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追放されたけど、スキル『ゆるパク』で無双する 作者:篠浦 知螺
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ゆるパク、わが身を助ける 後編

「境界の渡り人? 元は人族? 赤竜から力を奪ったぁ?」


 力較べが終わって、ようやく本題に入れると思ったのだが、自分の身元をキチンと話しておこうとしたら、ビエシエは目を白黒させてしまった。

 まぁ普通の者が聞いたら、ちょっと信じがたい内容ばかりだから無理もない。


「他の者が同じ話をしたならば、一笑に付して里から叩き出しているところだが、胸を合わせた戦い振りに嘘偽りは微塵も感じられなかったヒョウマ殿の話だ、信じるしかなかろう」

「そう言っていただけるのは有難い、これからも嘘偽りなく話を進めさせていだただきます」

「空間転移の魔法をヒョウマ殿が使えるならば、あのベルトナールにも対抗出来るのだな?」

「そのベルトナールですが、俺が毒殺しました」

「なにぃ……」


 俺がベルトナールを毒殺したと話した途端、ビエシエの表情が一変した。

 それまでの上機嫌な表情は消え、瞳には剣呑な光が宿っている。


「なぜだ。それほどまでの力を有していながら、なぜ毒殺などという姑息な手段を選んだ」


 声を荒げてはいないが、返答の内容次第では戦いは避けられないという雰囲気で、周囲の空気が張り詰めていく。


「ベルトナールの殺害は、大事の前の小事だからです」

「どういう意味だ? ベルトナールを殺すなど容易かったと言うのか?」

「いえ、そういう意味ではなく、これから始める計画の妨げになると考えたからです」

「計画? 何をするつもりだ」

「チャベレス鉱山に囚われている獣人族を解放します」

「なんだと! そ、そんな事が可能なのか?」


 ビエシエが俺に向けていた殺気にも似た感情は消え、驚愕に目を見開いている。


「可能なのか……ではなく、可能にするんです」


 樫村が奴隷のリーダー、ドードを説得した時の口調をゆるパクさせてもらって力強く言い切ると、ビエシエは雷にでも撃たれたかのように動きを止めた。


「今、ダンムールの里には、俺と一緒に召喚された仲間がいます。ある日突然この世界へと召喚され、親兄弟とも離れ離れにされ、元の世界に帰る術も無い」

「待て、ベルトナールによって召喚されたなら、奴を殺したら余計に戻れなくなるのではないのか?」


 ビエシエの疑問は当然だし、この件に関しては樫村と何度も話を重ねた。


「仲間の話では、帰る術は無いとベルトナールは断言していたそうです。もし帰る方法があるとすれば、それを餌にして俺達を従わせようとしていたはずです」

「なるほど、ではヒョウマ殿と仲間の者達は帰還を諦めたのだな?」

「今のところは……です。俺はダンムールに根を下ろすつもりですが、他の者達は帰還の方法が無いか探るつもりでいます」

「そうか……だが、なぜヒョウマ殿がチャベレス鉱山の者達を解放しようとするのだ?」

「一つは、俺達がダンムールの一員、サンカラーンの一員として認めてもらうためです。俺は赤竜から力を奪ってこのような姿になりましたが、仲間達は別世界から来たと言っても人族です。その姿のまま獣人族の国で生きていくためには、実績を残して認められる必要があると考えました」


 今日は、無用な混乱を避けるために同行していない樫村が、欠くことの出来ない参謀であることや、今現在も多くの仲間が、チャベレス鉱山を望む前線基地にいると伝えると、ビエシエは微妙な表情を浮かべた。


