新型コロナウイルスの迅速検査のため、検体を採取するドイツ、オルデンブルクの老人ホームの看護師。(PHOTOGRAPH BY HAUKE-CHRISTIAN DITTRICH, PICTURE ALLIANCE VIA GETTY IMAGES)
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 2020年1月19日、ひとりの男性が米ワシントン州シアトル地域の救急クリニックを訪れた。男性は、中国の武漢に住む家族を訪問した後、せきと発熱が数日間続いていると訴えた。新型コロナウイルスの感染拡大を警戒していた地元の保健当局は、すぐに米疾病対策センター(CDC)と連携し、患者の検査を実施。採取された検体は、遠くジョージア州アトランタにあるCDCの研究所まで空路で運ばれた。

 翌日の20日、検査結果が陽性と判明し、米国初の新型コロナ感染例が確認された。

 そのとき以来、米国では新型コロナ検査が3億件近く実施されてきた。バイデン新政権は、省庁の連携と予算の増額により、さらに検査を拡大すると宣言している。

 新型コロナ感染症のような呼吸器疾患において、検査は対策の柱だ。ウイルスがどこでまん延しているかを特定し、接触者の追跡や隔離といった感染拡大防止策をいつ、どこで実施すべきかについての情報も得ることができる。

 米国における新型コロナ検査の現状と今後の検査体制の見通しについてまとめた。

月に約2億5000万件を3倍に

 2020年3月、CDCを視察したトランプ前大統領は、「必要とする人は誰でも検査を受けることができる」と語った。当時はそれは真実ではなかったが、その後、検査体制は改善した。

「もう誰でも検査が受けられるようになったという一般認識があるようですが、まだその段階ではありません」。メリーランド州にあるジョンズ・ホプキンス大学健康安全センターの感染症専門家アメッシュ・アダルジャ氏はこう話す。「つい2週間ほど前にも、疑わしい症状が出たテキサス州の友人がPCR検査を受けようとしたのですが、空きがなくて予約できなかったそうです」

 PCRとはポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)の略で、微量にある特定の遺伝子を増幅させる手法だ。通常は研究施設で実施され、米国で承認された新型コロナの検査方法としては最も一般的になっている。

 ロックフェラー財団と協力して検査状況を調査しているアリゾナ州立大学の生物医学的診断学教授マーラ・アスピノール氏も、検査件数は増加しているものの、なんとか間に合っている程度だと言う。氏の試算によれば、現在、米国では1カ月に約2億5000万件の新型コロナ検査が実施可能な体制にある。

 4月には検査能力が3倍以上に拡大し、1カ月に7億5000万件以上の検査が可能になるかもしれない。そうなれば全国的に安定した検査体制が整うはずだ。だがそのためには、さらに多くのメーカーが米食品医薬品局(FDA)から検査キットの承認を得る必要があるとアスピノール氏は話す。

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