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追放されたけど、スキル『ゆるパク』で無双する 作者:篠浦 知螺
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かしむらどらいぶ 後編

「アルマルディーヌに殴り込みに行きたい奴……いないか?」


 俺は行くぞとばかりに右手を挙げた樫村が、何を言い出したのか一瞬理解出来なくて、クラスメイト達は無言で視線を交わし合った。


「目的は獣人族の奴隷の奪還、行けば当然自分の命を危険に晒すことになる。誰もいないか?」

「おい、樫村。獣人開放を要求するのは、ダンムールの人達からの差別を和らげるためのポーズじゃないのか?」

「何を言ってるんだ、麻田。口先だけで信用してもらえると思ってるのか?」

「いや……だとしても、本職の兵士を相手するのは危険だろう」

「お前なぁ、奴隷が捕まっている場所は、兵士がいる場所とは限らないだろう。そうでなければサンドロワーヌの暴動で、多数の獣人族の奴隷が殺されたりしないだろう」


 確かに樫村の言う通り、兵士が守りについていたら、奴隷商会や倉庫街であれほどの惨殺は行われていなかっただろう。

 それは奴隷がいる場所が、必ずしも厳重に守られている場所ではないと証明している。


「たぶん、ハシームさんが言っていた繁殖のための施設などは厳重に管理されているのだろうが、獣人族の奴隷が実際に働く場所は僕らが思うほど守りは硬く無いんじゃないのか?」

