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追放されたけど、スキル『ゆるパク』で無双する 作者:篠浦 知螺
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おとなしく里帰りするとでも思いましたか?

 シウレニアからケルゾーク、そして森の外へと通じる道の整備が終わった。

 俺1人で作業をしていたら、こんなに早くは終わらなかっただろうが、ゴーレムが24時間休み無く、俺の代わりに作業を続けてくれていたから短期間で完成させられた。


 これまでの街道は、場所によっては馬車一台がようやく通れる程度の狭さで、道の脇まで森が迫っていた。

 サンカラーンの森には、危険な魔物が数多く生息していて、街道を進む者達の大きな障害となってきた。


 オミネスからの商人だけでなく、獣人族同士の往来も限定的で、里と里が孤立している状況はベルトナールに好き放題利用されてきた。

 隣の里を攻撃しても、救援に駆け付けるどころか、侵略の事実すら伝わらない状況は、攻め手にとってこの上なく有難かっただろう。


 ベルトナールが行ってきた戦術は空間転移魔法による急襲作戦で、相手の隙を突ける点は良いが、送り込める人数に限界があった。

 もし、サンカラーンの里同士が、もっと緊密に連絡を取り合い、有事の際にはすぐ駆けつけられる準備を整えていたら、状況は大きく変わっていたかもしれない。


 だが、そのベルトナールは俺が毒殺した。新たな空間転移魔法の使い手が現れない限りは、サンカラーンがアルマルディーヌに攻められる心配は要らないだろう。

 サンカラーンの里も、森の外から自分達の足で移動してくる者に対しては、監視を行っているそうだ。


 それに、アルマルディーヌにはノランジェールで手厳しい敗北を味わわせてあるから、簡単には攻めて来ないだろう。

 アルマルディーヌが攻めあぐねている間に、オミネスとの結びつきを強固にしておけば、サンカラーンの平和は更に揺るぎないものとなるはずだ。


 この街道の整備には、そうした思惑も込められている。

 俺は、街道の整備の完成を約束したフンダールを訊ねた。


 遠く離れた場所から、千里眼を使って見渡したカルダットは、一時期のような切迫した危機感からは脱したように見えた。

 ノランジェールの方向を睨んでいた兵士の表情も、心なしか緩んでいるように見える。


 すでに、ノランジェールから闘いの様子が知らされているのだろう。

 ついでではないが、ノランジェールへと目を転じてみると、まだ橋の通行は行われていないようだが、戦いが起こるような気配は感じられなかった。


 アルマルディーヌ側の兵士は、オミネスの侵攻に目を光らせるのではなく、自分達の体制を立て直すのに必死のようだ。

 まぁ、あれだけの数の兵士を一夜にして失い、あまつさえ第三王子であるカストマールまで失ったのだ。


 攻め込む意思を見せないオミネスに備えるよりも、自分達の状況を立て直すのに懸命なのだろう。

 エッシャーム商会を訪ねると、出迎えたフンダールは俺の顔を見て表情を引き締めた。


 まぁ、訪れる度にフンダールの肝を冷やすような知らせを届けてきたのだから、こうした反応も当然だろう。

 店の奥にある応接室に通された後、街道の整備が完了したと伝えた。


「そう警戒しないでくれ。今日は良い知らせを持って来た」

「良い知らせですか?」

「あぁ、ダンムールからカルダットへと向かって森を抜ける街道の整備が終わったぞ」

「えぇぇ! こんな短期間にですか?」

「ゴーレムを作って指示を出して、俺が休んでいる間にも工事を進めさせていたからな」


 整備した街道の様子や、途中で安全に野営を行えるシェルターも設営したと伝えると、フンダールは表情を崩した。


「そうですか、それではケルゾーク、シレウニア、ダンムールの三つの里には、これまでよりもずっと安全に、しかも早く辿り着けるようになるのですね?」

「あぁ、その通りだが、サンカラーンの側で売れる品物は以前のままだ。より良い取り引きを長く続ける上でも、何か商品を用意したいと思うのだが……」

「なるほど……確かに、これまでサンカラーンとの取り引きは、ダンムールの水晶がメインで、他は魔物の素材ぐらいでした。せっかく街道が整備されて、往来が楽に出来るようになったのですから、取り引きを活発にしたいですね」


