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追放されたけど、スキル『ゆるパク』で無双する 作者:篠浦 知螺
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ダンムールの令嬢は熱愛をご所望です

 クビシェから奴隷の首輪の外し方を聞き出した翌日、カワセミ亭の部屋を引き払ってダンムールの里へ向かった。

 移動には空間転移魔法を使っているが、一旦は国境でもある森の入り口へと飛び、そこで人化のスキルを解いて竜人の姿に戻る。


 ついでに探知魔法を使ってオークの群れを探し、アン達の食事用に五頭ほど仕留めてアイテムボックスに放り込んでおいた。

 ダンムールの小屋に戻り、アン達を連れて空間転移で近くの森まで出掛ける。


「おーし、みんな自由に走り回っていいぞ」


 アルマルディーヌ王国に潜入している間、ずっと小屋で留守番させていたからストレスも溜まっていたのだろう。

 アン達は猛然と走り回って、狩りまで始めた。


「よーし、お前らは俺と遊ぶか」

「キャウ、キャウ、キャウ!」


 サンクとシスは、嬉しそうにじゃれ付いて来たが、ちょっと見ない間に大きくなっているような気がする。

 俺の尻尾に戯れて噛みついたりしているが、俺の場合は鱗があるから大丈夫だが、クラスメイトだったら血が出ているだろう。


「お前達、そんなに強く噛んだら駄目だぞ」

「キャウ?」

「んー……可愛いから、やっぱ許す!」


 サンク、シスと戯れていると、アン達がゴブリンを仕留めて戻ってきた。

 途中でオークも仕留めてきたのだが、それぞれ一頭ずつのゴブリンを持って帰ってきたので、今朝はこれで十分だろう。


「ん? どうした、食べないのか?」


 アン達は持ち帰ったゴブリンを俺の前に並べて、お座りの姿勢で待っている。

 どうやら群れのボスである俺に最初に食べろと言っているようだ。


「うん、分かった……」


 一頭のゴブリンの腹を割いて内臓を引きずり出す。

 日本にいた頃の俺ならば、この情景を見ただけで吐いていただろうが、竜人の姿でいることも影響しているのか、テラテラと血脂で光る肝臓を見て涎が湧いてきた。


 まだ温もりがある肝臓を食いちぎり咀嚼する。

 噛みしめ、飲み込むほどに生命力が身体に満たされていくように感じるのは、あながち錯覚ではないはずだ。


「みんな、食べていいぞ」


 おあずけを解かれたアン達は、猛然とゴブリンに齧りつき、凄い勢いで食べ始めた。

 ゴブリンの血で汚れた手や口の周りを水属性魔法で洗い、アン達の食事が終わるのをサンクとシスと一緒に待つ。


「お前らはミルクだもんな。もうちょっと待ってろよ」

「キャゥゥゥ……キャン、キャン!」


 アン達が仕留めてきたゴブリンを食べ終え、サンクとシスのミルクの時間も終えた所でダンムールの里へ戻り、小屋の掃除をしているとラフィーアが顔を出した。


「ヒョウマ、戻っていたのか?」

「おぅ、ラフィーア。奴隷の首輪の外し方を聞き出してきたぞ」

「本当か、では捕らえられているヒョウマの仲間やサンカラーンの者達を解放出来るのだな」

「まぁ、待ってくれ。方法は聞き出してきたが、肝心の鍵はまだ手に入れていない」


 ノランジェールの奴隷商ビエルク商会でのやり取りを話して聞かせると、ラフィーアは少し呆れたような表情を浮かべてみせた。


「アルマルディーヌの奴隷商人などに情けを掛ける必要は無いだろう。鍵を奪って来てしまえば良かったのだ」

「まぁ、そう言うな。ビエルク商会では獣人の奴隷は扱っていないし、どうせ鍵を盗み出すならば城からか、サンドロワーヌの奴隷商人の方が良いだろう」

「まぁ、私では情報すら手に入れられていないのだから、ヒョウマの働きをどうこう言う資格など無いな」

「心配するな、すぐに鍵は手に入れてやるよ」

「きっとだぞ……」


 ラフィーアは、竜人姿の俺に抱き着いて、胸板に頬をこすり付けながらゴロゴロと喉を鳴らす。

 たしか猫の場合だと、所有権を主張する行為だと思ったが、ライオンも同じなのだろう。


「ラフィーア。救出した後のクラスメイトなんだが、ダンムールで受け入れてもらえるだろうか?」

「心配無い。例え人族だとしても、ヒョウマの友人だと伝えれば、里の者は受け入れてくれるはずだ。何しろヒョウマにはワイバーンも倒してもらったし、里の開発でも大活躍してくれたからな」

「だが一応、ハシームには話しておきたい。時間を作ってもらえるように伝えてくれないか?」

「分かった、それならばヒョウマも一緒に来てくれ」


 アン達には留守番を命じて、ラフィーアと一緒に里長の館へと足を向けた。

 日本の感覚だと、里長に会うにはアポを取ってから指定の時間に出向くといった感じだが、ダンムールではそんな面倒な手順は踏まないらしい。


 館に上がったラフィーアは、俺の腕を抱えたままズンズンと奥へと進み、ハシームが仕事をしている部屋の戸をガラリと開けた。


「父上、ヒョウマが奴隷の首輪の外し方を聞き出してきましたぞ」

「本当か、でかしたぞヒョウマ!」


 ガバっと立ち上がったハシームの横で、狼獣人の補佐役までもが両手を突き上げて喜びの雄叫びを上げている。

 俺が考えていたよりも首輪の外し方を手に入れるのは、サンカラーンの者にとっては大きな出来事のようだ。


「それでヒョウマよ。どうすれば首輪を外せるのだ?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。今ちゃんと説明するよ」


