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追放されたけど、スキル『ゆるパク』で無双する 作者:篠浦 知螺
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ゆるパク兵馬の復讐譚~人間やめたので獣人族と組みます~ 後編

 国境の街ノランジェールから、クラスメイト達が連れて行かれたと思われるサンドロワーヌまでは、馬車でも五日は掛かる距離があるが、空間転移を使えば一瞬だ。

 サンドロワーヌは、高さ10メートルぐらいある石造りの城壁に囲まれた街で、城門の上には一段高い見張り台が設けられている。


 更には、街の周囲2キロほどの間には、林や森どころか建物一つ建っていない。

 これは周囲の見晴らしを良くして、敵の接近を防ぐためだろう。


 その上、城門へと繋がる街道は5キロ以上に渡って真っ直ぐな一本道で、しかも街に向かってダラダラとした上り坂になっている。

 見張り台にいる兵士は、望遠鏡らしきものを覗いているし、異常なまでの警戒ぶりだと感じた。


 俺が空間転移した先は、城門から5キロ以上離れた森の中で、そこからいかにも用を足してきた感じで道へと出た。

 千里眼を使って城門を眺めてみると、兵士が真っ直ぐにこちらへと望遠鏡を向けている。


 俺の前後にも街に向かって歩みを進めている人が何人もいるので、俺一人に注目している訳ではないのだろうが、嫌な汗が滲んで来る。

 だが、俺の周りにいる人達は、フェスティバルを楽しみにいく人達だ、しかめっ面をしていたら目立ってしまうだろう。


「スマイル、スマイル……って、笑えるかい!」


 下手な一人ボケ突っ込みをしながら街に向かって歩く。

 顔が強張っていないと良いのだが……。


 サンドロワーヌと近づくほどに緊張感が高まっていたのだが、街のざわめきや音楽のようなものが聞こえて来ると、がぜん興味を惹かれてしまった。

 ダンムールでも里を挙げての宴会騒ぎに参加したが、やはり規模が違う。


 サンドロワーヌの街を囲む城壁の広さは、俺が作ったダンムールを囲う壁の軽く十倍以上の面積があるだろう。

 その西側三分の一ほどが、城と訓練場と思われる施設だが、それでもギッシリと建物が立ち並ぶ面積は相当な広さだ。


 サンドロワーヌの城壁を潜る大きな門では、当然のように兵士の検問が行われていた。

 フェスティバルの前日とあって、長い行列が出来ているかと思いきや、人の流れは予想に反してスムーズだった。


 見ると、身分証のようなものを提示して確かめたりしていないのだ。

 兵士は、少し高い台の上に立って、街へと入っていく人を眺めているだけだ。


 どうやら、街へと近づいて来る間に、見張り台からは怪しげな人物をピックアップしているのだろう。

 上手く通り抜けられれば良い……と言うか、普通過ぎる見た目の俺ならば止められることはないだろう。


「おい、そこのお前! 止まって、こっちへ来い!」

「えっ、俺っすか……?」


 城門まで、あと10メートルほどに近づいた時、見張りの兵士に鋭い声で呼び止められた。

 周囲にいる人達の視線が、一斉に俺に向けられる。


 まさか、街に入る前から素性がバレていたのだろうか。

 ここで捕まるのは不味いが、暴れてしまったら目立ってしまう。


「何をしてる! さっさとこっちへ来い!」


 俺は覚悟を決めて兵士へと歩み寄った。


「その頭に巻いている布を取れ! さっさとしろ!」

「えっ、布ですか……?」

「そうだ、どうした、取れないのか?」

「いえ、別に問題は無いです……」


 赤竜から、ゆるパクした影響で真っ赤に変わってしまった髪が、目立たないようにターバンのように布を巻いて来たのだが、逆に目立ってしまったらしい。

 頭に巻いていた布を取ると、兵士は俺の髪の毛を掻き分けて、頭を確かめ始めた。


 更に、両手を上へと上げさせられて、いきなり尻を撫でまわされた。

 うぇぇぇ……職権乱用のセクハラ行為なのか?