 俺は道の整備ならば出来るが、商売に関しては全くの素人だ。

 そもそもサンカラーンの森についての知識も乏しいし、何が売れて、何が金になるのかも分からない。


 その点、フンダールは生粋の商売人だ。

 フンダールが求める物イコール金になる物だと考えても良いはずだ。


「まず、我々が求めるものは薬草です」

「サンカラーンの森には豊富に生えているのか?」

「私自身が確かめた訳ではありませんが、手付かずの森ですから量も豊富にあるはずですし、カルダット近くの森や林で採取されるものよりも効能が高いでしょう」

「なるほど……薬草か。他にもあるのか?」

「他は、やはり魔物から獲れる素材でしょうな。特に魔石は魔道具を発動させるためには不可欠です」


 薬草に魔物の素材、確かにオミネスから見て一番欲しい品なのだろうが、それは森から恵まれるだけでサンカラーンの民が作り出す物とは違う。


「お気に召しませんか? ヒョウマさん」

「現実的に考えれば、薬草や魔物の素材は必要なのだろうが、何と言うか……サンカラーンの民の手が加わって、もう一段価値が上がるような物はないかと……」

「なるほど、サンカラーンの特産品のような物ですね」

「そう、特産品だ。何かないか?」

「特産品ですか……」


 自分達の売りになる商品を買う側に尋ねるなど虫の良い話だとは思うが、俺が考えるよりもフンダールに聞いてしまった方が手っ取り早い。

 だが、そのフンダールも考え込んだまま、なかなか答えを口にしなかった。


「なかなか難しいですね。正直に申し上げて、水晶を除けば素材の加工技術ではオミネスの職人の方が上回っております。生半可な加工品では、素材の価値を下げてしまう可能性もあります」

