▼行間 ▼メニューバー
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
追放されたけど、スキル『ゆるパク』で無双する 作者:篠浦 知螺
46/120

奴隷商人に聞いたよin異世界 前編

 ベルトナールの暗殺を試みた翌日、結果を探るためにサンドロワーヌに足を運んでみると、フェスティバルの賑わいからは一変して街は暗い雰囲気に沈んでいた。

 俺はベルトナールの暗殺に夢中で周囲の状況にまで思いが及ばなかったのだが、あの馬の暴走によって多数の死傷者が出ていたようだ。


 武術大会の行われていた城の前の広場には祭壇を設けられ、多くの人が花を手向けて祈りを捧げている。

 名前の前後に六芒星が記された板が掲げられているが、亡くなった人の墓碑のようなものなのだろう。ざっと数えただけでも五十枚ぐらいはありそうだ。


 これだけの数の死者が出たとすれば、当然それ以上の数の負傷者もいるだろうし、その中にはこれから命を落としたり、重篤な後遺症に苦しむ人もいるはずだ。

 被害の大きさに驚くと共に、今更ながらに樫村達のことが気になった。


 武術大会を樫村達クラスメイトが見物していたが、あの場所では間違いなく騒動に巻き込まれたはずだ。

 それに、騒動に紛れて逃げようなんて考えていたとしたら……既に首が落ちているかもしれない。


 俺は広場の一角で、祈りに沈んでいる振りをしながら、クラスメイト達が閉じ込められている宿舎を探った。

 探知魔法と千里眼のスキルを活用して宿舎の内部を探すと、樫村の無事は確認出来た。


 兵士達が騒動の後処理に追われているからか、今日は訓練は行われていないようだ。

 樫村の周囲で話を聞いている中には、昨日一緒に武術大会を見学していた者の顔もある。


 千里眼では姿形は見えるが話している内容が聞こえないのが難点だが、樫村達の表情を見る限りでは、誰かが死んだとか重傷を負ったということはなさそうだ。

 集まっているクラスメイト達の様子からして、やはり樫村が中心的な役割を果たしているように見える。


 改めて落ち着いた状態で観察してみると、樫村は日本に居た時よりも顔色が良くなっているように感じるし、心なしか身体つきもガッシリしてきているように見える。

 魔力や体力などの数値も、他の者よりは高く見えるし、召喚で得たスキルが良い方向に働いているのだろう。


「こいつらを助ける時には、樫村に連絡して協力してもらった方が良さそうだな。ただ、いつ知らせるかが問題か……」


 単純に助け出すだけならば、空間転移魔法を使えば訳なく出来るが、問題は奴隷の首輪だ。

 こうして離れた場所から偵察していても、どうしても首に嵌められた輪に目を奪われてしまう。


 クラスメイトを助け出すには、奴隷の首輪を外すのが絶対条件だ。

 カルダットの奴隷商では教えてもらえなかったが、首輪の外し方を知り、手に入れる必要がある。


 祈りの姿勢を解いて、街をゆっくりと歩きながら噂話に耳を傾けてみると、やはり馬の暴走は獣人族が仕組んだものと思っている人が多いようだ。

 ただし、どうやって街に入り込んだとか、どこから馬を調達したかなど、騒動の核心となる部分まで説明できる者は見当たらない。


 真相は分からないが、獣人族が悪いに決まっているという空気を感じる。

 サンドロワーヌの街で奴隷商を探そうと思ったが、街は鎮魂ムード一色でどこの店も戸を閉ざしたままだ。


 これでは首輪の秘密を探るどころではなさそうなので、裏道に入りって空間転移魔法を使い国境の街ノランジェールに移動した。

 サンドロワーヌの状況はまだ伝わっていないらしく、ノランジェールには鎮魂ムードは漂っていない。


 屋台で揚げパンとお茶を買い、店主にそれとなく店主にノランジェールの奴隷商の話を聞いた。


「ノランジェールの奴隷商はビエルク商会だけだ。主人のクビシェは相当なやり手という話だよ」


 アルマルディーヌ王国でも、奴隷商は国の認可を受けた者しか営業が出来ないそうだ。

 その背景には、首輪の取り扱いが絡んでいるのは間違いない。


 ビエルク商会は、街の奥まった場所にあるらしい。