「良し、獣人族じゃないな。お前、サンドロワーヌに来るのは初めてか?」

「はい、オミネスの田舎出身なので、この街に来るのは初めてです」

「そうか、ここでは獣人の侵入を防ぐために、街に入る時には頭を晒しておく習慣がある」

「あっ……耳の位置を確かめていたんですね」

「そうだ。次からは気をつけろよ。俺も男の尻なんか撫でたくないからな」

「す、すみません。気を付けます」


 男の尻なんて……と言いつつ、兵士が浮かべたニヤっとした笑いに背筋を凍らせつつ、いよいよ敵の本拠である街へと足を踏み入れた。

 先に千里眼で覗いていたが、街の中は人、人、人で溢れかえっている。


 道の両側には、屋台が所狭しと並び、その店先で足を止める人によって混雑に拍車が掛かっているようだ。

 今日は、とりあえず様子を見るだけなので、城門から続く道を真っ直ぐに進んでいく。


 ここが一番賑やかな通りなのだろう。道が交わる場所では人の流れが止まり、立往生することも度々あった。

 良く見ると、交差点の角の建物は詰所になっているようで、二階の窓からは兵士が鋭い視線を通りに向けている。


 一階部分の壁は、どうやら門のようになっているらしく、有事の際には城への道を塞ぐ砦の役割を果たすようだ。

 そうした交差点を三つほど抜けた先には、城を囲む塀と門の前に、大きな広場が作られていた。


 サッカーコートが二面ぐらい入りそうな広さで、やはり周囲には屋台が並んでいる。

 その広場の中央では、武術の試合が行われていた。


 どうやら明日から始まる武術大会の予選の試合のようだ。

 今行われているのは、双剣使いと槍使いの試合だ。


 双剣術のレベルが7、槍術のレベルは6だ。

 勿論、即ゆるパクさせてもらった。


 スキルのレベルが高い方が、当然有利かと思いきや、槍と剣とではリーチの違いが影響しているらしい。

 勝負は拮抗しているか、若干槍使いの方が押し込んでいるようにも見えた。


「そら、そら、そら、そら!」


 槍使いの連撃に、双剣使いは防戦一方の展開で、次第に闘技場の端へと追い込まれていった。

 試合に使われる武器は、刃引きがされたもので、どちらも革の防具は身に着けている。


 いくら刃は丸めてあるとはいえども、鉄の槍が突き出されるのだから、双剣使いは体のあちこちに傷を負って血を流していた。

 それでも、双剣使いの表情は冷静そのもので、粘り強く、槍使いの連撃を捌いているようにも見えた。


「おら、おら、おら、おら、いい加減に諦めやがれ! そらぁ!」


 槍使いが突きの合間に薙ぎ払いを混ぜた時だった。

 槍使いの薙ぎは交差するような双剣に迎え撃たれ、鈍い音を残して穂先を切り飛ばされてしまった。


 どうやら、双剣使いは連撃に対して、槍の同じ場所を狙って受け続けていたらしい。

 槍がただの棒へと変わってしまって一瞬怯んだ隙を逃さず、双剣使いは槍使いの首筋への寸止めの一撃で勝負を決めた。


 集まっていた見物人から盛大な拍手が沸き起こり、武器を収めた両者は互いに礼を交わした後で、健闘を称えあう。

 当たり前の話だが、ただの高校生だった俺から見れば、敗れた槍使いですら凄まじい腕前だ。


 見物中は、模倣や思考加速などのスキルもフルに使い、両者の技をガチパクさせてもらった。

 ただし、覚えたからと言って、すぐに体が動く訳ではない。

 実際に体を動かして、動きをなぞってみないと駄目だろう。


 次の試合は長剣同士、その次は戦斧と短剣の戦いと、武器を見た限りではくじ引きなどで対戦相手を決めているようだ。

 ついつい試合に夢中になって、日が傾いてくるまで見入ってしまった。


 勿論、ゆるパク、ガチパクし放題だったが、幸い気づかれてはいない様子だ。

