▼行間 ▼メニューバー
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
追放されたけど、スキル『ゆるパク』で無双する 作者:篠浦 知螺
39/120

異世界召喚に反逆を 前編

今回は益子目線の話となります。

 気に入らねぇ、気に入らねぇ、気に入らねぇ、この世界の全てが気に入らねぇ。

 いきなり訳の分からない異世界召喚とやらに巻き込まれて、俺様は持っていたアドバンテージを殆ど失う事になった。


 親父の地位も財力も、兄貴に教わって影で積み上げた学力も、持って生まれた体力さえもがこの世界では通用しない。

 代わりに与えられた力は、クソみたいにショボい能力値だけだった。


 魔力9、体力14、耐久力12、生命力11、風属性魔法レベル1、馬術レベル2


 魔力だとか、スキルだとか、そんなものは日本に居た頃には絶対に持っていなかったものだ。

 勝手に呼び出して、勝手に押し付ける力がショボいとか、マジでふざけんな。


 しかも、このゲームみたいな数字が、現実に作用するのが腹立たしい。

 下らない訓練を数日強制された挙句に、クラスメイト同士での立ち合いをさせられた。


 俺様の相手に指名されたのは、ガリ勉の樫村。

 虚弱体質で、勉強するしか能が無い、クソ真面目な堅物だ。


 日本に居た頃は、ちょっと睨んだだけでも目を逸らして震えてたくせに、こっちに来てちょっと能力に恵まれたから調子に乗っているようだ。

 クソ生意気に睨み返して来やがるから、叩き潰してやるつもりだったのに、地面に膝を付いたのは俺様の方だった。


 気に入らねぇ、バスケットボールがリングに届かないような虚弱体質が、いきなりあんな風に動けるはずがねぇ。

 すべては訳の分からない能力値やスキルレベルのせいだ。


 実際、剣術のスキルを持っていない奴との対戦では、当然のように俺様が勝った。

 その対戦以後、俺様の相手をするのはレベル3以上の剣術や槍術のスキル持ちに限られ、貰い物の力で調子に乗った連中に叩き伏せられるようになった。


 貰い物の力のくせに、俺様を見下ろして笑っている奴らは、後で必ず思い知らせしてやる。

 俺様を噛ませ犬みたいに使いやがった兵士共も一緒だ、必ず報いを受けさせてやる。


 訓練で俺様を笑った野郎は、便所で待ち伏せしてボコってやった。

 失敗したのは、最初に樫村の野郎を狙わなかったことだ。


 一人はボコってやったが、それ以後は固まって行動するようになりやがって、逆に徒党を組んで俺様をボコりやがった。

 計画したのは、樫村の野郎だ。


 騒ぎを聞きつけて来た兵士にも、訓練態度を改めるように話しているうちに、少し興奮してしまったとか説明して言いくるめやがった。

 それを境にして、訓練の度に兵士どもも暴力を振るってきたが、俺様は決して屈しなかった。

 樫村達のように、こんな連中にヘイコラ頭なんか下げてられっか。


 帰る方法が見つかるまで、何としても生き残るだと……ふざけるな。

 こんな連中の言いなりになるぐらいなら、死んだ方がマシだ。


 俺様が訓練を拒否し続けていると、ある日を境に兵士の暴力は止んだ。

 暴力を振るう代わりに、兵士共は馬の世話を押し付けてきやがった。


 たぶん俺様が、馬術のスキルをもっているからだろう。

 当然、馬の世話なんか拒否してやるつもりだったが、馬共の態度を見て考えを変えた。


 馬術のスキルのおかげなのか、馬共は俺様に従順な態度で接してきた。

 人間共は、俺様を見下して接して来るが、馬共は俺様の言葉が分かるかのように、指示に素直に従う。


 馬が言う事を利くと気付いた時、俺様の頭には一つの計画が浮かんでいた。

 馬房にいる全ての馬を操り、一斉に暴走させれば、この街から逃げられるかもしれない。


 首に嵌められた奴隷の首輪のせいで、鍵であるハンドベルを鳴らされると身動きがとれなくなる。

 だが、馬に身体を縛り付けて暴走させれば、奴らの支配から抜け出せるかもしれない。


 街は頑丈な壁で囲まれているが、城と街の間には堀も壁も無く、生垣がある程度だ。

 馬房から全部の馬を放って脱走し、馬の群れごと街に入る門を突破すれば自由の身になれるはずだ。


 問題は鍵から一定の距離を離れると、首輪から魔法の刃が飛び出して、首を切断されるという警告が真実か否かだが、俺様はハッタリだとみている。

 理由は俺達の宿舎が、まるで刑務所のように管理されているからだ。


 城と街の間には生垣程度しか無いのに、宿舎の周りは高い塀に囲まれ、塀の上には鋭利な突起が並んでいる。

 塀の外へ出る門は一箇所だけで、馬車が通れる大きな門は閉ざされたままで、普段は人一人がやっと通れる通用口を使って出入りさせられている。


 その通用口にも衛兵が立っているし、建物の入口にも夜間は鍵が掛けられる。

