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最弱で迫害までされていたけど、超難関迷宮で10万年修行した結果、強くなりすぎて敵がいなくなる~ボッチ生活が長いため、最強であることの自覚なく無双いたします。 作者:力水

第三章 悪竜討伐編

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第3話 王位継承戦の告示


 王都に滞在してから約一か月が過ぎる。

 まずは修行について。

 ザックの戦闘技術は武術家としての最低限のレベルを楽々クリアしている。だとすれば、手っ取り早く能力向上するには新概念の取得こそが相応しい。そこで、ザックには無属性強化魔法を教授することにした。

 この世界での無属性の強化魔法は一般に長い詠唱の末発動し、効果も僅かという凡そ役に立たぬもの。ようは評判が最悪なのだ。だから、てっきりごねるかとも思ったがザックは素直に修行に従った。

 この手の技術は新たに編み出すのは極めて難解で長い年月がかかるが、一度コツを掴めばそう難しいものではない。

 約三週間後、ザックは無詠唱での発動に成功していた。

 もっとも、まだ2~3回に一度は失敗するし、全身に纏った魔力を強化に変質させるという程度のものにすぎない。要は無属性強化魔法という入り口に足を踏み入れた状態ということ。

だが、そんな不完全極まりない状態でも身体能力は著しく向上しており、ザック本人は終始有頂天だった。

 そして、意外なことが一つ。

 銀髪の獣耳(ケモミミ)娘、ミュウだ。

 ザックの修行を見ていたミュウが自分も習いたいというので教えてみたら、驚くほど飲み込みが早かった。いや、もはや物覚えが良いとかいう次元の問題ではない。おそらく、これは魔法の相性だ。多分、人族と比較し、獣人族にこの魔法はこの上なくマッチしているのだろう。

 とはいえ、身体能力があっても肝心の武術がなければ話にならぬ。毎日少しずつ武術の基礎をミュウに教えている。

 そんなこんなで中々充実した王都生活をしていたとき、ローゼに王宮へ呼びつけられた。


「暫し、こちらに待機しているように」


 文官と思しき高圧的な態度の青年にそう指示をされて、フカフカのソファーに座って待っていると、再度同じ文官が部屋に入ってくる。


「今から陛下に謁見してもらうが、本来、玉座の間は貴様のような青い血すら流れていない紛い物が踏み入れてはならぬ場所。くれぐれも粗相のないように」


 私は名誉騎士爵出身。つまり、真の意味での貴族ではない。ようはいい気になるな、思い上がるなと遠回しに言っているんだろうさ。


「はいはい」


 軽く返答し立ち上がり、背伸びをする。

 文官の青年は眉をピクリと上げるが、無言で部屋を出ていってしまう。

うむ。どうやら怒らせてしまったようだな。ま、坊やの機嫌など心底どうでもいいがね。


 周囲は真っ白で美しい白石で構成される階段や柱、壁、天井。その階段の上には真っ赤なカーペットが敷かれている。その階段を上がっていくと突き当りに大きな扉が見えてきた。


「くだらんな」


 これほどの絢爛豪華な光景を再現するのにどれほど莫大な財を要するか。それは他国に勝利し巻き上げた富だけでは不可能。メインは自国民からの徴収した税によるものだろう。つまり、この光景は、自国の民から富を過剰に吸い上げているという証でもある。

 こんな王族や重臣しか入れぬ場所をいくら綺麗に着飾ってもそれこそ自己満足にしかならん。それより、その資金により国がやれる事は沢山ある。ローゼの言う通りだ。この国は根っ子から腐っている。

 扉の両脇にいる騎士たちにすごい目で睨まれながらも、大きく扉は開かれる。

いわゆる王座の間という奴だろう。あの壁の傍にある置物一つとっても目ん玉が飛び出るほどの値が尽きそうだ。

 とんでもなく広い部屋の中には、二つのグループが佇立していた

 左側には絢爛な衣服で身を包んだ大臣を筆頭とする文官たち、右側が純白の鎧の騎士たち。そしてその中心の玉座には金髪の野性味あふれた男がふんぞり返っており、その玉座の前には二人のドレス姿の少女と一人の青年。

 そのうち白色のドレスを着た少女がローゼだ。とすると、あの金髪の二人の男女はローゼと同じ王女と王子で、その傍にいる二人の男はそれぞれのロイヤルガードってやつなのかもしれない。

