新型コロナウイルスの感染拡大で市中感染の疫学調査を簡略化した県の動きを巡り、市民の不安が高まっている。「濃厚接触者はどう特定するのか」「検査はどこで受けられるのか」…。限界が近づく保健所の業務を民間が肩代わりするケースも出始めており、感染リスクを見極める検査の在り方が問われている。
一事案に6時間も
「行動記録は」「消毒方法は」。感染者の勤務先を訪れた茅ケ崎市保健所の保健師が、質問を重ねる。現場を直接見て回ることで、狭い更衣室や使用期限切れの消毒液など、感染経路と予想される「穴」を次々とあぶり出していく。
隣でペンを走らせるのは市の事務職員。現場の写真と建物の見取り図をまとめたA3判の資料はフロア数に応じて増える。職員や施設利用者の名簿などをまとめて所長に報告し、集団PCR検査を実施するか否か判断する。移動時間も含め、一つの事案で6時間ほどかかることもある。
同市と寒川町の約30万人をカバーする同保健所。昨年末から1日につき20人前後の感染者が確認され、累計千人近くに上る。所内では1日100件ほどの問い合わせに市の建築、会計担当など他部署からの応援も含め、約50人で夜中まで対応する。
それでも、保健予防課の井上郁子課長は「まだ逼迫(ひっぱく)した状況ではない」と説明する。感染者や家族の不安を直視し、「現場で患者の命に優先順位はつけられない。目の前の一人を大事にしたい」。今後も感染者の発症2日前までの会食など「感染経路をたどる重要な情報」は調査を進める。(清水 嘉寛)