▼行間 ▼メニューバー
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
追放されたけど、スキル『ゆるパク』で無双する 作者:篠浦 知螺
74/120

第三王子に生まれたけど、蹴落としゃいいの?

 国王ギュンターの一言により、アルマルディーヌ王国の三人の王子による共同作戦が行われる事になった。

 この戦いにおいて、国王ギュンターは一切の口出しをしないと明言した。


 この戦いを通して王子達の資質を見極め、次なる国王を選ぶ材料とすると宣言したようなものだ。

 作戦の決行が決まった後、三人の王子による作戦会議が行われたが、ここで決められた内容は、決行の日時と攻撃目標だけだった。


 作戦開始の日時は、今日から30日後の正午を持って作戦を開始、三人の王子の軍勢は、それぞれサンドロワーヌの街を発って攻撃を仕掛けることとなった。

 第一王子アルブレヒトの攻撃目標は、サンドロワーヌの東北東に位置するマーゴの里。


 第三王子カストマールの攻撃目標は、サンドロワーヌの東南東に位置するノバハの里。

 そして第二王子ベルトナールの攻撃目標は、マーゴとノバハの東に位置するクイスタの里だ。


 攻撃開始の日時と攻撃目標は決まったが、それぞれが行う戦術や連携については全く取り決めが行われていない。

 これから準備を進めていく間に、必要とあらば通達するとアルブレヒトが言い張り、会議は短時間で半ば打ち切られるように終了した。


 アルブレヒトの独善的な態度にベルトナールは不快感を隠そうとしなかったが、それでは普段ベルトナールが行っている作戦の詳細がアルブレヒトに伝えられているかと言えば、殆ど何も知らされていない。

 言うなれば自業自得、因果応報なのだが、ベルトナール本人は気付いていない。


 会議の間、第三王子のカストマールは殆ど無言で通していた。

 唯一、主張した事と言えば、担当する里を北寄りのマーゴではなく、南寄りのノバハにして欲しいと要求したぐらいだ。


 その以外は、アルブレヒトとベルトナールが意見を戦わせるのを見守り続けていた。

 だからと言って、アルブレヒトやベルトナールに追従するつもりなど微塵も無く、己の手の内を明かさないためであるのは明らかだった。


 王位は自分が継ぐべきものだとして、公然とベルトナール批判を繰り返すアルブレヒトに対して、カストマールは自分の心情を語らず虎視眈々と王位を狙っている。

 ベルトナールから見れば、アルブレヒトは考えが浅く扱いやすいが、カストマールは読み切れない部分があるだけ扱いにくいと感じているようだ。


 カストマールは自分の屋敷へと戻ると、家宰であるモルドバを呼び出した。


「カストマール様、いよいよでございますね」

「急くな、モルドバ。ベルトナールが墓穴を掘り始めたのは間違いないが、得体の知れぬ者が暗躍を始めている。アルブレヒトのように舞い上がって行動すれば足下を掬われるぞ」