 屋台の店主に教わった道を進んでいると、前から首輪を嵌めた奴隷と思わしき男が歩いて来た。


 粗末な身なりで、足下はサンダル履き、表情も暗いが身体つきは丈夫そうに見える。


「さっさと歩け、モタモタすんな!」


 声を荒げたのは奴隷の後ろを歩いている男で、こちらは小奇麗な服装だ。

 もしかすると、この奴隷の男は買われて来たばかりなのだろうか。


 ビエルク商会の外観は、一言で言うと日本の不動産屋のようだ。

 性別、年齢、身長、体重、持っているスキルなどが書かれたA4サイズ程度の大きさの板がズラリと下げられてある。


 その他、各種奴隷取り揃えてあります、気軽にご相談下さい……などとも書かれていた。

 千里眼を使って店の中を覗いてみると、商売が商売だけに大賑わいしている訳ではないようだ。


 それでも、恰幅の良い中年の客が、何やら店の者と交渉を進めているようだ。

 店の中には、別の店員が少し暇そうな様子で交渉の行方を見守っている。


 少し迷ったが、思い切って店に入ってみることにした。

 何もしないでいたら、情報は手に入らない。


「こんにちは……」

「いらっしゃいませ」


 店の戸を開いて足を踏み入れると、暇そうにしていた店員が愛想良く声を掛けた後で、少し表情を曇らせた。

 たぶん、奴隷を購入するにしては、俺は若すぎると思われたのだろう。


「すみません、少し奴隷に関して教えていただきたいのですが」

「どういった事でしょう……?」


 店員は二十代後半ぐらいの男性で、少し迷惑そうに感じているように見える。

 鑑定を使ってみると、交渉術5と詐術3のスキルを所持している。


 どうやら、こうした交渉を行う店員の中にも詐術のスキルを持っている者がいるらしいが、こちらも交渉術と詐術のスキルで対抗するだけだ。

 フェスティバルの期間中にサンドロワーヌの街で、ゆるパクしまくってきた結果、俺の詐術スキルは7まで上がっている。


「実はオミネスとアルマルディーヌの間で行商を始めたばかりなんですが、将来的にはもっと多くの荷物を扱って、商売を大きくしていきたいと思っています」

「なるほど、荷運びの労働力として奴隷を買いたいと思っていらっしゃるのですね?」

「そうです、そうです。そうなんですが、どのぐらいの値段がするとか、扱いとか、分からないことばかりなので、少し相談に乗っていただいて、将来的にこちらで奴隷を購入出来ればと思ってます」

「かしこまりました、どうぞお掛け下さい」


 今すぐは無理だけど、将来的には買うかもしれないよ……と匂わすと、店員は迷惑そうな表情を消して愛想笑いを浮かべた。

 てか、俺みたいなガキに表情を読まれているようじゃ商売人失格じゃないのか。


「オミネスとアルマルディーヌを股に掛けての御商売となると、お客様の場合には人族の奴隷となりますね」

「やはり、人族が獣人族の奴隷を連れているのは不味いですか?」

「アルマルディーヌでは問題ありませんが、オミネスにはサンカラーンの獣人族も立ち入っているそうですから、反感を買う恐れがございますからお奨めは出来ませんね」

「なるほど、人族が人族の奴隷を連れている分には、どこへ行っても反感を買う心配が少ない訳ですね」

「その通りです」


 暇を持て余していたからだろうか、店員は意外にも饒舌に話し始めて色々と教えてくれた。


「奴隷の値段は、奴隷落ちする原因によって決まります。ですから、基本的に返済が難しい金額となりますので、安くはありません」


 返済が難しい金額と聞いて、さぞや高額なのかと思いきや、一番安い奴隷の値段は日本円の感覚で200万円程度だった。


「えっ、その程度の値段なんですか?」

「ほぅ、さすがは商売をなさる方ですね。ただし、これは最低価格であり、安いのには理由がございます」


 価格の安い奴隷は、高齢であったり、健康に問題があるなど、労働力としての価値が低い者達だそうだ。

 そもそも奴隷制度自体が禁じられている日本から来た俺にとっては、人間の価値に値段を付けること自体に違和感を覚えてしまうが、スポーツ選手の契約金みたいなものだと割り切ることにした。


