100歳のエレン・プロッサー(通称ネル)さんが、英オックスフォード大学と英製薬大手アストラゼネカが共同開発した新型コロナウイルスワクチンの接種を受ける。2021年1月7日、英ロンドン南東部シドカップにあるサンライズケアホームにて。(PHOTOGRAPH BY KIRSTY O'CONNOR, POOL, AFP VIA GETTY IMAGES)
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 新型コロナウイルス感染症の症例が報告されてから1年以上が経過した今、公衆衛生当局は新たな脅威に直面している。変異株だ。12月には英国で初めて「B.1.1.7(20I/501Y.V1)」が、同じく12月に南アフリカで「501Y.V2」が、そして1月13日にはブラジルで「P1」が確認された。

 これらの変異株の致死率が従来株よりも高い証拠はない。しかし、突然変異によってウイルスのスパイクたんぱく質(人間の細胞に取り付く部分であり、ワクチンの標的となる)が変化し、感染力が高くなっている可能性はある。

 米ジョンズ・ホプキンス大学によると、新型コロナによる死者は1月15日までに世界で200万人以上が確認されている。変異株をなおざりにすれば、感染がこれまで以上に急速に拡大し、死者がさらに増加するおそれがある。(参考記事:「次々と見つかる新型コロナ変異株、原因と対策は?」

 しかし、既存の新型コロナワクチンは免疫系に多面的に働きかけ、変異株のウイルスに対してもある程度の防御効果を発揮するとの証拠が、世界中でワクチンの接種が進むにつれて得られるようになってきた。

「変異株ではスパイクたんぱく質に変化がありますが、ワクチンの効果がなくなるほどではありません」。米食品医薬品局(FDA)のワクチンおよび関連バイオ製剤に関する諮問委員会で委員長代理を務めるアーノルド・モント氏は、1月11日に行われた米国医師会雑誌「JAMA」のインタビューでそう語った。「現在のワクチンが効くようですし、数週間後にはより明確にわかるでしょう」

 ウイルスの進化を遅らせ、変異させないためには、ウイルスの拡散を防ぐ行動を続けることが重要だと専門家たちは言う。つまり、マスクを着用し、手を洗い、ソーシャルディスタンスを保ち、そしてできるだけ早く予防接種を受けることだ。

「変異株を既存のワクチンでカバーできないという証拠は今のところありませんし、そもそも変異株の出現を阻止する方法は、ウイルスを封じ込めることに尽きます」と、米製薬大手ファイザー社のワクチン研究部門でウイルスワクチンの最高科学責任者(CSO)を務めるフィリップ・ドーミッツァー氏は述べる。「世界でウイルスが複製される回数が減れば減るほど、変異株の発生は少なくなります」

 もしワクチンに耐性をもつ変異株が出現した場合でも、現行のワクチンに調整を加えることで、どんな新しい変異にも対応できると氏は付け加える。

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