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追放されたけど、スキル『ゆるパク』で無双する 作者:篠浦 知螺
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ダンムールの里にて 前編

「樫村、お望みの筆記用具をかっぱらって来たぞ!」

「おぅ……って、どんだけ持って来たんだよ」


 サンドロワーヌ城の備品庫から盗み出してきた紙の束とペンやインクを取り出すと、樫村は呆れたような表情を見せた。


「どんだけって、根こそぎに決まってんだろう」

「麻田、お前なぁ……それじゃ盗んだのがバレちまうだろう」

「なに言ってんだよ。この宿舎丸ごと持って来ちまったんだ、今さらだろう」

「まぁ、そうか……よし、みんな、筆記用具が必要な人は取りに来てくれ。ただし、あんまり無駄に使うなよ。たぶん、こっちの世界では紙とか貴重なはずだからな」


 樫村の言う通り、兵馬が盗んで来た紙は、羊皮紙と呼ばれる皮を加工したものではないが、備品庫にも日本のコピー用紙のように潤沢には置かれていなかった。


「樫村、紙漉きとかどうだ?」

「おぅ、いいな。和紙が作れれば、産業になるかもな」

「そうだ、食料とか武器とか、あと奴らの書類とかも盗み出して来たんだが……」

「書類! どんな内容だ?」

「確かめている時間は無かったから、そっちも纏めて全部盗みだして来た」

「出してくれ。こっちの世界の状況を知る手掛かりになるはずだ」


 樫村はクラスメイト達が行っていた作業を一旦中断して、俺が盗み出して来た書類の分析を始めると宣言した。


「俺達が生きていくのに、圧倒的に不足しているのは情報だ。麻田やハシームさんから色々と聞かせてもらったが、アルマルディーヌ王国内の情報が不足している。手分けして、地理や政情を分析してほしい」


 盗み出してきた資料は膨大な量だったが、殆どの書類には日付けが書かれていたので、時系列ごとに仕分けして、まずは最近のものから分析を進める班と古いものから分析していく班に分けて作業を進めた。

