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追放されたけど、スキル『ゆるパク』で無双する 作者:篠浦 知螺
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異世界の沙汰は力次第

 時間は少し遡る……アルマルディーヌとオミネスが戦闘状態に入ったのを、兵馬は千里眼を使ってその日の昼には察知していた。

 チャベレス鉱山で行っていた首輪の無効化作業を一旦中断し、樫村と共にダンムールまで戻って来た。


 急いで里長の館へと飛び込んで、ハシームへ面会を求めた。


「ハシーム、アルマルディーヌとオミネスが戦闘に入った」

「何だと、場所は? 今の状況は?」

「場所はノランジェールで国境の橋を挟んで対峙していたが……ちょっと待ってくれ、今の状況を見る」


 千里眼のスキルを使えば遥か遠くの状況を確認出来るが、その方角に目を向けて、距離を合わせる必要がある。

 言ってみれば、超超超望遠レンズで被写体を探すようなものだ。


「まだ橋を挟んでの攻防が続いているようだ、街の一部が燃えているが……さっきよりも攻撃魔法の頻度は減っているように見える」

「おそらく、街の被害を食い止める側に人出が割かれているからだろう。よし、我々もオミネスの助太刀をするぞ」

「それなんだが、樫村達を参加させてもらえないか?」

「イッテツもか?」

「頼む、僕らも部隊に加えてくれ」


 樫村と一緒に参加を希望しているのは、田川康弘、小川亮、鏑木紘一、鶴田直哉の4人で、いずれも剣術か槍術でレベル5以上のスキルを持っている者ばかりだ。


「ふむ……うちの連中と手合せを繰り返している連中だな?」

「そうだ、奴隷解放作戦に同行を希望する連中の他に、アルマルディーヌの連中に一矢報いたいと思う中から、サンカラーンの戦闘についていける者を選んだ」

「死ぬ覚悟は出来ているのか?」

「出来ていない。何しろ戦場に出た経験の無い者ばかりだからな。だが、誰だって初陣を経験しなければ本物の戦士にはなれないはずだ。おそらく、僕達の中には醜態を晒す者も出るだろう。それで心が折れて戦えなくなる者いるかもしれない。だけど、それでも、この世界で生きていくには、武器を手にするべきだと心を決めた者ばかりだ。連れて行ってくれ、導いてくれ、共に戦わせてくれ」


