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補聴器を隠さずに魅せる「デコチップ」開発に込める思い

長澤まき

2019/09/29(最終更新日:2020/01/20)



あきさん@彩希(あき)〜Beautiful Ear〜/Twitter

ネイルやアクセサリーのように補聴器もその日の気分や用事に合わせて変えることができれば、どんなに素敵だろうか。そんな思いを実現した補聴器に飾り付けができる部品について、開発を手がけた松島亜希さんに取材した。

補聴器を彩る「デコチップ」が話題に

補聴器デコチップの制作販売を手がける松島亜希さん(@AKI_4351_wa)が9月中旬にTwitterに投稿した、デコレーションされた補聴器に関するツイートがネット上で話題になっている。あきさんは使用者には補聴器を隠したいと思う人が多いとした上で、「私にとってのデコ補聴器・デコチップは『世の中の当たり前』を変えていきたい希望や夢、意志そのもの」とコメントし、デコレーションした補聴器を紹介している。このツイートはネット上で一躍話題に。「素晴らしいアイデア」「逆に目立たせるってのもアリなんですね」「落としてもすぐに見つけられそう」「気持ちが明るくなりそう」「隠す方が多い現状が変わるといいな」といったコメントが寄せられ、2万6000超いいね!を得ている。

補聴器を着せ替えさせるアイテム

あきさんは多くの人に着せ替えを楽しんでもらいたいという思いから、東京都福生市の補聴器専門店・西部補聴器の北村美恵子さんと一緒にデコチップを開発した。補聴器デコチップブランド「彩希(あき)〜Beautiful Ear〜」を立ち上げ、デコチップを制作・販売している。「デコチップ」とは、補聴器や人工内耳の着せ替えチップ。ネイルチップのように取り外せ、その日の気分に合わせて補聴器を着せ替えることができる。現在、補聴器・人工内耳合わせて約50種類のデコチップを販売しているそうだ。
 あきさん@彩希(あき)〜Beautiful Ear〜/Twitter


あきさん@彩希(あき)〜Beautiful Ear〜/Twitter

「もっと気軽なものにしたい」と発案

あきさんは生まれつき重度の感音性難聴で、1歳半頃から補聴器を装用しているそうだ。大学生の頃にレクリエーションなどで子どもと接する機会が多くなったが、その中で親からジロジロ見てはいけないと教えられているのか、子どもがあきさんの耳に向けた視線をぱっと逸らすということを幾度か経験したという。
私にとって補聴器は特別なものではありません。 補聴器も含めて、私自身であるという認識です。 ですから、補聴器や耳のことについて聞かれることに全く抵抗はないのですが、必要以上に気を遣われる場面が多いと感じています。補聴器がもっとポジティブで気軽なものになればと思うようになり、「なんか、それイイね」と話題を引き出せるようにできないかなと考え、デコレーションを思いつきました。 生活をしていたら、仕事もプライベートもあり、時には悲しみごともある。 シーンに合わせて補聴器の装いも手軽に変えたいという思いから、着せ替えチップの開発を始めました。
あきさん@彩希(あき)〜Beautiful Ear〜/Twitter

あきさん@彩希(あき)〜Beautiful Ear〜/Twitter

大失敗を機に補聴器の専門家と連携

当初は、1人でデコチップの制作を始めたという。しかし、思い描くデコチップを作り出そうと試行錯誤する中で、試験的に垂らしたマニキュアで補聴器を溶かすという大失敗をしてしまったそうだ。
あきさん@彩希(あき)〜Beautiful Ear〜/Twitter(溶けてしまった補聴器)

あきさん@彩希(あき)〜Beautiful Ear〜/Twitter(溶けてしまった補聴器)

この出来事を受けて「壊してしまっては元も子もない…」と、補聴器の専門家と連携することにしたという。
ゆくゆくは商品化して、多くの人に届けたいという強い気持ちもありました。そこには、他人の補聴器を間接的に取り扱う責任も発生するんだな…と思ったのも1つです。SNSでデコ補聴器に興味のありそうな人を探す中で、ひときわあふれる熱意を感じられる方が西部補聴器の北村さんでした。 私の方から、デコチップの話を持ちかけて「こういうものを作ってみてほしい」と提案しました。
北村さんと共に、チップの薄さと軽さ(重さ1グラム)や、ハウリング対策、操作性を落とさないことなどを工夫しながら、複数人のサンプリングモニターの協力を得て、いろいろなタイプの補聴器と人工内耳で開発・改良を進め、商品化が実現したという。▼あきさんがよさこいの衣装に合わせて注文したフルオーダーメイドのデコチップ
あきさん@彩希(あき)〜Beautiful Ear〜

あきさん@彩希(あき)〜Beautiful Ear〜/Twitter

あきさん@彩希(あき)〜Beautiful Ear〜/Twitter

あきさん@彩希(あき)〜Beautiful Ear〜/Twitter

あきさん「前向きに生きていく支えに」

共同開発者である北村さんは、デコチップに込める思いをこう話す。
ユーザーが胸を張って補聴器をつけられますように、前向きに生きていく支えとなったら、という思いでデコチップを制作しています。ダサいイメージの強い補聴器を“THEクール!”な印象にしていきたいです。それによって、補聴器を着替えて楽しむこともファッションの一部として認識されるようになっていけばと思います。ユーザーにしか楽しめないスペシャルなおしゃれ。聴者にも羨ましがられる素敵なアイテムとして広く知られるようになってほしいです。
販売を始めたデコチップには、補聴器ユーザーから「補聴器を付けていることが楽しくなった」「見られることをポジティブに感じられるようになった」「補聴器をあまり使いたがらなかった子どもが、進んで装着するようになった」など、嬉しい反響が届いているそうだ。
出典元:彩希~Beautiful Ear~

出典元:彩希~Beautiful Ear~

あきさんは、耳が聞こえにくかったり聞こえない状況は遅かれ早かれの差はあれ、みんなが通る道なので、補聴器を持っている・使っていることを1つのかっこいいステータスのように感じられる世の中にしたいと考えているという。
恥ずかしい、情けない、見られたくない、抵抗がある、つけたくない、みっともない…というマイナス感情からか、補聴器装用を拒む人も多い。補聴器の必要性を感じる状況にあっても、人知れず悩む方々も多い。デコチップで補聴器にオリジナリティ、かっこよさ、かわいさ、ポジティブというプラス要素が加わります。長年の補聴器ユーザーの立場としても、補聴器をより素敵で身近で当たり前な存在に…また必要とする多くの人にポジティブに楽しんでいただけたら、という気持ちと夢を込めています。(あきさん)
【補聴器デコチップブランド「彩希(あき)~Beautiful Ear~」】・固定デザインのデコチップは、同ブランドのWEBサイトから注文可能・フルオーダーメイドのデコチップは、西部補聴器にメールで問い合わせ(seibu1207@mimi11.com)

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