき男達が巡回している。それも暴力沙汰に慣れているような強面顔でオマケに武装している。更に所々、物見櫓も建っていた。これらは他の耕作地では見かけなかったし、耕作地だとしても警備があまりにも厳重過ぎる。

 

 

「明らかにやばい雰囲気醸し出してるよ此処……これじゃ此処にヤバイ物あるよって言ってる様なものじゃないか」

 

 

もしかすれば道中見かけた耕作地帯の民家もグルでカモフラージュの意味合いを持っていたのかも知れない。もしそうであるなら、住民に勘付かれないよう移動していて良かったと安堵した。

 

 

「周囲の警戒にあたれ」

 

「ハッ」

 

 

ここまで案内してくれたデスシーフはその場から消えると、モモンガは暫く丘の上から目の前の耕作地帯を観察した。すると、何やら一部が明るくなるのが目立って見えた。

 

 

「灯り?…いや、あれは火事か……え、火事?」

 

 

夜空でもハッキリと見える黒煙と燃え広がる炎が目の前の耕作地を飲み込んでいた。漸く異変に気付いた作業員が異常事態の鐘を鳴らし、慌てふためく声がここまで聞こえて来る。

 

 

「大変な場面に出くわしたな……む!?」

 

 

モモンガは驚愕した。

 

耕作地全体を取り囲むように周囲を警戒させていたデスシーフの1体との繋がりが急に途切れたのだ。

 

これが意味するところは1つ…何者かにやられた。しかし、この世界ではデスシーフの様な中位アンデッドに敵う存在など殆どいないに等しい。しかも何の報告も無しに消滅したという事は少なくとも相手はデスシーフ達よりもレベルが10以上高い事になる。

 

 

(デスシーフのレベルは30だから少なくともソイツは41以上のレベルという事になる)

 

 

油断は出来ない。相手はデスシーフの不可視化を看破して悟られず一方的に倒した存在だ。カンストしている可能性は十分にある。

 

 

「とにかく今は探り入れるか」

 

 

モモンガは高位の探知魔法を展開しようとした時だった。モモンガの感知魔法に反応が現れた。後方でまだ距離はあるが間違い無く此方に向かって来ている。感知対策はしていた筈だが、それ気づいたとなれば相手は高レベルの存在という事になる。

 

モモンガの警戒のベクトルが一気に跳ね上がる。

 

 

「まぁ、単純に目的地がここだという可能性もあるのだが……」

 

 

デスシーフを容易く倒せる以上、下手に斥候を出す事は出来ない。もしかしたら友好的な相手かも知れないが、この耕作地にいた面子を考えるとそれは望み薄かも知れない。最悪敵対して敵わない相手であっても逃げ切れるだけの対策をしてから、面と向かって会う事にした。

 

 

(感知した様子だと近付いているのは2人…《浮遊視界(フローティング・アイ)》)

 

 

モモンガは魔法で眼を飛ばし近づいている2人を確認する。対探知や対感知魔法に反応がないようだ。どうやらそこまで高レベルではないかも知れない。

 

 

(感知や探知対策は必須だからなぁ……お?見えた見えた)

 

 

《浮遊視界》で捉えた2人の内、1人は女性でもう1人は大柄な巨軀の男性?だった。装備は見たところによるとモモンガが今まで見てきた冒険者達の装備よりずっと高品質のモノのようだ。

 

 

「流石に話し声までは聞こえないか。見た感じあの耕作地の人間では無さそ…ん?待て、じゃあこの放火は彼女たちが仕掛けたのか?」

 

 

そうなると少し聞きたいことが出てきた。素直に応じてくれるかは分からないが、取り敢えず話だけでもしようと思う。

 

 

「レベルは…女が27、男性?が26か。雑魚ではあるが現地基準で比較すると高い部類に入るな。いや、待てよ?彼女達がデスシーフを倒したというのなら2人のレベルでは結構難しいぞ?」

 

 

いや、倒す事自体は不可能では無い。しかし、やられたデスシーフは反撃はおろか気付くことも出来ずにやられたのだ。そうなるとレベルが20後半程度のあの2人では普通に考えれば不可能。つまりデスシーフを倒したのはあの2人ではない。

 

 

(他に仲間が…?そして、ソイツがデスシーフを?)

 

 

もしそうなのであれば真に警戒すべきはソイツだ。そして、彼女達の敵対する事はソイツも此処に呼び出すことにも繋がる。やはり敵対はなるべく避けるべきだろう。それに1人とは限らない。

 

 

「ん?…おい」

 

「えぇ、分かってる」

 

 

どうやら2人も此方に気づいたようだ。この見た目である為、当然の事だが警戒心に満ちた眼を此方に向けている。

 

と、同時にまた別なのが感知魔法に反応した。反応は2つ。ソイツらはモモンガの左右の草むらに身を隠すように待機していた。

 

 

(新たに出た2つの反応は隠密系か……あまり大した事は無さそうだけど、あの2人を狙う様子は無い。つまり彼女達の仲間か?)

 

 

その2つのレベルも看破してみるが同じどちらも22レベルと、この世界基準では高いがデスシーフを瞬殺出来る程では無い。

 

 

「よぉ、ガタイのいいニイちゃん」

 

 

巨漢の男が話しかけて来た。若干高めなハスキーボイス…え?まさか女?