 戦う意思を示さずに近づいた者でさえ、人族と見れば捕らえ殺してきた里の長だけに、その思いは複雑なのだろう。


「俺達は人族です。でも、他の世界から来たアルマルディーヌとは関係の無い者達です。それでも、この里の人達に受け入れてもらうのは簡単ではありませんよね?」

「確かにヒョウマ殿の言う通りだが、我々が人族を憎むのは何度も信じては裏切られた歴史があるからだ」


 ビエシエが語ったアルマルディーヌとの歴史は、俺の想像を超えていた。

 過去には、友好を標榜する者を受け入れた事があったそうだが、受け入れた者は里に馴染んだ頃に毒薬を使い、半数以上の里人を殺害したらしい。


 この一件が尾を引いて、マーゴの里の者が人族を嫌い、毒殺という手段を嫌う原因となっているそうだ。


「我々も、アルマルディーヌの人族と、オミネスの人族は違うとは理解しているつもりだが、長年里に伝わる話を聞いて育ったせいで感情が受け入れぬ」

「それは分かっているつもりです。ですから、今すぐマーゴに俺の仲間を受け入れてくれとは言いませんが、ダンムールに暮らすことは認めてもらいたい。獣人族と共に暮らす人族もいるのだと……」

「分かった。ヒョウマ殿の仲間がダンムールに暮らすことを、マーゴの里長として認める」


 本当は、マーゴへの来訪も認めてもらいたいところだが、性急に事を運んでも失敗を招くだけだろうから、今はこれで納得しておこう。


「俺達がチャベレス鉱山を解放するもう一つの理由は、ベルトナールの理想をぶっ壊すためです。俺達が召喚された理由は、サンカラーンとの戦いの道具として使うためでした。そもそも、なぜサンカラーンと戦わなければならないかと言えば、拉致した獣人族を奴隷とし、労働力として使うためです。その象徴がチャベレス鉱山です」


 最終的にはアルマルディーヌにいる全ての獣人族の解放を目指すが、最大の課題はチャベレス鉱山と繁殖場の二つだ。

 中でも人数、規模において最大のチャベレス鉱山を解放すれば、サンカラーンとアルマルディーヌの関係は大きく変わるはずだ。


「ヒョウマ殿たちがチャベレス鉱山の解放を目指す理由は分かった、だが、どうやって解放するのだ。それと、我々に頼みがあるというのは、戦力の提供ということか?」

「では、チャベレス鉱山を解放する手順を説明します」


 ビエシエに無効化した首輪の実物を示しながら、俺達が進めているチャベレス鉱山の開放計画を説明した。

 その上で、解放した獣人族を一時的に受け入れてもらえるように協力を頼んだ。


「ふむ……ヒョウマ殿、そのような面倒な手順を踏まなくても、我々を送り込んでくれれば、たちどころに制圧してみせるぞ」

「それは、アルマルディーヌの兵士を殺さずに行えますか?」

「それはどういう意味だ? まさか、ヒョウマ殿は兵士を殺さずにチャベレス鉱山を解放するつもりなのか?」

「はい、この作戦は仲間の樫村が考えたものですが、犠牲を出さずに解放を実現したいそうです」


 ビエシエは、またしても目を見開いて、理解しがたいといった表情を浮かべている。

 人族イコール殺すと考えているマーゴの者からすれば、相手を殺さずに制圧する理由が分からないのだろう。


「樫村は、これは次への布石だと言っていました」

「次への布石……?」

「はい、チャベレス鉱山を解放した後は、繁殖場を解放します」

「なんと……本気か? いや、本気なのだな」


 チャベレス鉱山よりも警備が厳しいと言われている繁殖場を解放するために、『襲われても殺されない』という油断を植え付ける意図があると話すと、ビエシエは二度三度と頷いてみせた。


「なるほど、ヒョウマ殿と参謀殿の意図は分かった。だが、正直に言わせてもらうと、そのような油断は無いと思っておいた方が良いぞ。例え、兵士が殺されようと、殺されまいと、チャベレス鉱山が解放されたという事実は動かぬ。ベルトナールがいなくなっても、ギュンターまで死んだ訳ではない。あの男は一筋縄ではゆかぬぞ」

「やはり、現在の国王は手強い相手ですか?」

「儂らから言わせれば、ギュンターは筋金入りの腰抜けだ。決して力勝負に応じようとしないが、徹底しているだけに手強い相手ではある」


 互いに名乗りを上げて、真正面からの正々堂々の勝負を望むマーゴの者達からすれば、勝負に応じないギュンターは腰抜けなのだろう。

 逆にアルマルディーヌの側から見れば、徹底した合理主義者であり、被害を最小に抑えるキレ者という評価なのだろう。


「おそらくだが、ギュンターはオミネスを疑っているのではないか?」

「オミネスですか? その理由は?」

「それは分からん。だが、ヒョウマ殿の話を聞いた感じでは、チャベレス鉱山の備えは以前と同じ状態にあると思われる。ベルトナールの殺害がサンカラーンによるものだと思っているならば、警備が強化されるはずだ」