「失礼いたしました。では、この度の戦は、どのように進めるおつもりですか?」

「極力消耗を防ぐ」

「では、積極的に戦には加わらないと仰るのでございますか?」

「そうではない。戦は行うが、最小の損害で目に見えた成果を出すのだ」


 言葉の真意を感じ取れず、怪訝な表情を浮かべたモルドバに、カストマールは上機嫌に微笑んでみせた。


「まず、得体の知れぬ曲者だが、そやつの狙いはベルトナールだ。三人が共同の作戦を展開すれば、間違いなくベルトナールの所を狙う」

「確かに、伝え聞いた話を総合しても、オミネスの者が関係しているにしても、狙いはベルトナール様と考えるのが妥当でございますな」

「次に、アルブレヒトの馬鹿は、何の工夫も無しに突っ込んで行って手酷くやられるはずだ」


 このカストマールの言葉に、モルドバも苦笑いを浮かべた。


「カストマール様、消耗するのは王国の兵でございますから、笑い事ではございませんぞ」

「分かっている。分かっているが、あの単純馬鹿は死ぬまで治らぬだろう。いっそ、今回の戦いで死んでくれと真剣に思っておる」

「あるいは、ギュンター様も同じ考えなのでは……」

「かもしれぬな。良いか、この度の戦は、目立つ者ほど消耗する。我々は目立たずに成果を上げ、戦の後に目立つのだ」


 二人とも何度か戦場には出ているが、力押しで激しく兵を消耗させるアルブレヒトに対して、カストマールは早めに兵を引いて消耗を抑えてきた。

 アルブレヒトは消耗こそ多いが戦果も上げてきたが、カストマールには目立った戦果は乏しい。


 その結果、王位を巡る争いは、ベルトナール、アルブレヒト、カストマールの順だというのが国民の大方の見方だが、一部の者からはカストマールは力を隠していると言われている。

 実際、乾坤一擲の勝負を掛けるような戦いでなければ、カストマールは本腰を入れて戦うつもりが無い。


「では、今度の戦いでも、全力は出さないおつもりですか?」

「無論だ、国の存亡を賭けた戦いでもなし、王位を確定させる戦いでもなし、兵を損じるほどの価値は無いぞ」


 王位を虎視眈々と狙いながらも、冷静に情勢を分析して兵を温存するカストマールの姿勢をモルドバは好ましく思っているが、一方で、今回のように千載一遇のチャンスと思われる時にも消極的な行動指針を示すことには物足りなさを感じてもいる。


「不満か……モルドバ」

「いえ、私はカストマール様の決定に従います」

「そうか……モルドバ、今の時期は北西の風が吹くな」

「はっ? 風でございますか? 確かに山を回った風が北西から吹くことが多くなりますが、それが何か?」

「他の者には洩らすな……森に火を放つ」

「なっ……本気でございますか?」

「無論だ」

「ですが、森に火を放つのは……」

「禁忌とされているか。ふん、下らんな」


 サンカラーンとの戦いにおいて、森に火を放つことは昔から禁じられている。

 一説には、森は赤竜の縄張りへと繋がっているので、赤竜の怒りを買って災厄をもたらされると言われている。


 また別の説では、森に火を放つと、住み家を追われた魔物が溢れ出し、街に被害をもたらすとも言われている。

 そのため、ベルトナールが空間転移魔法を使って奇襲を掛ける際も、攻撃魔法の目標はあくまでも里の建物だ。


「良いかモルドバ。ノバハの里を目標に森に火を放ったとしても、北西の風が吹けば火は森の境を舐めるように進み、国境の川に突き当たった所で止まる。さすれば、サンカラーンの防御を一枚剥ぐことが出来る。川で止まるなら、赤竜に恨みを買う心配も要らん。禁忌などという理由も判然としないものに、いつまでも囚われ続けるなど愚者の行いだ」


 傲然と言い放ったカストマールの姿に、モルドバは王としての風格を見た気がした。

 南寄りのノバハを担当することに固執したのも、これが理由なのだろう。


「ですがカストマール様、殆どの兵は禁忌の束縛から逃れ得ぬ者でございます」

「だから他者には洩らすなと言ったのだ。一度戦場に出てしまえば、末端の兵など命じた通りに動く傀儡にすぎぬ。森に向かって火属性の魔法を放てと、我らが命じれば良いだけだ」

「森を焼いた場合、獣人共の反撃が激しくなると予想されますが……」

「森から出た獣人など、攻撃魔法の的でしかない。奴らにとって戦いやすい森に踏み込むから兵を損じるのだ。平地で待ち構えれば、我らの下に辿り着くまでに獣人共は数を減らす。いくら獣人であろうとも、取り囲んで嬲り殺しにすれば恐れるまでも無い」


