経団連会長、日本の賃金「OECDで相当下位」 春季交渉
経団連の中西宏明会長は27日、連合の神津里季生会長とオンラインで会談し「日本の賃金水準がいつの間にか経済協力開発機構(OECD)の中で相当下位になっている」と語った。26日に開いた労使フォーラムによって2021年の春季労使交渉が始まり、連日で労使トップが意見を表明した。経団連は新型コロナウイルスの影響で一律の賃上げ方針は見送ったが、業績の堅調な企業には積極的な対応を求める。
中西氏は賃上げについて「首相から賃上げのモメンタム(勢い)を維持してほしいと言われる前から、危機感を持っている」と強調した。菅義偉首相は20年12月の経済財政諮問会議で賃上げの継続を経済界に求めていた。古賀信行審議員会議長(野村ホールディングス特別顧問)は記者団に「従業員になるべく報いていく。こんなときこそ(賃金を)上げられるところは上げよう」と語った。
連合の神津会長は「平均賃金は先進諸国と1.5倍前後の開きがあり、国内総生産(GDP)でもかつて15%程度だった日本の比率は6%程度に下がった」と主張。デフレ脱却に向けても「14年からの政労使での賃上げの流れ」を継続するよう求めた。
観光や飲食業を中心に経営が厳しい企業も多いなか、今回は労使ともにメッセージの発信方法で苦心している。連合が求める2%程度の賃上げについて、経団連は業種横並びでの達成は「現実的でない」とみている。
経団連は「働きがいと働きやすさの実感」もテーマとして掲げる。コロナを機に広まったテレワークでの生産性向上や人事評価、労働側が求めるハラスメントの解消などを各産業や企業で話し合っていく。職務範囲を明確にして成果で評価する「ジョブ型雇用」については、労働市場の活性化に向けて経団連が普及をめざす。連合は、特定の職種で人件費の固定化につながらないよう慎重な議論を求める。今回の春季交渉は3月17日に集中回答日を迎える。
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- 山本由里日本経済新聞社 マネー編集センター マネー・エディター分析・考察
「卵が先か、鶏が先か」の議論ですが家計の復活なくして日本経済の復活もありません。長引く超低金利は家計セクターに環流するはずだった運用利回りを奪い代わりに企業・国は低金利での資金調達を享受しました。ひところ非難された「厚すぎる」企業の内部留保もコロナ禍ではバッファーとして再び頼りになる存在として認められ賃上げへの逆風は強いです。しかし一方でコロナは行き過ぎた株主至上主義にストップをかけ「人を大事にする」経営の重要性が再認識されたのもたしか。この春、経営者のかじ取りに注目です。それにしても中西会長の「いつのまにか……」という慨嘆には同感です。
(更新) - 小平龍四郎日本経済新聞社 編集委員別の視点
「人的資本の蓄積」という意味では賃金の性格は決して「コスト」だけではないはずです。「投資」の側面に注目すれば、支払うべき人材には惜しみなく支払う、支払える企業は積極的に支払うというのは当たり前。業界で横並びの設備投資計画がナンセンスであるように、業界一律の賃金引き上げ(下げ)も意味をなしません。人への支出をいかに認識すべきかは、会計の世界でも議論が進んでいます。
(更新)
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