 ズカズカと大股で歩み寄ってきたハシームに両手で肩を掴まれて揺すぶられ、頭からガブっと齧られるのではないかと思ってしまった。


「お、おう、すまんな。つい興奮してしまった」

「奴隷の首輪を外すには、ハンドベルの鍵とは別に奴隷商人が管理している鍵が必要だ。その鍵を使って呪文を唱えると、首輪は簡単に外せる」

「して、その鍵はどこだ?」

「まぁ、待ってくれ。鍵はこれから手に入れるところだ」


 鍵はまだ手元には無いと聞いて、ハシームは落胆の色を隠さなかった。


「そうか……さすがに簡単には手に入らぬか」

「いや、鍵の保管場所さえ分かれば手に入れるのは造作もないが、鍵が盗まれたと分かれば王国の連中は警戒を強めるはずだ」

「なるほど、ヒョウマの仲間も救い出さねばならんのだったな。警戒が強まるのは都合が悪いな」

「なので、確認をしておきたい。救い出した俺の仲間をダンムールで受け入れてくれるか?」

「勿論だ。ヒョウマの仲間ならば問題ない」


 少しだけ心配していた受け入れについて、ハシームは二つ返事で引き受けてくれたが、まだ確認しておくことがある。


「言っておくが、仲間は全員人族だぞ」

「王国によって無理矢理連れて来られた境界の渡り人だと言えば、殆どの者が納得するであろう。それにヒョウマの仲間だと付け加えれば、反対する者などいるはずがない」

「本当に大丈夫か?」

「当たり前だ。水晶の採掘場までの道を作り、里を囲む壁を築き、川から水路を穿ち、ヒョウマがどれほど我々の暮らしを良くしてくれたか、里の者はみんな知っておるぞ。そのヒョウマが仲間を受け入れてくれと頼んでいるのに、嫌だなどとぬかす者がいれば、そいつを里から追い出してくれるわ」


 ハシームの言葉に、ラフィーアも補佐役も大きく頷いている。

 どうやら俺の働きが、ダンムールの里の者達に認められたらしい。


「それに、娘婿の仲間を受け入れない訳にはいかんだろう?」


 ハシームは、勝負ありだと言わんばかりに笑みを浮かべてみせる。

 外堀も内堀も埋められて、本丸まで攻め込まれた敵に白刃を突き付けられているような状況に、もはや観念するしかないと思ったら意外にもラフィーアが反対した。


「父上、ヒョウマの仲間を受け入れる条件に、私との婚姻を加えるのは賛同しかねます」

「どうしてだ? フィアはヒョウマに嫁ぎたくないのか?」

「私は、ヒョウマが仲間のために仕方なく娶るのではなく、心の底から望まれて嫁ぎたい」

「ほぅ、勝算があるのか?」

「勝算などありませぬ。組み打ちとは勝手が違って、どのように距離を詰めれば良いのかも分かりませんが、それでも正々堂々と勝負に臨まねば、ダンムールの名がすたります」


 ラフィーアは組み打ちで向かい合うような表情で俺に視線を向けているのに、なぜだかドキリとさせられてしまった。

 外堀を埋められた、内堀も埋められた……などと思っていたが、ワイバーンを倒して以後のラフィーアは、いつでも真っ直ぐに俺と向き合ってきた。


 日本に帰る方法も分からない、そもそも人間離れした身体になってしまった以上、こちらの世界に骨を埋める覚悟をすべきだろう。

 ラフィーアとも、もっと真剣に向かい合う時期に来ているような気がする。


「ヒョウマ、という事だそうだから、仲間の受け入れについては心配しなくて良いぞ」

「ありがとう。ただ、連れて来る仲間達は、獣人族と接した経験が無い。場合によっては失礼な振る舞いをして、里の者たちと対立してしまう可能性が無いとは言い切れない。もし、そのような事が続くようであれば、里に馴染めない者にはオミネスに移住してもらおうかと思っている」

「ふむ……確かにオミネスであれば、人族と獣人族が共存しているし、我々に抵抗感を覚える者にとっては暮らしやすい環境かもしれぬな」


 サンカラーンの獣人族は、いわゆる人の姿よりも獣に近い外見をしているが、こうして話も通じるだけの知性も理性も持ち合わせている。

 見た目だけならファンタジーな状況だが、それこそ異世界だからと割り切れば何でもないとは思うのだが、中には拒否反応を示す者もいるかもしれない。


 例えば、猫アレルギーを持っていたりしたら、ラフィーアに擦り寄られるような状況は命にかかわるかもしれない。


「ヒョウマよ。仲間の総勢は何人ぐらいになる?」

「おそらく三十人程度になると思う」

「三十人か……それだけの人数となると、暮らす家も用意せねばならんな」


「そうか、救出することばかり考えて、その後の暮らしまで考えていなかった」


 三十人が分散してホームステイのような形にすれば、受け入れは可能かもしれないが、それが長期に渡って続くのは考えものだ。

 俺は自分の小屋でアン達に囲まれて眠っているが、連れて来るならクラスメイトのための家は必要だ。


「家、家……そうだ!」

「ほう、何やら思い付いたようだな」

「ハシーム、場所だけ貸してくれないか」

「構わんぞ。ヒョウマが塀を作る時に里を広げてくれたから、場所ならある」

「そうか、森を取り込んだ辺りを伐採して、更地にすれば良いか」

「ついでに伐採した木や根を融通してもらえば、うちとしては大助かりだ」

「あぁ、伐採した木は製材所に運んでおくよ」


 クラスメイト達を受け入れてもらう目途は立った。

 あとは首輪の鍵を手に入れて、救出作戦を実行に移すだけだ。


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