 もし本当に、鍵から無断で離れると首が飛ぶなら、こんなに厳重な警備は必要ない。


 たぶん、このことを指摘すれば、勝手に死なれたら困るからだ……とか理由をつけるのだろうが、実際には魔道具を制御できる範囲があるからだろう。

 この奴隷の首輪と鍵であるハンドベルは、言ってみれば、家電とリモコンみたいなもので、魔力が届く範囲から脱走されると効果を失うと俺は見ている。


 訓練の時でも、常に鍵を持った兵士が近くで監視している理由も、そこにあるはずだ。

 ただし、どの程度の距離まで魔力が届くのかまでは分からない。


 脱走への足掛かりは見つかったが、チャンスは多くないだろう。

 一度失敗すれば、二度目は無いと考えるべきだ。


 それに、脱走した後の事も考えなければならない。

 こっちの世界には、知り合いなんか一人もいないのだ。


 助けてくれと頼んでも、訓練所から逃げて来たと分かれば、捕まえられる恐れがある。

 誰かに頼らなくても生きていく術が欲しい。


 とは言え、チャンスを逃す事だけは避けたい。

 ここぞと思った時には、思い切って行動できるだけの準備をしておこう。


 俺は馬の世話をする傍らで、兵士どもや厩務員達の話に聞き耳を立てて情報を収集した。

 俺たちが召喚された理由は、獣人達と戦うための戦力という話だったが、国を守るためではなく、奴隷を捕獲するためらしい。


 獣人の里を襲い、武力で屈服させ、労働力として拉致してくるらしい。

 獣人は魔法が使えない代わりに身体能力が高く、近接戦闘ではこちらの兵士にも損害が出るらしい。


 俺達は、その損害の肩代りをさせられるために呼ばれたという訳だ。

 聞いているだけで反吐が出そうになった。


 理不尽に呼び出されて、反吐が出そうな作業を押し付けられる。

 こんな連中に従っている奴等の気が知れない。


 とは言え、仮にも兵隊だから訓練はされている。

 ある日、突然周囲に血の臭いが漂ったことがあった。


 血の臭いだと感じた瞬間、今までダラダラと喋っていた兵士がスイッチが入ったようにキビキビと動き出した。

 俺には関係ねぇと思い馬の世話を続けていたら、血相を変えた兵士に指示を出され、従わないと鍵のハンドベルを使われて強制的に集合させられた。


 訓練を受けていたクラスの連中が不安な表情を浮かべている中でも、兵士達は冷静に、決められた手順通りに動いているように見えた。

 守りを固める者、異常を確認する者、連絡要員、それぞれが分担された役割を果たしている。


 馬を暴走させれば、街から抜け出せるかもしれないと考えたが、余程計画を練らないと難しいかもしれない。

 とにかく馬術のレベルが上がるように、常にスキルを使いっぱなしにして馬の世話を続けることにした。


 俺が解決すべき課題は二つ。

 一つは脱走した後の生活、もう一つは脱走するための陽動だ。


 一つ目の課題だが、金は馬さえいれば手に入りそうだ。

 こちらの世界でも、馬の繁殖が行われているようだが、それよりも野生の馬を捕らえて馴致する方が多いらしい。


 だが野生の馬を無傷で捕らえるのは大変らしく、高値で取り引きされているそうだ。

 馬は群れで行動するものだし、俺が馬術スキルのレベルを上げていけば、馬商人として食っていけるだろう。


 もう一つの課題、陽動については良い方法が思いついていない。

 普通、陽動は本命の作戦を実行する者とは別の人間が行うものだ。


 俺の場合、こっちの世界には味方はいないから、偶然の騒ぎを利用するしか無さそうだが、先日の血臭騒ぎの時にも隙は見つけられなかったし、むしろ警戒が厳しくなったようにも感じる。

 狼が来た……と騒ぐ程度では、隙を見せてもらえないだろう。


 それならば、戦場に出た時を狙えば……と思ったのだが、この国の戦術の基本は例の空間転移らしいのだ。

 訓練場に整列させられ、そこから魔法によって一気に戦場に放り込まれる。


 脱走しても周囲は敵の国、生き残るには敵を屈服させるしかないらしい。

 そして、どうやら俺は最初の戦いで捨て駒として使われるようだ。


 俺をここの兵士が殺せば、ヘイトはこの国に向けられるが、獣人が殺せば、獣人の国に向けられると思っているらしい。

 自慢ではないが、俺は自分が嫌われていると分かっている。

 むしろ、俺が殺されて喜ぶ奴の方が多いと思うぞ。


 だがこれで、最初の戦いが始まる前に脱走を成し遂げないと、生き残る可能性がほぼ無くなると分かった。

 陽動云々などと考えず、一気に計画を遂行することも視野に入れる必要がありそうだ。


  • ブックマークに追加
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

感想を書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。