「そうか……素材は素材のまま持ち帰り、オミネスで加工して製品とした方が良い品物が仕上がると言う訳か」

「おっしゃる通りです。別の言い方をしますと、水晶の加工技術を応用すれば、石ころが金に化けるかもしれませんよ」

「石ころが金……なるほど、ちょっと戻って相談してみるか」


 街道の整備が終わったという情報は、フンダールから商工ギルドへと伝えてくれるそうだ。

 ノランジェールの封鎖が続いている現状ならば、新たな取引先としてサンカラーンの里を訪れてみようと考える商人もいるかもしれない。


 そうした情報をケルゾークやシウレニアに伝えた後、ダンムールに戻って樫村と今後の計画を相談した。


「なるほど、現状は素材の需要はあるが、それを加工品として売るだけの技術が無い訳だな」

「そうだ、ただし水晶の加工技術はダンムールの方が優れているらしい」

「フンダールは、石を金にって言ってたんだな?」

「そうだ。石を加工して付加価値を付けろってことじゃないのか?」

「当然そうだろう。水晶が出るという事は、近くに花崗岩の層があるはずだ」

「花崗岩って……石材になるんじゃなかったか?」

「そうだ。墓石などに使われる御影石のことだな」

「なるほど……石材か」


 カルダットにも石造りの建物はあったが、街の近くに石切り場があった記憶は無い。

 だとすれば、離れた場所から運ばれて来たと考えるべきだろう。


 東の山は、あの赤竜の縄張りのようだし、他の岩場となると遥かに南側になるか、アルマルディーヌ国内だろう。

 これまでダンムールから水晶を運び出しても、石材が運び出せなかったのは道が整っていなかったからだ。


 俺が道を整えた現状ならば、水晶の他に石材を切り出してオミネスに輸出することも可能になるだろう。


「よし、ハシームに許可を取って、石材が切り出せる場所が無いか調査してみよう」

「そうだな。石材の切り出しとなれば、多くの人手が必要となるだろうし、他の里から出稼ぎを受け入れても良いんじゃないか?」

「そうだな、ダンムールだけ栄えて他の里が貧しいままじゃ意味が無いな」

「ところで麻田、鉱山の方は大丈夫なのか?」

「大丈夫って?」

「鉱山で働かされていた奴隷達のことだよ」

「あぁ、俺に送って欲しいと希望した連中は、とっくにマーゴの里まで送り届けたし、食糧もアルマルディーヌの王都から盗み出して分けておいたから大丈夫だろう」

「他の連中はどうなったんだ?」

「えっ、他の連中?」

「お前なぁ……」


 樫村は呆れたような表情で、頭をガシガシと搔き毟った。


「麻田に送ってもらわなくても良いって言った連中はどうなったんだよ。そっちの方が人数多かったんじゃないのか?」

「いや、だって山の中を通ってサンカラーンまで戻るって言ってたから……」

「まさか、その後ほったらかしなのか?」

「えっ、ほったらかしと言うか……忘れてた」

「はぁ……」


 樫村は、心底呆れた様子で深い溜息をついた。


「そいつら、全部で何人いたんだよ。100人か? 200人か?」

「いや、4万人以上だな……」

「食い物は?」

「それは、山で調達するって……」

「出来ると思うのか? 4万人以上の胃袋を支えるだけの食事を誰が用意できる?」

「中には食堂で働いていた者も含まれているから……」

「食材は? どこで仕入れる? 山だとしても、4万人分の材料が揃えられると思うのか?」

「それは……」

「探せ、どこで何をやっているのか、千里眼を使って探し出せ」

「お、おぅ……」


 樫村の剣幕に押されて、慌てて千里眼を使ってアルマルディーヌの山の中をサンカラーンの国境辺りから捜索する。


「いない……どこだ? もうマーゴに辿り着いたのか?」


 一旦、視線をマーゴの里へと移してみたが、先日俺が連れて帰った者達の多くが出立したらしく、平常通りの様子に戻っているように感じた。


「おかしい、樫村、いないぞ……樫村?」


 一旦、千里眼の発動を止めて視力を元に戻すと、樫村は腕組みをして考え込んでいた。


「どうした、樫村」

「麻田、あいつら繁殖場を解放に行ったんじゃないか?」

「えっ、繁殖場? なんでだよ」

「馬鹿、繁殖場の解放は獣人族にとって悲願だろう。ちょっと見方を変えれば、4万人もの軍勢がアルマルディーヌ国内に攻め入った形なんだぞ。好機だと思って、そのまま攻めていったとしてもおかしくないだろう」

「えぇぇ……だって武器もろくに揃ってないのにか?」

「いいから探せ! 王都よりも更に西、上手く救出出来たら山沿いに逃げてくるんじゃないのか?」


 樫村に尻を叩かれる格好で千里眼を使い、サンドロワーヌから山沿いに西を向かって探していく。


「どこだ? まさか、アルマルディーヌの連中に捕まったのか?」

「近くに村とか無いのか? 獣人が通った形跡とか残ってないか?」

「村? 村は……」


 グルグルと見て回っていたので、それがどこの村なのか位置も分からなくなっていたが、山間の小さな村の惨状に俺は声を失った。


「おい、麻田。どうした、見つからないのか?」

「人族の村が……全滅させられている」

「何だと……おい、麻田!」


 樫村が俺の名前を呼んでいたが、構わずアルマルディーヌのどこかの村へと空間転移した。


「うっ……」


 転移を終えた途端、酷い腐臭が俺を包み込んだ。

 殺された人の遺体を貪っていた山犬が、俺に獲物を横取りされると思ったのか唸り声を上げて威嚇してきた。


 赤竜から奪った威嚇スキル咆哮を使うと、山犬どもは悲鳴を上げて逃げ去っていった。

 残されたのは、荒らされた家々と遺体の数々で、その中には子供と思われるものも混じっている。


「こんなはずじゃ……」


 奴隷としてアルマルディーヌに捕らえられている人達を救いたいと行動を起こしたが、それは罪もない人族の人々を殺すためではない。

 武器を持っている兵士ならまだしも、ここで殺されている人達は鎧も身に着けていなければ、剣を吊っていたとも思えない。


「なんでだよ。なんでこうなっちまうんだよ!」


 誰もいない村の真ん中で叫んでも、答えは返って来ない。

 いや、答えはとっくに俺の中にある。チャベレス鉱山を解放した後で、自分達の足で帰ると言って出て行った連中を放置したからだ。


「くそっ! くそっ、くそっ、くそぉぉぉぉぉ!」


 怒りに任せて地面を蹴り付けると、竜人の力に屈して大きな陥没が出来上がる。

 これだけの力があるのに、力ずくで獣人達を連れて帰らなかったために、また多くの命が失われてしまった。


 冷静さを欠いて動き回ったから、既に方角すら見失ってしまっている。

 千里眼を使おうにも、どちらの方角を見れば良いのかすら分からなくなっていた。


 俺は方角を見定めるために、赤竜から奪った飛翔のスキルを使って上空から獣人族の捜索を開始した。


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