 騎士と文官たちの両者から、敵意の視線を浴びながら、私はローゼの傍へと歩いていく。

 こうなったら自棄だ。精々、くだらん道化を演じ切ってやる。


「控えよ!」


 脇の大臣らしき者が叫ぶと一斉に胸に右の掌を当てて、頭を下げる。

もちろん、家臣でもなんでもない私は軽く会釈するだけにしておいた。ま、これは大人としての最低限の礼儀という奴だな。

 国王はふてぶてしい笑みを浮かべながら、グルリと部屋内を見渡す。


「此度、そなたたちに集まって貰ったのは外でもない。次期王位継承の選定方法が決定したからだ」


 この物々しい雰囲気は、やはり王位承継戦についてか。

 王位承継の選定方法とは、要するに選定戦のルール説明ってところだろう。

 案の定、選定戦自体は周知の事実だったらしく、この場の誰もが驚いた様子はなかった。


「では王選のルールを説明する。ま、ルールといってもそう難しい事ではない。

ローゼマリー、ギルバート、ルイーズの三者はこれから領地を経営してもらう。

 その領地経営の発展具合を基礎評価とし、それにアメリア王国への貢献度も加えて、10段階で総合評価する。

 お前たちの中で最も歳の若いルイーズが成人となる4年後、最も高評価をとったものが次期王だ。どうだ、実に単純明快だろう?」


 王はニィと口角を吊り上げる。こいつ、絶対に楽しんでいるな。

 この王は勇者を使って魔王を牽制しつつも、獣王国や他の少数部族に攻め入り占領したような奴だ。アルノルトには悪いが、個人的に私は支配欲の高いクズ王という認定をしている。


「陛下、その発展具合の判断は誰が成されるので?」


 豪奢な赤色の服を着た金髪の美青年が長い髪をかき上げながらも王に尋ねた。多分、あれがギルバート王子なのだろう。見るからに一癖も二癖もありそうな若者だ。


「公平さ担保の観点から、評価は宰相が行う」


 国王が玉座の傍に控える髭を生やした黒髪の巨漢の男に視線を移して、宣言する。


「そ、それは――」


 いかにも高慢ちきな金髪の美青年は、血相を変えて反論を口にしようとするが、


「私では不服ですかな?」


 黒髪の巨漢の氷のような黒色の瞳で尋ねられただけで、


「い、いや……」


 視線をそらしてしまった。ルイーズも全く納得はいかぬようなのに、奥歯をギリッと噛み締めるだけで沈黙を守る。

 国政に疎く、興味もない私でも名前くらい聞いたことがある。短期間でこのアメリア王国を世界でも有数の武装国家へと押し上げた人物、アメリア王国宰相――ヨハネス・ルーズベルト。この男だけは、あらゆる意味において別格だ。玉座でふんぞり返っている国王よりもずっと、佇まいや雰囲気が、あまりに異様過ぎる。

 ともあれ、宰相が評価すると聞き、ローゼはほっと胸を撫でおろしている。一定の公正さは担保されている御仁なのだろうさ。


「では、各ロイヤルガードの自己紹介をさせていただきます」


 咳払いをすると神官のような恰好をした白髪交じりの男が一歩前にでると、スクロールを開き、


「ではまず第二王女ルイーズ殿下のロイヤルガードから。なんと、現役Sランクハンターであり、ハンター中最強とも噂される人物――イザーク・ギージドア殿ですっ!」


 金髪の女の傍にいる目が線のように細い白髪の青年が、右の掌を胸に当てて軽く会釈すると至るところから歓声が上がる。

 イザーク・ギージドア、まごうことなき最強のハンターだ。あの高飛車そうな金髪女、まさかハンター界最強をロイヤルガードにするとはな。相当なやり手なのだろう。


「第一王子ギルバート殿下のロイヤルガードは、異界からの来訪者の一人、現勇者のパーティー――大賢者、サトル・ミゾグチ殿っ!」


 十七、八歳ほどの黒髪の美少年が右腕を上げると先ほど以上の割れんばかりの歓声が上がる。流石は勇者のパーティーの主要メンバー。大人気じゃないか。

 ローゼの予想通り、勇者はロイヤルガードに選ばれなかったってわけだ。もっとも、勇者と同じ異邦人が選ばれている時点で勇者は事実上、ギルバート側に就いた。そう考えるのが自然かもしれん。