「なるほど、ではチャベレス鉱山を解放する好機なんですね」

「あくまでも儂の予想にすぎぬ。現場で見たもの、聞いたもの、感じたものを優先した方が良い」


 ビエシエは、どちらかと言えば深く物事を考えるのは苦手なタイプに見えるが、その一方で直感的に警備の緩さや厳しさを感じているようだ。


「ヒョウマ殿、ベルトナールを殺害したのは何日前になる?」

「そうですね、もう1ヶ月近くになります」

「アルマルディーヌに動きは?」

「元々は、この辺りに襲撃を掛ける予定でしたが、今は喪に服すと言って特に動きは無いようです」


 ビエシエは顎に手をあてて暫し考え込んだ後、ハシームに視線を向けた。


「ハシーム殿、どう思われます。ギュンターならば動いても良い頃合いかと思いますが」

「そうだな。次期国王の最右翼と言われたベルトナールを失ったのに、ギュンターが動かない訳がない。逆に言うならば、動かない期間が長いということは、それだけ大きな計画を進めているとも考えられるな」

「どこに向かうと思われますかな?」

「こちらに来ないならば……カルダットであろう」


 二人の里長の話を聞いて、背中の毛が逆立つ思いがした。


「俺が集めた情報では、一年間はベルトナールの喪に服すという話でした」


 サンカラーンへの遠征が中止となり、サンドロワーヌとノランジェールには守りを固める兵2千人が送られるという話をすると、再びビエシエは考え込んだ。


「いや、こちらへの備えではないな。戦の匂いがせぬ」

「では、カルダットで決まりだな」


 ビエシエとハシームは、アルマルディーヌがカルダットを攻めると確信しているようだ。

 それはたぶん、細かい理屈ではなく、野生の勘、戦士の勘の類なのだろう。


「それは、いつぐらいになりそうなんですか?」

「さぁ、それは儂らにも分からぬが、1年先の話ではないだろう」


 カルダットにはエッシャーム商会をはじめとして、サンカラーンとの取り引きのある商会がいくつもある。

 それに、もしカルダットをアルマルディーヌが占拠してしまったら、サンカラーンとオミネスの交流が断たれてしまう。


 俺達が呑気にチャベレス鉱山の解放を進めている間にカルダットを陥落させられてしまったら、むしろアルマルディーヌの方が優位に立ってしまいかねない。

 どう動くべきか考えに沈んでいたら、ハシームに声を掛けられた。


「ヒョウマ、慌てる必要は無いぞ」

「だが、こうしている間にも……」

「ベルトナールがいなくなったのだ、人は空は飛べぬし、1日に移動できる距離には限りがある。それに、今度は瞬時に兵士を送り込むのは……こちら側だろう?」

「そうか、備えをしておけば、千里眼で異変を察知してからでも間に合うか」


 ハシーム曰く、ノランジェールの橋を渡るのに手こずるであろうし、そこからカルダットへの移動で更に時間が掛かるから、十分に間に合うという話だ。


「我々の戦いは、己の身体を使って行う。防具を着込み、武器を手に持てば、いつでも出陣は可能だぞ」

「ハシーム殿の言う通り、いつでも戦いに行けるし、むしろ戦場に放り込んでもらいたいぐらいだ」


 カルダット侵攻が本当に起こるならば、何とかして止めなければならないが、その為にもチャベレス鉱山の解放は進めるべきだろう。

 そして、チャベレス鉱山の解放こそが、アルマルディーヌに対しての最高の陽動作戦になると言われた。


 ビエシエには、解放した奴隷の受け入れを承諾してもらった。

 ただし、食糧が圧倒的に不足するであろうから、その支援だけは頼まれた。


 更に、ビエシエがもう一つの西の里ノバハとの交渉に同行してくれた。

 おかげで、ノバハの里長カルスアとの交渉は非常にスムーズに進められた。


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