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追放されたけど、スキル『ゆるパク』で無双する 作者:篠浦 知螺
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ゆるパクのスキルで万能です

 野鳥の丸焼き、ライス無しでは健全な高校生の胃袋は満足しないが、他に食べられそうな物は無い。

 物足りなさを感じつつも、一夜を明かす場所を探した。


 野鳥を調理した場所の近くでは、匂いで危険な生物が寄って来そうなので、30分ほど更に歩いて洞窟のような場所を探したが、そんなに都合良く見つからなかった。


「まぁ、当然だよな。岩場ならともかく、森の中じゃなぁ……」


 人が全く踏み込んでいない森とあって、大人が五人ぐらい手を繋いでも幹を囲えそうもない巨木とかが生えている。

 そうした大きな木が倒れ、中が腐って空洞になりかけている物もあったが、蟻とか何かの幼虫とかが蠢いていて、中に入って眠る気にはなれなかった。


 昼間は制服のブレザーを着ていると、汗ばんでくるほどの陽気だったが、日が傾いてくると急に気温が下がってきた。

 凍死するほどではないが、屋外で眠っていたら風邪を引きそうだ。


「はぁ……どうすりゃいいんだよ。人がいないんじゃ家なんてあるはずない……あれっ? 確か土属性魔法もカンストしてたよな」


 ゆるパクのステータスを開いてみると、土属性魔法はレベル9だ。


「洞窟が無ければ掘れば良い。家が無ければ建てれば良いんじゃね?」


 別に一生暮してく家を建てる必要は無い。

 今夜一晩、雨風をしのげて、暖を取れれば十分だ。


「となれば、どこに建てるかが問題だな」


 日本で家を建てる場合、土地代に制限が無いならば、利便性に加えて、日当たりが良く、安定した地盤で、土砂崩れや水害の心配の無い場所を選ぶだろう。

 だが、ここは異世界の森の中だから、まず最初に考えるのは身の安全だ。


 これまでに出会った野生動物で、一番大きなものは鹿だった。

 鹿がいるならば、鹿を狙う動物がいたっておかしくはない。


 それに、異世界ともなれば、いわゆる魔物が出没したっておかしくないだろう。

 そして、猛獣や魔物は夜行性で、真夜中に狩りを行うというのがファンタジーの定番だ。


 色々と考えながら歩き続けていたが、結局、丘の斜面に横穴を掘って、一夜の宿を作ることにした。


「ディグ! って、木の根か……」


 土属性魔法を使って、土を押し広げるようにして横穴を作った。

 このやり方ならば、穴を開けると同時に押し固められるからだが、出来た穴の中にはビッシリと木の根が残されていた。


「ウインドカッター! うげぇ、埃が……」


 風属性魔法で木の根を切り刻んで吹き飛ばしたのだが、避け方が足りずに湿った木屑を頭からかぶってしまった。

 風属性魔法で自分の身体をブロアーして、埃を吹き飛ばした。


 とりあえず、幅2メートル、高さ2メートル、奥行き10メートル程の横穴が完成したが、もう日が暮れそうだ。

 雨風はしのげそうだが、獣や魔物が来たら素通り状態だ。


「土属性魔法を使えば、扉も作れそうだけど、材料の土を掘り出さないと駄目だよな。掘り出したとして、持って来るのが大変そう……あっ、良いことを思い付いた」


 横穴を空けた斜面を降りて木の少ない場所を選び、土属性魔法で土を掘り起こし、土人形を作った。


「よし、マイホームまで歩け!」


 掘り起こした土を持って来るのが大変ならば、自分で歩かせれば良いのだ。

 身長が2メートルぐらいあるゴーレムを六体生成し、横穴の前まで歩かせ、ドアに姿を変えさせた。


 完成したドアは、一枚の土壁にしか見えない。

 厚さは20センチぐらいあり、土属性魔法の硬化も施してあるので、強度も十分だろう。

 窒息すると不味いので、通気穴は開けてある。


「よし、開けてくれ」


 ドアノブを付けていないのは、ドアに姿を変えてもゴーレムのままだからだ。

 ドアの作成に使ったのは五体で、残りの一体は警備用として残しておいた。


 これで、危険な外敵から身を守れる体制は整ったが、横穴の中があまりにも殺風景だ。

 と言うよりも、眠るにしても少し寒いし、床が硬すぎる。


 横穴の壁を少し窪ませ、そこから上に向かって縦穴を作った。

 また縦穴の中は、木の根っこだらけだが、今度はそのままだ。


 一度、横穴の外にでて、枯れ枝などの薪を拾い集め、護衛用のゴーレムに持たせて運ばせる。

 次に、比較的柔らかそうな葉の木を選び、風属性魔法で切り飛ばして集め、これもゴーレムに運ばせる。


 集めた柔らかい木は、一度水属性魔法の水球の中に突っ込んで、葉についた虫を洗い落とす。

 葉を飛ばさないように気を付けながら、風属性魔法と火属性魔法を組み合わせて乾かして、横穴の中へ積んで寝床を作った。


「あぁ、暖炉なんか作らなくても、火属性魔法で暖めれば良かったのか……」


 暖炉に薪を組んで、火属性魔法で火を着けてから気付いたが、火は明かりにもなるのでそのまま燃やし続けた。

 半日ぐらい歩き続け、慣れない魔法を使い続けたせいいだろう、いつもとは違う疲労感を覚えている。


 水属性魔法で作った水球で喉を潤し、枝葉で作った寝床に横になった。

 なるべく柔らかそうな木を選んだが、お世辞にも快適ではなかったが、疲れもあってすぐに眠りに落ちていった。


 どれくらい眠っていたのか分からないが、目覚めた時には暖炉の火は消えて辺りは真っ暗闇だった。

 かなり寝惚けていたが、枝葉で作った寝床の上だと気付いて、ようやく状況を把握する。


「えっと……明かり」


 本当に魔法は便利なものだ。スイッチを探さなくても明かりが灯り、眩しいと思えば自動で明るさを落としてくれる。


「うー……ちょっと小便。えっと……探知、千里眼、よし、開けて」


 扉の外に外敵がいないのを確認して、横穴の外に出ると、夜が明けようとしていた。

 誰にも見られていないので、開放的な気分で用を足し、水属性魔法で水球を作って顔を洗った。

 魔法を使えばタオルも必要ない。


 ピーンと冷えた朝の空気は、濃密な緑の香りに溢れ、厳粛な気分にさせられる。

 一夜を無事に過ごせたが、解決すべき問題は山積みだ。


「とりあえず、食料の確保と、寝床は何とかしたいな。朝飯を探しながら、出発するか」


 横穴を持って行くのは不可能だが、扉に使ったゴーレムは、再び人型に変形させて護衛として連れて行くことにした。


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