企業の雇用等をサポートする助成金。新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、2020年は特例が新設されたものもある。主にどのようなものがあるのか確認しておこう。(ここでの助成金は、厚生労働省による助成金制度によるもの。)
雇用の維持のための助成金
●雇用調整助成金
休業や教育訓練、出向を通じて労働者の雇用を維持した場合に、事業主に対して支給される助成金。特例措置として「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例」が2021年2月28日まで実施されている。
この特例は、新型コロナの影響により、事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、従業員の雇用維持を図るために、労使間の協定に基づき、雇用調整(休業)を実施する事業主に対して、休業手当などの一部を助成するもの。
また、労働者を出向させることで雇用を維持した場合も、雇用調整助成金の支給対象となる。
特例措置では、通常より助成率と上限額が引き上げられており、1人1日1.5万円を上限額として、最大10/10が助成される。
学生アルバイトなど、雇用保険被保険者以外に対する休業手当等も助成対象となる。
仕事と家庭の両立支援の助成金
●両立支援等助成金
両立支援等助成金は、従業員が仕事と育児や介護との両立を行える制度を導入したり、女性の活躍推進のための取り組みを行ったりする場合に助成される。新型コロナを受け、2020年に特例が設けられた。
・新型コロナウイルス感染症小学校休業等対応コース
新型コロナの感染拡大防止などのために小学校等が臨時休業した場合などに、保護者である労働者に対して有給の休暇を付与する場合に支給。
2020年10月1日から2020年12月31日までの休暇取得分については、2021年3月31日までが申請期限。2021年1月1日から2021年3月31日までの休暇取得分については、2021年6月30日までが申請期限となる。
・介護離職防止支援コース「新型コロナウイルス感染症対応特例」
家族の介護を行う必要がある労働者が育児・介護休業法に基づく介護休業とは別に、有給休暇を取得して介護を行える取り組みなどを実施する場合に支給。
2020年4月1日から2021年3月31日までの間に取得した休暇が対象。
・新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置による休暇取得支援コース
新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置として、休業が必要とされた妊娠中の女性労働者が、安心して休暇を取得して出産し、出産後も継続して活躍できる職場環境を整備するため、正規雇用・非正規雇用を問わず、妊娠中の女性労働者に有給の休暇(年次有給休暇を除く。)を取得させた企業に対して支給。
事業主が対象となる有給の休暇制度を整備し、労働者に周知する期限と対象となる休暇の取得期限はともに2021年3月末まで。助成金の申請期限は2021年5月末まで。
両立支援等助成金には、その他、出生時両立支援コース、育児休業等支援コース、女性活躍加速化コースなどもある。
従業員の能力向上を図る場合の助成金
●キャリアアップ助成金
非正規雇用労働者、つまり有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者などの企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化や処遇改善の取り組みを実施した事業主に対して支給する助成金。
・正社員化コース
有期契約労働者等を正規雇用等へ転換または直接雇用した場合に支給。
・賃金規定等改定コース
有期契約労働者等の賃金規定等の増額改定により賃金の引上げを実施した場合に支給。
・健康診断制度コース
有期契約労働者等に法定外の健康診断制度を導入した場合に支給。
キャリアアップ助成金には、他に、賃金規定等共通化コース、諸手当制度共通化コース、選択的適用拡大導入時処遇改善コース、短時間労働者労働時間延長コースもある。
●人材開発支援助成金
雇用する労働者のキャリア形成を効果的に促進するために、職務に関連した専門的な知識や技能を修得させるための職業訓練等を労働者に受講させる場合に支給。
・特定訓練コース
OJTとOff-JTを組み合わせた訓練、若年者に対する訓練、労働生産性の向上に資する訓練など、効果が高い10時間以上の訓練を行った場合に支給。
・一般訓練コース
職務に関連した知識・技能を習得させるための20時間以上の訓練を行った場合に支給。
人材開発支援助成金には、他に、教育訓練休暇付与コース、特別育成訓練コース、建設労働者認定訓練コース、建設労働者技能実習コース、障害者職業能力開発コースがある。
中途採用などの助成金
