第6話 情報の適切な使い方その1
数週間、屋敷でローゼと領民についての対策を話し合ったが、領民は湧いてでてくるものではない。あっさり暗礁に乗り上げてしまう。
もっとも、既にムジナから仕入れた情報により、私にはこの難題の解が既に見えている。
それはいわばこのイースト地方の特有の事情。おそらく、王の意図もそこにある。やはりあの王と宰相、中々の狸だ。なにせ、私達を利用して、さらに王国の支配の基盤の増強を図ろうとしているのだからな。私個人としては、あの手の妖怪系の
「カイ、いい案はありませんか?」
「んー、ないな」
これはローゼに与えられた試練。私が助け舟を出すのはお門違いだし、いつまでたっても成長は見込めん。
それに、今回の件はこの地域の詳細な情報を獲得しさえすれば否応でも解へと到達するような類のものだ。情報収集はいかなる分野においても基本中の基本。ある意味財宝以上に貴重なものだ。
この事実は、あのイージーダンジョンでの日々の命懸けの探索により学んだ、私にとって真理にも近いもの。こればっかりは、ローゼ自身の手で、気づいてもらうしかない。
「そう……ですか」
立ち上がると、
「私はもう休みます」
肩を落としながらも宿の二階へ上がっていく。
慌ててアンナもそのあとを追う。
「で、師父はいつ姫さんにあの件について話すんだ?」
ローゼが退出した途端、テーブルに積まれた料理を黙々と食べていたザックが、その手を止めて私に尋ねてくる。
あの件とは、アメリア王国東側を中心に活動する義賊――
彼らは、主にイースト地方、いや、アメリア王国一最悪な領主とも名高い――ケッツァー・クサール伯爵と結託し私腹を肥やす豪商や奴隷商を襲い食料を強奪し、貧民に分け与えているようだ。圧制を強いるケッツァー伯爵に一矢報いる風猫は、イースト地方の貧民たちの間では、一種のヒーローと化している。
ムジナからの情報だと、そのおめでたい義賊様の根城が、イーストエンドにあることを、最近、ケッツァー伯爵が掴み、風猫の討伐のため私兵を募っているんだそうだ。
ここまではあくまで噂であり、まだまだ信用性には難がある。何より知り合ったばかりのムジナからの情報を鵜呑みにするなど馬鹿のすることだ。
そこでだ。この件を確かめるべく、討伐図鑑の私の配下の魔物の中でも隠密能力に特化した配下を放ち、事実の裏付けを行った。結果、ムジナからの情報は、全て真実であると判明している。
こうして、もたらされた一連の事実が真実であることとともに、あのムジナが相当使える情報屋であることが証明されたわけ。
「うん? 私からは話さぬつもりだが」
今後もある。全て私におんぶ抱っこでは困るのだ。とっかかりくらいは自ら、掴んで貰わねば、お話にすらならぬ。
「あー、やっぱりか。だとすると、このままじゃ、姫さんきっと気付かねぇな」
ザックが、肉を噛み千切りながら、そんな本末転倒なことを言いやがった。
「なぜだね? ムジナがいうには、風猫の件は、誰でも知るメジャーな情報のようだし、彼らを領民に加える。その発想さえできれば、いいだけだぞ?」
どうやってそれを成すかまで、今のローゼに求めちゃいない。具体的な計画は私が練ろうと思っている。
「まさに、そこだ。そもそも、巷で有名な盗賊を領民にしようだなんて、ぶっ飛んだ発想、普通の人間には、どうやってもでてきやしねぇさ」
「んーむ」
まるで私が奇人変人のようなザックの言い方は気に入らんが確かに一理はあるな。この手の裏社会の住人を利用するやり口は、基本お嬢様のローゼには、できぬ発想かもな。最近、失念することが多いが、なにせ、あれでも一応、お姫様だし。
「うむ、では少々、ヒントでも出してやるとしよう」
今のローゼに欠いているは、情報の重要性についての認識だ。これは、今後、領地経営をしていくならば、是非とも持っておかねばならぬもの。
迷宮にはその手の本が山ほどある。いい機会だ。中でもあの入門書なら、比較的理解しやすく、短期間で今のローゼでも理解できよう。私は立ち上がりローゼのいる二階への階段を上がっていく。
カイはどう考えても奇人変人だと思いますけどね。そういうわけで、カイ(悪趣味な奇人)の計画は動き出します。
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