 

 

「こんな夜更に此処に一体何の用だい?」

 

 

モモンガは空を見上げながら答えた。

 

 

「いえ、今日は満天の星空でしたので…夜道の散歩をしていました、と言えば納得してくれますか?」

 

「残念だが納得は出来ねぇな…おまけにその身なりとなりゃあ尚更だ。どう見たって気晴らしに夜の散歩に出掛けて行くモンじゃねぇよ」

 

 

あ、多分女だ。

重武装をした女戦士がニヤリと薄く笑いながら、巨大な刺突戦鎚(ウォーピック)を両手に持ち構えてきた。どうやらヤル気満々みたいだ。まぁこの見た目じゃしょうがないと思いながらも一応敵対の意思は無い事を伝える。

 

 

「実はこの近辺である商品の取引が頻繁に行われててよぉ……俺はお前がそれに関わってんじゃねぇかなって思ってんだわ」

 

「待ってくれ。俺は君達と争う気は無い。こんな身なりでは信用出来ないと思うだろうが本当だ。」

 

 

モモンガは両手を見せて敵意がない事を伝える。女戦士は相変わらず警戒を緩めない。まだ様子見と言ったところだろうが、飛び掛かれるより遥かにマシだ。

 

 

「君達も隙を見て私を拘束ないし仕留めようと言うのなら無駄だと言っておこう。何度も言うが私は君達の敵ではない」

 

「ッー!!」

 

 

この発言により目の前の2人の緊張が一気に跳ね上がったようだ。そこへ隠れていた2人が現れた。

 

 

「どうやって見破った?」

 

「只者じゃない。どうする?鬼リーダー」

 

 

現れたのはスラリとした肢体に全身にぴったり密着するような服装をした金髪の女性で、もう1人も非常に酷似した外見をしていた。だがよく見ると見分け易くするためなのか服の紋様やバンダナの色が其々違う事が分かる。

 

1人が赤でもう1人が青だ。

 

何故わざわざ相手にも判別し易い様にしたのか。恐らく仲間内の混乱を避けるためだろうが、顔や背丈がそっくりである事を活かすなら態々見分けられる様な事をするのは愚策なのではないかと思考してしまう。いや、逆に見分け易くする事で相手を欺く事もあり得る。

 

そんな事を考えていると双子から〝鬼リーダー〟と呼ばれていた女性が一歩前へ出てきた。所々にユニコーンの装飾が刻まれ、白銀と金によって造られた少し変わった形状の全身鎧を身に纏っている。

 

 

「敵では無いと言うのなら…先ずは貴方がそうで無いという証明を見せて」

 

 

力強い彼女の言葉に逆ら事はせず、モモンガは背中に備えていたグレートソードを抜き取ると2本とも地面へと突き立てた。

 

 

「私はエ・ランテルで冒険者をしている者で、名前は〝モモンガ〟と言う。階級は…」

 

 

モモンガは首に下げていたアダマンタイト製の冒険者プレートを彼女達からも見え易い様に掲げると、彼女達は驚愕の表情を見せた。

 

 

「ッ!!あ、アダマンタイト!?」

 

「私は紹介は終わりました。次はそちらの番です」

 

 

リーダーの女性は視線を落とし、少し考え込んだ後に口を開いた。

 

 

「私はー」

 

「ラキュゥゥゥゥス!!!!」

 

 

突然、何処から聞こえて来る大声。それに真っ先に反応したのはリーダーの女性だった。彼女は直ぐに横へ跳び退き、他のメンバーも一斉に散って行った。

 

そこへ光り輝く水晶の槍がモモンガ目掛け飛来して来るのが見えた。モモンガは直ぐにそれが魔法的な攻撃である事を察し、地面に突き立てた大剣の1つを抜き取ると腹の部分を盾にして、水晶の槍を防いだ。

 

 

「……レベル55」

 

 

水晶の槍の魔法攻撃を仕掛けてきた相手のレベルは素早く査定する。あの触手のバケモノには及ばないが、この世界では上位に位置するレベルだ。間違いない、デスシーフを倒したのはソイツだ。

 

そして、ソイツは現れた。

 

《飛行》を使っているのだろう空中に浮いているソイツはフード付きの真紅のマントで身体を覆う様身に纏い、少し変わった仮面を被り素顔を隠していた。

 

 

「イビルアイ…!!」

 

 

リーダーがソイツに向かいそう叫ぶ。ソイツはどうやら〝イビルアイ〟という名前らしい。

 

 

「ラキュース、気を抜くな。奴が冒険者だと言うのも、アダマンタイト級だと言うのも信用出来ない」

 

 

声が女性なのか男性なのか…若いのか若くないのかの判別が出来ない。恐らく装着している仮面の効果だろう。するとイビルアイと名乗る人物は此方に向けて指を差してきた。

 

 

「貴様……人間ではないな?貴様からはアンデッドに近い気配を僅かだが感じるぞ」

 

 

その言葉に周りの空気が一瞬で張り詰めた。

周囲から向けられてくる敵意に満ちた視線に対しモモンガは静かに上空で停滞している小柄な魔法詠唱者を見据えていた。

 

 

「アンデッドの気配に加え、その只ならぬチカラ…フッ、そうか…お前が〝不死王〟デイバーノックだな!!」

 

 

モモンガは心の中で呟く。

 

 

(何言っとんのコイツ?…〝千本ノック〟?)




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