 アルマルディーヌでは、奴隷の値段は健康に働けるであろう年数を元にして決められているそうだ。

 奴隷は働いた稼ぎの中から衣食住の経費を引くので、一年辺りの値段は日本円の感覚では60万円程度らしい。


 例えば罪を犯して、十年間の奴隷落ちを言い渡された健康な男性奴隷の値段は、600万円程度になるという訳だ。

 1800万円相当の借金で奴隷落ちした人間は、単純に利子が無いとすると、30年間働いて返済しなければならない。


「来る途中で、奴隷を連れた人とすれ違ったのですが、こちらで売った奴隷ですかね?」

「あぁ、男の奴隷ですね。あいつは一生ものです」

「一生もの?」

「一生抜け出せない金額の負債を抱えている奴隷のことですよ」


 俺が見た男は、酒と女と博打で多額の借金を抱え、返せなくなって奴隷落ちしたらしい。

 例えば、20歳の男が600万円相当の借金を作っても、きちんと働いて返済していれば奴隷落ちする事はない。


 だが、金額が2400万円相当を超えると、60歳まで働いても返済できないとみなされ、貸主からの申請があれば審査が行われた上で奴隷落ちさせられるようだ。

 俺がすれ違った男は、死ぬまで奴隷として酷使される運命らしい。


「お得に奴隷を使うなら、更生の意思が高い犯罪奴隷がよろしいでしょう。強制労働の期間分の金額を払えば、奴隷として使役出来ます。ただし、強制労働の期間が過ぎれば、奴隷の身分から解放されますので、余り酷い扱いをして恨みを買っていると……」


 店員は、剣を抜いて突き刺すジェスチャーをしてみせた。


「そんな、せっかく奴隷の身分から解放されても、それじゃあ死罪にされちゃうのでは?」

「それでも恨みを晴らしたいと思ってしまうのでしょう」

「つまり、安い奴隷は何らかの問題を抱えていたり、キチンとした扱いが必要で、高い奴隷は酷使しても大丈夫ということでしょうか?」

「所有スキルの高い奴隷は、必ずしもそうとは限りませんが、基本的にはそう考えてもらって結構です」


 交渉術と詐術のスキルが上手く働いているのか、店員の口も滑らかになってきたので、そろそろ本題に入るとしよう。


「なるほど……あの、首輪と鍵についても教えていただけませんか?」

「良いですよ。首輪と鍵は、基本的には一対になるものですが、複数の奴隷を使役する場所では一つのカギで複数の奴隷を管理する場合もあります」

「あれっ? 商会から連れて行く時には別の鍵ですよね?」

「はい、そうした場合は私ども商会の職員が出向いて調整を行います」

「奴隷の身分から解放する場合も、その鍵で行うんですよね?」

「いいえ、解放の手続きは、私どものような奴隷商にて行います」

「それって、万が一、鍵を奪われたりした時のための対策ですか?」


 店員は大きく頷いてみせた。


「詳しいことはお話出来ませんが、普段使っている鍵だけでは奴隷の身分から解放は行えません。これは奴隷の所有者を守るためで、鍵を奪って逃亡した奴隷は一生奴隷として過ごすか処刑されます」

「なるほど、所有者の鍵の他に、商会が保管している鍵が無いと首輪は外せないから、鍵を奪われて逃げられる危険性が減るんですね」

「その通りです」

「でも、奴隷の首輪って、魔法とか道具を使えば壊せるんじゃないんですか?」

「無理ですね。首輪自体が非常に丈夫な材質で作られていますし、外すには当然輪を切らないとなりませんよね?」

「そうですね。二か所ぐらいは切らないと駄目でしょうね」

「一か所でも切断すると魔力回路が絶たれ、魔法の刃が首を切断します」

「やっぱり、商会まで来て、正規の手続きをしないと解放されないのですね。それなら安心だ……」


 奴隷を所有する者にとって安心な仕組みでも、俺にとっては厄介極まりない仕組みだが、店員には悟られないように笑顔を浮かべながら話を続けた。


  • ブックマークに追加
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

感想を書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。