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追放されたけど、スキル『ゆるパク』で無双する 作者:篠浦 知螺
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無欲の兵馬は金をばら撒く

 アルマルディーヌの王都からダンムールに帰り、竜人の姿に戻った後でアン達に囲まれて朝まで睡眠を取った。

 ここならば腹を空かせたサンクとシスが起き出すので、寝坊する心配は無い。


 王都からの帰りがけに仕留めて来たオークの生肉というワイルドな朝飯をアン達と一緒に済ませた頃、ラフィーアが小屋を訪ねてきた。


「ヒョウマ!」

「おはよう、ラフィー……うわぁ!」


 俺の名を呼ぶ声に振り返ると、ラフィーアが凄い勢いで抱き付いてきた。


「ヒョウマ、無事だったのだな。どこも怪我はしていないか?」

「大丈夫だ。王国の連中に捕まるようなヘマはしないよ」

「そうか……だが無事に戻ったのに、何故知らせてくれぬのだ」

「戻って来たのは夜明け前だったし、俺も眠かったから一眠りしてから知らせるつもりだったんだよ。悪かった……」

「そうか、それならば仕方ないな……」


 ラフィーアは俺の胸板に頬を摺り寄せて、ゴロゴロと上機嫌で喉を鳴らし始めた。

 出掛ける時に熟睡していたラフィーアが、戻って来た時に起きていたとは思えないが、まぁそれは言わない方が良いのだろう。


 ラフィーアと一緒に里長の館に向かい、ハシームに昨夜の報告をした。

 ついでに持ち出してきた物を分配する。


「ほう、塩に砂糖、これは油か、干した海産物とは珍しいな」

「やっぱり珍しいものだったのか、そうだ薬草や薬師の道具なども盗み出して来たんだが、そうした知識のある者は里にいるのか?」

「うむ、腕の良い薬師がいるぞ」

「じゃあ、そっちで活用してくれ。俺達では知識が足りずに宝の持ち腐れになりそうだ」


 ハシームに倉庫へ案内してもらい、盗み出して来た薬草や道具や棚を出すと、知らせを聞いてきた山羊獣人の薬師は飛び上がって喜んだ。


「里長、凄いですよ。これは凄い……」

「礼ならばヒョウマに言ってくれ」

「ヒョウマさん、ありがとうございます。里で使う何年分もの薬を作れそうです」

「そうですか、俺の仲間もお世話になると思いますので、よろしくお願いいたします」


 これだけ原材料を渡しておけば、クラスメイト達の薬は融通してくれるだろう。


「そうだハシーム、金もごっそり持ち出して来たんだが、どうする? アルマルディーヌの金を持っていると怪しまれるか?」

「我らも水晶の代金としてオミネスの商人から金を受け取るが、それはオミネスの通貨だ。アルマルディーヌの貨幣を我らが持っていると確かに怪しまれるかもしれんが、その辺りは上手くやるさ」

「そうか、ならば置いていくよ」


 ハシームがニヤリと意味ありげな笑みを浮かべて見せたのは、交渉事は任せろという自信の表れだろう。

 クラスメイト達も世話になっているし、王都から持ち出してきた金貨、銀貨の四分の一ほどをアイテムボックスから取り出した。


「ちょっと待て、ヒョウマ。こんなには受け取れんぞ」

「なに言ってんだ、別に腐る物でもないんだし、そもそも元は王国の金なんだ遠慮すんな」

「そうか、そうだな。だがヒョウマ、うちはこの半分で構わないから、半分はケルゾークの郷に渡してくれんか?」

「そうか……そうしよう」


 こちらの世界の貨幣価値が今ひとつ分かっていないからだが、持ち出してきた金は相当な額になるようだ。

 商品を受け取る場所で金が足りなくなるなど王国の面子に関わるから、余分な金まで保管していたのかもしれない。


 金を出したついでにスラム街に金を配って歩いた話をして、ハシームの意見を聞いた。


「それは、何かの意図があって配ったのではないのか?」

「思い付きではやってみたんだが、意図があるとすれば、王国の連中が俺達の意図を計りかねて混乱させるのが狙いかな」

「相手を攪乱するには面白いな。貧しい者は為政者に対して不満を抱えている。王族から盗んだ金を配っていると知れば、こちらに対して有利になる動きをするかもしれんし、少なくとも王国側を利する動きはしなくなるはずだ」

「俺達を積極的に支援しないだろうが、王国への協力は消極的になるってことか……」

「ヒョウマよ。王国に革命でも起こすつもりか?」

「いや、そこまでは考えていないが、国の中をゴタゴタさせれば、国の外に対して何かをする余裕は無くなるんじゃないかと思ってな」

「そうだな。大きな規模の戦を行うには、民の協力は不可欠だ。その民衆の心が離反すれば、戦をやりにくくなるだろうな」


 直接的な成果としては見えづらいが、いずれボディーブローのように効くかもしれない。

 ハシームへの報告を終えた後、朝食を届ける人達と一緒にクラスメイト達が暮らす宿舎に向かった。


 宿舎は里の外れにあるので、里の中を突っ切っていく形になる。

 驚いたことに、宿舎へと向かう途中の畑では、里の人達に混じってクラスメイトの何人かが農作業を手伝っていた。


 里の生活に馴染むには、見ているだけでなく体験すべきだという樫村の方針らしい。

 その樫村はと言えば、何人かの男子と一緒に宿舎の外観に手を加えていた。


「樫村、朝飯持ってきたぞ」

「おぅ、麻田か。いや分かっていても、その姿はギョッとするな」

「これは、何をやってるんだ?」

「これか? これはカモフラージュだ」

「カモフラージュ?」

「あぁ、アルマルディーヌはこっちの方角だからな。宿舎の外観がそのままだと、僕らがここに居るとバレる可能性が高くなるだろう。だから古い材木とかを立てて、パッと見では分かりにくくしてるんだよ」