 それにしてもアルノルトやイザーク同様、あの賢者からもまったく強さは感じんぞ。というか、あの最弱のダンジョンから出てから一貫してそうだ。

 数千年間あのイージーダンジョンでのサバイバルを強いられた結果、私は基本、魔物どもの強さの判別には一定の自信はある。だが、人や人が呼び出した召喚獣などの強度の判別は、あっている確信がない。何せ、思考の世界以外で実際の人との戦闘などまったく経験などないからな。


「最後が第一王女、ローゼマリー殿下のロイヤルガードは、【この世で一番の無能】の称号を持つキングオブ無能! 至上最弱のロイヤルガードでありまーす!」


 どっと嘲笑が漏れる。それにしてもこの神官のような男、私の紹介だけやけに熱がこもっているじゃないか。他者を蔑むときだけ一所懸命か。力を入れるところが間違っていると思うんだがね。


「ふッ、最弱ねぇ」


 王は鼻で笑うと私を凝視してくる。

 率直な感想としてはこの男、なぜこの若さで王を引退するんだろう。まだまだ脂が乗っていてバリバリ働ける歳だろうに。

 ともあれ、相手は礼儀もわきまえぬ小僧ども。目くじら立てるほどでもないが、あえて下手に出る必要も感じぬ。


「有難い紹介、痛み入る。だが生憎、暇な君らと違い私は忙しいのだよ。とっととこの茶番を終わらせて欲しいんだがね」


 私のこの極めて建設的な提案に一瞬の静寂が訪れ、次の瞬間、王座の間は怒号に包まれた。

 隣のローゼは右手の掌で顔を抑えて、深いため息を吐く。あのな、その呆れ切った態度、流石の私も傷つくんだがね。


「陛下の御前で何たる無礼‼ 許し難しっ!」


 大臣の一人が叫び、


「近衛は何をしているっ!!」


 先ほど私達ロイヤルガードの紹介をしていた神官の中年の男が、顏を茹蛸のように発赤させつつ、ヒステリックな金切り声を上げた。

 近衛と称された騎士たちの長らしき揉み上げがやたら長い金髪の大男が、国王をチラリとみると、


「陛下、よろしいですか?」


 胸に手を当てて、恭しくも尋ねる。


「構わん。いい余興だぁ。全力でやれ、ゲラルト!」


 王は身を乗り出し、悪戯っぽく好奇心に溢れた目で私を凝視してくる。

 揉み上げの長い大男が、鞘から剣を抜くと剣先を私に向けてくる。

 ほう。挙動だけみても中々の腕だ。おそらく、既にザックと同等クラスの実力はあるとみた。つまりはまだまだ発展途上。私やアルノルトの領域には全く達してはいない。


「カイ、くれぐれも怪我だけは――」

「わかっている」


 いつになく強烈な焦りの色を顔一面に張り付かせながら、注意を促してくるローゼを右手で制する。未熟者が相手だしな。しっかり、手加減ぐらいするさ。


 てっきり、剣帝やザック同様、直ぐに仕掛けてくるのかと思ったが、


「……」


 ポタポタと滝のような汗を床に流しながら、剣を構えるだけで微動だにしない。


「ゲラルト団長?」


 騎士たちの中から疑問の声が巻き起こる中、


「そこまでにしておいた方がよろしいかと。大人気ないですよ」


 白髪の紳士、イザーク・ギージドアが私に視線を固定しながら、諫めるように翻意を促してくる。


「それもそうか。そんな無能、団長が直々に叩きのめす価値もない。それに、もしそんなことをすれば、ローゼ様のご尊顔に泥を塗ることになるしな」

「うむ。陛下への無礼は別途、王選においてペナルティーとして払わせばよいのよ」

「いかに生意気な無能といえども、弱者を無用にいたぶるのは団長も本位ではなかったのだろう。流石は我らが団長だ!」


 イザークの主張に賛同と称賛の声が上がり、ゲラルトは死人のように血の気の引いた顏で剣を鞘に納めると、王へと頭を下げたまま身動き一つしなくなってしまう。


「面白い。実に面白いな」


 王は今も頭を下げ続けているゲラルトを眺めながらもそう呟くとさも可笑しそうに笑っていたが、突如笑みを消し王座から立ち上がる。


「では話しを進めさせてもらう。

では、具体的な領地についてだ。