 接近戦ならサンカラーン、中遠距離ならばアルマルディーヌという構図は昔から変わっていない。

 森に火を掛けれない以上、アルマルディーヌが攻め込むには自ら森に踏み込むしかなく、サンカラーンもアルマルディーヌを攻めるには草原を渡らねばならない。


 互いに強み弱みがあるからこそ均衡を保っていた力関係だったが、それを崩したのがベルトナールの空間転移魔法だ。

 そして、空間転移魔法を持たないカストマールは、禁忌を犯すことでサンカラーンの強みを削ごうとしている。


 モルドバが改めて自らの主の才能に惚れ直していた時、配下の者が報告に現れた。


「申し上げます。アルブレヒト様の手の者と思われる者どもが、戦の話を撒いているようです」

「内容は?」

「はっ、王は三人の王子に己の才を示すように五千の兵と戦場を与えた、この戦いで次の王が決まると……」

「主も馬鹿なら配下も馬鹿者揃いか、馬鹿正直に兵力を宣伝して歩くとはな……」

「カストマール様、増員をなさいますか?」

「決まり切ったことを聞くな……最低三千、可能であるならば七千集めよ。王は五千の兵を与えると言ったが、己で兵を集めるなとは言っておらぬからな……だが、他の者には気取られるなよ」

「はっ、心得ております」


 カストマールは、目に見える戦果に乏しいため国民からの評価は低い。

 だが、常に兵の損耗に気を遣う戦いぶりは、味方からの信頼が厚い。


「カストマール様、アルブレヒト様から決起の宴の知らせも届いております」

「ふん、見栄を張ることに関しては抜け目が無いか、期日は明日か?」

「はい、明晩とのことです」

「まぁ良い、あの馬鹿との付き合いも、あと少しであろう……」


 古来、サンカラーンとの戦いを行う場合、開戦を布告する宴を行い、貴族に参陣を促す習いがある。

 だが、近年はベルトナールが手持ちの兵で戦いを行う事が殆どなので、こうした宴はアルブレヒトが主催する限られたものとなっている。


 実際、宴を行ったところで、アルブレヒトの下へと参陣する兵の数は申し訳程度で、使い潰されても惜しくない老兵などが殆どだ。

 カストマールの陣にも、貴族から兵が送られて来るが、アルブレヒトの下へ送られる兵とは様相が異なる。


 そもそも、カストマールの方から兵は不要であると裏で通達が届けられているのだ。

 その上で、実際の戦場を兵に見せたいと思うのであれば、安全な後方で見物させてやるとさえ付け加えられている。


 言うなれば、新兵や将校の学びの場として活用しろという通達だ。

 実際に、何度も貴族から新兵を預かり、無事に送り返している。


 貴族の私兵の練度が落ちれば、国の力が削がれるというのがカストマールの言い分ではあるが、貴族達もそれを鵜呑みにしている訳ではない。

 国家の存亡を賭けた戦いが起こった場合には、分かっているだろうな……という裏の意味合いは十分に伝わっている。


「カストマール様、貴族たちに兵の派遣を申し付けますか?」

「必要無い。今回の戦いは、王の戯れにすぎん。いつも通り、見物に来たければ参るが良いとだけ伝えておけ」

「かしこまりました。ご出発は、明後日でよろしいでしょうか」

「あぁ、それで良い。急ぐ必要は無いが、いつまでも王都にいて馬鹿の相手をするのも疲れるからな」


 カストマールの態度から、用事は全て片付いたと見て取ったモルドバは、配下を連れて退室していった。

 カストマールは、テーブルに残されたアルブレヒトからの書状を手に取ると、中身に目も通さず、火属性魔法で燃やして灰にした。


「カビの生えた因習、身の程を弁えぬ獣人、無能な兄ども……全て俺が燃やし尽くしてくれる」


 窓辺へと歩み寄ったカストマールは、魔道具の明かりに照らされた城を見上げ、その主となった自分の姿を脳裏に思い描いていた。


  • ブックマークに追加
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

感想を書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。