5年ぶり「朝鮮労働党大会」総括(1)「米は最大の主敵」と核武力「全面高度化」

国際 Foresight 2021年1月19日掲載

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 朝鮮労働党は1月5日から12日まで8日間にわたり、第8回党大会を開催した。

 金正恩(キム・ジョンウン)党委員長を父・金正日(キム・ジョンイル)や祖父・金日成(キム・イルソン)が就いていた「党総書記」に推戴し、党政務局を党書記局に戻すなど、朝鮮労働党による組織的国家運営体制を強化、再整備した。

 注目された対外関係では、米国を「最大の主敵」と規定、「核先制・報復打撃能力」の高度化を推進するとし、各種兵器の開発計画を具体的かつ詳細に明らかにした。米朝関係はドナルド・トランプ時代の対話から、対決へと原点回帰した。

 金党委員長は、活動総括報告で「核」という言葉を36回使ったが、「非核化」という言葉は1回も使わなかった。金党委員長が2018年4月の「板門店宣言」で表明した「完全な非核化を通して核のない朝鮮半島を実現するという共通の目標」を喪失してしまったのである。

 これは約10日後にスタートする米国ジョー・バイデン政権への通告であり、核兵器やミサイルなど各種兵器の開発を続けることで米国や韓国を恫喝しながら、バイデン新政権や文在寅(ムン・ジェイン)韓国政権に譲歩を迫るという、北朝鮮が従来取ってきた戦術への回帰宣言であった。

 金党委員長は9時間にわたって行った活動総括報告で、北朝鮮の対外政治活動を、

「わが革命発展の主たる障害物、最大の主敵である米国を制圧し屈服させることに焦点を合わせて、志向させていかなければならない」

 と規定した。

 金党委員長が北朝鮮の最高決定機関である党大会で米国を「最大の主敵」「わが革命発展の主たる障害物」と規定したことで、トランプ大統領との2度の首脳会談にもかかわらず、米朝関係は再び対決関係に戻り、仕切り直しをすることになったわけだ。

 国内的には、2016年5月の第7回党大会で決定した「国家経済発展5カ年戦略」が、

「ほとんどすべての分野で目標を甚だしく達成できなかった」

 と失敗を認め、新たな「国家経済発展5カ年計画」を提示した。しかし、その内容は具体的には明らかにされず、従来通りの「自力更生」路線が強調された。

 こうした難局を反映し、外交的には「古くからの歴史的根源を持った特殊な朝中関係の発展に優先的な力を注ぐ」と中朝関係を強調し、中国やロシア、社会主義諸国との関係強化を訴えた。

 5年ぶりの党大会と、金党委員長が行った活動総括報告の内容を検証する。

「米を制圧、屈服」

 北朝鮮は、米大統領選挙でのバイデン氏の当選すら報じていない。これは今回の大統領選挙のみならず、4年後の大統領選挙を含めた米国の政治の動向を注視していたためとみられる。

 北朝鮮はトランプ大統領の再選を強く願ったが、結果はそうならなかった。トランプ大統領が敗北を認めていない状況下で、北朝鮮がバイデン氏勝利を報じるわけにはいかなかったといえる。

 軽々にバイデン政権との対応を打ち出せば、4年後にトランプ氏が再登場した場合には障害になる恐れもある。大統領選挙後の米国政治の動きを見つめながら、沈黙こそが最善の方法と判断したのであろう。

 もっともトランプ支持勢力が1月6日に連邦議会議事堂に乱入し、死者まで出たことで、トランプ氏が4年後に再選される可能性はほぼなくなったが、北朝鮮としては慎重に事態の推移を注視したのであろう。

 金党委員長は活動総括報告で、

「米国で誰が執権しようとも、米国という実体と対朝鮮政策の本心は絶対に変わらない」

 と指摘し、米国を「制圧し屈服させる」ことを外交の基本方針とした。

 この上で、バイデン政権との「新たな朝米関係樹立の鍵」は「米国が対朝鮮敵視政策を撤回するところにある」としながら、「今後も強対強、善対善の原則で米国を相対するというわが党の立場」を示した。北朝鮮が挑発に出るのか、対話に出るのかはバイデン政権の出方次第であると注文を付けた形だ。

