【先生ができること(3)】弁護士業務で感じる性差別構造のこと①

弁護士 太田 啓子
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私は弁護士として一般民事、家事事件全般を取り扱っていますが、今は7~8割が離婚案件です。そして、そのうち7~8割が妻側の代理人です。

配偶者間(内縁を含む)における犯罪(殺人,傷害,暴行)の被害者の男女別割合(検挙件数,令和元(2019)年)(令和2年版男女共同参画白書)

 離婚案件は、どちらかに非があるとか原因があるとか言えないものももちろんありますが、暴力やハラスメントがひどいケースなど、夫婦間のパワーバランスが偏り、明らかに一方が「被害者」だというケースもやはりあり、暴力の被害者は女性であることが圧倒的多数です。もちろん、個々に見て男性が被害者になる少数のケースを軽視してよいということではありません。しかし、全体を俯瞰すれば女性が圧倒的に暴力の被害者になりやすいことは、社会全体の性差別構造に起因するという意味で、やはり重大な問題として認識されるべきです。

 時々メディアで「今は女性が加害者となる『逆DV』も深刻」などという報道を見ることもあり、このような「常識のように思っていることが実は逆で~」というトーンの情報が、根拠がなくてもウケたりすることに気が重くなります。性差別構造が全く解決していないのに、そこから目をそらしたがる風潮が一部にあるのは嘆かわしいことだと考えていますので、あえて強調してみました。

 統計(検挙件数、2019年)を見ると、配偶者間における犯罪の被害者の男女別割合は、殺人(既遂未遂合計)158件のうち女性が53・8%(既遂に限ると79・2%)、傷害2639件のうち女性が91・7%、暴行4987件のうち女性が89・9%となっています。配偶者からの初めての暴力で、いきなり警察に飛び込む人はほぼいません。この数字は氷山の一角です。

 私が関わったケースでも「失明寸前まで殴られ、視力が低下した」「殴られて左右の鼓膜を破られた」「暴力により何度も骨折し、整形外科医に、『もう次は生きているあなたに会えないかもしれない』と警告された」など夫からの凄惨(せいさん)な暴力に、何年も耐えてきたという方の話を何度も聞いたことがあります。

 身体的暴力だけでなく、「生活費を十分にくれない」という経済的暴力、「したくない性行為を強要される」「避妊に協力せず、中絶を余儀なくされた」などの性的暴力、「怒鳴りつける」「無視する」という精神的暴力やモラルハラスメント、それらいくつかのミックスを見ることが実務では多々あります。ひどい目に遭いながらすぐには逃げない理由はいろいろありますが、重要な背景は女性の経済力が低いことです。次回はこれについて書きたいと思います。


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