「そうか、確かにそうだ」

「まぁ、僕はいずれ守りの堅い場所にも殴り込むつもりだけどね」

「おい、樫村……」

「麻田……虎穴に入らずんば虎子を得ず、だよ」


 ニヤリと笑ってみせる樫村は、日本にいた時とは別人のように見える。


「だけど樫村、兵士の相手をするのは……」

「勿論、今すぐって話じゃないさ。まずは比較的警備のゆるい安全な場所から始めて、いずれ警備の厳しい場所を狙う。それまでに、ダンムールの人達に稽古をつけてもらう」

「なるほど、確かに接近戦では獣人族は強いからな」

「奴隷の奪還となれば、魔法を使っての遠距離の砲撃などではなく、室内での接近戦だ。作戦に獣人族の人達にも加わってもらえば、僕らとの関係は確実に良くなるはずだ」

「確かに……共同作戦ともなれば絆が出来るよな」

「だろう? でも、まずは僕らだけで成果を出す。その上で、獣人族の人達と共同で更なる成果を出す。そうすれば信頼は得られるはずだ」

「樫村……やっぱお前頭良いわ」


 俺と樫村の話を聞いて、クラスメイトからも参加希望が相次いだが、樫村は男子二人、女子二人の四人を選んだ。

 あまり大人数になると、作戦中に互いの存在を把握しきれなくなると考えたようだ。


 選ばれたのは、田川康祐、野上聡子、水木美緒、山本健道の四人。

 田川は剣道部に所属していて、身長は176センチと高く、ガッシリとした体型をしている。

 レベル5の剣術スキルとレベル4の風魔法スキルを所持している。


 野上聡子は、アーチェリー部に所属していて、身長は四人の中で一番低く155センチぐらいしかない。

 レベル5の弓術スキルとレベル5の水魔法スキルを持っている。


 水木美緒は、柔道部の重量級選手で、田川にも負けない体格の持ち主だ。

 レベル5の体術の持ち主で、なんと土属性魔法はレベル6だ。


 山本健道はサッカー部のミッドフィールダーで、当たり負けしないガッシリとした身体つきが自慢だ。

 風魔法のスキルはレベル3だが、蹴術のレベルは6だ。



 四人ともクラスメイトの中では所持スキルのレベルは高いし、所属している運動部の特性を生かした戦闘スタイルが確立出来ているようだ。


「あぁ、でも野上さんが使う弓が無いや」

「そうなのよ。こっちの世界って、手っ取り早く魔法で攻撃しちゃうから弓が無いのよね」


 ダンムールには弓が無いと言ったつもりだったのだが、アルマルディーヌにも弓は存在していないらしい。

 野上は、アーチェリーの構えで水属性魔法の矢を放って攻撃しているそうだ。


「弓なら作れば良いじゃん」

「あのね、山元。弓って簡単に作れるもんじゃないんだよ」

「そうなのか? でも、弓が無いなら作れば知識チートの商品になるんじゃね?」

「あっ、そうか。それもそうね。麻田、弓を作りたいんだけど……」

「野上さん、コンパウンドボウだね」


 俺は同志が登場したと思って、嬉々として提案したのだが、怪訝な顔をされてしまった。


「はぁ? 普通の弓でいいんだけど、なんでそんなマニアックな弓を知ってるのよ」

「新聞販売所の先輩が持ってたんだ」

「へぇ、アーチェリーの選手なの?」

「いや、小説のネタに使うんで買ったって言ってたけど、直ぐに飽きて死蔵してたから、借りて構造とか調べてた」


 コンパウンドボウとは、普通のアーチェリーの弓とは違って撓る部分の端にカムが付いている複雑な構造をしている。

 映画やゲームに度々登場していて、引き始めは重たいが、引くほどに軽くなり狙いをつけ易いという特徴がある。


 販売所の藤吉先輩がネットで購入したものを見せてくれたのだが、誤って撃ってしまった矢が壁を貫通して、所長に滅茶苦茶怒られていた。

 その威力と形の格好良さに惹かれて、藤吉先輩が飽きた後に貸してもらい、自作出来ないか部品などをスケッチしていたのだ。


「普通のリカーブボウの構造は?」

「ごめん、全く知らない」

「えぇぇ……普通の弓の方が構造簡単じゃないのよ」

「そう言われても、見たことも触ったことも無いから分からないよ」

「まぁ、確かにコンパウンドは見た目が格好良いし、私もちょっと使ってみたいけど、速射するには半弓の方が良いかな」


 とりあえず、ラフィーアに素材や里の職人を紹介してもらって、半弓サイズのリカーブボウを作ることにした。

 水属性の魔法でも良いのだが、物理的な矢を射る方が威力が出るし、そこに魔法を加えれば更に威力が増すからだ。


「麻田さぁ、獣人族って身体強化が上手いんだよね?」

「そう、と言うか攻撃魔法のスキルを持ってないんだよ」

「なんで?」

「さぁ、そこまでは知らないけど、力は強いよ」

「そっか、そんじゃあ強力なコンパウンドボウを作れれば、アルマルディーヌの攻撃魔法に対抗出来るんじゃない?」

「そう思うけど、作るのに手間掛かりそうだよね」

「それこそ、知識チートの産物なんだから、作ってアピールしようよ、ねぇ樫村どう?」

「いいな、攻撃魔法が使えないのが獣人族のウィークポイントだから、それをカバー出来るような物を作れば、良いアピールになるな」


 樫村が中心になって話を進めて、俺達からダンムールの里に提供する物は3パターンに集約する事にした。


 一つ目は、コンパウンドボウを含めて武力として使えるもの。

 二つ目は、生活の質を向上させるもの。

 三つ目は、娯楽として使えるものにした。


 樫村は、クラスメイトを三つの班に分けて、それぞれ武器、生活、娯楽を分担させる形にした。

 と言っても、厳密に区別するのではなく、違う班にアイデアを求めたり提案できるようにする。


「最初に何を作る?」

「こういう時の定番はリバーシだけど、こっちの世界にあるの? 無いの?」

「手漕ぎのポンプとかは?」

「水の魔道具あるから駄目じゃね?」

「料理とかスイーツとかも良くない?」

「あたしケーキ焼ける!」

「オーブン無いぞ、大丈夫か?」

「うっ……じゃあ無理」


 クラスメイト達は、早速色々なアイデアを出し始めたけれど、一つ気になっていることがある。


「樫村、日本に帰る方法は探すのか?」


 俺の一言で、ピタっとクラスメイト達の声が止んだ。

 その空気を読んだのか、樫村がキッパリと答えた。


「勿論探す。探すけど、まずは生きていく事の方が先だ。アルマルディーヌの連中は日本に帰る方法は無いって言ってたが、諦めるつもりはない。だが、現状は雲を掴むような状態だから何時日本に戻れるのかも分からない。だから、まずは生活の基盤を整えて、生きて行く術を確保して、じっくりと腰を据えて探そう」