核先制使用の可能性示唆

 活動総括報告で金党委員長は、

「1万5000キロ射程圏内の任意の戦略的対象を正確に打撃消滅する命中率をいっそう向上させて、核先制および報復打撃能力を高度化する」

 と述べた。

 北朝鮮は、これまで「核先制使用」について肯定や否定を繰り返してきたが、金党委員長は2016年5月の第7回党大会の活動総括報告では、

「わが共和国は責任ある核保有国として、侵略的な敵対勢力が核でわれわれの自主権を侵害しない限り、すでに明らかにしている通り、先に核兵器を使用しないであろう」

 と「核先制不使用」の立場を示した。

 しかし今回は、

「核先制および報復打撃能力を高度化する」

 と述べた。核先制攻撃を直接的に言明はしていないが、核先制攻撃能力の高度化を明言し、核先制攻撃の可能性を示唆した。

 第7回党大会と同じ部分での言及でも、

「わが共和国が責任ある核保有国として、侵略的な敵対勢力がわれわれを狙って核を使用しようとしない限り、核兵器を濫用しないであろう」

 と述べた。敵対勢力が核兵器を使用しない限り核兵器を「使用しない」のではなく「濫用しない」と後退し、1、2発なら使用するかもしれないという疑念を抱かせる言及であった。

各種兵器の開発を詳細に明言

 また、超大型核弾頭の生産を継続しながら、核兵器の小型軽量化をより発展させて「戦術核兵器」を開発する、とした。米国をターゲットにした超大型核弾頭の生産を続けながら、在韓米軍や在日米軍、さらに韓国、日本などの攻撃に使用できる「戦術核兵器」開発を行うということであろう。

 この「戦術核開発」については、後に詳しく検討したい。

 北朝鮮は、トランプ大統領が米朝首脳会談を受け入れたことを受けて、2018年4月の党中央委員会第7期第3回総会で、核開発と経済建設を同時に進める「並進路線」を勝利のうちに終了し、経済建設に集中するとした。

 しかし、2018年以降の対話局面においても「国防力の強化」を訴え、固体燃料を使った各種ミサイルの開発などを続けた。

 今回の第8回党大会での金党委員長の報告は、今後の戦略兵器の開発について具体的かつ詳細に明らかにし、米国など国際社会を威嚇したものだ。実質的に「並進路線」に戻ったというか、むしろ制裁下において制約を受ける経済を尻目に、「国防力強化」を前面に出し、保有した核兵器を各分野において全面的に高度化するという新路線を言明したのである。

 開発を進める兵器は通常は、厳重に秘匿するものだが、これほど具体的に、詳細に明らかにしたのは前例がなく、核・ミサイルの「開発計画」を米国への威嚇の武器として活用したといえる。

 北朝鮮が2017年11月に発射した大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」は、通常角度で発射すれば射程は1万3000キロとみられた。射程1万3000キロというのは地球の北朝鮮の真裏を除き、ほぼ世界のどこにでもミサイル攻撃ができる飛距離だ。

 しかし、金党委員長は先述のように、1万5000キロ射程圏内の任意の戦略的対象を打撃消滅できるように命中率を一層向上させる、とさらに目標レベルを上げた。

多弾頭ICBM研究は最終段階

 金党委員長は報告で、この5年間で「多弾頭個別誘導技術をさらに完成するための研究を最終段階で行っている」とし、多弾頭ICBMの研究が間もなく終わるとした。

 北朝鮮は、昨年10月の党創建75周年の軍事パレードで、「長さ23~24メートル、直径2.3メートルから2.4メートル」(『聯合ニュース』推定)という巨大な怪物ICBMを登場させた。

