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追放されたけど、スキル『ゆるパク』で無双する 作者:篠浦 知螺
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外れスキル「ゆるパク」を持つ兵馬が、実は最凶の毒殺者

 フンダールと昼食を共にしながら、サンカラーン内の道の整備などの話をした。

 サンカラーンの里を回って商売をしている者にとって、やはり安全に通行できる道は早く実現してもらいたいらしい。


 カルダットからダンムールに至る道の整備は約束しているので、アルマルディーヌとの問題の合間を見て進めようと思う。

 だが、何よりも優先するのはベルトナールの殺害だ。


 人殺しに執着するなんて、日本にいた頃には考えられなかったが、これだけは譲れない。

 昼食後に、サンカラーンよりも更に奥の森へ移動して、毒殺の準備を進める。


「えっと、確か毒作成のスキルがあったよな……」


 召喚された草地に置き去りにされた後、手当たり次第にゆるパクしていた時期に、毒持ちの魔物からスキルを奪っているはずだ。

 赤竜が持っていたのかまでは分からないが、毒作成スキルもレベル9でカンストしている。


 直接の恨みは無いが、実験用にGの群れを捕獲した。

 日本でGと言ったらゴキブリだが、こっちの世界ではGと言えばゴブリンだ。


 ぶっちゃけ、適当に探してもすぐに見つかるし、一匹いれば二十匹はいる。

 魔石は小さいし、素材に利用できる部分も殆ど無いし、それに不味い。


 竜人化した後で食ってみたが、臭みが強いし筋張っていて、好き好んで食べるものではない。

 だが、毒物の実験に使うには丁度良い。


 身長は130センチぐらいだから小学校三、四年生程度の大きさだが、生命力は強そうだ。

 ゴブリンで丁度良く作用する毒薬ならば、人間の成人男性にも丁度良いだろう。


「うーん……面倒だから、石化!」


 二十匹ぐらいのゴブリンの群れを見つけたので、石化スキルを使ってまとめて捕獲した。

 一匹ずつ石化を解除して、毒薬を食らわせ、効果のほどを確かめる。


 毒薬は、あくまでもベルトナールの殺害に使うものだから、少量で劇的な効果をもたらす方が良い。

 即効性で致死性が高く、まぁ出来れば苦しまずに死ぬ方が俺としも寝覚めが悪くならずに済みそうだ。


 とりあえず、レベル9の全力の毒薬の効き目がどの程度なのか確かめてみることにした。

 捕獲したゴブリンの首を左手で握った状態で、石化を解除する。


「ギッ? ギギャッ……グゥゥ」

「うるさいよ……って、締めすぎると殺しちゃいそうだな、では……毒作成!」


 竜人の握力で喉笛を握られ、苦しんだゴブリンが口を開けた所に、右手の指先に凝縮させた毒薬を一滴垂らした。


「ギィ……ギィィィ……ゴフッ、ゴブァ……」

「うわぁ……こりゃ駄目だ」


 口の中に毒薬を垂らされたゴブリンは、何事かと一瞬動きを止めた直後、猛烈に苦しみ始めた。

 喉笛を自分の爪で肉が抉れるほど搔き毟り、大量のどす黒い血を吐き出しながら倒れるとビクンビクンと激しく痙攣を始めた。


 更にゴブリンの身体はボコボコと泡立つように膨れ上がり、元の倍ぐらいの体積になったあたりで今度はドロドロと溶解を始めた。

 ゴブリンが吐き出した血を浴びた草も、シューシューと音を立てながら真っ黒に変色を始めている。


 ゴブリンの肉体が溶け落ちて骨が剥き出しになるまで十分と掛からなかった。


「やべぇよ、こんなの使えねぇよ……焼却!」


 レベル9の火属性魔法を使って、ゴブリンを灰にするどころか、横たわっていた部分の土がドロドロに熔けるほどの熱で焼却した。

 ほんの少しでも残っていたら、深刻な環境破壊を招きそうだ。


 この後、捕まえたゴブリンを使って毒の強さを調整したのだが、一滴で効果を発揮し、苦しまず、眠るように死んでいくような都合の良い毒薬は作れなかった。

 微量で効果を発揮させるには、当然効果を高める必要がある。