 なにせ隣で見ていた何処の誰とも知らないオッサンと、熱く試合結果について語ってしまったほどだから、ただの観光客にしか見えなかったはずだ。


 試合は、夜になっても続けられるようだが、一旦広場を離れて、裏通りを歩いてみる。

 表通りなど、屋台が並び、人が押しかけている場所には獣人族の奴隷の姿は見えなかったからだ。


 観光客を装って、キョロキョロと街の様子を見物して歩いていると、俺と同じような人と何度も出会った。

 やはり、周辺の街や集落から、フェスティバル目当ての観光客が集まっているようだ。


 道を間違えた振りをして、結構な裏道へと入り込み、スラムっぽい所も通り過ぎたが、人族の奴隷の姿はあっても、獣人族の奴隷は見当たらなかった。

 もしかして、獣人族の奴隷は全て鉱山などに送られてしまい、街にはいないのかもしれない。


 歩き回って喉が渇いたので、お茶の屋台で一服することにした。

 屋台の値札には、アルマルディーヌとオミネスの両方の通貨の値段が張られていた。


「あぁ、美味いなぁ……」

「兄ちゃんは、オミネスからの観光かい?」

「まぁ、そんなところだ。初めて来たけど、凄い賑わいだね」

「そりゃ、年に一度のフェスティバルだからね」

「俺は、この街に来たのも初めてだけど、獣人族の奴隷はいないのかい?」

「いや、せっかくのフェスティバルの時期に、あんな不愉快なものを目に入れたくないだろう? フェスティバルが終わるまでは、獣人どもは人目に付かない場所に閉じ込めておく決まりなのさ」

「へぇ……そうなんだ」


 サンドロワーヌでの獣人族の扱いは、俺の想像を超えているらしい。

 屋台のオッサンと世間話をしてから、夜の見物を続ける振りをして、再び裏町へと足を向けた。


 倉庫街の片隅で足を止めて、休憩をよそおって階段に腰を下ろす。

 建物を眺める振りをして千里眼を活用し、建物の中を透視していく。


「いた……酷ぇ……」


 獣人族の奴隷は、小さな部屋の中に押し込められていた。

 日本で言うなら四畳半ほどの広さに、十人ぐらいが膝を抱えて座っている。


 部屋の扉は頑丈な鉄製で、外から鍵が掛けられていた。

 部屋の片隅には水瓶と、床に丸い穴が開けられている場所があった。


 どうやら、この穴が獣人たちのトイレらしい。

 千里眼で離れた場所から見ているので分からないが、たぶん近くに寄れば酷い臭いがするはずだ。


 倉庫街の別の建物にも同じような部屋があり、同じように獣人族の奴隷が押し込められていた。

 建物には人族の奴隷の姿もあったが、こちらの部屋は四畳半ほどの部屋に三段ベッドが二つ置かれ、六人が押し込められているようだが、トイレは別にあるらしい。


 人族の奴隷は、借金や犯罪の結果として奴隷落ちした人達だろうが、獣人族の奴隷は、無理矢理に連れて来られた人達のはずだ。

 むしろ扱いとしては、最低でも逆になっているべきだろうし、獣人族が働かされる理由は無いはずだ。


「お兄さん、どうした? 具合でも悪いのかい?」

「えっ……?」


 階段に座り込み、目を閉じて千里眼を使い続けていたので気付かなかったが、通りすがりの老人が心配そうな顔で声を掛けてきた。


「いや、初めてフェスティバルに来たんで、少し人ごみに酔ってしまったみたいです」

「そうかい、何ならワシの家で休んでいくかい?」

「ご親切にありがとうございます。でも、少し休んで気分も良くなったので、今夜の宿に向かいます」

「そうかい、では気を付けて行きなさい」


 親切な老人は、ゆったりとした足取りで歩み去り、一軒の建物へと入って行った。

 そこは、俺が最初に獣人族の奴隷を見つけた倉庫だった。


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