 この怪物ICBMを、2017年11月に発射した「火星15」と比較すると、特徴は弾頭部分が長くなり丸みが大きくなっていることであった。軍事パレードでは弾頭部分の中身は見えないが、弾頭部分が大きくなっていることから、これは多弾頭ICBMではないのかという見方が出た。

 こうした中での金党委員長の報告は、「多弾頭個別誘導技術」――弾頭部分に収納された個別のミサイルが、別の攻撃目標を狙って飛行する誘導技術――の研究が最終段階にあると言明したわけだ。昨年10月に公開した巨大ミサイルがまだ多弾頭ミサイルの完成品ではないことが分かったとは言えるが、現実の多弾頭ミサイルとして登場するのは間近だということなのである。

「極超音速兵器」で「ゲームチェンジャー」

 また金党委員長は、

「新型弾道ロケットに適用する極超音速滑空飛行戦闘部をはじめとする各種の戦闘的使命の弾頭開発研究を終え、試験制作に入り込むための準備をしている」

「近い期間内に、超高速で変則的な軌道を取る極超音速滑空飛行弾道部の開発導入を計画通り進める」

 とした。

 韓国の北朝鮮専門ネットメディア『デイリーNK』は1月5日、北朝鮮の兵器開発の中心である国防科学院に「極超音速ロケット研究所」が新設されたと報じた。

 同サイトによると、「極超音速」とは音速の5倍の速さであるマッハ5(時速6120キロ)以上の武器を指し、地球上のどこでも3時間以内に攻撃できる次世代兵器であるとした。在来式の弾道ミサイルと異なり、弾道軌跡に従わない変則的な飛行でミサイル迎撃を避ける点で、将来の重要戦力になるとみられているという。

 北朝鮮は2019年から、低高度を飛び、変則軌道で迎撃を避ける「KN23」(北朝鮮版イスカンデル)の発射実験を繰り返してきた。米国の高高度防衛ミサイル(THAAD)などのミサイル防衛システムを無力化する狙いとみられる。

 金党委員長は「NK23」を超える「極超音速兵器」がまもなく試験制作に入ると予見したわけだ。

『デイリーNK』によると、国防科学院への党中央の1月3日の指示で「極超音速ロケット研究所」が設置されたが、これは第8回党大会前、新年最初に下された指示で、それだけ重要な事業と見なされているという。核兵器を完成した北朝鮮が、今後は極超音速兵器を量産し、対米交渉に備えるというのである。

『デイリーNK』は、

「北朝鮮当局は、超高速で、低高度飛行で、回避軌道能力まで備えた『極超音速兵器』が、実際に使用可能性が低い核兵器に代わって世界の軍事安保秩序の版図を変える『ゲームチェンジャー』の役割を果たすという判断を下した」

という分析を紹介した。

固体燃料ICBMの開発

 金党委員長は報告で、「水中および地上の固体燃料ICBM開発も計画通り推進する」よう指示した。

 北朝鮮のICBMは、2017年11月に発射した「火星15」のように液体燃料を使っている。「火星」シリーズのミサイルはすべて液体燃料のため、発射準備に時間が掛かり、発射準備の状況を米国の軍事衛星などによって探知される可能性が高い。

 このため北朝鮮は2019年から2020年にわたり、固体燃料を使った「KN23」、「新型大口径多連装ロケット砲」、「新型地対地ミサイル」(北朝鮮版ATACMS)、「超大型多連装ロケット砲」、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「北極星3」の開発を続けた。

 特に注目されるのは、SLBMの「北極星」シリーズだ。「北極星」シリーズは潜水艦から発射されるミサイルだけに液体燃料ではなく、固体燃料だ。

 北朝鮮が2019年10月に発射実験に成功した「北極星3」は高度910キロで約450キロ飛行したが、日本の防衛省は、通常角度で発射すれば飛行距離は2500キロに達するとみている。北朝鮮はすでにSLBM「北極星1」を地上型に転換した「北極星2」を開発済みだ。昨年10月の軍事パレードでは、「北極星3」よりさらに直径が太くなった「北極星4」も登場した。