 ギルバートは西方のウエストランド。

ルイーズ――南方のサウザンド」


 そこで王は言葉を切り、ニィと口端を上げた。正直悪寒しかしない。ローゼも同様らしく、顏を強張らせていた。


「ローゼマリーは、東の果て――イーストエンド」


 一瞬の静寂。そして雑多の言葉が王座の間に飛び交う。


「陛下、イーストエンドにはそもそも領民はおりませんっ! それでは発展させようがないではありませんかっ!」


 血相を変えてローゼが叫ぶ。

 その通りだ。イーストエンドは故郷ラムールのさらに東にある最果て。文字通り、東の果ての地。荒野と密林が広がり、領民どころからあそこは魔物しかおらんぞ。というより、あそこをアメリア王国の領地といっていいかすらも疑問が残るね。


「ローゼ、これはハンデだ。お前ならこの言葉の意味、十分にわかるな?」

「……」


 ギリッと奥歯を噛み締めるローゼに王は悪質な笑みを浮かべると、


「心配するな。評価自体は、私情を交えず公明正大に行わせることは保障する。以上だ。解散してよし!」


 王はそのまま退出してしまう。

 他の重臣や騎士たちもローゼに憐憫の表情を向けながらも王座の間を退出していく。

 無理もない。私のような最弱ともいわれる無能がロイヤルガードで、しかも王選の勝負で極めて大きなペナルティーを負ってしまったのだから。

 もしかして、私の言動のせいなのだろうか。それなら悪い事をしたな。

だが、今のローゼの厳しい立場を鑑みれば、このくらいのハンデはそもそも想定内というものだろう。耐えてもらうしかないな。


「落ち込んでいても仕方ない。我々も行こう」


 どの道、一度領地であるイーストエンドを訪れる必要があるだろう。


「ええ」


 肩を落としてローゼは歩き出すが、黒髪の美少年、賢者――サトル・ミゾグチが近づいてくると、


「言わんこっちゃない。ローゼ、僕の申し出を拒否するからそんな目に会うんだ!」


 喜々としてそんな意味不明なことを口走る。


「私はカイをロイヤルガードにしたことは、微塵も後悔はしておりません」

「そのせいでこの勝負の敗北が濃厚になったようだけど?」


 賢者サトルは私に視線を移し、小馬鹿にしたようにローゼに問いかけた。


「意見の相違ですね。私は敗北が濃厚になったとは考えてはいません」

「なーに、それ、こんなのが僕に勝てると思ってんの?」


 賢者サトルは私に視線を固定させたまま目をスーと細める。

 ローゼに惚れていることからの嫉妬心だろう。癇癪持ちの子供か。面倒極まりない性格をしているようだな。ま、この頃の思春期の年齢の子供にはよくあることらしいし、ここは私が大人の態度で接してやらねばな。


「そんなに私に対抗意識を持たんでもよろしい。私は異性としてローゼに一切の興味はない。君の求愛行動を邪魔したりなんてしないよ」


 10万歳年下の子供に情欲を抱くほど若くはないしな。


「――っ!?」


 忽ち全身真っ赤になって、口をパクパクさせる賢者サトルの右肩を軽く叩くと、


「その青臭い感情も若さ故だ。頑張りたまえ、少年!」


 満面の笑みを浮かべながらも励ましの言葉を紡ぐ。


「お、お前、い、いい気になるなよっ!」


 そんな捨て台詞を吐いて賢者サトルは盛大にドモリながらも走り去ってしまう。うむうむ、若いというのはいいものだ。

さて帰るとするか。


「いくぞ。一度、領地とやらを見ておきたい」

「……」


 私の言葉に返答もせずに、代わりに据わりに据わった目で私を睨んでくるローゼ。


「どうした?」

「なんでもありませんっ!」


 頬を含ませて歩き出すローゼに首を傾げながらも私も王座の間を後にした。



選定戦の開始です。カイは終始通常運行であり、賢者君はいいようにあしらわれてしまいましたとさ。

リアルが想像以上に忙しいので、次回の投稿は少し遅れるかも。


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