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2020年2月10日(月)

失われる土 食糧不足の恐れも

穀物や野菜、果物など、私たちに豊かな自然の恵みをもたらしてくれるもの。
それは、土です。



長い時間をかけて栄養分を蓄えてきました。

そんな肥沃(ひよく)な土が今、世界各地で失われ、深刻な食糧不足に陥る可能性も指摘されています。
私たちの食生活を支えてきた土に、いったい何が起きているのか。
実情に迫ります。

11%の土

松田
「特集ワールドEYES(アイズ)。
けさは、私たちの食生活を支える、肥沃な土についてお伝えします。

スタジオには、森林総合研究所 主任研究員の、藤井一至(ふじい・かずみち)さんにお越しいただきました。
藤井さんは、世界中の土の成り立ちと持続的な利用法を研究されています。

きょうは肥沃な土について、こちらの4つのポイントに沿って見ていきたいと思います。
まずは1つ目、『11%の土』。
これはどういう意味なんでしょうか?」

森林総合研究所 藤井一至さん
「こちらをご覧ください。
実は世界にはたった12種類の土しかないんです。」

松田
「12種類ですか。
世界は広いですけどね。」

藤井一至さん
「そうなんです。
この中のどの土が、作物を作るのに適した肥沃な土だと思いますか?」

松田
「日本の畑とか田んぼだと、黒い土が多いですよね。」

藤井一至さん
「日本の土もそれなりに肥沃なのですが、世界には上がありまして、肥沃な土はこの3つ。
『チェルノーゼム』『粘土集積土壌』『ひび割れ粘土質土壌』。
いずれも中性に近い土です。
土にも酸性、中性、アルカリ性という3つの性質があります。
酸性だと、栄養分が流されてしまいやすい。
アルカリ性だと、塩分がたまってしまう。
中性の土は、作物に栄養分が届きやすく、よく育つので肥沃と言えます。」

松田
「日本の土は?」

藤井一至さん
「日本の土は酸性なので、雨でどうしても栄養分が流されてしまいやすいという問題があります。」

松田
「肥沃な土というのは、どのように分布しているのでしょうか。」

藤井一至さん
「肥沃な土は、北米プレーリー、ウクライナ、中国の黄土高原、あるいはインドのデカン高原などに局在しているんです。」

松田
「それぞれ、どういうふうにできたのですか?」

藤井一至さん
「土にはそれぞれ由来があって、氷河期に氷河が大地を削って、その細かい土が風に運ばれて積もったものが、北米プレーリー、ウクライナ、中国の黄土高原。
デカン高原の土は、大噴火によってできた溶岩が削られたもので、ミネラルが豊富です。」

松田
「そういう土を足すと、11%になるということですか。」

藤井一至さん
「そうなんです。
世界の12種類の土の中で、肥沃なのは3種類。
それらの陸地面積はたった11%しかありません。
その土地で、世界人口のおよそ8割にあたる60億人を養っています。」

松田
「人類は、肥沃な土地の恩恵を受けて繁栄してきたということですね。」

失われる肥沃な土

松田
「次に2つ目のポイントは、『失われる肥沃な土』。
どういうことでしょうか?」

藤井一至さん
「ひとことで言うと、人間の活動によって肥沃な土が犠牲になっているということです。
こちらをご覧ください。

アメリカのプレーリー地帯では、小麦やトウモロコシが大規模に生産されています。
そこにはチェルノーゼムという肥沃な黒い土があって、栄養分をたっぷり供給していますが、その土が薄くなってきています。」

松田
「半分くらいになっていますね。」

藤井一至さん
「ここ100年の間にアメリカの肥沃な土の半分が失われました。
原因は、1920~30年代、アメリカが第一次世界大戦中のヨーロッパに食糧を輸出し、荒稼ぎしたこと。
それを可能にしたのが、農業の機械化です。