 金党委員長の今回の指示は、「北極星」シリーズの飛距離を延ばしてICBMクラスにまで引き上げると同時に、潜水艦発射だけでなく地上ミサイルに転換し、現在は液体燃料のICBMを固体燃料に転換しろ、という意味だ。

 北朝鮮のICBMが固体燃料になれば、地下の格納庫などに収納されたICBMがすぐに発射されることになり、脅威は飛躍的に増大する。

 またSLBMの射程が伸び、これを搭載した潜水艦が多数配備されれば、米国が北朝鮮本土を攻撃しても、海中の潜水艦から米国を「第2撃」で攻撃できる抑止力を保有することになる。

原子力潜水艦も建造推進へ

 金党委員長は報告で、

「核長距離打撃能力を向上させるうえで重要な意義を持つ原子力潜水艦と水中発射核戦略兵器を保有する」

 とし、「原子力潜水艦」や「水中発射核戦略兵器」、すなわち核弾頭を装着した長距離SLBMの保有を「課題」に上げた。これまで開発を進めてきたSLBM「北極星」シリーズに核弾頭を搭載することを公式化したわけである。

 こうした状況に刺激されてか、韓国メディアは1月13日、韓国海軍が3000トン級以上の潜水艦に搭載するSLBMの地上での発射実験を昨年までに終え、今年中に水中発射実験を行う計画だと報じた。北朝鮮の軍拡に刺激され、韓国軍もまたSLBM開発に拍車を掛けている状況が浮かび上がった。

 また金党委員長は、

「新たな核潜水艦(原子力潜水艦)設計研究が終わり、最終審査段階にある」

 とした。北朝鮮が原子力潜水艦用の「小型原子炉」を完成させたのかどうかは確認されていない。しかし韓国メディアは、北朝鮮が1990年代にSLBMの技術をロシアから秘密裏に導入した際に、潜水艦用原子炉の技術も合わせて入手した可能性を指摘している。

 北朝鮮はSLBMの開発を推進してきたが、その弱点はSLBMを搭載する潜水艦を満足に保有していないことにあった。現在は3000トン級の潜水艦を建造中とされてきたが、まだ進水式を行っていない。

 もっとも北朝鮮の潜水艦は騒音が大きく、すぐに探知される可能性が高い。また、長期間潜水は不可能である。

 しかし、北朝鮮が原子力潜水艦を保有すれば、潜水艦は長期間海中にあり、探知は困難になる。米国など国際社会にとっては悪夢である。

 また、現在の北朝鮮のSLBMは中距離弾道ミサイルレベルだが、これをICBM級の長距離弾道ミサイルに発展させるということは、原子力潜水艦とセットで米国などを狙った「第2撃」攻撃能力を保持しようという意思表明だ。

 これらはまだ「課題」というレベルとしたが、一方で「設計研究が終わり、最終審査段階にある」としている。軍事開発に対しては一点集中式に精力をつぎ込む北朝鮮を侮ってはならないだろう。原子力潜水艦に搭載された核弾頭装着のSLBMもまた「ゲームチェンジャー」である。

軍事偵察衛星の打ち上げも

 金党委員長は報告で、

「近い期間内に軍事偵察衛星を運用して偵察情報収集能力を確保し、500キロ前方縦深まで精密偵察できる無人偵察機をはじめとする、偵察手段を開発するための最重大研究を本格的に推し進める」

 と述べ、近く、軍事偵察衛星を打ち上げ、衛星による情報収集を行うと表明した。さらに、500キロ先までを精密偵察できる無人偵察機の開発にも着手するとした。さらに、

「各種の電子武器、無人打撃装備と偵察探知手段、軍事偵察衛星設計を完成した」

 と述べており、軍事偵察衛星も設計から制作に進むとみられる。

 北朝鮮は2012年12月12日、平安北道東倉里にある西海衛星発射場から「光明星3号」2号機を打ち上げ、軌道に乗せることには成功したが、地球に送る信号などは探知されなかった。