 書類の他には、地図や名簿なども含まれていて、こちらは別の担当を決めて分析を進める。


 全員、都内でも有数の進学校の生徒なので、やる気になると作業は早いし分析も的確だ。


「アルマルディーヌは、製鉄が主な産業みたいだな」

「酷い、獣人族って殆ど家畜扱いよ」

「王都まで相当距離があるから、あのサンドロワーヌは最前線の基地みたいなもんだな」

「見てこれ、サンカラーンを襲撃する計画書よ!」


 女子の掲げた書類には、これから行われる襲撃作戦の内容が書かれていた。

 下手をすれば、ここにいるクラスメイトの中からも参加させられていたかもしれない。


「樫村、これを使えば奴らの裏をかけるんじゃないか?」

「いや、計画書を盗まれたことには気付いているから、このままの作戦が行われるとは思えない。だが、計画があることは知らせた方が良いだろうな」

「よし、じゃあちょっと行って来る……」

「待て待て、まだ今日明日に行われるとは思えないし、もう少し内容を調べてからだ」

「そうか……分かった」

「それよりも麻田、地図が手に入ったのはラッキーだ。それに、王国内の状況を記した資料もある。何処が、どの程度の規模の街なのかも分かるから攻撃しやすいぞ」

「樫村……お前、なんだかテロリストみたいだぞ」

「当たり前だ、これから俺達はアルマルディーヌにテロを仕掛けていくんだぞ。みたいな……じゃなくて正真正銘のテロリストだ」


 日本にいた頃には、テロリストと聞くと武器を使って民衆を苦しめる存在というイメージがあったし、正直その印象は今も続いている。


「樫村、テロリストじゃなくて、レジスタンスにしないか?」

「レジスタンスか……厳密に言うと僕たちは王国の民衆じゃないからテロリストの方が正しいけど、まぁレジスタンスの方が聞こえは良いな」

「だろう? 異世界レジスタンスでいこうぜ」


 例えやる事は同じでも、名乗り方を変えるだけでも気分が変わり、樫村と笑みを交わしていたら外から声を掛けられた。


「ヒョウマ! 昼食を持って来たが入っても構わないか?」

「あぁ、取りに行く!」


 宿舎の入り口に、ラフィーアと館の使用人さん達が、クラスメイトのための昼食を持って来てくれていた。

 俺と樫村、それに殴り込みに選ばれた四人が一緒に食事を受け取りに出た。


 俺の姿は見慣れているらしいが、人族であるクラスメイト達を見ると館の使用人さん達が一瞬身構えるのが分かった。

 これは、早めに交流する機会を設けた方が良いのかもしれない。


「樫村、サンドロワーヌから盗み出してきた食料を里のみんなに振る舞っても構わないか?」

「勿論、こうして食事を用意してもらっているんだ、何らかの対価を支払わないと駄目だろう」

「いや、そういう硬い感じじゃなくて……」

「ヒョウマ、サンドロワーヌから食料を盗み出して来たのか?」

「おぅ、城の食糧庫の中身を全部いただいて来たぞ」

「ならば、宴だな!」

「飯を食ったら、そっちに引き渡しに行くよ。酒の樽とかもあるぞ」

「それは、父上達が喜びそうだ」


 獣人族と交流を深めるには、お行儀良く懇親会なんて形ではなく、里人総出の宴の方が良い。

 樫村は面食らっているみたいだが、体育会系のノリを分かっている田川達は笑みを浮かべている。


 昼飯を食べながら、たぶん今夜は宴会になるだろうとクラスメイト達に話した。

 半数以上が戸惑った顔を浮かべているが、楽しみにしている者も少なからず見受けられる。


「樫村が話していたが、確かにダンムールの人達は人族に対して抵抗感がある。それに、ここはサンカラーンでも奥地にある里で、そもそも余所者に対する警戒感が強いんだと思う。ただ、俺がまだ人族の姿でいた頃でも、宴会になるとみんな気軽に接してくれていたから、そんなに心配は要らないだろう。ただ、最初が肝心だからケンカは絶対にやめてくれ。たぶん突っ掛かって来る奴もいるだろうが、ぐっと堪えてくれ」


