『ボーイズ 男の子はなぜ「男らしく」育つのか』という本の中で、トランプ前大統領が「こっちがスターなら、女は許してくれる。何でもできる。アソコをつかむことだってできる」というおぞましい女性蔑視発言を批判された際に、「単なるロッカールームの軽口だ」と弁解したエピソードが紹介されている。
著者のレイチェル・ギーザは「ここに暗示されているのは、合意なしに女性に触ったりキスしたりできると自慢するのは、男だけの空間では普通の会話だ、という意識である」と指摘している*4。
『シンク・オア・スイム』で描かれるメンバーたちの関係性は、女性を侮辱することで見栄を張り合うような男性同士の会話とは一線を画している。彼らはシンクロの練習に打ち込み、大会で優勝することに達成感を感じることはあっても、誰かを貶めることはしない。そして少しずつパートナーや家族、そして自分に向き合っていく。そこにはトランプが想定したものとは全く異なる「ロッカールーム」がある。
攻撃性や性差別以外のものでつながる関係性を男性たちは持つことができるし、普段から何気なく作り上げているかもしれない。「有害」というラベルに振り回されることなく、こうしたオルタナティブな男性の側面を掘り起こして肯定的に捉え直すことを始めていきたい。