 また、2016年2月7日、同じ西海衛星発射場から「光明星4号」を打ち上げ、軌道に乗せることに成功したが、この時も、衛星からの信号発信は確認されなかった。

 金党委員長は2016年5月の第7回党大会の報告で、

「宇宙科学者らは世界が見守る中、地球観測衛星『光明星4号』の打ち上げを大成功させ、国家の権威と人民の不屈の気概を示した」

「宇宙科学技術を一層発展させ、先端技術の集合体である実用衛星をより多くつくり、打ち上げなければならない」

 としたが、その後人工衛星は打ち上げていない。

 北朝鮮は以来「宇宙の平和利用」を強調し、毎年、シンポジウムを開催するなどしてきた。北朝鮮は毎年、大規模な水害などに見舞われ、自前の気象衛星を保有し、正確な気象情報を得ることは極めて切実な課題だ。

 しかし、金党委員長は「気象衛星」ではなく、「軍事偵察衛星の運用」に言及した。民生よりは軍事を重視する姿勢の反映だろう。

 北朝鮮は繰り返し、宇宙の平和利用を強調しており、核実験やICBMの発射をすればさらなる経済制裁を受けることになるため、「宇宙の平和利用」という主張で中国やロシアを説得し、実質的なICBMの発射である人工衛星の発射を強行する可能性が出てきた。

核戦力「完成」から「全面的高度化」へ

 金党委員長は、2017年11月のICBM「火星15」の発射実験成功は、2013年3月の党中央委での「並進路線」決定以来4年ぶり、2016年5月の党大会から1年ぶりに成し遂げた国家核戦力の完成であった、と評価した。

 さらにそれからの4年間で、「全地球圏打撃ロケット(ミサイル)開発」を決意し、それが昨年10月の軍事パレードで登場した怪物ICBMとして結実した、とした。そのうえ超大型多連装ロケット砲や北朝鮮版ATACMS、中長距離巡航ミサイルなどの「先端核戦術武器」を次々に開発したとし、こうした先端核戦術武器の開発など「核戦力高度化のための闘争」を力強く指導し、新しい勝利をおさめたと評価した。

 そして報告では、

「われわれの国家防衛力が、敵対勢力の脅威を領土の外で先制的に制圧することのできるレベルへと至ったことから、今後、朝鮮半島の情勢の激化は、ただちに、われわれを脅かす勢力の安保不安定へとつながるであろう」

 と米国を威嚇した。

 つまり、北朝鮮を軍事的に攻撃するなら、それに対する北朝鮮の反撃は朝鮮半島内だけでなく、北朝鮮の領土外の敵対勢力への攻撃につながるだけの軍事力を保持した、と威嚇したわけである。

 北朝鮮は大会5日目の1月9日に党規約を改正し、祖国統一のための闘争課題の部分に、

「強力な国防力で根源的な軍事的脅威を制圧して朝鮮半島の安定と平和的環境を守る」

 と明記し、軍事的脅威を乗り越え、朝鮮半島の安定と平和的環境には「強力な国防力」が必要であることを明確にした。

「強対強、善対善」と対話の余地も示唆

 一方で金党委員長は、

「新たな朝米関係樹立の鍵は、米国が対朝鮮敵視政策を撤回するところにある」

としながら、

「今後も強対強、善対善の原則で米国を相対するというわが党の立場」

 を示したと述べた。

 金党委員長は、こうした報告では前例のないほど具体的に、詳細に武器の開発計画などを明らかにして米国を恫喝しながらも、米国が強硬路線に出るなら北朝鮮も強硬路線で対応し、善意を示すなら善意で応えるとし、米朝対話の余地を示した。この立場は、米国を「最大の主敵」と再規定して対決姿勢を基本としつつも、米国の出方次第では対話もあり得るとの姿勢で、バイデン政権に揺さぶりをかけてきたものである。