 樫村は、戦いを前にして変に気負う訳でもなく、淡々と自分の意志を打ち明けた。


「良かろう。我らと揃いの鎧を与える。同士討ちなどせぬように、出立までに打ち合わせを行え。ヒョウマ、ちょっと使いを頼めるか?」

「あぁ、構わない。ビエシエのところか?」

「選りすぐりの精鋭を50人ほど連れてまいれ」

「50? 少なくないか?」

「ふふん。儂とて頭を使って考えることはある。良いから少数精鋭を引き連れてまいれ」

「分かった。じゃあ樫村、こっちの打ち合わせは頼んだぞ」

「あぁ、任せておけ」


 ヒョウマは再び千里眼のスキルを使ってマーゴの里を視認して、里近くの街道の上へと空間転移した。

 最近は、王国に潜入する機会も無いので、もっぱら竜人の姿で過ごしているので着替える必要は無い。


 獣人族の国サンカラーンにあっても珍しい竜人の姿とあって、マーゴの門番はヒョウマを覚えていたし歓迎してくれた。

 門番の1人は、先日ヒョウマと手合せを行った若手だった。


「ヒョウマ殿、良くぞ見えられた。いよいよ救出作戦を始めるのですか?」

「いや、そちらはまだなんだが、アルマルディーヌとは戦闘になるかもしれない」

「なんですって。では、マーゴからも戦力を出した方がよろしいのでは?」

「あぁ、それについてビエシエ殿に相談に参った」

「そうでございますか。では、ご案内いたします」

「頼みます」


 門番の案内で里長の館に出向き、これまでの経緯を説明すると、里長ビエシエは凄みのある笑みを浮かべた。


「ふふふ、これほど早く出番が来るとは思っていなかったが、50人と言わず、100人でも200人でも用意するぞ」

「有難い。だが、何やらハシームに考えがあるようなので、精鋭中の精鋭を50人お借りしたい」

「良かろう。ガルシエ、上から50だ、すぐに集めよ」

「はっ!」


 ビエシエは、息子のガルシエに精鋭を集めるように指示すると、宰相を務めているセルロスに留守中の守りについて命令を下した。


「まさか、ビエシエ殿も行かれるつもりですか?」

「当然であろう。積年の恨みを晴らせる機会、逃すという手は無いだろう」


 獣人族の戦士の思考で考えてみれば当然の結果なのだろうが、兵馬は苦笑いを禁じえなかった。


「そうだ、忘れるところだった。今回の戦いなんですが、俺の仲間の一部も参加します」

「ヒョウマ殿の仲間ならば歓迎……そうか、お仲間は人族であったな」

「はい、ダンムールで戦闘中に同士討ちにならないように打ち合わせを行っていますが、マーゴの皆さんにもご配慮を賜りたい」

「承知した。マーゴを出立する前に言い聞かせよう」


 30分ほどの後、里長の館の前には50人のマーゴの戦士が整列していた。

 赤く染められた揃いの革鎧に身を包み、大剣や戦斧、戦槌などの思い思いの武器を携えている。


 そして全員が、真っ青に染め抜かれた布を両腕と額に巻いている。


「ビエシエ殿、あの青い布は?」

「あの青い布は、希少な鉱石を砕いて染めたもので、マーゴの戦士の誇りを表すものだ。ダンムールでは黄色い布を使っているはずだぞ」


 サンカラーンでは、部族ごとに異なる希少な染料を用いた布を仲間同士の印として、身に着けて戦場に向かう。

 50人の戦士を前にして、1メートルほどの台の上からビエシエが訓示を行った。


「聞け、マーゴの精鋭よ! これより我らはヒョウマ殿の助力を得て、憎きアルマルディーヌに鉄槌を下す。この戦いは、ダンムールの猛者とヒョウマ殿の仲間との共同作戦だ。話を聞いている者もいるであろうが、ヒョウマ殿の仲間は人族だ」


 ヒョウマの仲間が人族と聞いて、集まった精鋭に動揺が走った。


「静まれ! 我らマーゴの民は、人族と見たら殺せと教えられて育ってきた。それ故に、人族と手を携えて戦うなど我慢ならんと思う者もいるであろう。そう思うのであれば止めはせぬ、今すぐこの場から立ち去れ」


 ビエシエの言葉が、集まった50人の上にズシっと重しとなって圧し掛かった。

 そこに追い打ちをかけるように、ビエシエは言葉を繋いだ。


「ただし、貴様ら全員、ヒョウマ殿から送られた、角竜、顎竜の肉を堪能したな。あれは、実に美味かった。皆、腹が破れるかと思うほど食っておったよな……? ここから立ち去るのは、あの肉の恩義を踏みにじるのも同然だ。ここから立ち去る、ヒョウマ殿の仲間と共闘出来ないとぬかすなら、貴様らが食ったのと同量の顎竜、角竜の肉を持ってまいれ」


 ヒョウマがマーゴへの手土産として仕留めてきた魔物は、どちらも里総出で倒すレベルであり、ビエシエの言葉は事実上反逆は許さないという意思表示だ。

 それでも、中には不満げな表情を浮かべている者がいる。


 どうしたものかとビエシエが迷いを感じた時に、ヒョウマが進み出た。


「頼みます。俺の仲間にチャンスを与えて下さい。俺達は理不尽に違う世界から連れて来られ、帰ることすら出来ない状態です。俺の仲間は皆人族ですが、サンカラーンの皆さんと手を携えて生きていきたいと思っています。だから、共に戦うチャンスを下さい。お願いします」


 ヒョウマが腰を折って深々と頭を下げると、集まっている戦士に動揺が走った。


「その願い、しかと承った!」


 ビエシエは大声で叫ぶと台上から飛び降り、ヒョウマと肩を並べた。


「この里の誰よりも強き者、この里に極上の糧を与えし者、この里に誇りを示す機会をもたらした者が、こうまでして願っている。それを叶えずしてサンカラーンの戦士と言えるのか、マーゴの精鋭として胸を張れるのか! さきほどの言葉は撤回する、貴様ら1人も立ち去ることは許さん! マーゴの民の誇りを胸に戦え!」