 昼食の後、クラスメイト達には持ち帰った書類の分析を進めてもらい、俺は里のみんなに食料を分配しに行った。

 とりあえず、宴会で使いそうな分とプラスアルファーを訓練場にドカドカと並べていく。


 知らせを聞いて見物に現れたハシームが相好を崩している。


「ふはははは! ヒョウマよ、どれだけ奪って来たのだ」

「まだまだあるぜ。一徹にアドバイスしてもらって思い付いたんだ。この他に剣や盾などの武器もあるし、馬車も奪ってきたから後で渡す」

「おうおう、この樽は酒だな。中身を飲んだら樽も再利用できるし、今夜の宴が楽しみだ」

「ハシーム、肉が足りなくなりそうだから、ちょっと獲りに行ってくる。どれが美味いのか俺は分からないから、ラフィーアに一緒に行ってもらって構わないか?」

「ふふん、儂に断わる必要など無いぞ。ラフィーアなら自由に使うが良い」


 そのつもりではいたが、一応断わった方が良いと思ったのだが、予想以上に集まっていた人達から生暖かい視線を送られて、酷く気恥ずかしい思いをさせられた。


「じゃ、じゃあ行こう、ラフィーア」

「はい……」


 妙にしおらしいラフィーアの返事に、集まった者達からは冷やかすような声が上がり、更に気恥ずかしい思いをさせられた。

 一度小屋に戻って、竜人の姿になって着替えを済ませる。


 ラフィーアと一緒に、里から少し離れた森の端へと空間転移魔法で移動した。

 丁度、森と接する草原を見渡せる位置から、探知魔法も使って獲物を探した。


「左手の方向に草食獣の群れがいる」

「あれだな?」

「えっ、見えるのか?」

「種類までは見分けが付かないが、群れがいるのは分かるぞ」


 俺の場合は千里眼が使えるのでハッキリと見えているが、普通の者には芥子粒よりも小さく見えるはずなのだが、見えているとはさすがと言うしかない。

 更に空間転移魔法を使って、もう少し距離を詰めて草食獣の種類を確かめた。


 美しい弧を描く三本の角を持つ草食獣は、見るからに素早そうな身体つきをしている。

 牛ではなく、鹿の仲間だろうか、五十頭以上いそうな大きな群れだ。


「ホーンガゼルだな。若い個体の方が美味いが、若すぎると肉は柔らかいが味が薄い」

「どれだ? あの左から三番目ぐらいか?」

「そうだな、あの位の大きさものが美味い」

「里人と三十人の仲間、それに救出した連中の分も合わせると……四、五頭ってところか?」

「うむ、それだけあれば十分だが、どうやって仕留めるんだ?」

「こうする……石化!」


 コカトリスから、ゆるパクした石化スキルを使って、目当ての大きさのホーンガゼルを七頭ばかり固めた。

 更に、咆哮のスキルを使うと、石化した個体を残してホーンガゼルは一目散に逃げていった。


「ヒョウマ、吼えるなら吼えると言っておいてくれ」

「すまんすまん、追い散らすには威嚇するのが一番と思ってな」

「だが、ヒョウマ、石にしてしまっては食べられないぞ」

「心配ない、ちゃんと石化は解除できるから、里に戻ってから戻して〆よう」

「そうか……すんなりと獲物が捕まえらえたのは良いが、少し物足りないな」

「まぁまぁ、今日は時間も無いことだし、ダンムール式の狩りの方法は別の機会に教えてもらうよ」

「そうか、そうだな……」


 里の外に出て、周囲からの視線が無くなったからか、ラフィーアは抱き着いてきて俺の首筋にグリグリと頬を擦り付けて来る。

 人化していると気付きにくいのだが、竜人の姿だとラフィーアが匂いを擦り付けて来ているのが分かる。


 俺の匂いと混ざり合っていくと、ラフィーアはうっとりとした表情を浮かべる。

 これは自分のものだという主張を終えた安心感があるのだろう。


 たぶん、樫村は気付かないだろうが、気付かれると面倒だから俺から話すことは無いだろう。

 それにしても、獣人族と匂いフェチな恋愛とは、俺もマニアックになったものだ。


 ホーンガゼルを回収してダンムールの里に戻ると、クラスメイト達も宴の準備に参加していた。

 準備を全部任せて、自分たちは参加するだけでは不味いと思ったらしい。


 ホーンガゼルは、クラスメイト達が作業している場所とは別の所で捌いてもらう事にした。

 日本の育ちのクラスメイト達には、解体する場面は刺激が強すぎると思ったからだが、こちらの世界で生きていくには必要だと見学を希望する者もいた。


 ホーンガゼルは、石化した状態で縛り上げておいて、首の部分だけ石化を解いて頸動脈を切断し、その後身体の石化を解いて血抜きした。

 解体作業は里の本職の人に任せて、俺はラフィーアと一緒に小屋に戻った。


 アン達の分に取って来たホーンガゼルを二頭、首と手足を切り落とした状態で石化を解き、俺とラフィーアがレバーを齧ってから与えると、あっと言う間に食いつくしてしまった。

 ラフィーアに先に分け与えた様子などから、アン達も俺達の関係を理解したようだ。


 アン達が食事を終え、サンクとシスのミルクも終わったら、みんなで固まって昼寝の時間にした。

 樫村達は慣れない手つきで宴の準備に奮闘していたが、俺はここでサボらせてもらう。


 ここ数日、十分すぎるほどに働いてきたから、少々サボったぐらいでは罰は当たらないはずだ。

 陽だまりの中でアンに寄り掛かり、晴れ渡った空を見上げる。

 俺の腕の中で、ラフィーアが静かに寝息を立てていた。


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