 女子の中には不安な表情を浮かべている子もいたが、樫村が諦めるつもりはないと言い切ると少しだけホッとしているようだった。

 実際問題としては、どうやって帰れば良いのか皆目見当もつかないし、むしろ帰れない確率の方が遥かに高いと全員が分かっている。


 分かってはいるが、樫村の一言にすがっているような状態を否定するような馬鹿がいなくて助かった。


「麻田、筆記用具が欲しい」

「分かった。ラフィーアに頼んで……」

「いや、アルマルディーヌからいただこう」

「樫村、お主も悪よのぉ……」

「僕は王国には容赦しないよ。ついでに奴らの様子も探ってきてくれ」

「分かった、こっちは頼むぞ」


 一旦、小屋に戻ってラフィーアにサンドロワーヌまで偵察に行って来ると告げ、クラスメイト達の食事を頼んでおいた。

 空間転移魔法を使ってサンドロワーヌ近くの森へと移動して、街の様子を窺う。


 相変わらず城の前面は兵士が厳重な警戒を敷き、奴隷商会や倉庫街では兵士が調べを行っているようだ。

 暴徒と化した住民の姿は見えず、暴動は一過性のもので収束しそうに見える。


 クラスメイト達が閉じ込められていた宿舎があった場所では、門が開け放たれているが兵士の姿は見えない。

 すでに調べは終えてしまったのだろう。


 門の外にある詰所のドアは閉ざされているが、内部はテーブルや椅子が倒れて散らかったままだ。

 首を切断された遺体や俺が蹴り飛ばした兵士の姿は無いが、床の血溜まりはドス黒く変色して残されていた。


 宿所があった周辺に兵士の姿は見あたらない。

 何も無くなった場所を警戒するような余剰人員はいないのだろう。

 俺の蹴り飛ばした兵士の生死も分からない。


 城の内部に目を転じて、ベルトナールを襲撃した部屋を見ると、内部には人影が無いのに、ドアの前には二人の兵士が緊張した面持ちで警備を行っていた。

 おそらく、何時ベルトナールが訪れても良いように、万全の警護体制を敷いているのだろう。


 更に城の内部を見て回ると、上官らしき男が兵士を詰問していたが、残念ながら何を言っているのか分からない。

 読唇術のようなスキルがあれば、もしかしたら会話の内容を把握出来たかもしれないが、今は諦めて見守ることしか出来なかった。


 上官らしき男の部屋の隣室では、文官らしき男が書面をしたためていた。

 使っているのは羽ペンで、紙の質は日本よりも遥かに劣っているように見える。


 文官らしき男がいる部屋とは逆側は、テーブルと金属製の壺がおいてあるだけの殺風景な部屋だった。

 テーブルはあるけれど椅子は無く、壺はあれども何も入っていない謎な部屋だが、目的の物は置かれていない。


 殺風景な部屋の先にも部屋があり、こちらは書庫のようだ。

 棚には何やら数字らしきものが書かれた札が下げられていて、丸めて開かないように結ばれた書類が置かれている。


 城の公文書と思われる書類は沢山残されているが、新品の紙とインクは見あたらない。

 文官の部屋を中心にして、周囲の部屋を探し回ると、ようやく備品庫と思われる部屋が見つかった。


 紙、インク、ペン、燭台やランプ、封蝋らしきものも棚に積み上げられていた。

 辺りに見張りの兵士の姿が無いことを確認して、備品庫まで空間転移を行った。


 備品庫にある品物は、棚ごと全てアイテムボックスへと放り込む。

 全ての収納が終わったら、こんどは書庫へと移動して、こちらも棚ごと全ての書類をいただいた。


 更に城の内部を見て回ると、防具などの武器が置かれている倉庫があった。

 これだけの資材が置かれていれば、厳重な警備がされていてもおかしくないところだが、たぶん暴動の調べなどに駆り出されて手が足りない状況なのだろう。


 倉庫の中へと移動して、こちらも根こそぎ頂いていく。

 短剣、長剣、槍、盾、鎧、使っていない馬車三台もいただいた。


 ついでに食料庫にも侵入して、麦やイモなどの穀類や塩、砂糖、塩漬け肉などを片っ端からアイテムボックスに放り込んだ。

 これならば、暫くの間クラスメイト達の食事も何とかなるだろう。


 俺がクラスメイトを助け出した影響までは調べられなかったが、戦利品を携えてダンムールに戻ることにした。


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