●中途採用等支援助成金
・中途採用拡大コース
中途採用者の雇用管理制度を整備し、中途採用の拡大を図った場合に助成。また、一定期間後に生産性が向上した場合には追加の助成がある。
・UIJターンコース
東京圏からの移住者を雇入れた場合に支給。
新たな労働者の雇入れに関する助成金
●特定求職者雇用開発助成金
高年齢者や障害者等の就職困難者をハローワーク等の紹介により、継続して雇用する労働者(雇用保険の一般被保険者)として雇い入れる事業主に対して助成される。
・特定就職困難者コース
高年齢者(60~64歳)・障害者・母子家庭の母などの就職困難者を雇い入れた場合に支給。
・生涯現役コース
65歳以上の離職者を雇い入れた場合に支給。
特定求職者雇用開発助成金には、他に、被災者雇用開発コース、障害者初回雇用コース、発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース、就職氷河期世代安定雇用実現コース、生活保護受給者等雇用開発コースがある。
●地域雇用開発助成金
・地域雇用開発コース
雇用情勢が特に厳しい地域で、事業所を設置整備して労働者を雇い入れた場合に支給。設置整備費用・対象労働者の増加数に応じて助成される。
他に沖縄県内で事業所を設置整備し、35歳未満の若年者を雇い入れた場合に支給される沖縄若年者雇用促進コースもある。
トライアル雇用(一定期間の試行的雇入れ)に関する助成金
●トライアル雇用助成金
職業経験、技能、知識等から安定的な就職が困難な求職者について、ハローワークや職業紹介事業者等の紹介により、一定期間試行雇用した場合に助成。
・一般トライアルコース
55歳未満で安定所等で個別支援を受けている者等(就職氷河期世代を含む。)を試行的に雇い入れた場合に支給。
・障害者トライアルコース
障害者を試行的・段階的に雇い入れた場合に支給。
トライアル雇用助成金には、他に障害者短時間トライアルコース、若年・女性建設労働者トライアルコースがある。
雇用環境の整備に関する助成金
●人材確保等支援助成金
・雇用管理制度助成コース
雇用管理制度(評価・処遇制度、研修制度、健康づくり制度、メンター制度、短時間正社員制度(保育事業主のみ))の導入などによる雇用管理改善を行い、離職率の低下に取り組んだ場合に支給。
・介護福祉機器助成コース
介護労働者のために介護福祉機器の導入を行った場合に支給。
人材確保等支援助成金には、他に介護・保育労働者雇用管理制度助成コース、中小企業団体助成コース、人事評価改善等助成コース、設備改善等支援コース、働き方改革支援コース、雇用管理制度助成コース(建設分野)、若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野)、作業員宿舎等設置助成コース(建設分野)がある。
しかし2021年度は、人材確保等支援助成金の各コースにおいて、廃止されるコースと助成があると発表されている。介護・保育労働者雇用管理制度助成コース、設備改善等支援コース及び働き方改革支援コースは廃止となる。また介護福祉機器助成コース、人事評価改善等助成コースについて、機器導入助成、制度整備助成が廃止となる。
●通年雇用助成金
季節労働者を通年雇用した場合に支給。
●65歳超雇用推進助成金
・65歳超継続雇用促進コース
65歳以上への定年引上げ等を実施した場合に支給。
他に高年齢者評価制度等雇用管理改善コース、高年齢者無期雇用転換コースがある。
障害者の職場定着支援
●障害者雇用安定助成金
・障害者職場定着支援コース
障害特性に応じた雇用管理・雇用形態の見直しや柔軟な働き方の工夫等の措置を講じた場合に支給。
・障害者職場適応援助コース
職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援を実施した場合に支給。
いずれも企業にとって雇用の安定、職場環境の改善、仕事と家庭の両立支援、従業員の能力向上などに役立つものとなる。
詳しい支給要件や支給額は下記のパンフレットで確認できる。
「令和2年度 雇用・労働分野の助成金のご案内」
簡略版:https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000613151.pdf
詳細版:https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000617476.pdf
参照:厚生労働省「事業主の方のための雇用関係助成金」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index.html
【監修】
中島 未宇人さん
中島労務管理事務所 社会保険労務士
http://www.minatosyaroushi.com/
取材・文/石原亜香利
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