 しかし基本は敵対であり、

「不法無道にのさばる敵対勢力と強権を振り回す大国に対しては強対強で立ち向かう戦略を一貫して堅持すべきであるということである」

 とした。

軍事パレードでは新型SLBMが登場

 第8回党大会を終えた北朝鮮では1月14日夜、金正恩党総書記も参加して、平壌の金日成広場で軍事パレードが行われた。北朝鮮は昨年10月の党創建75周年で軍事パレードをしたばかりで、わずか3カ月の間隔で軍事パレードを行うのは異例であり、党大会を記念した軍パレードは初めてだった。

 しかし、金党総書記の演説はなく、昨年10月の軍事パレードに登場した、米国を射程に入れるようなICBMは姿を見せなかった。参加者の規模も昨年10月の軍事パレードの3分の2程度とみられた。

 しかし、SLBMである新型の「北極星5ㅅ」や「KN23」の改良型とみられるミサイルなどが登場した。金正恩氏の党大会報告で最大限の威嚇をした北朝鮮は、実物が登場する軍事パレードででは少し恫喝のレベルを下げた「脅威」を見せつけたといえる。

『朝鮮中央通信』は「北極星5ㅅ」について、

「世界を圧倒する軍事技術的強勢を確実に握った革命強軍の威力を力強く誇示し、水中戦略弾道弾(SLBM)、世界最強の兵器が広場に次々に入ってきた」

 と紹介した。

「北極星5ㅅ」は移動式発射台(TEL)に乗せられて現れた。昨年10月のパレードに登場した「北極星4ㅅ」とは、ミサイルに施された塗装のデザインが異なり、太さがやや大きく、弾道部分がさらに長くなったように見えた。

 北朝鮮はSLBMの「北極星シリーズ」は、「北極星3」までしか発射実験をしていない。このため、「北極星4」や「北極星5」がどの程度の性能を保有しているかは明確ではないが、「北極星3」よりさらに射程を伸ばし、多弾頭化しようとしているのではないか、という指摘が出ている。

 パレードでは固体燃料を使った弾道ミサイル「KN23」(北朝鮮版イスカンデル)の改良型とみられるミサイルも登場した。これまでの「KN23」に比べると、弾頭の形が尖り、ミサイルを積んだ移動式発射台の車軸も1輪増えた。これらの変化が性能にどのような変化を与えているかは不明だ。

「KN23」は低空飛行が可能で、迎撃を避けるために急上昇する、いわゆる「プルアップ」が可能なミサイルだ。最高高度は50キロ程度で射程は400~600キロとみられ、韓国や在韓米軍にとっては新たな脅威となっている。

 この日のパレードではこのほか、「北朝鮮版ATACMS」とされる「KN24」や4連装、5連装、6連装、12連装など、多様な多連装ロケット砲なども登場した。

頭の痛いバイデン新政権

 バイデン新政権にとっては、北朝鮮が第8回党大会で示した核戦力の全面的高度化は、有効な対応策がないだけに煩わしい課題となった。

 民主党政権は、バラク・オバマ時代には「戦略的忍耐」路線を取り、北朝鮮の姿勢変化を待ったが、結果的には北朝鮮に核ミサイル開発の時間を与えてしまった。「戦略的忍耐」が失敗しただけに、バイデン政権が同じ路線を取ることはないとみられるが、前例のない経済制裁を科しても核開発を止めない北朝鮮に、すぐに有効な手段はない。

 韓国や日本と協調して北朝鮮包囲網の強化を図っても、中国が北朝鮮を支えている限り、北朝鮮は核ミサイルの高度化を止めることはなく、米国と厳しい覇権競争をしている中国がたやすく協力はしないだろう。米国は北朝鮮に圧迫を加えながらも対話をするしかなく、米朝交渉の糸口を見つける困難な作業をするしかない。(つづく)

※第8回党大会の活動総括報告を行った時点での金正恩氏の肩書きは「党委員長」のため、ここでは「党総書記」とせず、党委員長と表記した。

平井久志
ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。