第8話 各々の成長
「イーストエンドの【深魔の森】にいる
ローゼの言葉に、小さな口をあんぐりと開けて驚いているのはアンナだけで、他の面子は眉一つ動かさない。そうはいってもファフとミュウは難しい話に興味がなく、午後からの遊びの話に夢中。アスタは本を片手に器用にも料理を食べている。まともに反応しているのは、ザックとアンナくらいだが。
「どうやってコンタクトをとる?」
一晩猶予を与えたしな。何の方策も考えられぬほどローゼは無能ではあるまい。
「この人数でイーストエンドの森を捜索するのは、非現実的です。それに、無理やり攻め入るようなやり方では彼らは絶対に私達を認めない。違いますか?」
まったく、ローゼは大したものだ。これは少なくとも弱者の気持ちを理解しようと努力していなければ到達し得ぬ類のもの。とてもこの腐った国の王族とは思えぬ。
だが、それはあくまでメンタル面において。今、知りたいのは、実際どこまでローゼが計画を煮詰められるかだ。
「私もそう思う。で、具体的な策は?」
「昨日の情報屋の説明を総合考慮すれば、
その通りだ。しかもおそらく、それは一つじゃなく、クサール領のいくつかに点在している。つまりだ。奴らは盗賊なんかではなく、レジスタンスの組織だってこと。
「それで?」
「彼らの活動を成り立たせるためには――」
ローゼは右手に持つ地図をテーブルに広げる。そして袋から取り出した銅貨を置き始めた。
「必ず、ここを中継しなければなりません。何より、この街なら資金や食料の援助も受けられます」
ローゼは、金貨をイーストエンドの【深魔の森】北西から近接する山岳地帯に置く。そこは、【深魔の森】に最も近い鉱山都市――アキナシ。ハイネマン家のラムール同様、功績により、貴族位を取得した都市領の一つ。
アキナシ領を統治しているのは、オリバー・アキナシ騎士爵。この東側地域では数少ない人の心を持った領主のようだ。
「アキナシ領で、どうする?」
「オリバー騎士爵殿に、私の考えを伝えて、
上出来だ。その判断は今の何の力もない、ちっぽけなローゼにできうる唯一の方法だ。
あとのお膳立ては全て私がやろう。心が躍る祭りにしてやるさ。
「では、それで決まりだ! アスタとザックは、ローゼの護衛だ。頼むぞ!」
「おう! 任せろ!」
ザックが右腕を前にし、右拳を強く握りながら、大きく頷く。
「構わんのであるが、マスターはどうするおつもりか?」
アスタも読んでいた本を閉じると、私にそう尋ねてくる。
「私達は森へキャンプさ」
「キャンプなのですっ!」
満面の笑みで勢いよく右拳を高く上げるファフと、
「わー、キャンプ! キャンプ!」
椅子から降りるとぴょこぴょこと辺りを跳ね回るミュウ。
「カイ、私達がそのキャンプに行くことは、今必要なことなのだな?」
アンナがひどく神妙な顔つきで私に問いかける。
「ああ、必要だ。本計画のキモだよ」
ある意味、接待を受けて待つローゼたちより、私達の方が遥かに高難易度ともいえるわけだしな。
「わかった。アスタ、ザック、ローゼ様を頼む」
「おう!」
「……」
右手を軽く上げるアスタと、酒を飲みながら陽気に返答するザック。
「では、ローゼ様、私は直ぐに支度にとりかかります! 手伝って、ファフ、ミュウ!」
「はーい!」「はいなのです!」
ファフがアンナの右腕にミュウが左腕に飛びつき、三人は二階に上がっていってしまう。
「アンナも成長しましたねぇ」
ローゼが、口元をほころばせて、まるでアンナの母親のような感想を述べる。
「そうだな」
計画の一部とはいえ、一時的にローゼから離れるのだ。てっきりアンナは断固として拒絶するものかと思っていたが、拍子抜けるほどあっさり了承した。
アンナは、此度、私たちの組織としての計画を完遂するために、ローゼと離れる事を許容したのだ。これは、同時にアスタとザックを信頼していると言う事と同義。仲間の騎士以外の一切を信頼しなかった今までのアンナには到底至れぬ思考だろう。
それがわかっているから、あの天邪鬼が服を着ているアスタさえも素直にアンナの想いに答えているのだ。
今まで己の世界に閉じこもり気味だったアンナにとって、確かにこれは極めて大きな成長と言えるのだろう。
「私も身支度をいたします」
クスリと笑い、自室へと向かうローゼの背中を眺めながらも、私はテーブルに残された料理の残飯処理を開始した。
辞書に常識という文字が欠落しているカイの計画がこれで正式に開始されました。かなり、質の悪い内容になっていますので、もう少しお待ちください。
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