山草人のモノローグ

かつて若い頃には人並みに、出世欲だの豊かになりたいって願望が多分にあった。

いやさ、その為にコツコツと人知れず苦労してきたのだと思う。

そんな生臭さのピークはたぶん四十代で、あれも出来るこれもと拡大の時期だった。

世は正に高度経済成長の真っ盛りで、少し背伸びすれば何でも手に入る雰囲気もあった。

それが平成二年にバブルが崩壊し、世の中の雰囲気は一転して重苦しくなっていった。

そんな時代の変化を映して、私の内面もその「欲しいもの」が徐々に変わってきた気がする。

と言うか、男も五十を過ぎりゃ人生が少しは分かるようになって、達観するんだろうなきっと。

それまでのギラギラが無くなって、人生を楽しむって方向に自然に舵を切ったのだと思う。

つまりそれまでの発展・拡大から、整理・縮小の方向に転換したってことだ。

それが70に近づくに従って次第に加速し、物も余計な人間関係も捨てる方向に動いている。

そして最終的には、この自分を捨てるところまで行くのだと思っている。

という訳で、これまでに身の周りの物をかなり処分して身軽になってきたのだが、

昨日からクローゼットの整理を始めていて、背広やワイシャツ・ネクタイの処分を始めた。

そもそもこれからは、背広など式服を含め２〜3着もあれば十分なのだ。

人間本来無一物、人生の極意は、自分を如何に消して行くかではないかとさえ思う。

そうして生まれたままに近づいて、裸になって天真爛漫に生きられれば最高ではないか。

茶の湯や華道の世界も、無駄なものを限りなく削いで形式美を求めるじゃない。

人生も、アレと同じなんじゃなかろうか。あぁ〜、色即是空　空即是色。

物も金も要らないけれど、逆にやりたいことは次から次へとあるんだから人生は面白い。