 そのような毒を口にして、苦しまない訳が無いのだ。

 かと言って、効果を弱めてしまうと、死ぬまで時間が掛かってしまうので、回復魔法や治癒魔法を使われたら助かってしまう可能性が高まる。


 即効性があり、周りに人がいても成す術なく死亡するような毒薬が、猛烈な苦しみを伴うのは避けられないようだ。

 結局、ゴブリンに一滴投与して、2分ほどで絶命するレベル7の毒薬を使うことにした。


 これをベルトナールが飲食する時に空間転移魔法を使って飲ませれば、ほぼ間違いなく暗殺出来る。

 残る課題は、いつ実行するかだ。


 実験を終えた俺は、一旦ダンムールに戻って樫村に相談することにした。

 ついでに特許の件を伝えれば、樫村なら良い計画を考えてくれるだろう。


 ダンムールに戻ると、現代日本の食文化を使って儲けようと画策していたグループが壁にぶち当たっていた。

 理由は簡単、こちらの食文化は思っていたよりも豊かなのだ。


 よく異世界もののアニメやラノベでは、日本の料理凄ぇぇぇ展開が描かれているが、少なくとも俺が味わったダンムールやカルダットの料理は日本のものに引けを取らない。

 料理の多くは召喚された境界の渡り人が伝えたものだと聞くし、ダンムールには醤油や味噌だってあるのだ。


「もう、こうなったらタピるしかないんじゃないか?」

「そうだ、タピオカミルクティーならさすがに無いだろう」

「てか、そもそもタピオカ粉はどうすんだよ」

「それらしい芋を探すところからかよ……」」


 うん、社会の厳しさにめげずに頑張ってくれ。

 樫村は、殴り込み部隊と一緒に弓の試作に取り組んでいたが、こちらも順調ではなさそうだ。


 アーチェリーの経験があるのと、弓を作れるのは別次元の話らしい。

 俺は藤吉先輩のコンパウンドボウの構造を調べた程度の知識しか無いが、ちゃんと命中させるためには色々な調整が必要だし、調整できる構造にしなければならないらしい。


 素人の俺が口を出しても混乱するだけだろうから、何か言われるまでは参加しないでおこう。


「樫村、ちょっと良いか?」

「おぅ、何か用か?」

「ベルトナールの屋敷の場所が分かった」

「そうか……悪い、ちょっと抜けるな」


 俺が暗殺に関する相談をするつもりだと察したのか、樫村は弓作りの輪から抜けてクラスメイトのいない場所で行こうと促してきた。

 伐採せずに残されている木立の中へと踏み入って話を始める。


「それで、いつ仕掛けるんだ?」

「まぁ、待ってくれ。オミネスの商人の所で他の話も聞いてきたから」


 特許制度があると伝えると、樫村は両手を握ってガッツポーズをしてみせた。


「いいぞ、特許制度があるならば、俺達が生活に困ることは無い」

「でも樫村、まだ特許料がどの程度貰えるとか、特許の期間とか詳しい話までは聞いてないから手放しでは喜べないぞ」

「いや、制度さえあれば、俺達の権利が侵害されたままなんて事にならずに済むだろう。それだけでも大きいはずだ」

「そうか、そうかもしれないな」


 続いてアルマルディーヌの四人の王子についてと、フンダールからベルトナールは毒殺するように頼まれた件を話した。


「毒殺か……出来るのか?」

「さっきゴブリンを使って試してきたから、毒自体は用意できる」

「だとしたら、後は仕掛けるタイミングか?」

「あぁ、目立つタイミングが良いのか、それとも目立たない方が良いのか?」


 確実に殺すのであれば、寝入っているベルトナールの口元に垂らして殺害し、翌朝起こしに来た人間が気付くというパターンが一番良いのだろう。

 だが、第一王子アルブレヒトや第三王子カストマールの仕業だと思わせるのであれば、多くの人が集まるパーティー会場などで仕掛けた方がインパクトがありそうだ。


「確かに大勢の人が集まる場所で毒殺すれば、周囲に与える影響は大きくなるが……出来るのか?」

「さぁ? というか、そもそもそうした席が設けられているのかも不明だからな」


 俺の貧相なイメージでは、王侯貴族などは夜な夜な舞踏会に明け暮れている感じだが、ベルトナールは王都とサンドロワーヌを行ったり来たり忙しい日を送っているようだ。