「なるほど……」


 確かに、千里眼を使って偵察する場合でも見る方向は限定されてしまうし、壁に沿う形で別の壁を立てられると建物の形は誤認してしまう。

 良く観察すればサンドロワーヌから持ってきた宿舎だと気付くだろうが、カモフラージュを行えば判別できる可能性は低くなる。


「それで麻田、首尾はどうだ?」

「おう、任せろ。塩、砂糖、油、スパイス、肉とかチーズもあるぞ」

「よし、じゃあ早速だが、食堂の方に出してくれ。こっちで自炊も始める予定だからさ」

「マジか、飯も作るのか」

「当たり前だろう。何時までか分からないが、当分の間はここで暮らしていくんだ。いつまでも里の人に頼ってばかりじゃ駄目だろう」


 宿舎の食堂には炊事場も付属していたので、水回りを整えて自炊を始めるらしい。


「そう言えば、農作業組もいたな」

「麻田、あの畑との間の林だけど、開墾しても構わないのか?」

「大丈夫だと思うが、そんなに急がなくても良いんじゃないのか?」

「何言ってんだ。里との垣根なんか無い方が良いに決まってんだろう」


 樫村曰く、里の人との距離が縮まった今だからこそ、変な垣根の存在は邪魔になるそうだ。

 竜人化した俺とは違って、クラスメイト達は人族の姿から変われないのだから、姿を晒して認められ続けなければならないらしい。


 クラスメイト達の朝食に同席しながら、樫村にもスラム街で金を配ったことを話した。


「どう思う、革命とか起きそうか?」

「いや、その程度では無理だろう。そもそも、僕はアルマルディーヌの内情を良く分かっていないから判断出来ないぞ」


 俺がサンドロワーヌから盗み出してきた資料で、人口や穀物の出来高、税収などの数字は分かっても、民衆の意識とか数字に表れないものは分からない。


「そうか……俺としては、あまり人が死なない形が良いんだが」

「だったら革命なんか逆効果だろう。内戦になったら凄い数の人が死ぬぞ」

「だよなぁ……」

「なるべく死人を減らしたいなら、ベルトナールを殺す事だな。奴さえ居なくなれば、サンカラーンが攻められる可能性は低くなる」

「ベルトナールの居場所さえ分かれば、今度こそ仕留めてやるのに……」


 昨夜侵入した王城でも、ベルトナールの姿を探したが見つからなかった。


「王子達は、別に領地や屋敷を持ってるんじゃないのか?」

「そうだとしたら、猶更見つからないぞ」

「僕らの方でも資料を漁ってみるけど、ハシームさんとかに聞いても分からないのか?」

「たぶん、無理じゃないかな。王国には奴隷以外の獣人は基本的に入れないから……いや、待てよ。オミネスの商人だったら知ってるかもしれない」


 ダンムールの里にもオミネスの商人が出入りしていて、そのうちの一人とコネがあると話すと、情報を聞き出して来てくれと頼まれた。


「商人だったら、サンドロワーヌで起こった騒動の話とかを聞きたがるんじゃないのか? その代わりに王都の情報を教えてもらえよ」

「そうだな。ケルゾークの里に見舞金を届けるから、そのついでにちょっと行って来る」


 ラフィーアに留守を頼んで、まずはケルゾークに移動して、里長に面会を申し込んだ。

 アルマルディーヌの兵士達を撃退したおかげで、ケルゾークの里では英雄扱いされてしまった。


 赤い鱗の竜人の姿は、獣人族の里にあっても目立ってしまう。

 里の入り口から、里長の館に辿り着くまでの間に握手攻めにあってしまった。


「これはこれはヒョウマ殿、よくぞ参られた。さぁ、中へ入られよ」

「おじゃまします」


 里長の館は、食糧を備蓄していた蔵の近くだったので、先日の攻撃でも焼失を免れていた。

 少し内密な話がしたいと申し出て、里長に人払いをしてもらった。


「それでヒョウマ殿、話とは何でしょう。我々に出来ることであれば何でもいたしますぞ」

「実は、昨晩なんですが、アルマルディーヌの王都の城に侵入してきました」

「なんと……それでは王族共を皆殺しになさったのですか?」

「いや、それも考えたのですが、いきなり国の仕組みが崩壊すると奴隷として囚われている人達に危険が及ぶかもしれないので、王族には手を出していません。その代わりに、金や物資を盗み出して来ました」

「ほほう、賠償金を勝手に受け取って来たのですな」

「まぁ、そういう感じなんですが、俺が持ち出して来たと里のみんなには知らせないで欲しいんです」

「王国の城から盗みを働くなど、我らにすれば快挙です。どうして隠す必要があるのです?」

「いずれは知れることになるでしょうが、今は何処の誰の仕業か分からなくして、王国を混乱させたいと思ってます」

 ケルゾークは、一番オミネスに近い里とは言え、情報が伝わるには数日単位の時間が掛かる。

 ベルトナールの耳に届くまでには状況は変わっているだろうが、渡さなくて良い情報をわざわざ伝えてやる必要もない。


「なるほど、金や物資の出所は秘密……ということですね」

「はい、金はアルマルディーヌの貨幣なので、上手く使って下さい」

「ほほう、かしこまりました」


 ケルゾークの里長も、ハシームと同じ種類の笑みを浮かべて見せる。

 ハシームよりも高齢で達観したような人物に見えたが、やはり里長を務めるような人だけあって一癖も二癖もありそうだ。


 金の他に、塩や砂糖などの物資も分配して、次なる目的地オミネスの街カルダットを目指して空間転移を行った。


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