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【WEB版】この冒険者、人類史最強です ~外れスキル『鑑定』が『継承』に覚醒したので、数多の英雄たちの力を受け継ぎ無双する~  作者:日之影ソラ

第二章

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35.狂人病

 よだれを垂らして立つ男性。

 服装はまだ新しく、整っているとすら言える。

 しかし、それを着ている人間は、もはや普通とは言い難い。


 俺が継承した記憶の中に、同じような光景があった。

 街中の人々が屍となって徘徊して、共に暮らしていた仲間に襲い掛かる。

 まさに死屍累々と化し、地獄を絵に描いたような光景だった。

 これも呪いの一つであり、傷を負わせることで伝染する。

 名を――


「狂人病……」


 男性の一人が襲い掛かってくる。

 俺は剣を生み出し、両肩から地面に突き刺して、身動きを封じる。

 さらに後ろから二人。

 左右からもゾロゾロと現れ、俺たちに襲い掛かる。


「ユーストス殿! 彼らは一体!」

「詳しく説明している暇はありません。一つ確実に言えるのは、この街はすでに呪いの王の眷属に支配されています」


 記憶を辿る。

 同じ現状を生み出していた眷属に心当たりがある。

 ただし、同一人物ではないだろう。

 かつて彼らの前に立ち塞がった眷属は、聖女の力によって倒された。

 おそらく同種の力をもった別の個体だ。

 能力や性質が完全に同じであれば、呪いを振りまいている本体を倒さない限り、狂人病の犠牲者は増え続けるだろう。


「どこかに本体がいるはずです!」

「待て! 彼らはどうする? この街の住人なのだろう」

「残念ですが手遅れです」


 狂人病に感染すると、肉体は半分死に、半分だけ生きている状態となる。

 一言で表すなら、文字通りの生きた屍だ。

 攻撃しても再生して、生者を襲い続ける。

 聖女の力をもってしても、助けることは出来ない。


「これ以上の犠牲者を出さないためにも、早く本体を探しましょう」

「くっ……わかった」


 グリアナは悔しそうな表情をしていた。

 民衆を守る騎士として、元住人の彼らに剣を向けることは不本意だろう。

 アリアたちも、見た目が人間だから戸惑っている。

 出来ることなら戦わせたくないが、そうも言っていられない。


 この霧の所為か?

 近くにいても、互いの気配が感知しづらい。

 もしも逸れたら、二度と再会できないような予感すらある。

 襲い掛かってくる感染者も、姿が見えるまで気配がつかめない。


「くっ……」

「躊躇うな!」


 アレクセイの怒声が響く。

 嘆いている時間はない。

 一刻も早くこの場を切り抜け、本体を探し出さねばならない。


「攻撃を受けないでください! 傷を負えば、そこから呪いは伝染します」

「でも先生……」

「ああ」


 アリアの言いたいことはわかる。

 感染者の数がどんどん増えてきて、逃げ道も進む道もなくなりつつある。

 このまま完全に囲まれると厄介だ。

 その前にマナの魔法で一気に――


「皆さん!」


 突然聞こえてきた声に、俺たちは驚かされる。

 声の聞こえた方向を目を向けると、一人の男性が駆け寄って来た。


「こちらへ!」


 見たところ感染していない。

 正気を保った状態で、指をさしながら叫ぶ。


「早く! 抜け道がありますから!」

「ユーストス殿!」

「……よし、案内してください」


 短い文のやり取りで、全てを把握したわけではない。

 意図を察して彼についていく。

 現状を打開するためには、一旦この場から離れなくてはならなかった。

 俺たちは霧の中を駆けていく。

 離れないように互いの姿を視認できる距離を維持しながら。 

 感染者たちは動きが遅いから追いつけない。

 気付けば周りには誰もいなくなっていて、俺たちだけになっていた。

 さらに進み、一軒の建物に入る。

 そこには地下への入り口があって、鍵を開けて中へと入る。


「ここまでくればもう安心ですよ」

「ここは?」

「避難用の地下シェルターです。無事だった人をかくまっているんですよ」


 周囲に目を向ける。

 ホールのような広い空間に、感染していない人たちが集められていた。

 他にも部屋があり、出入りしている姿がある。


「貴方は?」

「申し遅れました。私はドレークです」


 彼は街で商人をしていたという。

 俺たちは簡単に自己紹介を済ませ、何が起こったのかを尋ねた。


 事件が起こったのは十日ほど前。

 それまで街に異変はなく、平穏な日々が続いていた。

 しかし、一人の感染者が現れたことで状況は一変。

 次々に感染は広まり、街中で大混乱が起こった。

 街の外へ逃げようとする人々もいたが、同じタイミングで霧が発生し、自分の位置すらわからなくなって、街の中を右往左往していたそうだ。


「ここにいるほとんどは、霧が発生する前に逃げ込んだ方々です。他は残念ながら……」

「そうですか……あの、感染者以外に人影を見ませんでしたか?」

「いえ、私は見ていません」

「この中で感染者が出たことは?」

「ありませんよ。出ていたらとっくに私も感染しています」


 話はそこで終わり、俺たちは一室を借りた。

 グリアナが言う。


「どうするのだ? 外へ出るにしても、あの霧は危険だ」

「ああ……霧の中だと気配がまったく読めん。無作為に探すのは、私も反対だ」


 グリアナとアレクセイが意見を言い合う。

 ふと、ティアが考えている俺に気付く。


「師匠?」

「何かわかったの? お兄さん」

「いや……一つ試したいことがある」


 これまでに得た情報と、記憶の中にある情報。

 二つを掛け合わせて、一つの仮説をたてた。


「頼みがあります」


 それを確認するためには、彼女たちの協力がいる。


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