トラクターによって広大な草原が次々に耕され、草原を失った肥沃な土はむき出しになり、風に飛ばされて失われました。
この現象は『風食』といって、肥沃な土が失われている原因の1つです。」

松田
「ほかの原因は何でしょうか?」

藤井一至さん
「もう1つは、ウクライナの事例です。
ウクライナは国土のほとんどが肥沃な土。
小麦の世界有数の生産国で、『ヨーロッパのパンかご』と言われるほどです。
そこにインドや中国の買い手が殺到。

『グローバル・ランド・ラッシュ』と呼ばれる、肥沃な土の争奪戦が起きています。
肥沃な土の農地が安値で売りに出されました。
しかし、自分の土地ではないので使い方がわからない。

土を管理する知識・技術不足により肥沃な土がやせてしまう。
そうすると地下水が持ち上がり、黒かった土が白くなる。
塩がたまって作物が育たなくなる。
これは『塩類集積』という現象です。
1メートルの土を作るのに、数万年かかると言われています。
その土が、40年前に比べて33%減少したのです。」

食糧の危機

松田
「続いては3つ目のポイント、『食糧の危機』。
これはどういうことでしょうか。」

藤井一至さん
「このままのペースで肥沃な土が失われていくと、2050年には食糧の収穫量が20%減少すると予測されています。
この百数十年で人口が20億人から70億人に増えて、その人たちを養うために、土を無理に耕してきました。
さらに、その土地を奪い合うということも起きてしまいました。

これは過去のことではなくて、世界的には100億人まで人口が増加します。
そこまで人口が増加したら、さらに土を酷使してしまうことが心配されています。
人は増えるのに肥沃な土は減っていき、そうすると深刻な食糧不足が起きてしまうと予測されています。」

100億人を養うために

松田
「世界の人口が100億人に達する2050年まで、あと30年です。
最後のポイントは、『100億人を養うために』。
私たちはどうすればいいのでしょうか?」

藤井一至さん
「今ある限られた肥沃な土を維持していくということと、肥沃ではないとされている土を活用する技術を確立していくことです。

農業と言えば耕すものという常識がありますが、アメリカでは、耕したから土が悪くなったんだということで、耕すのはやめようという、『不耕起栽培』が広がっています。
作物を収穫した後に、普通だとワラをすき込みますが、すき込むのをやめて地面にそのまま置いておくことで、土を肥沃にしていこうというやり方です。」

松田
「では、どうすれば残りの89%の土を、いい土にできるんでしょうか?」

藤井一至さん
「わたしが研究しているインドネシアの土は酸性で、肥沃な部分の厚さが3センチしかないところです。
そこでは伝統的に焼き畑農業が行われています。
1年収穫したら数年休ませて、回復したら畑に戻すというサイクルが必要なのに、毎年、収穫してしまうという問題があります。」

松田
「人口が増えていることが関係しているんですか?」

藤井一至さん
「人口が増えて余裕がなくなると、ダメになった畑を耕せないから、また新しく森を切り開くという悪い流れになっています。
実際に現地に行ってみると、雑草とか邪魔になっている木がたくさんあります。
その落ち葉などを土にまけば、土を回復させることはできるということを提案しています。」

松田
「それは効果があるんですか?」

藤井一至さん
「もともと栄養分が3センチしかない土が、20センチぐらいになるということを実際に見せて、農家の人に薦めています。
ただ土をよくしてくださいと言っても、なかなかできる話ではありません。
彼らの生活も考えて提案していくということを、私たちはやっていかなくてはならないと思っています。」

松田
「私たち日本人ができることは何でしょうか?」

藤井一至さん
「日本では水稲耕作によって、2000年もの間、肥沃な土が維持されています。
これを守って行くことが、日本人としては大切です。
土はどこにでもある、ありふれたものという認識がありますけど、限られた資源です。」

松田
「確かに、あまり考えたことはなかったですね。」

藤井一至さん
「土とどうつきあっていくのかは、私たちみんなの課題です。
関心を持ってもらえるとありがたいなと思っております。」

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