「おぉぉぉぉぉ!」


 その場にいる全ての物が、身体の中で血潮が沸騰するような衝動を抑えきれず、力の限りの雄叫びを上げた。


「出陣する! さぁヒョウマ殿、送って下され」

「了解だ!」


 ビエシエもヒョウマも、この勢いのまま1本の槍となり、アルマルディーヌの陣営に突っ込んで行くつもりでいたが、残念ながらその出鼻を挫かれる。

 ノランジェールでの戦闘が止んでしまっていた。


 ならば夜襲を仕掛けようと主張するビエシエに、ハシームは首を横に振った。


「今回の戦いでは、今まで散々我々が苦しめられてきた、ベルトナールの戦法をアルマルディーヌに味わわせてやるつもりだ」

「では、いつ仕掛けるのだ?」

「アルマルディーヌは、必ず橋を突破しにかかる。あのギュンターが、こんな中途半端な戦いをするとは思えぬ」


 ハシーム曰く、サンカラーンに仕掛けるのは敵対している同士だから何も不思議ではないが、アルマルディーヌとオミネスは友好国だ。

 友好国であるオミネスと戦闘状態になるならば、相応の覚悟が必要になる。


「では、遠からず戦闘は再開すると?」

「アルマルディーヌとしては、長引けば長引くほど不利になる、何らかの策を講じて一気に橋を確保しようと試みるはずだ」


 戦局が自分達の思い通りにならないなど珍しい話ではないのだろうが、一転して待機となったせいで問題が持ち上がった。

 言うまでもなく、樫村たちとマーゴの戦士の間にピリピリとした空気が漂い始めたのだ。


 一気に戦闘に突入して、共に戦っていれば打ち解けたかもしれないが、時間が出来てしまったことで互いを意識してしまったのだ。

 そんな空気を感じ取った樫村が、兵馬に仲介を申し出た。


「麻田、俺達をマーゴの里長に引き合わせてくれ」

「大丈夫なのか? 遠からず戦闘が始まるって言ってるぞ」

「だからこそだ。今の空気のままで戦闘に入るのはマズいだろう」

「まぁな……」

「だが、その前に……」


 兵馬は樫村から別の頼み事をされ、そちらも快諾した。

 付け焼刃なのは否めないが、やらないよりま良いだろう。


 練武場に間借りしているビエシエ達の所へ、兵馬は樫村達5人を連れて行った。

 樫村達は、革鎧こそ身に着けているが、武器は何も持っていない。


 万が一戦闘となった場合には、自分が間に割って入ろうと兵馬は心の準備を整えておいた。

 5人が姿を現すと、練武場の空気が一気に張り詰めた。


「ビエシエ殿、俺の仲間のイッテツ、コースケ、リョウ、コーイチ、ナオヤだ」

「ふむ、若いな……いや、失礼。ヒョウマ殿が桁外れゆえに、勝手な想像をしていた。許されよ」

「いいえ、お気になさらず。僕らのいた世界は争いも少なく、むしろ知識を用いた職種が主の世界でした。肉体的な鍛錬が足りないのは事実です。それでも、アルマルディーヌには一矢報いたい。我々を召喚した事を後悔させてやりたいと思っています」

「なるほど、それほどの思いがあるならば、戦う資格は十分だ」

「ありがとうございます。我々もマーゴの皆さんの勇猛ぶりは話に聞いております。ですが、出来れば自分達の目で、その凄さを見てみたいと思いまして……どなたか、このコーイチと手合せをお願いできませんか?」

「ほほう、我らの力を肌で感じたいと申すのか?」

「はい、是非……」


 樫村の申し出を肉体派のビエシエが断わるはずがない。

 こちらの代表に選ばれた鏑木紘一は、柔道部の重量級の選手だ。


 体格も一番優れているし、先ほど短時間ではあるが兵馬からマーゴの手合せについてのレクチャーも受けている。

 対するマーゴ側は、ビエシエの息子ガルシエが代表として出てきた。


 マーゴで使われていたマワシのような革のベルトは無いので、両者とも革鎧を着た状態で組むこととなった。

 審判は、ビエシエが買って出た。


 鏑木も身長は180センチ近くあるが、ガルシエはそれよも5センチ以上高く見える。

 体重でもガルシエが上回っていそうだし、柔道の場合は組み手争いから入るが、マーゴ式の手合わせは組んだ状態から始める。


 色々と不利な条件だが、鏑木に焦りの色は見えなかった。

 両者がシッカリと組んだことを確認し、ビエシエが合図を出した。


「始め!」

「うりゃぁぁぁ!」


 勝負は一瞬で決した。

 右の上手投げに来るところへ鏑木がカウンターの内股を合わせると、ガルシエの身体はクルっと回転し、背中から練武場の床へ落ちた。


「それまで、勝者コーイチ!」

「おぉぉぉぉ……」

「何だ、今の技は?」

「熟練の身のこなしだったぞ」


 マーゴの戦士達から驚きのどよめきが起こった。

 ガルシエは50人の中で一番強いという訳ではないようだが、それでも負けるとは思っていなかったようだ。


おさ、次は俺が」

「いやいや、俺こそが……」


 マーゴの里を訪れた時の再現のような状況に、俺は頭を抱えそうになったが、樫村としては狙い通りだったようだ。

 この後、マーゴの戦士はアルマルディーヌとの戦いなどスッカリ忘れて、樫村たち5人と手合わせを繰り返していた。


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