――栃木県内で感染者が急増しています。
第1波、2波で感染者が少なかったのは、たまたま幸運だったからだ。急増したように受け取られがちだが、最近1週間の人口10万人あたりの感染者数は30人程度。例年の季節性インフルエンザと比べて決して多くはない。ただコロナは発症すると約5%の症例でICU(集中治療室)に入り、致死率は2%と高い。理解が難しい病気。県民と医療従事者の間に意識の隔たりが生じても仕方がない面がある。
――重症患者を受け入れる病院の状況は?
重症患者は、ケアのために必要な人的・物的資源が段違いに多い。現場感覚では、数十人から100人を超える重症者が突然出てきた感じだ。重症者は集中治療管理が必要な期間も長く、回復に1カ月ぐらいかかる。医療現場には大きな負担になっている。
――医療崩壊とも言われています。
一定割合で急激に悪化するので、できる限り病院や施設で経過観察をしたい。しかし、現状では県が確保した病床と宿泊療養室数に対して約2倍の陽性者が出ている。このままでは在宅の経過観察期間中に命にかかわる症例数が増えてしまうかもしれない。
付属病院でも、がんや心臓などの大手術の延期や入院の制限など、従来通りの医療の提供態勢が維持できず、選別を強いられることがある。その点からもすでに医療崩壊は始まっている。救える命が救えないという意味での崩壊も迫ってきている。
――どんな思いで患者に接しているのですか。
世間の風当たりはきつい。「コロナを診ている病院には行けない」「怖い」という声も聞こえてくる。他の施設では離職する看護師もいる。病院スタッフは頑張っているが、ストレスはかかっている。重症患者がいつ来るか分からず、ずっと緊張感が続いている。
――医師や看護師の人手は足りていますか。
コロナ患者には人手が必要で本当にぎりぎり。専門性を考えながら医師や看護師を配置している。病棟を変えることもある。患者に近づく際にはガウンとマスクを身につけ、離れるときには脱ぐことの繰り返しも負担だ。
――県民はどう行動したらいいですか。
治療方法が確立されていない今、重症例を減らすためには感染者を減らすしかない。マスク着用の徹底や手指衛生を心がけること、同居する家族以外との会食は避けることなど基本を徹底してもらいたい。過剰に思えるかもしれないが緊急事態だ。ワクチンで発症は9割減らせるが、ゼロにはならない。変異株も出てくる。もうしばらく我慢を続けないといけない。(聞き手・中野渉)
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もりさわ・ゆうじ 自治医大付属病院感染制御部長。1966年ニューヨーク生まれ、東大医学部卒。東大付属病院などを経て2004年から現職。栃木地域感染制御コンソーティアムTRICK(代表世話人)
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