「それなら王都に潜入して、ベルトナールの行動パターンを探ったらどうだ? オミネスの身分証もアルマルディーヌの金もあるんだろう?」

「そうか、旅人とか行商人になりすまして、王都の宿にでも泊まって内部事情を探るか」

「毒薬の用意が出来ているならば、近くで様子を覗って、ここぞのタイミングで一気に仕掛けた方が良い気がするな」

「なるほど、それに王都に滞在すれば、もっとアルマルディーヌの情報も手に入りそうだもんな」


 フンダールが偽の情報を話したとは思わないが、こちらの世界では情報が伝わるまでに時間が掛かるから、カルダットで手に入る情報は現在の状況とは違っている可能性が高い。

 情報社会である現代日本から来た俺達は、情報の鮮度の重要性を知っている。


「樫村、お前も一緒に来るか?」

「んー……いや、今は止めておこう。別に独裁者になるつもりはないけど、俺がダンムールを離れてまとめ役がいない状況は好ましくない」

「そうか、そうだな。じゃあこっちを頼む。俺は王都に侵入して、ベルトナールの暗殺を狙うから」

「悪いな麻田。お前にばかり汚れ役を押し付けてしまって」

「気にすんな。誰かがやらなきゃいけない事だし、偶々俺がそれをやる力を得て、適任であるだけだ」


 フンダールから聞いた情報は、里長のハシームとも共有しておく事にした。

 ラフィーアも加えて夕食を共にしながら、王位継承権争いや毒殺についても意見を聞いた。


「王位継承争いか……悠長なものだな」

「サンカラーンでは里長の座を巡って争ったりしないのか?」

「全く無い訳ではないが、そんな事をしていれば魔物に滅ぼされるぞ。それに今はアルマルディーヌの連中の襲撃もある。争っている暇など無い」


 確かにサンカラーンの里は、どこも高い塀で囲まれている。

 魔物の危険度は、森の奥に入るほどに高まるが、逆に森の浅い場所はアルマルディーヌに近く、襲撃を受ける可能性が高い。


 いずれにしても、いつ外敵に襲われるか分からない状況で、内輪揉めをしている余裕は無いのだろう。


「だが、ベルトナールを亡き者にするだけでなく、王族の内紛に利用しようとは、さすがにオミネスの商人は容赦ないな」

「俺の都合で他人の命を奪うのだから、覚悟を決めろと言われたよ」

「ベルトナールの命を奪うのが罪だと言うのなら、儂も一緒に背負ってやる。いや、サンカラーンの全ての者が一緒に背負うと言うだろう。それほどまでに、奴は多くの悲劇をもたらしているのだ。死んで当然、その死を利用されて当然、ヒョウマが気に病むことなど何も無いぞ」


 ラフィーアも無言で頷いている。

 サンカラーンの住民のアルマルディーヌへの怒りは、そっくりそのままベルトナールへの怒りだと言っても過言ではない。


 だからと言って、俺がベルトナールを殺す免罪符にはならないだろうが、そもそも俺を置き去りにして殺そうとしたのだ、逆に殺されても文句は言えないだろう。

 ベルトナールを一番良いタイミングで毒殺するために、しばらく王都に潜入すると伝えると、ハシームは頷いたがラフィーアは露骨に嫌そうな顔をした。


「心配するな、ラフィーア。ちゃんと時々は戻るようにするから……」

「本当か? 本当だな?」

「あぁ、約束する」


 ラフィーアは、ハシームの目も気にせず、俺に擦り寄ってゴロゴロと喉を鳴らす。


「ヒョウマよ。早く孫の顔を見たいから、面倒事はサッサと片付けてしまえ」

「そうなんだろうが、俺の国のことわざに『急いては事を仕損じる』というものがある。今度こそベルトナールの息の根を止めるために、準備は入念にするつもりだ」

「そうか、吉報を期待しておるぞ」

「あぁ、近いうちに……」


 フンダールにも、樫村にも、ハシームやラフィーアにもベルトナールの毒殺を宣言したのだから、もう後には引けないし引くつもりもない。

 明日からの王都潜入を控えて、その晩はラフィーアと一夜を共にした。


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